魔法科高校の錬金術師   作:藤宮一樹

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第17話 戦闘開始

講堂の扉の前に一樹達は立っていた。後ろからは戦闘の音が聞こえる。作戦通りであれば、そろそろ撤退が始まっているだろう。しかし、一樹達が魔法を阻止できなければその撤退も無駄になってしまうかもしれない。

「本当にここで大規模な魔法が発動するの?」

楓がそう訪ねてくる。その大規模の魔法が戦略級レベルの魔法かもしれないことは楓にしか言っていたない。大げさな予想は無暗に混乱を招く。そう考えた一樹は楓以外のは言っていないのだ。現に楓も大規模な魔法という言い方をしている。楓もあまり言わない方がいいだろうと判断したのだろう。しかし、ミールには一樹の言い方から大体の予想はできているようだった。

「ええ、そのはずです。あと20分弱程度で発動します」

「はー紗香から聞いてはいたが、なんか相当やばいことになってんな」

西園寺は若干引きつった顔をしていた・

「ねぇ、このまま突入するの?」

紗香は逆にわくわくしているようだ。

「ああ、相手もこちらが突入してくるのは分ってるだろうしな、なんな相手に奇襲をかけても無駄だ」

一樹は建物の中をトレースして確認しながら、そう言った。

「よしっ!わかった!」

そう紗香が言うと、槍を構えた。すると他のメンツも臨戦態勢に入る。

一樹が指示を出さなくても、完璧な隊列になった。白兵戦の得意な二人は一樹を中心に左翼が紗香、右翼が西園寺。遠距離、補助が得意な三人は一樹の後ろにミール。そして、ミールを中心に左翼が楓、右翼が星華。

一樹が隊列の確認をし終えると

「では、行きます」

と言い、扉を蹴破った。こんな分厚く大きな扉蹴破るなど普通の人間には不可能だが、笹森の模擬戦でも見せた重力軽減魔法を使ったのだ。それでもかなりの脚力が必要だが。

講堂に入ると講堂のステージの真ん中に一人立っていた。

それは国立魔法大学付属第四高校生徒会副会長、明智優だった。

「そうだとは思ってたけど・・・本当に優君だったなんてね。この目で見るまでは信じたくなかったのよ。優君、こんなことする人間ではないと思ってなのに」

「すみません、会長。しかし、僕は良くも悪くもこんな人間なんですよ」

「なんでこんなことをしたの?」

「それは僕の理想のためですよ。そんなことよりあなたたちが六人で来てくれてよかった。ちょうどこちらも六人なんです」

明智がそういうと、物陰から六人の魔法師が現れた。

「!?うそ・・・」

楓の顔が驚愕の色に染まる。

「どうしたの?」

楓が何に驚いているか分らない星華がそう聞いた。

「あそこに立ってる大柄の外人・・・新ソ連軍の魔法師、アレクサンドル・アシモス。ナイフを併用した魔法では世界トップクラスよ」

「なっなんでそんな魔法師がここにいるの!?場合によっては国際問題に発展しかねないわよ!?」

星華も同様に驚愕の色を見せて言った。

「きっと関係ないのよ、そんなこと」

「それだけじゃないよ」

そう言ったのは紗香だった。紗香の目の先には日本刀を腰に掛け、それに手を添えている男が立っていた。

「あの、構え方・・・無限一刀流。武士の階級があった時代から魔法を使って刀を使っていた古式魔法を併用した武術。あの魔法師の顔をは見たことないけど、あの構え方から見て、かなりの手練れだわ」

「他の魔法師も強化人間や調整体か・・・よくもまあこんなに集めたものだ」

一樹が呆れたように言う。

「一体どうやって・・・」

このテロ行為に参加させたのか。と言おうと思ったのだろう。楓の疑問は同然だ。一介の高校生が雇える相手ではない。どんな大金を払おうとも、そう簡単に動くことはない人間達ばかりだ。それを聞いて一樹も考えを巡らす。いや、めぐらす必要がないぐらい簡単に答えに行きついた。

