星華と別れてから十分もたたないうちに一樹達は家に着いた。
一樹達はある事情によりどうしても四高に通わなければならず、兵庫からわざわざ静岡まで引っ越してきた。
どうせ引っ越すなら四高の近くがいいということになり、四高からすぐ近くの家を買ったのだ。
二人で暮らすには少し大きめの一軒家。
構造は地上二階、地下一階。
見た目は普通の家だが、セキュリティ面は大分違った。
玄関には指紋認証、
留守中は動体感知、熱感知、魔法感知、監視カメラ。
普通の家には着けないようなセキュリティをこの家は付けていた。
故に、普通に入るのも一苦労だった。
まず、一見ただのドアに手をあて、
次に30秒以内に四桁のパスコードと五文字のパスワードを入れる。
しかも、一回一回ボタンを押すたびに指紋認証が行われている。
「はぁ~、毎日これやるのはめんどくさいな」
「もう少しセキュリティ無くす?」
「いや、地下に見られたまずい物があるしね」
「術だけでもいいと思う」
「今でも結界をつけてるけど、
「滅多にいない」
「万が一ってことがあるだろ」
玄関からそんな会話をしながらリビングに入る
「お帰りなさいませ
留守中の来客はいませんでした。
留守中の電話は一件
牛山さんからです。
録音を再生しますか?」
「再生してくれ」
と言いながら鞄を床に置き、ソファーに腰をかける。
声の主はHARにセキュリティ管理システムを搭載したネット回線に接続されていない独立コンピューター。
『例のCAD完成したから送っといた!
多分8時頃には着くんじゃないかな?
テストしたら連絡してくれよ!
じゃあな!』
ざわざわといろんな人の声をバックにして話している。おそらく研究所から電話しているのだろう。
「さすが牛山さん
もう完成させたか
そんな急がなくてもよかったのに」
「なにが完成したの?」
留守番電話を隣で聞いていたミールが一樹に尋ねる。
「特定魔法に適応したループ・キャスト搭載特殊特化型CADだよ」
「特定?
あーーあれか」
ミールはすぐに理解した。
一樹が一番よく使う魔法。
それは他人に見せてもいい数少ない魔法の一つだった。
そんな会話をしている時、電話が鳴った。
「電話です
どうしますか?」
HARに表示された名前を見る。
一樹は少しだけ驚いた表情を作ったが、すぐに引き締まった顔にはなる。
「電話に出て保留にして地下に回しといてくれ」
「かしこまりました」
HARの返答を聞く前にソファーを立ち、地下室に向かう。
地下に入る扉には何の仕掛けもない。
見た目だけは。
特定の魔法。しかも特定の想子《サイオン》により発動された魔法で開く仕組みになっていた。
一樹はドアにたどり着く前に魔法を発動し扉を開ける。
現れた階段を駆け足で降り、地下室へと入る。
「繋げてくれ」
とまるで軍人のような姿勢で立っている。
『やあ、ディーン久し振りだね』
画面に写っているのは四十代半ばの男性。ある組織の一樹の上司だった。
「ご無沙汰しています」
『休んでいいよ』
一樹は一礼し、休めの姿勢をとる。
『ライブラリーの方はどうだ?』
「何の異常もありません
術式記録も正常に起動しています。」
『そうか、ならいい
四高の調べ物の方はどうだ?』
「それは少し時間がかかりそうです。
地下資料室は誰も管理していないみたいで本が整頓されていませんでした。」
『そうか、まあいい時間ならたくさんある。じっくり調べといてくれ』
「はい」
『質問は以上だ
ディーン、君から質問はないかね?』
「ありません」
『そうか、ではまた連絡する』
「はい」
一樹は頭を下げ、電話が切れるのを待つ。
電話が切れたのを確認したとき、近くで魔法が発動するのを感じた。
そして、階段を降りてくる小さな足音が聞こえる。
「セキュリティを最高レベルに上げろ、特にハッキングには気をつけろ」
