魔法科高校の錬金術師   作:藤宮一樹

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第8話 母と子と賢者の石

 生徒会室で新しいプレート受け取った後もしばらくお茶会は続き、終わった頃には学校の授業も終わっていた。

それぞれ、放課後のやるべきことにとりかかる。

ミールは風紀委員会の仕事。

西園寺と紗香は模擬戦へ。

一樹は地下資料室あさりに。

別れ際にパーティーをやろうということになり、待ち合わせをすることになった。

パーティーの内容は一樹の大出世を祝うためらしい。

待ち合わせの時間まで一樹は資料室あさりに没頭する。

ほぼ2ヶ月の間、地下資料室をあさっているが、これという物はまだ何も見つかっていなかった。

そもそも古い本ばかりで表紙や背表紙が剥がれていて、中を見ないと内容が分からないものも多い。

本の内容は普通の魔法書(古い起動式が書いてあったり、魔法理論が書いてあるもの)から最近のマイナーな魔法理論の論文、古式魔法の文献まであった。

そんな感じで、あまり人が閲覧しないような物が多い。

しかも内容は日本語だけでなく英語やロシア語や中国語。古い文献にはギリシャ語やラテン語の物まである。

一樹は英語、ロシア語、中国語、ギリシャ語、ラテン語全部読めるので内容が分かるが、こんなのを高校に置いてもほとんどの生徒は読めないのではないか?と思う。

メガネタイプの仮想デバイスを使えば、すべて翻訳して表示してくれるが魔法科高校では仮想デバイスの使用を禁止している。

一樹は手に取った本を一冊一冊熟読ている。

目的の内容でなくても、すべて読んでいる。どんなギミックが隠されているか分からないからだ。

ましてや、こんな何かを隠すようにカモフラージュしているような場所では余計だ。

四高は確かに研究のためと称して古い魔法書をたくさん集めているが、ここまでくると何かを手にいれるために片っ端から魔法に関連するものを集めているように見える。そしてここはその何かを隠すために作られた場所に思える。

一樹が初めてここに来た時、人が頻繁に出入りしている痕跡があった。生徒か職員かは分からないが、一樹が通うようになってからは人が出入りしている痕跡はない。

つまり、一樹がここを調べ始める直前まで他にもここを調べていた人間がいたということだ。

一樹はそいつが何の目的でここに来ていたかは別に気にしていない。

ただ、自分のやるべきことをやるだけ。

「ふぅ~」

机の上のに十冊ぐらい積み上げられた本をずべて読み終えて、思わずため息をつく。

難しい本を集中して立て続けに読んだから、ため息の一つでもつきたくなる。

待ち合わせの時間までまだ少し時間がある。後二、三冊読めると思い、机の上の本を片付けるために席を立ち、本を全て棚に戻し、新しい本を手に取る。

二冊目の本を取ろうと、本に触れた瞬間、体に電撃が走る。

痛覚ではなく感覚的に電撃が。

まるでそれは魔法が発動された時に発せられるシグナルに似ていた。

でも、魔法が発動されたわけではない。そもそも、一樹が魔法が使われるまで魔法の発現(・ ・)が分からない訳がなかった。

魔法発動に似た感覚だが確実に違う。

これは一樹だからこそ分かったもので、普通の人間はもちろんだが、一般的な魔法師にも分からないだろう。

一樹はこの感覚を知っていた。

───魔導書!?