「・・・理想郷(エデン)か」

と思わず一樹はつぶやいてしまう。

「一樹君、思い当りがあるの?」

楓にそのつぶやきが聞こえてしまったらしい。

「まぁ、そんなところです。しかし、今は目の前の相手に集中しましょう」

一樹がそう言うと全員の構えにより一層気合が入った。

「アレクサンドルの相手はミル、頼んだ。」

「うん」

ミールが小さくうなずく。

「手加減はいらない。全力でいけ」

「うん」

再び小さくうなずいた。

「・・・ミールちゃんの実力を疑うわけじゃないけど、大丈夫なの?私がやってもいいわよ?」

確かに、端から見るとこのメンツを見る限り、家系、実力的に楓が一番うえだろう。例え相手が一流魔法師が相手でも不足はないはずだ。しかし、相手は近接戦闘における世界最高峰の魔法師。どんなに才能があっても、魔法科高校の生徒など相手にもならない。それは九頭見楓も例外ではない。楓もそれがわかっているはずだが、そう聞いた。そんな相手をミール一人だけに任せてもいいのかと思ったのだろう。

「大丈夫ですよ、相性の問題です」

一樹はそう言い切った。しかし、実際は相性ではない。絶対的な実力がアレクサンドルと均衡しているのだ。ミールも一樹同様ただの高校生ではない。

「無限一刀流は私にやらせて」

そう言ったのは紗香だった。

「大丈夫か?」

「ちょっと厳しいけど、はっきり言って、近距離の戦闘だけならこの中で私が一番だと思うから」

ちょっとした大胆発言だが、誰も驚かなかった。実際にその通りだからだ。千里家は千葉家と並ぶ武器を併用した武器術の名家。獲物が槍であるが故に千葉家と比べて門下生が少ない。

「明智先輩。あなたの理想や目的は聞かない。聞きたいことはただ一つ。ここで何が起きる?」

一樹は明智の目を見て聞いた。

「フフフッ

やっぱりか・・・やっぱりそうだったか・・・ついに見つけたぞ!オーディーン!!」

「・・・」

一樹は何も言わない。ただ明智を見据えていた。

「CADなしにも拘わらず、現代魔法をも凌駕する魔法発動速度。そして、魔法の未来予知・・・

世界最強の魔法師の一人と言われている、国籍も不明な魔法師。オーディーン。ついに見つけた!」

「オーディーン・・・突如戦場に現れてはどちらか一方を勝利へと導く伝説の魔法師

っという話は聞いたことがある。しかし、所詮は伝説。実際に存在する記録すらない。架空の人物だと思っていたが?」

「いや、存在する。公式には出ていないが、新ソ連が佐渡海に侵攻した際にオーディーンが介入。そして、見事に日本を防衛して見せた。その時ちょうど僕も義勇軍として参加していてね。確かにこの目で見たんだ、オーディーンの姿を!」

「・・・オーディーンは存在するとしましょう。しかし、オーディーンの噂は第三次世界大戦にまでさかのぼります。その頃はまだ自分は生まれていません」

「君が後を継いだかなんとかしたのだろう。そんなことより君がオーディーンであることが重要なんだ。実はね、笹森と君が対峙したときに発動した魔法を見ていたんだよ。確かに、あの時はCADをつけていなかった」

「・・・先輩勘違いしてますよ、自分のはそんな神業のような魔法ではありません。朧法。古式魔法の一つで、あらかじめ遅延魔法を展開します。」

一樹が右手を振ると魔法が発動した。しかし、発動した兆候を感じただけで、現実世界には何の改変は行われなかった。

「普段は他人に築かれないように偽装を施して、発動するのですが、今回はわざと偽装をしませんでした。そして」

一樹は右手に想子(サイオン)を流すと、6発の振動系魔法が放たれた。それぞれ、相手の魔法師へ飛んだが、情報強化で遮られた。

「こんな感じで発動されます。一瞬で発動しているように見えますが、前待って演算を完了しておき、後は想子(サイオン)流すだけという状態にしておくんです」

「そ、そんな・・・

じ、じゃあ魔法予知は!?」

「確かにかなりレアスキルではありますが、古代の魔法師たちは使えたという文献もありますし、あまり、知られていませんが、魔法予知ができるBS魔法師はいますよ。それに大体の理論は構築されています。ある能力があれば誰でも使えます。その能力をたまたま自分が使えるだけですよ」

「な、な、な、」

明智の顔が一気に白くなる。

「何のために僕はここまでしたんだ・・・」

「確信を持つには早すぎましたね、もう少し調べてから行動に移すべきでした。そもそもこんなことをすることすら、論外ですが。」

「そうか、そうだったのか」

「それより先輩後ろで活性化している魔導書はなんですか?」

「これは、僕のもう一つの理想だよ。

君がオーディーンじゃないのは残念だ!しかし、僕にはもう一つ目的がある!

