一樹が風紀委員になってから数日、特に大きな事件もなく、淡々と仕事をこなしていたある日のこと。
「はい、これ」
「・・・これはなんでしょうか?」
星華が大量のプリントの束を差し出していた。
「なにってプリントよ?」
「いえ、それはわかりますが・・・『全委員会定例会議』とは何ですか?」
「あれ?説明してなかったかしら?委員会に入る時に貰った、行事予定表とかに書いてなかった?」
「いえ、その前に、貰ってないと思いますが・・・」
「・・・・・・」
星華の顔から若干の焦りが見える。
しばらく、星華が黙って立っているかと思うと、突然動き出し、自分の引き出しを漁りだす。
目的の物を見つけたのか、バツの悪そうな顔をして、一樹の方を見た。
「ごめんなさい、渡し忘れてたみたい」
「いえ、別にそんなに気にすることでもないですよ」
星華は申し訳なさそうな顔をして、樹に一つのタブレット型端末といくつかのプリントを渡した。
プリントには『風紀委員の心得』と書いてあり、どんな心構えで臨むべきかとか書いてある。タブレット型端末を起動すると、そこにはかなりの量の目次が出てきた。
そこの中に『年間行事予定』と『全委員会定例会議について』という目次があった。
「本当はあらかじめ読んどいてほしかったんだけど、私のミスだからしかたないわね」
そう言って、星華は一樹の隣の席(ミールの席)に座り、説明し始めた。
「全委員会定例会議は学校行事などがある前にその行事についてや、対策などを話し合う会議よ」
「行事というと、九校戦などですか?」
九校戦、正式名称は「全国魔法科高校親善魔法競技大会」
毎年8月の頭にあり、魔法科高校生の中でも特に優れた生徒が出場し、ルールに則って魔法技能を競う大会である。大会まで残り、2ヶ月と少し。そろそろ選手の方も決めないといけない頃だろう。一樹はそう思い、九校戦についての会議かと思ったが、
「ええ、そうよ
今回は違うけどね」
一樹の考えとは逆の答えが返ってきた。
一樹はその言葉を聞いて年間行事予定表に目を通す。そこには来週いっぱいに書いてある<バトルロワイヤル>の文字がある。
「この<バトルロワイヤル>という、聞くだけでも物騒な行事ですか?」
「ええ、そうだけど、もしかしてその行事すら知らなかったの?それは一般生徒の年間行事にも書いてあったと思うのだけれど」
「ええ、あまり学校の行事に興味なかったもので」
「なんか一樹君俗世に興味なさそうだものね」
「俗世って・・・別にそういうわけではありませんが、あまり学校自体に関わらないようにしてたので」
「そっかー
でも、今はそうはいかないわよ?なってたって風紀委員の一員なのだから」
「心配しなくても大丈夫です。役職に就いた以上、一生懸命やらせていただきますから」
「そう?それなら安心したわ
ってことは、<バトルロワイヤル>も何やるか知らないの?」
「ええ、でもなんとなく予想がつきます」
「多分あなたが考えてることで大体合ってると思うわ
でも、普通の模擬戦と少し違うのよ?」
「違いですか・・・」
「詳細はタブレットに記載されてるのだけれど、ついでに説明すると
<バトルロワイヤル>の期間は一週間
その間は誰もがどんな人にでも挑戦していいの」
「どんな人でもってことはランキングに関係なしに誰でもってことですか?」
「ええそうよ、今はランキングの挑戦権に制限がかかっているでしょう?それが全部なくなっているの。例えば、一年生が三年生のランキング上位にも挑戦可能よ。もちろんその逆も」
「逆・・・」
一樹が少し顔をしかめた。
「そう、ランキング上位の人がランキング下位の人に挑戦することもできるのよ
一樹君も大変そうね?」
「そうなりそうです。」
一樹は異例のランキングの持ち主。一年生にして二年生のランキング第5位。一樹は挑戦を受けるばかりで、一回も上位ランキングに挑戦していない。時間がないとも言えなくもないが、やる気があれば一回くらい、は挑戦する時間はあった。そんな一樹を見ているランキング上位の人間は一樹が挑戦してこないのをもどかしく思っているはずだ。
「<バトルロワイヤル>の特徴はそれだけじゃないの
演習室だけの模擬戦ではなく、森林、湖、沼地、草原、旧市街地、山、岩肌などの野戦も可能なのよ」
「実践に近い状況を想定してるんですね」
「どっちかと言うと『モノリス』を想定してかな?もちろん実戦も想定してだろうけど、やっぱり殺傷ランクの制限がついてるかなねー」
「『モノリスコード』ですか、九校戦の種目の一つでしたね」
「あれ?九校戦の見たこと無いの?」
一樹の確かめるもの言いに疑問を抱いたのか、星華はそう一樹に尋ねた。
「いえ、去年に一度だけ見たことありますよ、先輩も選手として出ていましたよね?」