魔導書とはそれ単体で魔法が発動できる本のこと。それは魔法師でなくても魔法を発動できてしまう。

一般的に言われている魔法書は魔法式の設計図が記してある。

魔導書は違う。魔導書には魔法式そのものが記してある。

これがもしも一樹ではなかったら、ただの魔法書として扱っていただろう。

魔導書の判別は普通の魔法師だけではなく一流の魔法師でも難しい。

「何で聖遺物(レリック)が・・・」

あまりの衝撃に一樹は声に出してしまう。

聖遺物(レリック)とは魔法的な性質を持つオーパーツのこと。

ただし、普通のオーパーツとは違い、現代科学や現代魔法でも全く再現できないものである。例えばキャスト・ジャミングを発生させるアンティナイトも聖遺物(レリック)に分類される。

そのなかでも魔導書は特に特別だ。

ただ触れて、想子(サイオン)を流すだけで魔法が発動する。下手をすると現代魔法より早く魔法を発動できる。

世界に存在する魔導書の内、出回っている魔導書はほんの数冊程度。

ほとんどの魔導書はバチカンに保管されていると言われているが、その存在をバチカンは否定している。

しかし、今、そんなことはどうでもよかった。

魔導書に魔法式本体が記してある。つまり、魔法式を保存しているということ。

一樹にとってこれは喉から手が出るほど欲しい技術であった。

───これを解析できれば()が完成する!!

一樹には珍しく狼狽していた。この魔導書を持ち出そうと思ったが出入り口には持ち出し監視用の機械(通称、人間スキャナー)が置いてあるため、持ち出してもすぐにバレてしまう。

今できることは、他の人間に見つからないように細工をする事。

一樹はポケットから一枚の呪符を取り出す。

地下資料室は機密保持のため外との通信ができない。それだけではなく、物理的な外部通信もない。単に言えば電話だが、監視カメラもその一種だ。

監視カメラに本の内容を写し、その監視カメラの映像を盗まれたら本末転倒だからだ。

そのため監視カメラや魔法発動を知覚するカメラもない。

だから、ここで魔法を使ってもバレない。しかし、機械を使用する時に出る微弱な電磁波を感知する装置があり、カメラやCADの使用をそれで監視をしている。

だから一樹はCAD を使わずに魔法を発動する。少し時間はかかるが誰かと戦っているわけでもないので、別に支障はない。

発動する魔法は『木隠森中(もくいんしんちゅう)』。

意味は文字通り『木を隠すなら森の中』。

隠したい物があり、それと似たようなものが周りに沢山ある場合にのみ使用する事が出来る、一種の情動干渉系魔法。

この本の存在を知り、確固たる意志があれば効果はないが、本の存在を知らない者は例え目に入ったとしても手に取ろうとは思わないし、本の存在を知っている者が第三者に持って来いと命令したとしてもその第三者は見つけた本を目的の物だとは思えなくなってしまう。使える条件が厳しいが、効果はかなり強い。それに対して、魔法が使われている事に上級魔法師だとしても気づく事が難しい魔法だ。

精神に干渉する魔法は現代では使用制限を掛けられているが、バレなければいいと一樹は思っている。

一樹は魔法をかけた呪符をその魔導書に挟み本棚に戻す。

効果は一週間。

ほとんど毎日ここに来ているのだからそんなに長くなくてもいいのだが、万が一来れなくなっても、大丈夫なように手を打つ。

もっと長期に渡って術をかけられるのだが、それにはそれ相応の祭壇と準備期間が必要だ。

一樹は時計に目をやり、思った以上の時間がかかった事に落胆する。自分もまだまだ未熟だと痛感した。

待ち合わせの時間までまだあるが、本一冊も読めないだろう。予定より早いがさきに待ち合わせ場所に行くことにした。

 

 待ち合わせ場所は校門前。

校門に着いてから少し後悔した。この前まで自分は『不動のラストナンバー』とか言われていたのに、今は緑プレートの5番。つまり一年生にして、二年生のランキング五位だということ。

一年生にして上級生のランキングに食い込んだのはここ五年間で九頭見楓と弥生星華だけだと、プレートを渡されたとき教えてもらった。それほどすごい事なのだ。しかも、楓は十二位で星華は十六位、今まで楓の記録が最高だったが一樹がそれを塗り替えた。

そんな劇的な大出世をした一樹が注目されないわけがなかった。

 

