緋弾のアリア 強化人間物語   作:A4

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1 散々な始業式

 悠斗は目覚ましの音で目を覚ますと寝巻を脱ぎ制服に着替える。脇と尻のホルスターに予備の拳銃を納める。メインウェポンとしてはミネベアがシグP220をライセンス生産した9㎜拳銃、サブウェポンとしてはS&Wモデル28を使っている。それぞれの弾薬が収められたマガジンポーチを取り付けコンバットナイフや投擲用ナイフを取り付けて準備は終わった。

 次に朝食を摂るべく台所に向かって歩いて行った。

 

 

 「…どうしたもんかな」

 今日は東京武偵高の始業式である。学生ならば出るべきなのだろうが武偵高は少々勝手が違う。違う点としては存在感の薄い校長の話は全く頭の中に残らず某強襲科教師を始めとした一部の教師に至っては出席すらしないというような所がある。

 そう考えもしたがやはりせっかくの高校生活でのイベントでもあるので出ておくべきかと考えリュックを背負うとドアを開け外に出た。持っていた車は去年のある事件で穴だらけになったので自転車で行かねばならない。新車の購入も考えてはいるがどうにも暇がなく先延ばしになっている。

 

 学校まで20分ほど自転車を飛ばし到着する。自転車置き場に自転車を置くと近道である体育館の裏に向かい歩き出す。体育館裏は人気があまりないので例によって不良生徒のたまり場になっていた。武偵高と言えど、いや武偵高だからこそだろうかそのカリキュラムや風土に着いていけずにぐれる者もいた。幸いと言うべきか学内でくだを巻いたりするぐらいである。

 

 体育館の角を曲がったところで数人の男が見知らぬ女子の服を剥いているのが目に入った。だいたい何をやろうとしてるのかを察することが出来た。容赦する必要がなさそうなので非常に嬉しい。

 

 

 仮にも法務執行官養成所である武偵高らしからぬ光景に一度思考が止まったものの頭は急速に状況を整理し始めていた。制服からどちらも武偵高の生徒であるという事がわかった。女子生徒の方は知らないが男子の方は知っている。理由はよく知らないが同学年ではあるが年齢は悠斗たちと比べ3つほど上だと聞く。いずれも良い話を聞かない。

 「…ッ何見てんだオイ!」

 武偵ランクは全員CからD。しかしそれは武偵としての仕事をまともに受けていないだけであり格闘技術はそこそこと聞く。中途半端に実力はあるので自分より力の劣る生徒を虐げるという事でも有名であった。要は武偵としてのモラルはないが中途半端に実力はあるという面倒なタイプである。

 「何してんの、ダブり君」

 同学年にも拘らず年齢が上なのを嘲って言う。

 「ざけてんじゃねぇぞ!ラァ!」

 一瞬で頭に血が上ったのかぐったりしている女生徒から悠斗に目標が切り替わった。殴りかかってくるいてに対し軽く構えた。

 

 顔目がけての右フックを軽く上体を反らすことで躱し、がら空きになった顔面に対し左フックを見舞うと足を引っ掛け転ばせて体育館の壁に叩きつけた。

右フックというのはモーションが大きく見破りやすいうえに目標との距離測定が少しでも狂うと当たらない。そんな事を考えながら次の男に向かう。

「死ねや!」

右中段蹴りが届く前に一瞬で懐に潜り込み喉に地獄突きを叩き込んだ。拳銃を抜きこちらに向けている男の懐にまたもや一瞬で間を詰めると右目に目潰しを喰らわせた。指先にゼリー状の物質を貫いた何とも言えない感触が伝わる。

「ガああアアっ゛」

 目潰しを喰らわされた男が悲痛な叫びを上げる。最後に残った男を見ると銃を抜いて今にも撃とうとしている。顔は怯えと混乱、腰が引けている。それを見るとすとんと身を屈め腕のバンドから投擲用ナイフを取り出し投擲していた。ナイフは拳銃を撃とうとしていた手の甲に突き刺さった。

 「うわっ」

 手にナイフが突き立ったまま拳銃を放り出し最後の男は駆け出して行った。

 「でめ゛え゛え゛」

 喉に地獄突きを叩き込まれた男が喉を抑えつつ立ち上がる。喉を強く突かれたせいか声が妙な調子になっている。悠斗は瞬時に間を詰めそのスピードのまま押し倒すとマウントポジションを取るとまず一発右頬に叩き込んだ。

 「いーち。にーい。さーん…」

 そこから何発も顔に拳を叩き込み始めた。

 

 

 

顔が腫れあがった男から立ち上がると辺りを見回した。最初に殴り掛かってきた男は壁にもたれかかって気絶したままである。目潰しされた男とナイフが突き刺さった男はもう逃げたようだ。

「我が武偵高の質も落ちたものだな」

先程からぐったりしている女生徒の首筋に目をやると火傷のような跡があった。傍に転がっているスタンガンで行動不能に追い込まれたという事がわかる。女生徒を見ると制服の新しさを考えると数日前に入学した1年だろう。身長は女子にしては高め、豊満なスタイルを持っている事を見て取れる。セーラー服が切り裂かれ弾力のある双丘が下着に包まれているのが見えた。

 「おい、君わかるか?」

 屈んで声を掛けるが意味のなさない呟きを漏らすばかりであった。目は開いてはいるが焦点を結んでない、恐らくまだスタンガンの効果から抜け切ってないのだろう。ブレザーを着せるとその体を軽々と担ぐと保健室に向けて歩き始めた。

 

 

 

