魔法科高校の錬金術師   作:藤宮一樹

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第18話 槍VS刀

ミールとアレクサンドルが戦闘を開始したのと裏腹に、紗香と無限一刀流の使い手はまだ動きを見せていなかった。武器同士の先頭に置いて、間合いというのはかなり重要だ。お互いともまだ自分の得物間合いに入っていない。一見、槍を持つ紗香が有利に見えるが、実はそうではない。通常の戦闘において刀と槍なら槍の方が有利だ。しかし、それは魔法抜きでの話。魔法戦闘において一瞬で間合いを詰められる自己加速術(武器併用の魔法師なら使えて当たり前)があるのからそのな常識は通用しない。もし、紗香が先に相手との間合いを詰めたら、相手も同様に間合いを詰め、刀の間合いに入ってしまうだろう。そうすると槍は長いので小回りの利く刀の方が有利になる。無限一刀流の方が先に紗香との間合いを詰めたら、距離を取られて槍の独壇場になってしまう。そうした攻防を二人とも頭に描きながら、じっと構えている。少しでもスキを見せればやられる。そんな緊張感の中、無限一刀流の魔法師が口を開いた。

「先に名を名乗っておこう」

「へぇー余裕じゃん」

「俺の名は無限一刀流門下生、波佐間 玄(はざま げん)

君は千里の娘、千里紗香だな?」

「お?私の事知ってるんだ。うれしいね」

「あの戦場の女神、ヴァルキリーの妹だろう?」

「そうだよ、最強の女槍士の妹。だから、あんたみたいなやつに負けるわけにはいかないんだ!!」

先に動き始めたの紗香。通常の槍の構え方とは異なり、右手だけで槍の真ん中を持ち、振り回してきた。これは千里の持ち方ではない。千里の中でも紗香の槍術は一味違う。千里は移動系の魔法を併用して放つ技が多いが、紗香は移動系の魔法が大の苦手なのだ。それは千里の者として致命的であった。誰もが紗香を才能がないと蔑み、紗香の実の親でさえ諦めかけていた。しかし、純粋な槍術の才能は最高ランク。千里の過去を振り返ってもここまで槍術に突出した者は少ない。そんな中、最初から最後まで紗香を信じていた人物がいる。千里彩香。紗香の姉で、現在では戦場の女神(ヴァルキリー)と呼ばれている。そして、彩香と紗香の二人が編み出した型。紗香が得意な加重系の魔法を基盤にした型なのだ。槍の重さは4kg前後。槍の中では軽い方だが、女性が片手で持つには少し重すぎる。しかも自分の背丈とそんなに変わらない長さで、それをブンブンと音をたてながら振り回しているのだ。かなりの怪力、というわけではない。さすがに幼少期から槍術をやっていてもそんなに怪力が身に付きはずもまなく、紗香の腕はそんなにムキムキでもない。なら、どうやって振り回しているかというと、加重系の魔法を要所、要所で使い、自分に掛かる負荷を軽減しているのだ。これが、紗香に合った槍の構え。しかし、これでも本来の紗香の構えではないが、それには専用の武器がいる。

波佐間も槍を振り回して向かってくる紗香に向かっていった。

お互いの距離が詰まる。しかし、お互いに獲物が届く範囲には入らなかった。

「はあああああっ!!」

紗香が叫びながら横へ一閃。槍は届かない。しかし、その直後体をも吹き飛ばされそうなほどの爆風が波佐間を襲う。槍を横に薙ぎ払うとき切る空気を巻き込み、加重系魔法で圧縮。槍が予定していた終着点につくとその空気が解放され爆風が起きたのだ。波佐間は何とか踏ん張る。そのスキを紗香が見逃すはずもなく、紗香は右手首を捩じり、ジャイロ回転をさせながら槍で一突き。しかし、波佐間もいいようにやられるわけではなかった。回転してくる槍を自分の体に当たる寸前のところで刀で弾いた。さっきの槍の突きはただ突いただけではない。槍を突く瞬間、後ろから槍を加重系の魔法で突き上げている。普通ならその力で体が持っていかれるか、槍だけが飛んで行ってしまうが、紗香の絶妙な力加減とバランスによりそうならないようにしている。そんな槍で突かれたら刀なんて簡単に折れてしまっているだろう。しかし、波佐間の刀は折れなかった。もちろん、硬化魔法で強度を底上げしているが、槍を刀で弾くときにぶつけた角度が絶妙で、刀に傷一つつけられることは無かった。