理想郷(エデン)に入るんだ!この魔導書を献上すれば理想郷(エデン)に入れる!」

―――そういうことか

「エデン?星華知ってる?」

「いいえ、知らないわ」

「理想郷、イカれた宗教団体ですよ。あんな人間が妄信するようなね」

「別に理解してもらおうとは思ってないよ。

それより、とっとと終わりにしよう。オーディーンじゃないのならもう興味はない」

明智がそう言うと、五人の魔法師が一斉に飛びかかってきた。

―――明智先輩、アレクサンドル、刀を持った武士以外はそこまでの脅威ではない・・・先輩はソーサリー・ブースターをつけているか・・・そんなことをしなくても十分魔法師の素質を持っているのに。

ソーサリー・ブースターとは画期的な魔法増幅装置と言われているが、実のところはそこまで優れたものではない。魔法式の設計図、すなわち、起動式を提供するだけでなく、起動式をもとにした魔法式の構築過程を補助する機能を持つCADである。魔法式が本来持っているキャパシティを超えた規模の魔法を発動することができる。

―――しかも、理想郷(エデン)製か

ソーサリー・ブースターは非人道的な製造方法から、犯罪シンジケートである、無頭龍(ノー・ヘット・ドラゴン)の独占供給状態だが、それに理想郷(エデン)も一枚噛んでいる。理想郷(エデン)はそのソーサリー・ブースターにある石を組み込み、人との魔法演算領域を司る精神と強制的に接続し、魔法演算を補助する。つまり、本来の魔法演算速度より、数段早く魔法を発動することができるのだ。外科的介入なしに、簡単に強化人間を作っていることになる。しかし、それはとても危険な代物だ。とてもデリケートな人間の精神に入り込んでいることになる。もちろん精神は拒絶反応を起こすが、当の本人にはわからない。使用し続けると精神は崩壊し、魔法を使えなくなる。それどころか、廃人になってしまう。魔法師の理想郷を作るのが目的である、理想郷《エデン》が使うには皮肉すぎる代物だ。

しかし、相手の事ばかり考える余裕は一樹にはなかった。

さっきのやり取りから、一樹の本来の魔法が使えなくなってしまったし、その上、相手が魔法の才能がある上にそれを強化している状態だ。かなり分が悪かった。

楓、星華、西園寺は順調そうである。その調子でいけば負けることは無いだろう。しかし、問題なのは一樹とミールと紗香。二人の相手は一級の魔法師と比べて一線を画している。

 

ミールの相手はアレクサンドル・アシモス。ナイフと併用した魔法技能は世界トップクラス。ナイフを持っているから近接戦闘が得意だということでない。近・中・遠距離のすべてを網羅できているから世界トップクラスにまで上り詰めたのだ。一樹はさっきは言い訳のためにミールとの相性がいいと言ったが、実際の相性最悪だった。ミールは魔法を無効化する技術に長けているが、それは魔法だけに対して。実のところ、武器と併用したものや武装一体型CADなどの依代がある魔法に対してはかなり弱い。一樹もそれを知っていたが、あのアレクサンドルに単体で挑んで他に勝てる見込みがある者は誰一人としていない。それに、そういう相手に対する対応策もしっかり知っているし、手加減をするなと一樹が言ったということは、銀の弾丸(シルバーブレット)を使ってもいいということだ。だから一樹はミールに任せたのだ。

それでも、相性が悪いのは変わらないし、銀の弾丸(シルバーブレット)を使って、後始末をするのは一樹だ。ミールは一樹にそんな手間をかけさせたくないと思い、わざと自分がかなり不利な状況に追い込んでいる。

