緋弾のアリア 強化人間物語   作:A4

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4 模擬戦(前)

「ユウト!」

 5限のチャイムが鳴った後部屋に帰るべく鞄を手に取り教室を出て階段を降りようとした時とした時後ろから呼び止められた。振り向かずともその特徴的なアニメ声から誰かという事は明らかであった。

 「神崎さん、何か用?」

 振り向くと神崎アリアがどたどたと追いかけてくる。

 「アンタ、私と勝負しなさい!」

 悠斗は義父との依頼を果たす好機であると考えると同時にその率直さに半分あきれた。おそらくはキンジを調べている内に悠斗の事も知り、ちょっかいをかけてみたくなったのだろう。

 「キンジのことはいいのか?」

 昨日キンジから聞いた話を思い出して聞く。

 「6限に探偵科の授業を取ってるんだって」

 武偵高のカリキュラムでは1,2年は5限までは皆共通の授業を受けるがそれ以降はそれぞれの科の授業を受けたり任務を受けたりするという仕組みである。

 3年はそれとは異なり武偵としての自覚を促し、経験を積ますために実地での実習が多くなりほとんど学校に寄り付かなくなるという人も多い。

なお強襲科は希望者を除いては自習と言う形になるので実質的な自由時間と化していることが多い。

 「なるほど。そんじゃ、まぁ喜んで」

 そう言うとこの時間開いていそうな訓練施設を思い浮かべながら高揚感を抑えることが出来なかった。

 (検挙率100パーセントのSランク武偵の実力、どれくらいのものだろうか…)

 

 

 

 「そういえば何で俺と模擬戦を?」

 強襲科の施設から聞こえる銃声を耳にしながら悠斗が聞く。

 「あのスケベの事を調べるついでに一年の頃チームを組んでいた奴の事を調べていて、アンタの事を知った」

 「……もしかして俺の映像か何か見た?」

 「うん、ヘビー級ボクサーをノックアウトしてた」

 「あー、あれか」

 そう言いつつも心中は苦々しげである。その任務自体おおっぴらにできるようなものでない上にその現場の監視カメラのデータは回収したはずである。

 (一体全体どうやって入手したのやら…)

 そんな事を考えているとCQB訓練施設の一つに辿り着く。

 東京武偵校はこういった市街地をテーマにした訓練施設が豊富である。というのは元は空港として使われるはずであった人工浮島を利用したので空港関係の施設がある程度残っておりそれを利用した訓練施設が多数存在している。特に管制塔周りの施設もそのまま残されているので全国の武偵校、時には警察の銃器対策部隊や空港警備隊も借りに来る程の物である。

 「…ここ使えるの?」

 「照明が壊れているだけでそれ以外は問題ないよ、それに使用する奴もほとんどいないからいつも空いてる」

 見上げた施設は5階建て、各階の東西南北にそれぞれ上下のフロアにつながる階段が二つずつあり、1階から4階に及ぶ吹き抜けがある。入試の時にも使われていた所である。

 「相手のノックダウン、降伏を以て終了。これで文句ないわね」

 「それでいいよ」

 ルールを確認しつつテーブルの上で弾倉にゴム弾を詰めながら言う。

 「俺は東側から、そっちは西側からでいい?」

 「それでいいわよ、開始は5分後ね」

 そう言うと事前に準備を進めていたのかさっさと行ってしまう。

 「さて、どんなものやら」

 そう呟くと弾倉をマガジンポーチに収めると自分のスタート地点へ足を向けた。

 

 

 

 このCQB訓練施設の一階は大きな十字路を中心とする細い通路や小部屋から構成されている。中には障害物代わりに捨てられた電化製品や資材といった物が配置されている。それに加え照明が所々で機能してないので見通しは悪い。

 そんな中を音を立てず猫のように進む。今の状況は室内における遭遇戦であり、相手を先に見つけた者勝ちである。

 そうしていると前方からの僅かな音を耳が捉える。照明が点滅するなか目を凝らすがアリアを捉えられないが傍の柱の陰に飛び込み待ち伏せる。

 (先制はこちらが取れるはずだ…)

 五感の鋭さには自信がある上に向こうの様子からもこちらを察している様子はない。アリアは警戒しつつも一定の速度で進んできている。息を殺し常人では捉えられない程微かな音に集中する。

 (今だ!)

