緋弾のアリア 強化人間物語   作:A4

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7 後始末と疑念

封鎖されたレインボーブリッジの上では爆弾が解除されたバスから武偵校の生徒が次々と吐き出されていく。それと並行し救護科の生徒が武偵病院に搬送すべく担架を持ってバスの中に入っていく。

 「来てくれて助かったよ」

 武藤が運転手を救護科に引き渡した後にこちらにやって来る。

 「そうは言っても殆ど何もやってねぇよ」

 「銃声が聞こえてたぞ、何かやってくれてたんだろ」

 「…そうは言っても一台通しちまった。スマンな」

 悠斗がペットボトルの水を渡し、武藤がそれを呷る。

 「ケガ人どんぐらいいた?」

 「運転手と生徒が7人。ああ、その中にアリアがいた」

 それを聞き思わず手を顔で覆う。課長からアリア護衛の依頼を受けてから1か月もしないのにこの事態である。

 「お前が気に病むことじゃないよ、気にすんな」

 武藤が生徒に被害が出たことを気にしていると捉えたのかそう声をかけてくる。

 「貴希も授業中に悪かったな」

 「…別に。実習中だったし」

 運転席から降りてきた貴希に武藤が話しかけている。

 「それにしても貴希の運転技術は凄かったな、兄貴と同等かそれ以上だ」

 「そう言ってもらえると嬉しいです」

 貴希が目を輝かせてそう言う。

 「何、猫被ってんの?お前いつも先輩に対して敬語なんて使わねぇだろ」

 そう武藤が言った瞬間貴希が武藤の脚を凄まじい勢いで踏んづけた。先程までの笑顔が消え無表情になっている。

 「兄貴、黙って。轢くよ」

 武藤がぴたりと口を閉じた。思わずその落差に目を見張る。

 「先輩、そろそろ封鎖解除するそうなんで帰りましょう」

 悠斗が乗り込んだのを確認した後貴希が運転席に乗り込む。

 「あ、待った。貴希、俺も乗せ…」

 武藤が車の外で待ったをかけるが貴希はそれを無視して車を発進させた。

 「乗せなくていいのか?」

 後ろを見るとペットボトル片手にこちらを見送っている武藤を眺める。あとで武偵校の迎えが来るので大丈夫だろう。

 「良いんです。最悪歩いて帰ってきます」

 それきり互いに無口になり、悠斗はただ外の流れゆく景色を眺める。

 (今日は学校サボろうかな)

 そんな事を考えていると車が尞の前で止まる。

 「?」

 降りると運転席から貴希も一緒に着いてくる。

 「先輩、本当にありがとうございました」

 何に対する礼なのかわからず困惑する。

 「…始業式の日の事です。あいつらには前から絡まれていて…」

 それを聞いて得心した。見れば身体が少し震えている。

 「安心しろ、あいつら全員退学だ。それにまだ入院中だそうだ」

 そう言い犬を撫でるかの如く貴希の髪を撫でる。

 「先輩、女の子の髪をそう簡単に撫でるものじゃないですよ」

 「悪い。俺は昔、失敗をやらかした時はそうしてもらったんだよ」

 ぱっと手を放すと踵を返した。

 「じゃあ武藤によろしくな」

 軽く手を上げ尞に向け足を向けた。

 

 

 

 都内のあるホテルの一室に置いて一組の男女が机越しに向かい合っている。

 「君に言われた通り武偵校における拠点を準備させた。専門の監視チームはいつでも動けるようにしてある。DGSE(対外治安局)出身の工作員で編成されたグループだ、下手を打つことはないだろう」

 オートクチュールのスーツに身を包んだコーカソイド系の男が言う。

 「急にも関わらず苦労をかけるな」

 銀髪を三つ編みに結い上げた少女が尊大に返す。

 「しかし常々思うのだが君がわざわざ行くことはあるまいよ。何なら特殊部隊経験者を集めてチームを作る事だってできるっていうのに」

 「『保護』にフランスという国の関与が疑われるのはマズイ。イ・ウーとしての活動であると思われているからこそ黙認されているようなものだ」

 銀髪の少女が煩わしげに言う。

 「まぁ、助けがいる時はいつでも言いたまえ。では、またジャンヌ」

 スーツの男が席を立ち戸口へ向かう。

 「ああ、またなジル」

 「その呼び方はあまり好きじゃない。アランと呼べと言ってるだろ」

 そう言い男が部屋を出て行った。

 

 

 