 保健室に入り教師もしくは救護科の生徒を探すが始業式前という事もあるのだろうか見つけることが出来なかった。救護科校舎に併設されている武偵病院まで行けば誰かしらいるのだろうがそこまでする気にはならなかった。とりあえず女生徒をベッドに寝かせ誰かが来るまでキャスター付きの椅子に腰かけ先日発売されたばかりのスマートフォンを取り出した。

 時間を確認するとそろそろ生徒が講堂に移動している時間のはずだ。その証拠に優れた聴覚は大人数のざわめきが移動しているのを捉えていた。

 (始業式はフケることは決定か。終わる時にクラスの連中と合流できればいいか)

 クラスの編成は事前に武藤から知らされていたのでクラス編成表を見に行く必要はなかった。

 

 3,40分程してから式が終わったのか大人数の移動を察してから10分ほどしてからスリッパの音が遠くから聞こえてくる。足音の軽さから女性という事を推測できる。

 「あれー悠斗じゃん、始業式サボって何やってんの?」

 やる気のない足音を伴いながら旧知の仲である高橋恵子女医が顔を覗かせた。色気のある体とは裏腹に自衛隊所属時に格闘徽章を取得、それに古流空手を修めているというゴリラ女である。格闘に限って言えば強襲科の蘭豹とガチで戦りあえると密かに思っている。

 「…久しぶりです、高橋先生」

 施設に引き取られた直後の訓練でぼこぼこに殴られた経験からどうにも頭が上がらない。

 「あんたそんな度胸あったんだぁ」

 高橋女史がベットの上にいる意識が混濁状態にある女子を見てそう言った。何やら重大な誤解が生じているらしい。悠斗は事情を説明すべく口を開いた。 

 

 

 「…目潰しちゃったの?」

 「同情の余地もあんまない上に俺を撃とうとしてたので。あと俺、どこぞの夜回り先生みたく不良生徒を更生させる! なんて気はさらさらないので」

 「まぁ、それはどうでもいいんだけどもあんたまだ宗一さんの狗やってるの?」

 「勿論です。毎日元気に仕事をこなしてます」

 二人は面談でも行うように向かい合って座っている。それにしても目を抉った事をどうでもいいで済ますあたり相変わらずぶっ飛んだ人である。

 「何度も言ってるけど早く抜けた方がいいと思うんだけどねぇ。…体の方は?」

 「味覚の方は少しはマシになりましたよ。硬直の方も前より良くなってます」

 「……ならいいんだけどねぇ。そんじゃ行きなさい、この娘の事は任しなさい。あと薬はちゃんと飲んどきなさいね」

 高橋女史はそう言うとしっしっと手を振って悠斗を追い出す。

 「失礼します、先生」

 戸口で一礼すると悠斗は外に出ようとする。

 「しつこいようだけど宗一さんの仕事やめたほうがいいよ」

 「大丈夫っすよ。俺はかなり強いんで」

 そう言い保健室を出た。

 

 

「…そういう事言ってんじゃないんだけどなぁ」

今は校医として働いている恵子はベッドで寝ている娘を診るために近付いた。

 

 

 

 「よぉ、武藤」

 「お前何やってたんだ、始業式終わっちまったぞ。いや、それよか告知メール見たか?」

 隣の席で携帯を見ている武藤に話しかけた。

 「何だ、蘭豹教諭がまた男の肋骨を圧し折ったか?」

 「それもそうなんだが…ほら、見ろ。武偵殺しがウチの近辺で出現だとよ。しかも標的は武偵高生徒だとよ」

 「ほー」

 武偵殺しと聞いて思い出す。確か2年ほど前から活動している武偵を専門に活動しているテロリストである。小さい物だとバイク、大きい物だと船をハイジャックして爆破するというのが武偵殺しの特徴である。身元を掴ませずに高度の技術を駆使してその正体は反武偵団体の雇った元赤軍派であるといった荒唐無稽な話をゴシップ誌で見た覚えがある。

「だがそいつ捕まったんだろ、昨年あたりに。新聞の片隅で見かけた覚えがあるぞ」

 「まぁ、模倣犯だろ。しっかし誰がやられたんだろなぁ」

 そこでふと気づいた。いつも駄弁っている面子の一人がいない。見回して教室を探すが見当たらない。

 「そういやキンジは?」

 武藤はうん?と言いながら悠斗がやったように見回す。

 「…見当たらんな」

 「始業式前はどうだったんだ」

 キンジは不真面目な奴ではあるが始業式といった日に遅刻もしくは欠席するような性質ではなかったはずだ。

 「俺もギリギリで来たから気付かなかった」

 『…………』

 二人は思わず黙り込んだ。去年からの付き合いではあるが何かとトラブルに巻き込まれる男であった。その時後ろの扉がガラリと開かれた。

 「おーす…」

 噂をすればなんとやら、話の渦中にあった遠山キンジが教室に入ってきた。気のせいか髪や服装に乱れがある。

 「何かあったか?」

 武藤もそれに気付いたのかキンジに聞く。

 「それがな…」

 「はーい、みんな席についてくださいねー」

 キンジがそこまで言った時担任である高天原教諭が朗らかな声とともに教室に入ってきた。

 「後でな」

 キンジがそう言い自分の席に向かった。

 

 

 「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 朝のHRが始まり先生の紹介で入ってきた転校生がキンジを指差しそう言った。高校生にしてはかなり身長が低く、とても武偵には見えない。しかし均整の取れた歩き方から何らかの格闘術を嗜んでいるのが見て取れる。

 キンジを見ると蛸が空を飛んでいるのを見たような顔をしている。

 「な……なんでだよ」

 キンジがようやくそんな言葉を絞り出した。

 

 

 

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