 それと同時に身を乗り出し拳銃の引き金を引き発砲するもアリアはすぐに物陰に入り撃ち返してくる。

(ダメかッ!)

待ち伏せを躱され反撃された悠斗はすぐに身を柱に隠す。それと同時に少し前までいた所をゴム弾が通り過ぎて行った。

 (長丁場になりそうだな)

 このように見通しの悪い場所で身体能力が高い同士が撃ちあうと千日手の状態に陥ることが多い、いや多かった。

 

 

 

 (ちょこまかと…)

 想像した通り硬直状態に陥っていた。弾倉を取り換えながらそんな事を考える。既に弾倉を二使い切っていた。先程から撃っては隠れて移動して、というのを何度も繰り返していた。

 「そろそろ仕掛けるか…」

 拳銃をホルスターに収め鞘からナイフを抜くと全身から軽く力を抜いた。

 

 

 

部分的に脳のリミッターを解除し身体能力を一時的に増加。足に軽く力を入れ「加速」の準備を行う。

(これで終わりだっ)

超加速で悠斗は十数メートルあったアリアとの距離を文字通り一瞬で詰めると懐に入り込むと左切り上げ、アリアの右脇腹から左肩へナイフを一閃した。

「…!ツっ」

 しかしアリアは知覚できなかったにも関わらず半身を移動させることにより躱す。

 (マジかよ…!)

 思わず心中で毒づく。入りのタイミングは完全だったし速度も十分であった。見事に躱したアリアを見ると自分でも何をしたのかわかっていないというような顔をしている。それを裏付けるかの如くナイフを振り切ったユウトに対し何もしかけてこない。

 (ならっ!)

 躱されたショックを打ち消すかのごとく心中で喝を入れるとアリアの背中側の死角に瞬時に移動し右のナックルを放つがこれも躱される。すると大胆にも超加速により前に再度回り込み動きに対応できてないアリアにアッパーを叩き込むが上体を大きく逸らし交替することにより僅かに掠るだけで終わる。

「ちっ!」

 苦々しげに舌打ちすると一気に吹き抜けへ後退するとその場で大きく後退した。

 (俺を認識してないにも関わらず全部避けるか)

 そう心中でぼやくとその場で跳躍すると二階部分の突起を掴むとその勢いのまま腕力を利用し二階へ上がった。

 「取りあえずは仕切り直しか」

 そう言うとその場を離れるべく静かに駆け出した。 

 

 

 

 時間にして10分ぐらい経っただろうかアリアは一階のクリアリングを終え2階へと進んでいた。悠斗は一つ上のフロアの3階からそれを伺っていた。アリアがフロアの半ばを探し終えた後に2階へと続く吹き抜けから飛び降りた。

着地と同時に膝を曲げ衝撃と音を殺し、しなやかに着地する。

 足音を殺しアリアの背後に回り銃を構えたがその瞬間アリア振り向きが銃を撃ってきた。

 「それぐらいお見通しよ!」

 アリアはそう言い2丁のガバメントで銃弾を叩き込んできた。

 (待ち伏せかよっ!)

 悠斗はすぐに遮蔽物を確保しアリアに向けタップ射撃を繰り返した。遮蔽物という利により銃撃戦は悠斗に軍配が上がりアリアはすぐ近くの部屋に追い込まれた。

 しかし残りの弾薬は弾倉一個にも満たず残りは近接戦で決めなければならなかった。悠斗は9㎜拳銃―シグP220―をホルスターに収めアリアが逃げ込んだ部屋の扉を見た。金属製ではあるがそこまで頑丈そうではなさそうである。どうやらアリアは待ち伏せを決めるらしく出てくる様子はない。

 「しくじったな」

 事前に決めたルールで特殊閃光手榴弾などは使わない事にしていた。それが裏目に出てしまった。そんな事を思いながら体から軽く力を抜いた。

 

 

 超加速により凄まじいスピードを得た悠斗の身体が扉を軽くぶち抜き部屋の隅まで行き急ブレーキをかけた。アリアは扉の破壊に反応できたようだが銃弾は悠斗の通った軌跡を抉るばかりである。

