壁に穴を空け、外に出れるようになったが、外の状況がわからないまま、むやみに外に出ては本末転倒だ。だから、まず調査するために楓と一樹が外に出た。本当ならもっと戦力がほしかったが、あんまり多人数でたら見つかってしまうため、二人に絞ったのだ。隠密魔法に優れた一樹と九頭見家の次期当主である二人なら、問題なく調査できると思ったからだ。調査の結果は案の定クラスや演習室は占拠され、生徒たちは捕まっていた。この分だと先生たちもとらわれているだろう。
ちなみに穴を空けたことはテロリストにはまだばれていない。一樹の魔法発動時、ミールが外に防音壁を展開したからだ。そして、あけられた穴は今頃ミールが光学魔法で塞がっているように見える幻影を作っているだろう。
「これからどうするの?一樹君」
楓は小声でそう言った。おそらく、これからみんなでどう行動すればいいのかと聞いたのではなく、一樹がこれから何をしでかすのかを聞いているのだろう。
「自分は講堂の謎の大規模魔法を阻止してきます」
「危険じゃない?生徒たちを解放して避難した方がよくない?」
「はい、最初はその方がいいでしょう。例の魔法が発動されるまでは手の出しようがありませんし。しかし、例の魔法がどの程度の規模の爆発かわかりません。もしかするとこの街を飲み込むほどの爆発かもしれません」
「そ、それって!?大規模な魔法って言うより、戦略級魔法のレベルじゃない!?」
戦略級魔法とは大規模破壊兵器に相当する魔法であり、世界でもわずかな国が、日本では公式な戦略級魔法は一つしかない。
「いえ、もしもの話です。自分の能力は魔法の構造から効果までわかります。なのに構造はおろか、効果までなんとなくしか分りませんでした。そんな出所不明の魔法をほっといてもいいことはありません」
出所不明というのは半分嘘だ。実はまだ半信半疑だが、あの地下資料室で見つけた魔導書が魔法の正体ではないかと睨んでいる。
ということは誰かが講堂に持って行き発動しようとしているのだ。
―――『
さっき資料室の内部をトレースしたが、術の反応は感じ取れ無かった。つまり、誰かが既に魔導書を持ち出したということだ。
すると、ここで一つの疑問が浮かび上がる。なぜ持ち出した人間はもっと早く魔導書を使わないのか?大規模魔法が発動されるまで1時間と少し。そこが大規模魔法が魔導書だと確信できない点であった。
「それに、人質の解放はなかなか難しいと思いますよ。なんせ相手は
「
と楓はあきれた声で言う。
『裏魔法師《ブラック・マジシャン》』とは
軍などで使われる隠語で、資格を持っていないプロと同じレベルの魔法師や資格をはく奪された魔法師の事である。
「なんで分ったの?」
「
「はぁーなんでもわかるのね」
「いえ、少し魔法界の闇に詳しいだけですよ。それより大体状況がつかめたので、一旦会議室へ戻りましょう」
「状況はだいたい把握できたわ。
それにしても厄介な状況ね。プロレベルの魔法師に、人質か・・・
戦闘になっても向こうは他人の命なんてお構いなしで攻撃してくるわね」
帰って状況説明すると、星華がそう言った。
「魔法師の人数はおよそ36人、一クラスあたりおよそ2人の魔法師がつき、残りの魔法師は巡回警備をしています。もちろん生徒は全員縛られていました。しかし、よくこれだけの魔法師を揃えましたね、かなりの額の金が動いてそうですね。まあ、半分はここの学生みたいでしたけど」
「!?そんなこと聞いてないわよ!?一樹君!!」
と楓が怒った口調で言った。
「あ、すいません。ってきりもう知ってるかと」
「あのね、あなたと違って、魔法を使わずに部屋の窓から状況なんてほとんど確認できないの。全くどれだけ目がいいのよあなたは」
楓はそうぶつぶつ文句を言っていた。
―――実際は自分も視力が良くて分ったわけじゃないけど・・・
一樹の特有の能力『
今回はそれを説明するのが面倒くさいので、目がいいことにしとく。
「魔法師の配置は大体予想がつきます。それをもとに作戦を立てましょう
まずはCADの確保。そうすればこちらの戦力が大分強くなります。そのためにCADの預けてある保管庫を強襲しましょう」
今現段階でCADをもっているのは生徒会と風紀委員。これでは少し戦力としては物足りない。ここに部活連やほかの委員会が加わればかなり有利になる。
「強襲ってなんかこっちが犯罪者みたいね」
「それ以外に言いようがありませんから
それには来栖さんとミルの力が必要だ」
一樹は近くにいた来栖に目を向けた。
「同い年なんだし、呼び捨てでいいわよ、しかも下で」
「そうか、じゃあ手を貸してくれるか?澪」
そういうと澪は少し顔を赤くし
「ま、まあ、どうしてもって言うなら仕方ないわね
どうすればいいの」
わぁあとみんな心中で思ったに違いない。一樹に対して明らかに好意があるのが分った。
当の本人は分らない・・・ということは無い。むしろ他の人より良くわかる。来栖のオーラが濃いピンク色だからだ。
「ああ、それは領域干渉で保管庫を覆ってほしい。できるだろ?」
「そのぐらいならできるけど・・・
強襲する人たちはどうするのよ?そっちまで影響でないの?」
「心配ない。領域干渉の範囲はこの中でもダントツだが、干渉力では楓先輩や星華先輩、俺の方が上だ」
最後の言葉を聞くとみんな唖然としていた。
「心配するな、決して澪の干渉力が弱いわけではない。全学年合わせても上から数えた方が早いだろう。並のプロ魔法師より全然強いぞ?」