「あれ、『不動のラストナンバー』だよな?」

「ああ、でもプレート緑だぞ?しかも5番」

「ウソ!?あり得ないでしょ!なんかの間違いじゃない?」

「それか、偽装してるか。この前まで『不動のラストナンバー』って言われてた奴がいきなり二年生のランキングに食い込めるわけがないだろ?」

「そうだよねー」

 

男子三人、女子二人のグループが一樹の横を通り過ぎながらそんな会話をしていた。

一樹にその声が届くのもわかって話しているのだろうが、一樹は澄ました顔で情報端末を見ている。

そんな態度が気に入らなかったのかそのグループの一人の男が一樹に近づいてきた。

「おい、ラストナンバー」

一樹は既に違うのだがと思いながら、顔色一つ変えずにその男に目をやった。

「そんな偽装して、こんなところで見せびらかしてるなんてなんて惨めだな、すぐバレるに決まってるだろ?」

グループの中で最初に偽装と言った男だった。胸には二五と書かれた赤のプレート。西園寺や紗香より下だ。この男は一樹はここで待ち合わせをしてるのではなく、このプレートを見せびらかしてると勘違いをしたらしい。

「何を勘違いしてるかは知らないが偽物じゃないぞ?そもそも特殊な四高の校章のレリーフが施してあるのだから偽装できるわけないだろ。よく考えてから物を言え」

そこまで敵意を向けるつもりがなかったが、思わず神経を逆撫でするようなことを言ってしまう。見るからに苛ついた顔をし、さらに食ってかかった。

「なら、挑戦を受けろ!?本当にそのランキングなら断れないだろ!?」

「ああ、いいぞ?今からやるか?

あと十分程度で演習場が閉まってしまうが充分だろう」

それは十分もあれば勝てると言っているようなものだった。準備の時間も入れれば実質五分もない。そんな事を言われて、余計腹が立ったみたいだ。

「な!?ラストナンバーのくせに何生意気なこといってるんだ!?」

「だから、もうラストナンバーではないんだがな」

そんな会話をしている時

「止めといた方がいいんじゃない?」

と制止の声が入る。

「意外と早かったな」

そこには西園寺と紗香の姿があった。

待ち合わせの時間より五分も早かった。

「最後の相手がちょろくてね

それで?少し聞こえたけど、一樹に挑戦するんだって?止めといた方がいいと思うよ

二年生の先輩だって一分もかかんなかったのに、あんたなんて秒殺よ秒殺」

「ああ、そうだよな

てかお前、俺にこの前挑戦してきた奴だろ?しかもすぐに負けてたよな?

そんな奴が一樹とやってもためになんねーとは思うけどな?」

「嘘だ!?どうせこのプレートは偽装何だろう!?この前までラストナンバーだった奴に二年の先輩に敵うわけないだろ!?」

「ちょっと?ラストナンバーって懲罰対象の言葉なんですけど?」

「はっ!!言葉まで摘発できるわけねーだろ!?」

言葉に対する摘発に事後報告は適応されない。虚言する者に対する対策である。しかし、

「直接聞かれたら摘発できるけどね」

「はぁ!?」

「ねーミルちゃん?」

西園寺と紗香が退くと後ろからミールの姿が見えた。紗香は意外と正確が悪いらしい。

「なっ!?『神速の女王(クイーン)』!?」

「6時27分、禁止ワード使用を確認しました。

懲罰委員会により、ランキングの降格、もしくは三日以上の停学処分を言い渡されます。

今日はもう遅いので、明日のホームルーム前に懲罰委員会まで出頭をお願いします。来なければ連行という形になり、さらに重い処分が下される可能性があるので注意してください。」

ミールはまるで紙に書かれた事を読んでいるかのように淀みなく、形式的に言う。

一樹は唖然としている男子生徒の横を通り抜ける。ミールと西園寺と紗香もその後に続く。

その男子生徒の後ろの生徒達も黙ってしまっていた。

「助かったよ、紗香、西園寺」

「俺らは大したことしてないぜ?」

「そーそー全部ミルちゃんのおかげ」

一樹はミールの方を向き

「ありがとな、ミル」

と言いながら頭を撫でる。ミールは少し嬉しそうだった。

「そもそも、あのまま挑戦を受けてもあんなやつ秒殺でしょ?」

「どうかな?」

紗香が笑顔で聞いてきた事に対して一樹は含み笑いで返した。

 