そして今度は波佐間が攻撃する番。突いた槍は一度ひっこめないと再び突くことはできない。そのスキに刀で切り裂こうと、刀を振る。しかし、振り切る前に刀を止めた。頭で描いた軌道上にちょうど槍の柄があったのだ。このまま切り付けても防がれ、逆にこっちの状況が悪くなる。

槍を引ききった紗香はさっきと同様に槍で突くが、また波佐間に弾かれる。波佐間が反撃をしようと思ったら、再び頭で描いた軌跡上に槍の柄があった。ここまで来たら偶然ではない。紗香は弾いた後の刀の位置を確認し、その軌道を読んで槍の柄で邪魔しているのだ。こんな一瞬ともいえる攻防の中で瞬時にそこまで判断するはもはや神業といっていいだろう。その攻防を何回か続けた後に新しい展開を迎えた。

紗香は槍が弾かれ、槍を引き戻す間の刀の軌跡を見極める。その見極めた軌跡を妨害しながら槍を引いた。しかし、妨害してるにも拘わらず、刀は振り降ろされた。これは紗香にとってかなりのチャンスであった。刀が描いている軌道や、その終着点が見える。完全にその刀の太刀筋をつかんだ。後は捌いて、相手にデカい風穴を開けるだけ。・・・のはずだったが、紗香の頭の中で危険信号が鳴り響く。理論的ではない。カン。戦士のカンというやつだ。何が起きるかわからないが、こういう時は引くのが一番だと経験則的に分っている。後ろへジャンプしたが、胸元の制服が切り付けられた。

「!?」

驚愕で紗香の顔が歪む。しかし、驚いている暇はない。次の斬撃の対応をしなくてはと思ったが、次は来なかった。

「・・・レディーの胸元を切り付けるなんていい度胸じゃん」

「君のようなガキには興味はない」

「あれ?年上が好み?もしかして私のお姉ちゃんなんかストライクだったりする?」

「ほざけ、ささっとこい」

そう言って波佐間は刀を構えなおした。

―――さっさとこいって言われてもなー

あんな太刀筋の分らない、厳密に言うと太刀筋が偽装された斬撃を見せられては迂闊に突っ込めない。様子から見てわざとやったように見える。では、何故最初っから使ってこなかったのか?何かしらの発動条件があるのか、それともタイミングの問題か。それがわからない限りこちらから攻撃するのは難しそうだ。かといって攻撃されるのも厄介だ。

だから、紗香は攻撃に出る方を選んだ。

体が少し震える。武者震い……といえばかっこいいが、実際には恐怖を感じている。やはりどんなに鍛えても斬られる可能性が高いところに飛び込んでいくのはやはり怖い。次は肉を斬られるかもしれない。そう考えると、紗香は口元に笑みを浮かべる。

「肉は斬らせてやる。でも、骨を断つのは私だ!!」

紗香は再び自己加速で波佐間との間合いを詰める。今度は波佐間は動かず、槍を捌く。

再びさっきと同じ攻防が始まる。

―――いつだ!?いつ来る!?

紗香は常に警戒しながら槍を突く。他の事を考えながらこんな突きを突けるのは、今まで何千何万回と同じ突きを繰り返してきたからだろう。

すると、槍を弾いた刀が紗香に向かって振られ始めた。その刀の軌道上にはもちろん槍がある。このままいけば確実に防げる。紗香の頭の中で再び危険信号が鳴り響く。しかし、紗香はそれを無視する。この技の原理を見破らない限り、この相手には勝てないからだ。紗香には他にもさまざまな技がある。しかし、それには自分専用の槍。普段は持ち歩くことができないような武器がいる。この槍で使える技もあるが、この自分の全力を出している突きを捌ける相手には小手先の技など通用しないだろう。紗香は目を見開いて、これから来るであろう技を見極めるために、これから来るであるろう痛みを耐えるために、全神経を集中する。刀が思い描いた軌道上を滑るように動く。そして、刀と槍が交差した時、刀は消えた。視界から完全に。周りに首を振る暇もない。刀が消えた恐怖に負け、相手に見せる体の面積を少なくするために体を横にして後方へ飛ぶ。しかし、それでも間に合わなかった。相手に向けていた左腕を斬り付けられた。血管までは斬られていないようだが、結構深い。

