魔法科高校の錬金術師   作:藤宮一樹

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第1話 不動のラストナンバー

魔法科第四高校

魔法工学的に見て意義の高い複雑で工程の多い魔法を重視している。

実戦を想定してではなく、あくまでも研究対象として扱っている。

複雑で工程の多い魔法は実戦向きではない。

複雑で工程の多い魔法は発動までに時間が掛かりすぎるのだ。

いくら強力な魔法であったとしても、先に魔法を発動されては意味がない。

故に、四高は魔法工学技術師を目指す者が集まりやすい。

かといって、決して四高のレベルが低い訳ではない

生徒会長『九頭見楓』は師補十八家の一つ『九頭見』の時期当主といわれているし、風紀委員長『弥生星華』は古式魔法の名門『弥生』の長女であり、現当主に次ぐ実力者と言われている。

他にも多数の名門の家系からの者もいる。

だが、魔法工学を中心とした授業プログラムであることも事実であった。

そこで、四高はある制度を採用している。

 

順位制度《ランキング》

 

各学年各生徒に1~100の出席番号が書かれたプレートを与えられ、それがそのままランキングとなっている。

三年生が青、二年生が緑、一年生が赤プレート。

四高の生徒は自分のナンバーより低いナンバーからの挑戦は断ることができず、模擬決闘をしなければならなく、負けたらプレートを交換し、勝ったらプレートの交換は行われない。

そんな生徒の向上心を煽るような制度。

生徒は常に強者に挑戦し、毎日のようにランキングを変えている。

一年を通して同じランキングのままであることはほとんどない。

ましてや、一年生の入学直後なら尚更だ。

一年生の初期のランキングは入試の実技のテストの結果をそのままランキング化したもので、実戦での強さを表しているわけではない。

だから、実技の結果に満足していない者が次々模擬決闘を行い、ランキングを変える。

もしかすると、一年生の中ではこの次期が一番変動が多いかもしれない

実際に今年の一年生もみな挑戦するかもしくは挑戦されていた。

 

ただ一人を除いて

 

「あいつ、ラストナンバーじゃん」

「あれだろ?不変のラストナンバー。入学以来一度もランキングが変わってないってやつ」

「ああ、入学からもう二ヶ月はたってるのによ。」

 

その少年を馬鹿にしている会話。

その会話の中にある『ラストナンバー』とは赤プレートの100番を意味する。

通常ならここまで馬鹿にはされない、馬鹿にされる理由は他にある。

入学から一度も順位が変わらず、100番のままなのだ。

それ故、『不変のラストナンバー』などという蔑称が与えられている。

もちろんその少年にもその会話が聞こえているだろうが、気にしている様子はまるでない。

少年は進める足を少しも緩めずに専門資料保管庫、通称地下資料庫へ向かった。

 

 授業が終わり、ここに来てから3時間位過ぎた頃に後ろから人の気配を感じた。

「お疲れ様、

委員会のお仕事終わったのかい?」

優しい口調で振り向きながらそう言った。

否、振り向く前から言葉を発してした。まるで後ろに立っている人が分かっているかのように。

「うん」

後ろに立つ少女はそう答えた。

少女ではないく、幼女と言っても過言ではない。

少女はそのような外見をしていた。

西洋風の鍔の大きい帽子をかぶり、手には西洋人形を持っている。

見た目は小学校高学年位、高く見積もっても中学生位だろう。

決して高校生には見えない。

だか彼女は立派な高校一年生である。

その証拠に赤プレートを胸につけている。

しかもナンバーは2。

かなり優秀な生徒だとわかる。

「じゃあミル、もう帰ろうか?」

「うん」

少年は周りに散らかっている本を片付け、本棚に戻そうと席を立つ。

不意に少年と少女の目が合う。

「ん?どうした?」

少年と少女の身長差はかなりある。

不意に目が合うなどほとんど無いに等しい。

ということは、少年にとっては不意にであり、少女にとっては故意になのだろう。

「・・・・・・」

少女は尋ねられても答えなかった。

「・・・手伝ってくれる?」

「うん」

揚々もなく、感情もない声だったが、即答だった。

手伝いをしたかったのは第三者からの目にも明らかだった。

そう答える少女に少年は腕に抱えた本の山から1/4ほどの渡し、ぽっかりと空間が空いた本棚へと向かった。

 

 本の片付けも終え、地下資料庫を出て、校門へと向かう。

周りには部活や委員会を終えた生徒のグループが同じく向かっている。

 

「あれ、『双璧の女王《クイーン》』じゃない?」

「あ!ホントだ!