「かしこまりました」
とHARが答えると地下室の扉が開く。
「・・・一樹」
「ミル、どうしたんだい?」
ミールは一樹の近くまで来て、
「大丈夫だった?」
と聞く。
普段は無表情であることの多いミールだが、今はかなり怯えた表情をしている。
「大丈夫だったよ」
なにがとは聞かずに一樹はミールの頭を撫でる。
ミールは一樹に抱きつき、頬を寄せる。
一樹もミールの背中に手を回し、背中をさする。
「お前を道具なんかにさせない。
俺が守ってやるから大丈夫だ。
今はまだあいつの言いなりだが、近い内にあの組織をぶっ潰す」
「・・・無茶はしちゃダメ」
「大丈夫だよ魔法科高校にいるうちはやらないから
三年間じっくりと力を付ける
俺たちの味方もたくさんいるしね
これからもたくさんの味方ができるだろうしね」
「うん、わかった」
二人は抱き合ったまましばらく動かない。
二人が動き始めたのはビービーという警報を聞いた瞬間から。
「ハッキングされています
どうしますか?」
「家中の電化製品とコンピューターを隔離して接続を切り離せ」
「かしこまりました
・・・・・・完了しました」
これで盗聴や盗撮、重要データの漏洩、セキュリティのダウンはされない。
「ハッキングはまだ続いてるか?」
「はい」
なにが目的だ?
そんなことを考えていると
「現在のハッキングのハッカーからだと思われる暗号文が投稿されました」
「・・・はぁ~そうか
解読してくれ」
暗号の内容も見ていないのに、まるで相手がわかったかのような反応だった。
「完了しました
解読キーは○一○コードでした
内容は『俺だ俺、長瀬だ』です」
「念のため隔離はそのまま、音声回線だけ繋げてくれ」
「かしこまりました」
しばらくすると機械的な雑音が聞こえ声が聞こえた。
「俺だ、長瀬だ
テレビ電話にしてくれよ」
「わかりました
セキュリティレベルを通常に戻してくれ
それとこの回線をテレビ電話に」
「かしこまりました」
音声電話がテレビ電話に切り替わるまえに一樹とミールは離れた。
「一樹、久し振りだな」
画面に映ったのはさっきよも若い、三十代半ばの男性。
さっきの男より大分優しそうな顔をしている。
「お久し振りです、大尉
ハッキングなどせずに普通に電話してきてください」
「そんなに怒るなって
俺と特尉がこうやって連絡をとっていることを知られる訳にはいかないだろ?」
と意地の悪そうな笑みを浮かべながら答えた。
「秘匿回線を使えばいいと思うのですが、こういう時のための回線ですよ」
「いやー、ここのセキュリティは面白くてねー
ってミールちゃんがすごい形相でこっちを見てるんだけど?
・・・何かの邪魔しちゃったかい?」
「いえ、邪魔というほどでは
それに、心配で連絡をしてきてくださったのですよね?」
「あ、わかったかい?」
「タイミングよすぎますよ」
組織の人間からの連絡直後にハッキングなど偶然ではないだろう。
「組織はなんだって?」
「ミルの様子と四高の調べ物について聞いてきました」
「そうか、気をつけろよ一樹」
「はい、ありがとうございます」
「今、我々にできることは少ないが、時が来たら全面的に君を指示しよう」
「ありがとうございます」
と言って一樹は頭を下げる。
そんな一樹を見てミールも頭を下げた。
「いや、いいよいいよ
君達の仕事ぶりからすれば、お釣りがくるぐらいだよ」
「いえ、軍の仕事についてはそれ相応の給料を貰っていますので」
「はっはっは!
気持ちの問題だよ」
「ありがとうございます」
「あんまり長居するとネット警察に目をつけられちゃうからね
ここら辺で失礼するよ」
「はい、分かりました」
「じゃあな」
テレビ電話が切れる
「・・・夕飯にするか?」
「うん」
そうして二人はつかの間の日常へと戻った。