緋弾のアリア 強化人間物語   作:A4

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5 模擬戦(後)

「いくぞ…全力で防げ」

 そう言うと足に力を込める。

 (おそらくではあるがアリアにさっきのような回避力は発揮できない)

 先ほどの攻防で確信したのだがアリアの動きに一階で見せたようなキレはない。どうやらあの神がかった回避は時間限定だったのだろうか。

 「……ッ」

こちらの空気に呑まれているのかアリアに先ほどのような余裕はない。

 そして仕掛けようとした瞬間。

 

キーンコーンカーンコーン!

 『……』

 授業終了を知らせるひび割れた音がスピーカーから響く。その音で双方毒気を抜かれ、先ほどの緊張した空気が霧散する。

 「やめないか?キリがいいし」

 「…そうね。キンジ迎えに行かないといけないし」

 アリアが構えを解いたのを見て戦闘態勢を解く。最後に手痛い反撃をもらったがアリアとの関係を作れたので良しとしよう。これで日本滞在中に一緒に行動するような流れに持って行けたらアリアの護衛も上手くいくだろう。

 そう考え、ふと足元を見ると先ほど破った扉が転がっていた。

 「やば…」

 電灯が瞬く天井を思わず見上げた。

 

 

 

 「あーあ」

 嘆きつつ軽くひしゃげたドアを戻せないか試してみるが蝶番が完全に壊れているので無理そうである。設備破損届を書かねばならないのだろうか。

 「それどうやったの?」

 アリアが吹き飛ばされたドアをまじまじと見ている。

 「ジャパニーズニンジャマジックだよ。つーか自分の飯の種をそうそう言えるわけない」

 「それもそうね。なら無理に言わなくてもいいわ」

 アリアはあっさりと追及をやめる。

 「逆に聞くが最初のアレをどう躱したんだ?自慢じゃないが初見で対応されたのは初めてだったんだが」

 今まで反応できた者はいてもあれほど完全に避けられたのは初めてであった。

 「うーん、あたしにもよくわかんないんだよね。突然こう来る、ってのが思い浮かんだだけで…」

 「なるほど」

 二人して訓練施設を出る。

 「ユウト、どうして私の経歴を知ってるの?Sランクの武偵を使っても調べられるようなものじゃないのもあったのに」

 「会社に調べてもらった」

 考えてみればこんなぼろい施設の破損など報告する必要はあるのだろうか?

 「ふーん」

 そこから互いに無言になりしばらく歩き校舎が遠目に見えてきたころアリアが口を開いた。

 「…私のママがどうなってるか知ってる?」

 「殺人、武器密輸、贋ユーロ造り、凶器準備、その他諸々で各国から指名手配。現在、東拘に収監中」

 「違うっ!ママはそんなことやってない!」

 「んな事はわあってる。色々おかしすぎるんだよ、普通ならマスコミがガンガン報道するはずだ。それにアリバイの証明もされたにも拘らず死刑判決だからな」

 資料にもその他にも神崎かなえが無実であるという事が述べられていたが高裁では有罪判決が下されていた。

 「ママはある組織に罪を擦り付けられたの!あいつらのせいでママはいきなり逮捕されて…」

 アリアがそこで言葉を詰まらせる。しかしそれ程の事を行える組織と言われて思いつくのは某米国の諜報組織ぐらいしか思いつかない。

 「…あたしは今、その組織に対抗できる人材を集めてる。ユウト、あなたも参加してくれると嬉しい」

 そんな組織の事は資料に載っていなかったはずだ。

 「…歩きながらする話じゃあないと思うんだが。まぁ、いいよ」

 「…!そんな簡単に…」

 アリアが沈んだような顔から一転して怒りを示す。

 「俺には俺の目的があるってだけだよ。そこらへん勘違いしないでくれ」

 「言っておくけど奴らはそこら辺のやくざ者とはわけが違うのよ。そこらへん分かってるの?」

 そうは言うがそこらへんの反社会団体相手なら遅れは取らないと自覚している。

 「今さっき実力を見せただろ。それより時間はいいのか?キンジを迎えにいくんじゃないのか」

 その言葉にアリアが腕時計を見る。速い奴なら片づけを終え外に出ていてもおかしくはない。

 「…!ユウト、この話はまた後で…」

 そう言うなり駆け出した。

 「キンジも勧誘するんかねぇ」

 確かにキンジは素の能力でもランクBの上位、能力が発動すればランクSに優に届く。流石は旧日本の公式戦史である戦史叢書に載った遠山鐵の孫と言うべきだろうか。

 (この分なら神崎アリアの護衛もどうにかなりそうだ)

 今日の接触の手ごたえは悪くなかった、そう考えながら走り去っていくアリアを見送った。

 

 

 