 「あいつじゃなかったか…」

 キンジが出て行った病室でアリアが一人呟く。

 口ではあんな事を言っていてもいざという時はあの体育倉庫で見せたような活躍を見せてくれるのでは?そう思っていた。

 しかし先ほどのバスジャックではその片鱗は見れなかった。それにキンジはもう武偵を続けるつもりはない、はっきりそう述べていた。

 その事に落胆しつつ、ふと横に目をやった時サイドテーブルの上に茶封筒が置いてある事に気付いた。

 「…何だろこれ?」

 封を破り中の書類のを取り出し数行読んだ所でそれが以前祖父に頼んだ高津悠斗に対する調査の結果であるという事が分かった。あれ程の戦闘能力を持つならば外国にも知られているのでは?と考え祖父に頼んだのであった。

 まず高津悠斗に対する情報はゼロ。ただ幼い頃の足取りが全く掴めないとの事であった。もんだいは彼の義理の父である高津宗一であった。

 自衛隊、米軍、警視庁公安部、それぞれの組織に在籍していた記録を持つ癖のある人物であった。自衛隊、米軍時代に何をやっていたのかはわからなかったが公安部時代には外事2課に所属し北朝鮮工作員や中国の産業スパイを取り締まっていたとの事であった。警視庁を退職した後は政府の影響が強い警備会社に再就職したと報告書にある。

 「…じゃあユウトは政府の人間…?」

 アリアが思わず呟いてしまう。

 自分がイ・ウーを倒すためのチームに入るように頼んだ時もあっさり承諾したのはそういう事なのだろうか。

 アリアは書類を放り出した。また自分は一人ぼっちだ。

 

 

 

 悠斗はバスジャック事件が終了した翌日にアリアの病室を訪れていた。

 「具合はどうよ」

 ドアをノックし中に入る。病室は個人用の物にしては十分な広さである。

 「…まぁ、大丈夫よ。傷もそんなに残らなかったし」

 どうにも歯切れの悪い答えである。そう思うと同時に軽傷であることに安堵する。

 「アンタは本当によくやってくれたわ。私達より先に来てもう対処を始めていた」

 「そう言ってもらえると何より。俺も一台通しちまったしな」

 それから事件解決の進捗などについて話し合った。

 「それでこれからどうする?」

 キンジとのコンビを解消したという事を聞き内心驚きつつも聞く。

 「…その話なんだけど私、一度イギリスに帰ろうと思うの」

 「ではチームは解散か?」

 これならアリア護衛は思ったよりも早く終わったなと考える。

 「ええ、悪いけどそうしてもらえる。アンタには悪いけど」

 アリアは顔を窓の外に目を向けたままそう言った。

 

 「それじゃお大事に」

 悠斗は病室を出ると一度扉に目を向けるとその場を去った。

 (…何か隠してるな)

 アリア自身嘘や隠し事が出来ない性格なのか声の調子や態度が明らかにおかしかった。そのことが気になりつつも面倒な任務が終わった事に喜んでもいた。

 「まぁ見送りぐらいはするべきか」

 

 

 

 病院を出たあたりで仕事用の衛星携帯が鳴った。

 「おお、悠斗か?今、手空いてるか?」

 「高嶋さんですか?ええ、大丈夫ですが」

 「それなら依頼を片付けないか?あの武偵校生徒が対象のやつ」

 それを聞いて思い出す。始業式の日に叩きのめした4人か。

 「彼ら退院したんすか?というか手伝ってくれるんので?」

 「軽傷の2人がな。今回は仕事帰りのついででな、やるんならさっさとしろ。お前の斜め前の車道に黒のワンボックスがあるだろ」

 見ると確かに黒のワンボックスがある。

 「それに乗れ」

 それを最後に通話が切れた。

 

 

 「どうもッス」

 「おう」

 ドアを開け車内の人に挨拶する。運転席には何時もの大輝さんがいて挨拶を返す。後部座席には先ほどの電話相手の高嶋さんがいる。

 年齢は30前半、高身長と鍛え抜かれた身体を持つこの人は元北の工作員という異色の経歴を持つ人である。

 「それで二人は何処に?」

 「退院早々女遊びやってる。拉致るか、その場で殺すか?」

 「今回は拉致りましょう」

 悠斗はそう言い車内に置いてあったスポーツバッグからスタンガンを取り出した。

 

 

 

 小林恭介は痛む頭に呻きつつも眠りから覚めた。一緒に退院できた親友の山碕と共に入院中の鬱憤を晴らしその帰路についていたはずであった。体がひどく重い、というか動かない。見ると鋼鉄製の椅子にワイヤーで縛り付けられていた。手首、足首、首が完全に固定され全く身動きできない。

 室内には薄暗くはあるが一応明かりがついていて辺りを見ることが出来た。窓はあるが外は完全な闇でありその上何の音も聞くことが出来ない。隣には一緒にいた山碕が自分と同じように椅子に縛り付けられているのが見えた。自分と同じように状況が把握できてないのかきょろきょろ室内を見回している。