 

 その後、一同はファミレスに行き、プライベートルームに入った。

今はプライベートを重視する時代でファミレスですらオープンルームとプライベートルームに別れていて、完全個室の防音仕様の壁で覆われた個室にはカラオケまでついている。

そのパーティーは歌って踊っての大宴会になった。

 

 十時過ぎにやっと帰宅した、いや帰らせてくれた。

その時間まで紗香に返してもらえなかったのだ。

一樹とミールは疲れ果て、だらしなくソファーに座る。

「少し一服しようか?何がいい?」

「ミルク、暖かいの」

「分かった、俺は紅茶で」

と少し天井を向き、言うと

「かしこまりました」

と返事が返ってくる。HARの電子音声。

普段なら自分で入れるのだが、今回は疲れていてそんな気力も起きなかった。ミールが紅茶かコーヒーを頼んでいたら自分で入れていただろう。ミールはその事を知っているからミルクにしたのだ。

「あと・・・いいや、何でもない」

HARに電話を頼もうかと思ったが、時計を見てやめることにした。

今回の模擬戦で大活躍したCADの製作者に電話をしようと思ったが忙しい人なので、夜ぐらいはゆっくりさせてあげたかったのだ。

その製作者、牛山の正体は、トラース・シルバーの片割れミスタートラース。

トラース・シルバーシリーズのハードを担当している。

牛山との関係は親戚で、母方の祖父の弟の息子、つまり一樹の母の従弟である。少し遠い血縁だが一樹の母と牛山が仲が良く、紹介してもらい、一樹と知り合った。

「一樹、どうだった?」

ミールはミルクを飲みながら言う。

その質問は資料室で何か見つけたか?という意味だろう。ちょうど、一樹もミールに言うことがあった。すると、一樹は徐に机の上を叩いた二回ノックした。

それは合図、その音を拾い上げたHARは家のセキュリティレベルを最高にした。

「セキュリティレベルをレベルファイブに移行しました」

レベルファイブのセキュリティは並のセキュリティではなかった。

一般的にHARやその他電化製品は全て無線LANを搭載しているが、一樹は全ての電子機器の無線LANを物理的に外し、全て有線にしている。理由はどんなにセキュリティの高いソフトでも、凄腕のハッカーにかかればいつかはハッキングをされてしまうので、物理的に接続する有線を使っている。有線であれば抜いてしまえばどんなに頑張ったところでハッキング不可能だ。故にインターネット回線はおろか、電話回線すらも有線。セキュリティレベルのレベルファイブはその有線を全ての接続を物理的に切っている。そして妨害電波を出し、盗聴機や盗撮機があったとしても電波を拾うことができない。その代わりにある一つの方法以外は全ての連絡手段をなくす。情報端末(現代ではこれが携帯の代わり)の電子メールや電話もだ。レーザーによる盗聴も阻止するために壁や窓に不規則な周期の電気を流している。

このセキュリティは国家機密施設並のセキュリティ。いや、もしかするとそれ以上かも知れない。この家のセキュリティを作ったの者は間違いなく天才と言われるだろう。天才なのは当たり前、何を隠そう、この家も牛山が設計したのだ。