でも、その隣にいるのは誰だろう?」

「あれだよ、あれ『不変のラストナンバー』だろ」

「え!?なんでそんなのと女王《クイーン》が一緒にいるの!?」

「あの二人兄妹らしいぜ?」

「嘘!?

なら、よく恥ずかしげもなく一緒にいられるわね」

「ああ、あの『神速の女王《クイーン》』の唯一の汚点はあれが兄であることじゃねーの?」

 

聞こえたくもない会話が耳に入る。

その瞬間周囲の明るさが暗くなった気がした。

否、暗くなった。

 

魔法

 

意識しなければ気付かないほどの弱い魔法。

魔法ではなく、超能力といってもいいかもしれない。

弱く、広範囲の魔法により、周囲の事象が改変されていく。

「ミル」

一樹はその現象の原因に顔も向けずに呼び掛ける。

その瞬間周囲の明るさは元に戻った。

案の定、周りの生徒は太陽が雲に隠れた程度にしか思っていないみたいで、気にしている様子はなかった。

仮にも魔法に携わる者なのだから、少しは気づけよと思った一樹だったが、考えるのも空しくなり、考えることを止めた。

 

「ミールちゃ~ん!!」

校門に差し掛かったところで、後ろから声が聞こえた。

一樹は半身だけ向け、ミールは機械人形のようにクルッと後ろを向いた。

声の主は風紀委員会の委員長の弥生星華。

風紀委員のミールにとっては上司にあたる。

そんな彼女の胸には2と書かれた青プレートを着けている、それは校内2位の実力者と言うことだ。

相手が先輩だと分かると、最低限の礼を尽くすべく一樹は星華に向き直り、一礼をした。

星華も兄妹の前まで来ると一樹に礼を返す。

「えーとね、ミールちゃん・・・」

と言葉の途中で口ごもる。

しかし、それは言うことを忘れたというより、言いにくいという感じだ。

そんな光景を見た一樹はすぐにある考えに至る。

「はぁ~もしかしてまだ仕事が終わって無かったのか?」

一樹はミールに目だけを向け、彼女の顔見た。

ミールの顔には何の表情もない完璧なポーカーフェイス

しかし一樹には分かる。

「すみません、妹がご迷惑をお掛けして」

と一樹は頭を下げる。

そこまで頭を深く下げてはいないが、ちゃんと誠意のこもった謝罪だった。

「いやいや!そんな大した仕事じゃなかったから大丈夫よ

ただ急にいなくなったから急ぎの用事かと思ってたんだけど、まだ学校にいたから思わず声を掛けただけだから・・・」

とまた気まずそうに口ごもる、こんなことで口ごもるような人に風紀委員長などの仕事が勤まるのかと思ったが、すぐにそんな考えは捨てる。

前に風紀委員の仕事を見ることがあったが、彼女の仕事ぶりは凄かった。

普段のおっとりとした性格からはうかがい知れないほどに。

「いえ、どんな仕事も仕事は仕事です。

ほらミル、ちゃんと先輩に謝りなさい」

「ごめんなさい」

一樹とは違い、深々と頭を下げる。

「いいのよミールちゃん

おにーさんに早く会いたかったんでしょ?」

コクンとミールは頷く。

「第一、他の委員が事務作業できないのが悪いんだし」

風紀委員会は委員長、副委員長、ミールを除く全員が男子で構成されている。

その中で事務作業ができるのは委員長とミールだけらしい。

他の人が事務作業をやると余計時間がかかってしまうらしい。

確かに風紀委員会は実力主義的な面が強いが、大雑把な人間だらけというのもどうかと思う。

そんな都合上、どうしてもミールに必要以上の事務作業が回って来てしまうらしい。

校門前でそんな会話をしていると

 

「えっ!『ラストナンバー』と弥生先輩が話してる!」

「馬鹿!ちげーよ

『女王《クイーン》』と話してるんだろ

弥生先輩があんな奴と話してるわけがねーだろ」

「フフッ、だな」

 