 「おい、小林これどういう事だ?」

 「わからねぇ、渋林の連中か?」

 自分たちがやんちゃをしていた時に敵対していたグループの名前を挙げた。

 『!』

 部屋の外からブーツの重々しい足音が聞こえてきた。建物全体に響く不気味な音に二人とも黙り込む。

 「テメェはっ!あの時の!」

 「ッオイ!これ解けよゴラァ!」

 忘れもしない自分たちを病院送りにした相手だった。それを確認するなり雰囲気に飲まれない声を張り上げる。顔しか知らないその男は自分たちを無視し二人の間にあるキャスター付きのトレーから24オンスハンマーを取り上げた。

 「お、おい何する気だ?」

 男がハンマーを山碕の頬に叩きつけた。ハンマーの釘抜きが頬を貫き肉を抉る。

 「…づガァああぁヅ!」

 「お、おいテメェ、武偵法9条に違反するつもりかよッ!」

 怯みつつも怒鳴る。どう見ても人を致死に至らすのに十分な凶器である。

 「オイッ!何とか言えや!俺たちが一体何やったんてんだよ!やめろや、オイ!9条に違反したらどうなんのかわかってんのか!」

 そう言い募る間も男は山碕を殴り続け、山碕の叫びが部屋中に響き渡る。

 「うるせぇよ」

 顎にハンマーが叩き込まれた。

 「さっきから9条、9条うるせぇよ。九官鳥かよお前は」

 そう言いつつもキャスター付きのトレーにハンマーを置き大型のワイヤーカッターを手に取った。先程は気づかなかったがトレーの上にはハンマーの他に電動ノコギリや釘、ガスバーナー、ペンチと言った恐ろしげな7つ道具が載せられている。

 「えーとお前4年前の14歳の時女学生を拉致って暴行加えてなぶり殺ししたでしょ、だから遺族から是非とも殺してくれって依頼があったんだよ。あとダチの妹に手を出したっていう事にも怒ってるけど」

 んじゃ理由を説明してやるよ、と前置きして男が前に来て喋りはじめた。

 「ま、安心してくれ。確実に殺してやっからさ」

 そう言い男が髪を撫でてくる。その時男と一瞬だけ目があった。

 「お前は後な」

 そう言い男が大型のワイヤーカッターを片手に山碕の前に戻って行った。

 「許してくれ、ゆるして、ゆるして」

 先程男と目があった瞬間から震えが止まらない。顔全体は無表情で何の感情も映していなかったが目に喜悦が浮かんでいた。

(…アイツは人間じゃない)

目を閉じこの恐ろしい時間が一刻も早く過ぎ去るのをただ待つ。

 (…何でこんな事になってしまったんだ)

 5年前は下手を打って実刑を喰らいそうになったが幸いにもグループのメンバーの父に武偵庁の役人や警察官、国会議員といった錚々たる面子がおり敏腕弁護団により実刑を逃れることが出来た。保護処分で少年院に送られたのは予想外であり退屈だった。だが務めを果たし人生を楽しもうとしたはずなのに。

 「好きなだけ叫んでいいよ、ここらは人いないし」

 隣から恐ろしい叫びが聞こえてくる。人間の叫びではない、昔遊び半分で嬲った犬がこのような声を出していたような覚えがある。

 目を閉じているので山碕の身に何が起きているのかはわからない。

 「ヅヴぁァァァアアアアアアアッ!」

 ごりごりという奇音と共に隣で山碕が叫んだ。

 「たすけて。かみさまたすけて」

 小林は生まれて初めて真剣に神という存在に祈った。

  

 

 「火、持ってる?」

 高嶋はライターを何回か弄った後で向かいで煙草を吸っている剛気に尋ねた。

 「ん」

 剛気が煙草を咥えながらライターで煙草に火を点ける。

 「ありがとな」

 凄まじい悲鳴をバックミュージックに静かに二人して煙草を吹かす。

 「…んでどう思うよ彼?」

 剛気が室内で電動ノコギリを振り回している悠斗を見て言う。

 「どう思うも糞もねぇよ。モノホンの異常者だよ」

 高嶋が煙を吐き出し言う。

 「やっぱガチだったか。課長の世話を頼むってああいう事だったか」

 「表情は隠せても目が笑ってるよ。何にせよ一般社会で生きていくには難儀な奴だ。」

 「同僚としてはいいんだが友達づきあいは厳しいな」

 剛気は拘束されている男から耳らしき肉片がペンチで引きちぎられたのを見届けた。

 「んじゃ俺は車に戻ってる。裏は頼んだぞ」

 「おう」

 この辺りは再開発計画が進められていたが予算の問題で計画が凍結され幸いにも人気が全くと言っていいほどない。剛気は脇の拳銃を確認すると階段を下りて行った。

 

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