ドッオオン!!という音が講堂に鳴り響く。
その音は楓の相手を沈めた魔法の音だった。
「一樹君はもう終わってたのね?」
楓は何事もなかったかのように一樹の方へ歩いてきた。
「ええ、会長も無事に終わったみたいですね」
「慣れない相手で、少し手こずったわ。強化人間を相手にするのは初めてだったわ」
「そう簡単に現れる相手でもありませんしね」
「ってこんなところで突っ立てないで、助太刀した方がよくない?」
「星華先輩は知りませんが、少なくともミール、紗香、西園寺の三人は横やりを入れたら絶対に後で怒ると思うので、少し様子見を。星華先輩の助太刀をした方がいいですか?」
「その必要性はないかな?多分星華も怒るかも」
と楓が言うと、またドッオオン!!と音が鳴る。
音の方に目をやると、星華の相手が壁にめり込んでいた。
「・・・殺しちゃいましたかね?」
「いえ・・・死んでないと思うわ・・・多分だけど」
と楓は苦笑いを浮かべる。
「あら?二人とも終わってたんだ?
うーん一樹君には負けたくなかったなー。なんてったて後輩だし。」
「心配しなくても、私も一樹君より後だったわ」
なら、安心した。と星華が言って、二人は笑いあっていた。
すると今度はバンッと乾いた音が響く。
紗香の戦闘が終わったみたいだ。相手は倒れ、紗香は床に座っていた。怪我も結構ひどいみたいだ。
「おつかれ」
「あれ?一樹も終わってたんだ?」
「ああ、あと会長と星華先輩も終わってるぞ」
「気付かなかったなー
全然周りを気にしてなかった。私もまだまだ未熟者だなー」
「そんなことしてる暇がないような相手だっただろう?」
「まーそうだね
後残るはミルちゃんとあのバカだ―――」
紗香のセリフが言い終わる前に周りがピカッと光った。
「あとはあのバカだけみたいね」
と紗香は言い直した。
「そうだな」
一樹は紗香にそう言い残し、ミールの方へ向かった。
「おつかれ、ミル」
「うん、疲れた」
ミールはそう言うと、頭を一樹の胸に預ける。
一樹はミールの頭を優しくなで、倒れているアレクサンドルの方へ目を向ける。
「あれ、使わなかったんだな」
あれとは『
「・・・」
ミールは何も言わない。
「ありがとな」
一樹は頭を優しくなでながらそう言う。
「怪我ひどいな。あとで治療しよう。我慢できるか?」
ミールは一樹の胸の中でコクンと頷く。本当ならすぐに治療できるのだが、あれを人前で使うわけにはいかなかった。
「その心配はないわ。私、治癒魔法得意なの」
そう言ったのは星華だった。
「お願いできますか?」
「ええ、お安い御用よ」
そう言って星華はCAD取り出して、ミールに魔法を掛ける。
「私もいいですか?」
と後ろから紗香がそう言うと
「ああ、私がやるわ!」
と楓が返した。
「・・・大丈夫かな?」
とミールに治癒魔法を掛けながら星華が呟く。
「何がですか?」
「楓の治癒魔法はすごくレベルが高いんだけど・・・」
「高いけど?」
言いもごる星華に一樹は聞き返した。
「何故かすっごく痛いのよね」
と何かを思い出したのか星華は顔をしかめる。すると、
「きゃあああああああ!!」
と後ろから声が聞こえた。振り向くとじたばたしている紗香の姿があった。
「なんで、治癒魔法が痛いんですか?」
「さー私にも分らないのよ」
「ふふふふふ、じっとしないと治癒魔法が掛けられないわよ?」
「いい、いいから!掛けなくてもいいからーーーーー!!」
・・・
一樹は楓の思わぬ一面を見てしまったが、見ていないことにした。
すると、後ろから聞こえていた戦闘の音がやんだ。西園寺の戦闘が終わったようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ぼろぼろになった西園寺がこっちに近付いてきた。
「あんた時間かけすぎぃぃぃいいいいいいい!!!」
紗香が西園寺を見ているスキに楓は治癒魔法を掛けた。
「きゃああああああああああ!!!」
