現代の日本に置いて年を追うごとに凶悪犯罪の数は増え、それに対抗するために国は新しい国際資格である武偵の導入を決定した。武偵とは犯罪事件の捜査や容疑者の逮捕といった警察に準ずる活動を行い、」その報酬を受け取る物である。よく言えば便利屋悪く言えば傭兵とも言える。彼らは治安の改善に貢献したのは確かではあるがその一方で犯罪組織に加担したり、犯罪に手を染めるといったこともありこの武偵制度には賛否両論がある状態である。
日本海に面しているある県の某所にある雑居ビル前に黒塗りのSUVが停車し一人の青年を降ろすと走り去っていった。スーツに身を包んだ青年は上着の下の何かを確認するとビル内に入って行った。
階段を登り三階に辿り着くと磨りガラスのはめ込まれた扉の前に立つと脇のホルスターから拳銃―グロック17L―を抜き減音装置を取り付け安全装置を外す。そして扉を鈍い音と共に開けると悠々と中に入って行った。
「あ?」
受付と思われる机でスポーツ新聞を読んでいる男が入ってきた青年を見て声を上げる。男が何事かを言おうとする前に拳銃から銃弾が2発発せられた。
「何だ!」
「襲撃か!」
事務所の奥から叫び声と金属音が聞こえてくる。青年は奥に踏み込むと拳銃を抜いた男二人を撃つと奥の事務スペースに踏み込んだ。
青年は金属製の棚の陰に隠れ弾倉を交換した。残弾はまだ残っていたが念のためである。奥の所長室では何やら慌ただしい音が聞こえてくる。
壁に寄りかかり姿勢を低くして銃で少し扉を開けると狂ったように中から撃ってくる。発砲音の軽さから小口径の機関銃だろう。そのまま姿勢を低くしたまま地を蹴ると滑るようにして部屋の中に入ると短機関銃を持っている男の胸のあたりに素早くダブルタップを見舞った。男の手からフランキLF57が滑り落ちた。
「…一人足りないな」
思わず呟く、情報ではこの事務所には7人いたはずなのだが今撃った男を含めても6人しかいない。状況が思っていた通りのものと異なるのはどうにも気分がよくない。そんなことを考えつつ本来の目的を果たすべく内ポケットからある物を取り出す。一見するとただのUSBメモリではあるが実際はパソコンから情報を取り出すためのツールである。
どっかり椅子に座り手袋をするとデスクの上にあるパソコンを起動すると少ししてパスワード入力画面が出るがそれに構わずツールを端子口に挿入すると数分してパソコン内のデータを転送状況を示す表示が現れたのを確認して机の上に目を向けた。そこには金勘定の最中だったのだろうかバラの万札やズク(9枚の万札を横から万札で束ねた者)を床に転がっていたボストンバックに詰める。僅かに開いている金庫の中にも少し現金があったのでそれも詰める。
思わず顔が緩む。この仕事は過酷さに比べ報酬が伴わないのでこういった副収入があるのは嬉しい物である。モニターを見ると転送状況は2割を終えた所だろうか。それを確認すると再度椅子に身を沈め数時間前の事を思い出した。
アルス・セキュリティー社が所有するオフィスビルの一室で青年の上司であり後見人である高津宗一がこちらを見た。
「最近国外からのギャングが増えていることは知っての通りだろう。これから君に襲撃する事務所は彼らに拠点を提供している。君は事務所を潰すのと同時に顧客リストを手に入れて来てもらいたい」
ここ十数年で従来の中国系、ロシア系のマフィアに加えて東南アジア系やアフリカ系。果ては東欧系までもが日本に遠征してきている状態である。
「彼らは非常に手が早く直ぐにライフルを引っ張り出してくる。早急な対処が求められる」
そう言うと書類の散らばったデスクに新聞を放った。それには数日前のアルバニア系のマフィアによる暴力団事務所襲撃が載っていた。
「顧客リストには日本に密入国した奴にどの物件を売ったのかわかるはずだ。最低でもそれだけは確保しろ」
青年はそれに応じ部屋を出た。
パソコンの唸る音で回想は妨げられた。モニターを見るとデータの転送率は6割を超えていた。
「うん?」
そこで物音に気付いた。耳を澄ますと誰かが階段を登ってくる音であった。
(一人外に出ていたのか…)
心中で呟き机の上に置いてあった拳銃を取り上げ事務所の入り口に向け歩き始める。弾倉は再度新しい物に換えてある。
事務所の入り口で机を挟んで足音の主を待ち受ける。何やらビニール袋の擦れる音がするのでコンビニかスーパーに行っていたのだろうか。
「…誰おまえ?」
扉を開けた男が間の抜けた声で聞いてくる。それに対し青年は引金を引いて銃弾を撃ち込む。抑制された発砲音が6回して男が倒れ壁にもたれこんだ。ビニール袋から缶ビールが転がり落ちて階下に向けて落ちていった。
時計を見るとあと20分で迎えが来るはずだろう。そう考え所長室に戻って行った。
青年はデータの吸出しに使ったツールを懐に入れ札束の詰まったボストンバックを持つと下に降り時間ちょうどに滑り込んできた車に乗り込むと運転手の大輝に吸い出したデータを納めた物を渡した。
「首尾はどうだ?」
「完璧です。情報も手に入りましたし人員も全員消しました」
彼については名前しか知らない。経歴は知らないが時々する話の内容から元警察官ではないかと考えている。
「それと副収入が200万ちょいって所です」
「後ろに置いといてくれ後で洗っておくから」
大輝がそう言いハンドルを切った。
「ったくもう日付変わっちまった」
シャワーを浴びた後時計を見て思わず呟く。時間は2時を回っていた。
(明日。いや、今日の9時から始業式だったはずだ)
タオルで頭を適当に拭いた後寝巻に着替え仕事で使った拳銃をガンロッカーに仕舞い込んだ。そして布団に潜り込み目を瞑った。
そうして東京武偵高強襲科所属Bランク武偵 高津悠斗の一日は終わった。