 Sideアリア

 「おじい様みたい」

 高津悠斗と初めて会って思ったのがそれであった。何が似ていると聞かれればわからないがどこか似ているのである

 キンジの能力を確かめる前に目を付けていた悠斗の実力を見るべく模擬戦を申込みCQB訓練施設に着いたのが数分前。薄暗い施設内を足音を殺し進んでいた。

 高津悠斗の格闘能力は高いという事は昨日入手した映像で察することが出来た。だからこそ決して白兵戦には持ち込まず射撃で勝負を決める気である。

 「…痛ッ!」

 その瞬間銃声が響きアリアに2発のゴム弾が左腕と携えていたガバメントを弾き飛ばした。

 「やったわねっ!」

 アリアは物陰に飛び込むと悠斗のいる辺りに撃ち返した。

 

 

 

 「そろそろ弾が尽きてもおかしくないはず」

 アリアの銃撃戦のスタイルは2丁拳銃の猛火力による制圧である。それ故にいつも大量の弾薬を携帯していた。それに比べ向こうはこの硬直状態に焦れたのか積極的に撃ってきている。

 そんな事を考えながら先程何とか拾えたガバメントによる制圧射撃を行おうと物陰から出て撃とうとした瞬間であった。

 「え…?」

 十数メートル先にいたはずの悠斗が前斜姿勢で懐に入っていた。全くそれを知覚することが出来なかった。一瞬だけ悠斗と目が合い凍り付いた。暗くぎらついた獣を思わせる眼であった。

(殺される…)

 アリアはそう本能的に察した。その瞬間全く見えなかった悠斗の動きが見えた。それと同時に体は動いた。逆袈裟切りを半身を移動させることで躱しそれから続く拳撃も躱し、いなしていく。

 悠斗はそれらの攻撃が防がれたのを悟ると苦々しげに舌打ちすると吹き抜けまで退くとその場で跳躍し上のフロアに引いて行った。

 「なっ!」

 気を取り直し銃を向けた時には既にいなかった。音で上階を探ったが既に足音は遠くに去っていた。

 「何メートル飛んだのよ…」

 NBAのプレイヤーの垂直跳びの記録は1mを超えると言うが今のはそれと同等かそれ以上だ。取りあえずは悠斗が去ったので片方のガバメントをホルスターに収め上階へ続く階段に向かおうとして気づいた。

 「…目が似てるんだ」

 アリアは最初悠斗が祖父に似ていると思ったがその理由がわかった。2次大戦のときSASの原形と言えるブリティッシュ・コマンドスに所属し北アフリカで戦った後ノルマンディー上陸作戦に参加し終戦まで戦い抜いた経歴をもつ祖父はたまにその当時の話をする事があった。その時祖父が先程の悠斗のような昏い目をしていたのを未だに覚えている。アリアはこの温厚な祖父が好きであった。しかしその時の祖父はひどく恐ろしかったのを覚えている。

 

 

 

 「…こんなのじゃダメね」

 2階で悠斗の攻撃を誘い反撃に転じるという考えは悪くはなかった。場所の選択も悪くなく悠斗の攻撃を前方と後方に絞り込みこれ以上ないくらいのタイミングで先手を取る。そこまでは良かったが想定外だったのが悠斗の反応速度であった。先ほど見せた猛烈なスピードで柱の陰に飛び込むとこちらの射撃を躱して反撃してきた。アリアはその場で牽制射撃をすると傍の部屋に飛び込んだ。

 

 

 

 悠斗との模擬戦が終わった後キンジを迎えに行くべくアリアは校舎に向かっていた。

 「…『俺には俺の目的がある』か、どういう意味なんだろ」

 アリアは先ほど悠斗の言った事を反芻していた。イ・ウーを追うメンバーが集まるのは喜ばしい事ではあるがどうもあっさり引き受けたのが気になる。

 「…でもアイツ絶対Bランクとか大嘘じゃない。もっと調べないと」

 格闘のキレ、射撃技術。何よりあの爆発的なスピード、あれ程の能力ならばSランクは確実のはずだ。そして私は何故あの動きを見切れたのだろうか。攻撃する動作は愚か移動する所作すらも見れなかったにも関わらず悠斗の動きが見えた、というより頭に浮かんだ。  

あの時悠斗の数種類の攻撃パターンが一瞬で理解できどう動いたらいいのかという事を考える前に体が動いていた。

高津悠斗に対する追加調査、自分の先ほどの見切り能力と言い調べる事が多すぎる。

「おじい様に頼るべきかもしれない」

 祖父はそりの合わないホームズ家の人間の中でも気が合う数少ない味方と言えた。また、その人脈は軍人だけでなく内務省や諜報機関にも及びこういった調べ物について頼りになるはずだ。

そう考えるとアリアは校舎の中に入って行った。

 

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