「何あれ?」
「さー?」
さっぱりわからないという顔をした西園寺に一樹は苦笑を浮かべながら答えた。
「一樹君、これで大規模魔法阻止できたのよね?」
楓は笑顔を浮かべながら一樹に聞いた。
「いいえ」
「へ?」
一樹から予想に反する返答に、楓は思わず間の抜けた声を出してしまった。その間も紗香は痛い、痛い叫んでいる。
「あと5分もしないうちに、魔法が発動します。」
「冗談よね?」
「冗談でこんなこといいませんよ」
「なんで!?もう魔法を発動できる人はいないわよ!?」
厳密にはここに6人いるが、もちろん除外しているのだろう。
「ええ、もっと詳しく言うとすでに発動しています。いわゆる遅延魔法ですね。」
「ですねってどうするのよ!?」
「魔法の発生源は分っているので、対処しますよもちろん。」
そう言って一樹はステージの上を見る。そこには台の上に乗った本が光っていた。
「魔法式を保存した本。魔導書です。きっと自分たちが突入する前に
「魔導書って聖遺物《レリック》じゃない!!なんでそんなものが・・・」
楓も星華の驚きの表情を隠せないでいる。西園寺は何がすごいのかいまいち分っていないみたいで、紗香は右肩を抑えてうずくまっていて、それどころではない様子
「ミール、大丈夫か?」
「うん」
ミールは星華の治癒魔法を受けていたが、途中でやめて立ち上がった。
そして、二人はステージに上り、魔導書の前に立った。
「頼む」
「うん」
ミールは返事と共に目を限界まで見開いた。
【対象魔法をスキャン】
【魔法式から起動式の逆算開始】
【・・・不可。起動式のない
【該当もしくは派生の検索開始―――完了】
【系統外終末魔法《ハルマゲドン》の派生形】
【魔法式の保存を開始します―――完了】
それは刹那より短い一瞬の出来事。
ライブラリーの管理者としてミールを通して一樹にも情報が行く。
「《ハルマゲドン》の詳細は?」
一樹がそう聞いたときにはいつものミールに戻っていた。
「世界の最終決戦に使われる魔法の一つ。世界を終末へ導く魔法。って文献には書いてあった。でも普通の人間には発動は愚か、理論の構築も無理。でも、この魔法は《ハルマゲドン》を人間でも使えるように模倣して作られた偽物。もちろん現代魔法での再現は不可。完成度は0.001%未満。それでもこの辺りを吹きとばすには十分」
「対処方法は?」
「魔法面からだと、現在存在する対抗魔法の内から、有効なのは
「物理面では?」
「魔導書の破壊。魔導書を依代にしてるから、魔法式が霧散する。」
「はぁ~、やっぱりそうなるか
・・・そうと決まれば、やるぞ。時間がない」
一樹は右手を前に差し出す。
ミールはCADを操作すると、一樹達の足元から巨大な光の魔法陣が現れる。
講堂で見せたものとほとんど同じだ。
一樹は右手を振るうと、先程明智との戦闘で見せたのと全く同じ魔法陣が刻まれた。
『世界の根源からもたらされる力よ
その文字の音はニイド
その文字の意味は束縛
我が行く手を阻むものよ世界の根源に従い我らの必要な道を譲れ』
今回は3段階目。発動している魔法式に絡みつき、その魔法式の効能が停止する。これで魔法が発動する心配はなくなった。しかし、消滅したわけではない。停止しただけだ。
ミールは再びCADを操作する。さっきまで展開していた魔法陣は消滅し、新しい魔法陣が出来上がる。そして、もう一度一樹が右手を振るう。先程作った魔法陣の隣に新たな魔法陣が刻み込まれる。
『世界の根源からもたらされる力よ
その文字の音はケン
その文字の意味は火
我らを邪魔する悪しき者よ世界の根源に従い聖なる炎で燃え尽きろ』
一樹が呪文を言い終えると、魔導書が火を噴いた。いや、火を噴いたというのは間違えているかもしれない。自ら噴いた火によって燃えあがっているのだから。
ゴゴゴゴゴと音を立て、神秘的なきれいな炎は燃え尽きた。
これで大規模な魔法が発動する心配はなくなった。