先に動き出したのはアレクサンドル。自己加速術式を使いミールとの間合いを一気に詰め、両手に持ったナイフでミールを引き裂こうとする。ミールも自己加速を使い後ろによけ、ナイフは空を切る。その時にミールは隠されたもう一つの魔法にやっと気が付いた。ミールは即時自己加速の方向を変えるが、その時にはもう遅い。見えないナイフがミールの肩を切り裂いた。寸前のところで、体をねじったので急所には当たらず、傷も浅かった。

「ほう、今のを躱すか。躱し切れなかったみたいだが」

アレクサンドルがロシア語でそう言った。本人もミールに理解できるとは思っていないみたいだが。

遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)、こざかしい技」

とロシア語で返した。

「ほう、ロシア語が話せるのか!それはいい。俺は話しながら戦うのが好きなんだよ」

「私は嫌い。話すの得意じゃない。」

「じゃあ、叫び声でもあげてろ!!」

今度は自己加速でこっちに向かいながらナイフを振り回している。

遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』はナイフによって生み出された、斬撃の情報を想子(サイオン)に保存し、空間を漂わせることができる魔法。その情報を保存した想子《サイオン》に触れるとナイフで切り付けられたような怪我を負う。

下手に動くと触れてしまうため、動かないようにした。いや、動かないように見えた。

「らぁぁあ!!」

アレクサンドルが声をあげ、ナイフを一閃。ミールの胸深くまで切り付けた。切り付けたはずだった。

切り付けられたミールの体は次第に薄れていく。

「幻影による残像!?」

今のはミールが作り出した幻影。幻とは思えないほど鮮明な幻影だったのだ。

「どこだ!?」

「あなたの後ろよ」

「しまっ―――」

しまったとアレクサンドルが言い終える前にミールの魔法が発動する。

魔法名称は特に無い。しいて言えば銀の弾丸《シルバーブレット》の劣化版。原理はさっき電波妨害をするために作った電磁波と同じ。光の振動数を変化させ、電磁波を形成。光から作られた電磁波のエネルギーは相当高く、さっきは制御していたが、今回は意図的に暴走させる。それに暴走する方向を決めると、一瞬で指向性爆弾の完成だ。ピカッと一瞬だけ光り、爆発が起きた。

白い煙が舞う。ミールは勝ったと思ったが、

「危なかったぜ」

と言う声が聞こえた。そして、徐々に煙が晴れる。

そこには手をついて膝立ちをしているアレクサンドルの姿があった。

鋼の鎧(アイアン・メイル)

ミールがそうつぶやく。鋼の鎧《アイアン・メイル》とは防御魔法の一つで大亜連合の魔法である鋼気功と原理も起動式もほとんど同じである。気功術を元にして皮膚の上に鋼よりも硬い鎧を展開する魔法。

「なんでも知ってるんだな、お嬢ちゃん

でも、後ろから来たのはまずかったな」

ミールの制服はビリビリに引き裂かれていた。服だけではない、体中に切り傷がある。ミールはアレクサンドルの後ろへ回り込んだ。すなわち『遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』が大量に浮遊しているエリアに飛び込んだのだ。一樹ほど正確に情報体(エイドス)を認識できるわけではないが、想子(サイオン)の大体の位置は分る。それでも完璧には防ぎきれなかった。切り傷の中には意外と深いものまである。こういう切り傷が一番厄介だ。止血も難しく、打撲などより長く痛みが続く。

「フフッ

子供体型でもそうなるとなかなか可愛いじゃねーか」

ミールはすごくムカついた。今すぐにでもあの変態じみた笑みを浮かべている顔に銀の弾丸(シルバーブレット)をぶち込んでやりたいと思う。しかし、それはできなかった。

ミールは一樹同様に人にはそう簡単に見せられない秘術がたくさんある。一樹はきっとそういう魔法も使ってもいいという意味で手加減をするなと言ったのだろうが、ミールには使えなかった。迷惑がかかるのは自分ではなく、一樹だからだ。昔は一樹にたくさん迷惑をかけていた。その時は自分で迷惑をかけているつもりは全くなかった。しかし、ある日一樹がどれだけの苦労していたかを目の当たりすることがあった。その日を境にミールは細心注意をはらって迷惑を掛けないようにした。あの日以来一樹をお兄ちゃんと呼ぶのをやめた。そう呼んでしまってはまたいつか一樹に甘えてしまうから。だから、一樹にこいつの相手を任せられた以上、一樹に迷惑をわけにはいかない。どんなに苦戦しようが、どんなにムカつかろうが、意地でも使わない。そう決めていた。