二人の生徒は小馬鹿にした笑い声をたてながら、通り過ぎて行く。

ほんの一瞬の出来事だったが、そんな二人の生徒を軽蔑の眼差しで見た星華の目を一樹は見逃さなかった。

───へー意外だな

そんなことを一樹は思っていた。

そんな中、またミールを中心として辺りが暗くなる。

「・・・魔法」

星華はそう呟く。

辺りが暗くなる前、事象が改変され現実に発現する前に気付いた節がある。

───さすがは校内ナンバー2か・・・

しかし、そんなことより

「ミル」

とまた現象の原因に声をかける。

そして、魔法による改変が止まる。

「すごい魔法ね・・・」

「どちらかと言うと、超能力に近いですが」

「それでも、他の魔法もそつなくこなせるのだからすごいわよ」

世の中にはBS魔法師と言われる魔法師が存在する。

「BSの一つの覚え」と言われるほど一つの魔法に特化している。

その代わりに、他の魔法があまり使えないか、一切使えないのである。

通常の魔法師には真似できない魔法を使えるが、やはりワンランク下い見られる。

そんな中で一つの魔法をCADを使わずに発動でき、CADありの場合はどんな魔法でも使いこなせる魔法師がいたとしたら、それはすごいの一言ですませられるものではない。

すごいの一言ですませられるのはさすが古式魔法の名門弥生の娘と言ったところか。

「あ!そうそう

あなた達はいつもお昼どうしてるの?」

建前上あなた達と聞いてきたが、実際興味があるのはミールだろうと思った一樹は返答をミールに任せ、自分は黙っていることにした。

「・・・お弁当」

一樹の意図を理解したミールは遅れてこう答えた。

「手作り?」

「うん」

「ミールちゃんの?」

「あにの」

へ~と意外だという表情を一樹にみせる。

「HARは使わないの?」

HAR(ハル)とはホーム・オートメーション・ロボットの略。

HARが普及している先進国はあまり家事をする人がいなくなった。

当然弁当もそうだ。

「一応HARはありますが、口に入るものは大概自分でやることが多いですね」

「珍しいわね

そういうの主夫とか言うんじゃない?」

「主夫、ですか

確かにそう言いますけど、死語だと思いますよ?」

そう?と星華笑っていた。

「なら、ちょうどいいわね。

明日の昼、生徒会室一緒に食べませんか?」

と一樹に尋ねた。

間違いなく一樹に。

最初はミールに聞いたのかと思ったが、さすがに自分の目を見てミールに聞いたというのは無理があるだろう。

「確認のため聞きますが、ミールと自分が誘われているのでしょうか?」

間違いなく失礼な質問

だが、一樹にとってそのぐらい信じられない事だったのだ。

「ええ、一樹君とミールちゃんを誘っています」

生徒会室に入れるのは生徒会役員もしくは何かしらの委員会に入っていなければ入ることは許されていない。

それ以外では生徒会からの許可がなくては入れない。

委員会ではなく生徒会の。

ということはこの誘いは生徒会の許可が無くては成り立たない。

既に許可を得ているのか、これから取るのかは知らないが、少なくとも自分のような人間は何かしらの問題を起こさない限り入ることはできない。

ましてや、『不変のラストナンバー』という蔑称で呼ばれている人間には特に。

「少しお話したいこともありますし」

きっとそのお話がメインなのであろう。

内容も少しではないような気がする。

しかし、誘われた限り断る理由もない。

「分かりました。お邪魔させていただきます。」

「そう?よかった!」

と嬉しそうに笑う。

実は断らなかった理由が一つある。

───生徒会室か・・・ならあの『九頭見』の次期当主に会えるかもしれないな

師補十八家の中で一つで、

前当主が死ななければ、十師族のままだったとされている。

前当主が死にその息子が当主となった直後「十師族選定会議」が行われ、十師族ではなくなってしまった。

しかし次期当主と言われている九頭見 楓が当主となったら十師族に返り咲くと言われているほどだ。

「えーと、あなた達は右ですよね?」

「はい」

「私とは反対方向ね

じゃあ、明日の昼休みにね♪」

「はい、わかりました」

星華は手を振りながら去っていき、背を向け帰路につく。

「俺らも帰るか」

「うん」

そして、二人も星華に背を向け帰路につく。

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