「くっ」

紗香は思わず苦渋の声を漏らす。

「ふむ、浅かったか。驚異的な反射神経だな。本当に人間か?獣とかじゃないのか?」

と半分笑いながら波佐間は言った。

「まーあと何回か斬り付ければ動きも鈍くなってくるかな?」

そう言って今度は波佐間から動いた。紗香は槍を立てに構えて防御の姿勢に入る。

攻防は逆になったが、やることは同じ。刀の軌道を読み、槍で防御するだけ。左腕を怪我しているにも関わらず全て防御していた。

しばらく刀を弾いていると、違和感のある起動が浮かび上がった。実は、これは二回目の攻防にも感じた違和感だ。何かが変。でもどこが?しかし、今はそんなことよりやるべきことがある。また見えなあい刀が斬り付けてくるということだ。紗香は頭の中で描いた軌道を無視して、両手で槍の真ん中を持ち、回転させたこれなら、完全ではなくてもいくらかは防げる。

すると、キンッという金属が鳴り響く。紗香は無事防ぐことに成功したが、完全ではなかった。刀の刃先が紗香の右肩を切っていた。

―――大丈夫、まだ右腕は使える。

紗香はすぐに自分の体の状況を確認する。しかし、使えると言っても、そう長くは持たないだろう。次の攻防が最後かもしれない。

―――どうする?どうする!?どうすればいい!?お姉ちゃん!?

―――私は頭が悪いからカンで戦っちゃうの。でもね、あなたは頭がいい。だから、頭を使って戦ってしまう。それはいけないことじゃないわ、でもやっぱりカンは大切よ?って言ってもどうしても頭を使ってしまうわよね。だったら思いっきり考えなさい。

かつて、紗香の姉、彩香に言われた言葉。

―――え?何をかって?

それは相手の心よ。相手の心を考えなさい。それはあなたにしか使えない武器なのだから。

「私だけの武器・・・」

紗香はそう呟く。

紗香は考える。どうすればあれを防ぐことができるか?あの技の原理はなんなのか?

そして考えた結果紗香はあることを思い出す

―――あの太刀筋どかっで・・・あ!!そうか!!

紗香は笑って

「次であなたを倒すわ!!」

と叫んだ。

「おいおい、今の君の状況が分ってるのか?俺は無傷。君は左腕と右肩を負傷。どう見ても結果は分りきってるだろう?」

「ええ、そうね。あなたが負けるって分りきってるわ」

「ふん、話にならん」

「はあああああああ!!」

紗香が波佐間との間合いを詰める。紗香が槍で突き、波佐間が槍を弾く。そんな攻防が再び始まった。すると、またしばらくすると波佐間が刀を振る。紗香は槍を瞬時に引込め、

「貫けーーー!!」

と叫んだ。

「遅い!」

と波佐間が叫び返した。

紗香の口が笑う。すると、キンッという音が鳴り響く。

「なっ!!」

波佐間が驚きの声を漏らす。

「おしまいよ」

紗香はそう言って槍の柄で波佐間の顔をぶん殴る。これは棒術の技。魔法を併用する棒術の流派がある。棒術は加重系の魔法との相性がよく、紗香と彩香が編み出した槍術の型や技は棒術を基本に作り出されたのだ。だから、紗香は槍の真ん中を持つという、槍術では異例な構えをしている。

槍の柄で波佐間の体中をぶん殴ってゆく。そして最後に、槍の反対側で波佐間を突き、その一撃で沈んだ。

「命だけは取らないでおいてあげる。私優しいから。」

実は違った。同じ学校の人たちに自分が人を殺すところを見られたくなかった。というのが本音だ。

先程紗香が見えない刀の位置が分った理由は言霊にあった。波佐間が言った『遅い!!』という言葉。それ自体にあまり意味はないが、人間は無意識的に考えていることが言葉に、言霊として出てしまう。紗香はそれを読み取って刀の位置を把握できたのだ。

そして波佐間が使っていた技のカラクリは一種の精神干渉系魔法。相手に一度見せたことがある太刀筋を相手に見せる魔法だ。これは相手の観切る力が高くて高いほど有効な魔法で、紗香の能力が高すぎるが故に苦戦してしまった技なのだ。

「はぁ~これじゃあ他の人の助太刀できないや」

紗香はそう言って地面に座る。

これで紗香の戦闘は終わった。

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