これはほかでもない一樹のために。ほかでもないお兄ちゃんのために

―――確かに感情は力を引き出し、その力を強くする。でも感情で魔法を使ってはいけない。感情をバネにして自分が魔法を使うんだ。

来栖澪との模擬戦後に一樹から言われた言葉。ミールは感情の制御が苦手だ。感情をあまり表に出さないことから、感情が希薄だと思われがちだが、実は違う。ミールは人一倍感情の浮き沈みが激しい。

―――ごめんなさい、お兄ちゃん。教えに背きます。

ミールの周りの空間が震える。いつもなら歪む程度だが、今回は震えている。まるで怒りを我慢しているかのように。

すると、ミールを中心に圧倒的な想子(サイオン)奔流が四方八方へと流れ出した。周りに浮かんでいた『遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』を巻き込んで。

「くっ!なんて想子《サイオン》量だ!」

ミールは術式解体が使えない。しかし、潜在能力的には一樹の想子(サイオン)量をも凌駕するほどだ。ミールは無統系魔法はからっきしで、想子(サイオン)を瞬時に圧縮することはできない。今のように想子(サイオン)を爆発させるのが精一杯だ。それも、かなり感情が高ぶらないとできない。

「お兄ちゃんに迷惑がかかってしまうから、あなたを全力では潰さない。でも、今、私ができる限りのものをあなたにぶつける。死んでも恨まないでね」

「ハッ!何を言ってるんだか!?それはこっちのセリフだ!!」

アレクサンドルが再びナイフを振り回してやってくる、それに対してミールも自己加速を使ってアレクサンドルに向かう。

「この俺に近接戦闘で挑むか!?」

すぐに二人はお互いの手の届く範囲に入る。アレクサンドルがナイフを振ろうとした瞬間、ミールが後ろへ飛ぶ。

「馬鹿が!!」

振るったナイフの斬撃がミールに襲い掛かる。かなり深く胸に切り付けられる。今度はミールの姿が消えない。激しく血をまき散らしながら、地面へ倒れていく。

「本当に馬鹿な奴だな」

そう言ってアレクサンドルは構えを解く。その時

「!?」

アレクサンドルは自分の目でみた光景を疑った。地面に倒れたミールの体が砂になって消えていったのだ。

「化成体か!?」

「馬鹿なのはあなたね」

後ろを振り向くと、そこには光の槍を持ったミールの姿が。アレクサンドルはすぐさま鋼の鎧《アイアン・メイル》を編み上げる。

「無駄よ」

ミールが光の槍でアレクサンドルを貫く。

魔法名称は『ホーリーランス』。光のエネルギーを純粋に圧縮し、ランス状にして一点突破する魔法。どんなものでも貫通することができ、光学魔法では最強の貫通力を誇る。しかし、これはすごく脆い魔法で。現代魔法の割に時間がかかるし、かなりの集中力を要すし、結界などの妨害が少しでもあると制御を失いエネルギーが霧散するのだ。だから、前回に後ろに回り込んだ時には『遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』が浮遊している場所で、時間が無いときは使えなかったのだ。今回は化成体で時間を稼ぎ、『遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』が無いときを見計らって使った。『遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』が消えた理由はミールが作り上げた化成体を切り付けた斬撃にあった。『遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』の原理は想子《サイオン》情報体に情報強化の要領で断続的に情報を複写することで存続することができるが、最後の斬撃は意図的に斬撃の位置を決めていた。座標指定に想子(サイオン)の移動を行っている間に他の『遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』の情報の複写は難しい。だから、アレクサンドルの後ろにあった『遅れてくる残撃(レイト・スラッシュ)』は消えていたのだ。術式の構造をよく知っているからこそ、成功した作戦だった。

「私のお兄ちゃんのための思いをぶつけたんだ、負けるわけがない」

これでミールの戦闘は終わった。

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