「い、いやそうじゃなくてね、多分みんな澪ちゃんより一樹君の干渉力が上ってことにビックリしてるんだと思うんだ」
と楓がみんなの代表として言ってきた。
「ああ、そういうことですか。現代魔法では干渉力は澪の方が上だろうな、でも古式魔法となら澪より干渉力は上だ。要は向き不向きの問題だから心配するな」
一樹がそう言い終えると、ミールが一樹の腕の袖を引っ張った。
「・・・」
黙っているが、自分は何をしたらいいのか聞いているらしい。
「ミルは電磁波を形成して電波と音を遮断としてほしい。外と連絡が取られたり、戦闘がばれてしまうのが一番厄介だからな」
「わかった」
「おそらく保管庫には三人の見張りがついているはずです。そこにはCADを取り上げられた教員も監禁されているでしょう。澪とミルは外でさっき言ったとおりにしてくれ、その間に見張りを楓先輩、星華先輩、自分で取り押さえます。いいですか?」
「さっきから敵の魔法師を倒せる前提で話してるけど、私や星華が負けるとかって考えないの?」
「人を見る目は持っているつもりですから」
そう言って一樹が笑うと
「だって星華、期待されてるよ?」
「そうみたいね、ならお姉さん、ひと肌脱いじゃおうかな?」
「頼もしい限りです。
では早速行きましょう。今は一分一秒でも惜しい」
一樹がそう言いながら立ち上がると
「りょーかい」
「行きましょう」
「しょうがないわね」
「いく」
楓、星華、澪、ミールの順番で立ち上がった。
一樹一同は何事もなく無事にCADにの保管庫までついた。
念のためにもう一度部屋をトレースしておく。
―――よし、大丈夫、人数は変わってない
一樹はあらかじめ決めておいた合図(軍でも使われている合図)を出して作戦を決行した。
まずは澪とミールの魔法から。澪の領域干渉に触れないようにその外側に電磁場と防音壁を形成。澪の領域干渉に触れてしまうと電磁場はともかく(光は一種の電磁波なので、それを操作し電磁場を形成できるから)防音壁は無効化されてしまう。この作業は思った以上に慎重を必要とする作業なのだ。
魔法の発生に気づいたのだろう。少し中がざわめき始めた。だがもう遅い、部屋には前後ろにドアがついており、前からは楓と星華が後ろからは一樹が突入した。
中にいた魔法師達は混乱していた。まさか、あの会議室から出てこれるとは思っていなかったのだろう。慌ててCADを操作するが三人の方が早かった。
最初は一樹、右手を振るうと、一人の魔法師に向けて四方八方から振動系魔法が飛んできた。その数36発。一発一発が骨を粉砕するほどの威力。相手の魔法師の体に情報強化が掛けてあるのだろうが、そんなのも関係なく体の中に振動が入り込んでくる。放たれた振動の波は体の中で合成され、苦痛の声を上げる暇もなく倒れこんだ。急所は外したが、おそらく全身の粉砕骨折。きっと最高の魔法治療を受けても全治三ヶ月から四ヶ月にもなるだろう。
次は楓、CADの起動式をすでに展開した状態で部屋へと突入。座標指定を後付にするという高度な技を見せた。発動した魔法は加重・発散系魔法『ブラックアウト』。体の中から外へ向けて渦を描きながら力を加えると擬似的に超高速で回転している状態になる。三半規管は麻痺し、血流の流れを一瞬だけ止めることができる。そのため
最後は星華、相手は三人の中では一番干渉力が高い魔法師だった。星華も同様に起動式を展開済みで部屋に入った。振動系魔法が同時に26発。一瞬ともいえる速度で相手の魔法師に向かっていく。しかし、情報強化の壁によって、星華の振動系の魔法は相手に届くころには致命傷になるほどのダメージではなくなっていた。それでも星華は驚異的な速さで次々と振動系魔法を28発同時発動していく。相手も少しでも気がゆるんで、情報強化が弱くなったらまずいと考えていたのか、相手の魔法師は防戦一方だった。そして後ろに隠していた右手を前に出す。その手には一枚の呪符。
「本命はこっち」
と言い始めるのと同時に強力な魔法が発動する。
さっき楓が発動しようとしていた『雷童子』。しかし今回は生粋の古式魔法。楓が発動しようしていた『雷童子』とは威力が全然違う。おそらく、弥生家では違う呼ばれ方をしているのだろう。威力は強いが感電死はさせない程度の威力。きっと手加減していたのだろう。相手の魔法師に命中し、見事に倒した。
同時に戦闘が終了したと言っていいほどであったが、厳密に言うと、一樹、楓、星華の順番で戦闘が終わった。
「先輩おつかれさまでした」
一樹は二人に向かってそう言ったが、言われた二人は一樹の方ではなく、一樹が倒した魔法師の方を見ている。
「ねえ、この人生きてるの?足とか変な方向を向いてるけど?」
と言ったのは楓だった。
「大丈夫ですよ。臓器類には傷一つついてないと思います。所々内出血や粉砕骨折してるだけです」
「そんなことさらって言わないでよ・・・
まぁー生きてるならいいわ、早く先生たちを解放してCADを持って帰りましょう」
星華がそう言うと楓が先生たちの拘束を解き、一樹と星華はCAD保管庫の扉を開け、CADを取り出した。前もって誰のCADを持って帰るか決めていたので早く必要な分だけ回収できた。フッと一樹の目に二人の名前が目に止まった。
―――よし、持って行ってやるか
一樹は口元に笑みを浮かべながら二つのCADケースを持った。