「あら?覚えててくれたの?」
「先輩を見て忘れるわけないじゃないですか」
星華はCADを使った現代魔法は一流の魔法師が使う魔法と比べても申し分ないが、やはり古式魔法の色が全くないわけではない。普通の現代魔法より威力が勝が、スピード、魔法の構築の速さは現代魔法と比べると見劣りする。魔法の構築の仕方や体の仕草、気の運用に至るまでどこか古めかしい。やはり、現代魔法を中心に作られた競技では星華は不利なのだ(それでも四校の代表に選ばれるほどの実力を持っている)。そんな古式が見え隠れするような星華の魔法に対して一樹は言ったはずなのだが・・・
「え?え?そ、そんなこと急に言われても・・・
お、お姉さんなんて反応したらいいのかわ、分らないわ」
しどろもどろになりなが、少し変わった口調で喋り始めた。
一樹も言った後すぐにしまったと思たが、時すでに遅しであった。
「だ、だからわざわざ二高じゃなくて四高に来た・・・あっ!」
星華は動揺して、余計なことを口走ってしまったらしい。
星華は口を手で押さえて、これ以上余計なことを言わないようにしたが、もう遅い。
「何故先輩がわざわざ四高に来たことを知っているんですか?」
「そ、それは・・・」
さっきまで顔を真っ赤にしていたのに今はすっかり青くなってしまっている。
「ほら、方言で」
「方言なんて使っていませんし、大体魔法師で方言はあまり使いませんよ」
魔法師は公共の場に立つことが多いので、魔法師の家系では幼少期の頃からあまり方言を使わないように教育されている。それに、魔法師によっては偽名を使うことやビジネスネームを使うことがあるため、自分の出身を隠すためでもあるのだ。
「え、えーとね」
一樹にはすでに心当たりがある。言うつもりはなかったが、困っているのでそろそろ助け舟を出すことにした。
「月影月夜ですか?」
「ばれちゃった?」
「はい、月影と弥生どちらも古式魔法で有名ですから、関わりが無いとは思いませんでした。しかし、月夜さんと先輩が知り合いだったとは思いませんでした」
「実は、月夜から前もって一樹君たちのこと聞いてたのよ
それで、少し興味はあったの
月夜が実力を認めるくらいの人物はどんな人だろうって」
月夜と呼び捨てにするぐらいなのだから二人はかなり仲がいいのだろう。
月影月夜
古式魔法の名家、月影の一族の正統後継者。
吉田、弥生、月影の三つの家系は日本の三大古式魔法と呼ばれている家系の一つだ。
吉田家は少し特殊ではあるが、月影と弥生はある程度の付き合いがあるとは一樹も知っていたが、二人が連絡を取り合うほど仲がいいとは知らなかった。
月夜と樹は幼馴染で、月夜の方が二つ上、つまり星華と同い年である。
「これは内緒にしといてね?じゃないと月夜に怒られちゃうから」
「ええ、わかりました。しかし、先輩と月夜さんはどんな経緯でお知り合いに?」
「古式魔法の世界でも集会があるのは知ってるでしょ?そこで出会ったの。その時は唯一の同い年だったし、結構話が合ってね」
「そうでしたか、知りませんでした」
「だから、一樹君が困ってたら助けてあげてって言われてたの。ひねくれた性格だから、どこかで厄介事でも起こすんじゃないかって心配してたのよ?」
「そうでしたか」
一樹は思わず苦笑いをする。
―――月夜姉さんは心配性だなー
一樹は普段は月夜姉さんと呼んでいるが、人前では月夜さんと呼んでいた。それは自分と月夜の立場があまりに違いすぎるからだ。しかし、それは表だけの話。裏では月影と藤宮は協定を結び、同等な立場になっている。
藤宮が富や名声、地位をすべて捨てても生き残れているのは、月影のバックアップのおかげ。
そもそも、月影の家系自体自分たちの一族の隠れ蓑にするために作り出した家系なのだ。
しかし、長い時を経て、月影は術を進化させ、力をつけ、藤宮から独立した存在になった。バックアップを失った藤宮は月影次期当主と藤宮の次期当主を結婚させ、もう一度バックアップさせるために、協定を結んび、術の交換を行った。術の交換はお互いの術の発展だけではなく、お互いに裏切らないための牽制でもあった。もし、裏切ったら相手の術を公開するぞ、と脅しあっているのだ。
代々、表世界では藤宮と月影が関わることは極力避けているのだが、藤宮の現当主、つまり一樹達の祖父が月影ろの友好な関係を築きたくて今は同じ地域で近くに住んでいる。そのため一樹と月夜は幼馴染、むしろ姉弟のように育った。
「あ!絶対にいわないでよ!?知ってるでしょ?月夜は怒ると怖いんだから」
「分りました」
これまた一樹は苦笑しながら答えた。
―――確かに怖いみたいだけど、月夜姉さん俺やミルには一回も怒ったことないよな?