 「このっ」

 アリアは照準を直し撃ってくるが悠斗は破った扉をぶん投げゴム弾を防ぐのと同時にアリアの視界を防ぐ。その間に距離を詰め側面に回り上段蹴りを放とうとするが左のガバメントの射撃による牽制で未遂に終わる。

 「風穴あけてやるわ!」

 2丁の拳銃で銃弾を撃ち込む。悠斗は超加速で躱すも姿勢を崩してしまう、そこにアリアが2本の小太刀で猛攻をかける。それをナイフで捌き切った所で超加速を用いための入った蹴りを叩き込むが小太刀で防がれる。しかし小太刀を吹き飛ばすことに成功し、アリアも吹き飛ばされる。

 そこに追撃をかけようと距離を詰めるもアリアは空中で体勢を立て直し構える。

 (どういうわけか超加速が見切られてるなら…)

 悠斗が軽いフットワークで速さ重視の拳を繰り出す。

 「くっ」

 速さ重視と言えど圧倒的体格の格差を考えるとアリアからすると洒落にならない威力でありアリアはただ避ける事しかできない。

 「あっ」

 ひたすら防戦に回っていたアリアが限界に達したのか足を滑らす。

 (勝ったっ!)

 心中で叫び隙を逃さずに十分な右ストレートを放つ。

 「かかったわねっ!」

 アリアが凄まじい速さで悠斗に向かって飛ぶと放たれた拳を紙一重で躱して悠斗の右腕に飛びつくと両足で絡み付き全体重を掛ける。

 (腕ひしぎ十字固めかよッ!)

 技がかかりきる前にアリアが何をしようとするのか察し超加速で腕を振り抜き遠心力でアリアを吹き飛ばす。アリアは猫のように衝撃を吸収し着地していた。

 (…舐めているつもりはなかった)

 右腕の調子を確認する。技がかかりきる前だからこそで済んだので違和感が残る程度であった。しかしもし、あと少しでも反応が遅れていたら腕の関節が破壊されていただろう。

 悠斗は昨日アリアの資料を見て感じたのは優越であった。履歴こそ立派ではあったが所詮は良家のお嬢様のお遊びでは、と考えていた。

 「すまんな」

 痛む右腕をおして構える。

 「何?もう降参?」

 アリアが不敵に言う。

 「…ロンドン王立武偵小学校を首席卒業後、モスクワ、バージニア、パリの武偵校に留学し優秀な成績を残す」

 アリアが訝しげに表情を変える。

 「その間MI5(軍情報部第5課)、英国内務省等の依頼による非正規作戦に従事しベルファスト、オマーン、マドリードで活動し英国に対し多大な功績を挙げた。ああ、あとCIAの軍事工作員として活動し非公式ではあるが銀星章を授与された」

 アリアの顔が驚きの色に染まる。

 「その経歴は本物だったか。いや、舐めているつもりはなかったんだが信じられなくてな。吹かしじゃないかと思ってた」

 会社の調査報告とて人の手によるものだ。どこかで誇張された話が入っているのではと思っていた。

「油断してないと言えば嘘になるな、実は侮っていた。許してくれ」

 アリアは警戒しつつも自分が優勢に立っていると考えてるらしく不敵な笑みを浮かべている。

 (…あの表情を痛みに歪めさせたら、屈辱に染め上げたなら…それはどれだけ楽しいだろうか?どれだけの歓喜が得られるのだろうか?)

 そう思うと体の芯が熱くなる、全身の血流を知覚できる。

 (いいぞ、いい感じだ。良い具合にアレが決まってきた)

 「…何が言いたいのよ」

 「どうも饒舌になっていかんね。ここからは全力で行こうって話」

 腰を軽く落として構える。

 「今までが全力じゃなかったってこと?言い訳?」

 アリアが訝しげに言う。

 「今までも全力だったよ。だがこれからさらに本気だ」

 身体の芯から感じた熱が全身に広がりきる。煮えたぎった血液が全身を駆け巡っているのが知覚できる。

 「いくぞ…全力で防げ」

 そう言うと足に力を込める。 

 

 

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