そんなことを話していると星華がハッと何かを思い出したような顔をする。
「だいぶ、話がずれちゃいましたね、どんな話をしてたんだっけ?」
「それは、九校戦での先輩の魔法を見たら忘れられないって話です」
「そ、そうよそれよ、私の魔法を・・・魔法?」
今回はちゃんと誤解がないように魔法とつけといたのだ。
「ええ、あの古式魔法の名家の弥生。うまく古式魔法を現代魔法に適応させた術式はなんとも素晴らしかったですよ」
「そ、そう魔法のことだったのね」
「何のことだと思いました?」
一樹は知っていて思わず意地悪なことを言ってしまう。
「な、何でもないわよ
そんなことより、<バトルロワイヤル>の説明よ
一週間の挑戦権の制限の解除、特殊ステージでの模擬戦、そしてここが一番のポイント。
九校戦の選抜メンバーへの抜擢。これが学校のみんながやる気になる最大の理由」
「なるほど、そういうことでしたか。しかし、まだ九校戦に出場する人は決まってないんですか?さすがに遅すぎると思いますが」
「いえ、もう決まってるわよ?非公式的にだけど」
「非公式にですか?」
「ええ、生徒会、部活連からそれぞれチームをだすの、種目をやる選手チームとCADを調整するエンジニアチームの二つをね。
そうして出てきた四つのチームをうまく組み合わせて、一番最善なチームを作り上げていくのよ。
もう、すでにテストや調整を済ませて、練習を始めているわ」
「なら何故<バトルロワイヤル>にそんな制度を設けているんですか?」
「やっぱりいるのよ、毎年見落としてしまう実力者が、あなたみたいなね」
―――そういうことか
一樹は納得した。模擬戦をやれば、実際に魔法のレベルで競い合い、CADの調整だって自信がある者は自分でやって、それを模擬戦で披露することになる。そんな模擬戦の中でダイヤの原石を探し出すわけだ。
「しかし、九校戦の種目のほとんどは限定された魔法を使うものばかり、模擬戦ではあまりアピールできないのでは?」
「模擬戦の中ですらアピールできない選手はいらないの、本当に入りたい人は、無理やりにでもその種目にあった魔法を使ってくるはずよ」
「なるほど、生徒会や部活連に選ばれなかった人が九校戦に出るのは大変そうですね。むしろ、ほとんど不可能なのでは?」
「そんなことないわよ?毎年数人だけど選抜チームに抜擢される生徒がいるんだから、特に今年は色々期待できそうな子が多いからね」
一樹も頭の中で西園寺と紗香の顔を思い浮かべた。あの二人ならもしかするかもしれない。
「でその警備や係りを決めるのがこの『全委員会定例会議』ってわけですか」
「そうそう、明日だから今日中にそのプリントに目を通しといてね?」
「え?これ全部ですか?」
「うん、全部」
「他の役員の人も今日渡されるんですか?」
「ううん、実は一樹君が入る前に配り終えてたの」
「・・・・・・・」
「ミールちゃんからきいてなかった?」
「ええ、ミールはあんまり委員会のことを話さないので」
「そういえばそんなこと言ってたわね
じゃあ、頑張ってね!!では、また明日ー!!ばいばーい」
と星華は逃げるようにして去って行った。
遅くなってごめんなさい!!
誰も待ってないかもしれないけど(笑)
よろしくお願いします!(^^)!