「目的の物ではなかったけど、あったよ。魔導書」

「!?」

さすがのミールも動揺を隠しきれてない

「どうしたの?」

木隠森中(もくいんしんちゅう)を使って隠した。さすがに持ち出せないからね」

「黒洞は?」

「時間が掛かるし、そう簡単に使っていいものじゃないしね、万が一の事を考えるとリスクが大きすぎる」

「解析はできない?」

「あそこから持ち出さないと無理だね

ある程度の設備が必要だし」

「・・・そっか」

ミールは少し残念そうな顔をした。ミールも聖遺物(レリック)解析を望んでいる一人だからだ。

「そう落胆することじゃない。発見することが一番の難関だったんだ、それを思わぬ所で発見できたんだから、逆に喜ばないと

今手元にある魔法石だけじゃ解析は難しかったからね」

「うん、分かった

それって私の知らない術式?」

ミールはある事情により魔法の発動を見ただけで、その魔法に使われた起動式、術者、演算方法、魔法式の組み立て方が分かってしまう。

そしてその情報を全て記憶してしまう。取捨選択はできない。

そんな呪いにも似た能力を持っていて、そしてその能力を利用しようとしている奴が沢山いる。

「それは分からない

でも、多分し知っていたとしても、後の事を考えるとミルには覚えといてもらった方がいいかもしれないな・・・

ごめんな、ミル

お前を道具にさせない、お前を利用させないとしているのに、俺自身がミルを利用している」

「うんん、大丈夫

他の人間だったら癪にさわるけど、一樹なら利用されてもいい

むしろ利用してほしい」

「ありがとな、ミル」

一樹はミールの頭を撫でる。

一樹はミール感謝しっぱなしだなと思った。

するとミールが頭を一樹に預け、寄りかかる。

「甘えん坊だな、ミルは」

「甘えたいお年頃」

「そんな年はとっくに過ぎてるだろ?」

そう言いながら一樹はミールの頭を撫で続ける。

しばらく二人は飲み物も飲まずにそのままのの体勢でいる。

三十分くらいたっただろうか?一樹は思いついたようにミール言う。

「母さんに電話しようか?」

そう言った瞬間に部屋が明るくなった。ミールの魔法によるものだ。

ミールの得意魔法は振動系、特に光波・光学魔法を得意としている。

それは超能力と言われるレベルまで達し、突然の感情の変化によって思わず発動してしまう。プラスの感情なら明るく、マイナスの感情なら暗くなる。魔法制御が苦手な訳ではない。これは癖と言ってもいいかもしれない。

赤ん坊の意思疏通ができない頃、本能的に光で感情を表していたからである。その時は色がついた光だったので、大分その癖も抜けてきている。無口なのはその頃の名残と言えよう。言葉を理解しはじめてしばらくしても光で感情を表していたのであまり言葉で物を表現するのが苦手になっていたのだ。昔に比べたら今は大分ましになったが、今でも突然のまたは大きな感情の変化の時はつい出てしまう。

「うん」

頷く声に感情が込められてなかったが、嬉しいのは丸分かりだった。

「もう遅いけどまだ寝てないと思うんだ」

一樹はソファーを立ち、卓上の大型CADを使い、魔法を発動させ、回線を繋げる。その回線はこの世ではないところを通り、目的の人物の電話回線を繋げる。

古式魔法『瞬間移動(テレポーテーション)

この世ではないところ、天国、地獄、魔界、霊界など様々な言い方があるが、科学的に言うとこの世界より高次元に存在する高いエネルギーに満ちた世界。本来なら物体や人物を別世界を通して、別の場所へ移動させるための術式だが、伝承が途中で途絶えてしまい、中途半端な使い物にならない状態で伝承されてしまった。そんな術式を何代か前の藤宮(そのときの名は藤宮ではなかったが)の当主が取り込み、霊子(プシオン)や光や分子、電子レベルの物だったら移動が可能となった(当時は霊子(プシオン)体だけを移動させるのが目的だったが、後から光、分子、電子以下の質量の移動が可能だと分かった)。

これならハッキングをされてしまう心配もない。

「電話をかけてくれ」

ここまでくれば後はHARに任せられる。

コール音がしばらく鳴り響く。

すると仮想ディスプレイに美しい外人の女性の姿が写し出される。どこか日本人っぽいところがあるから、ハーフかクォーターなのだろう。

「久しぶりね、一樹、ミル」

ディスプレイに写った女性が母性に満ちた声で一樹とミールの名前を呼ぶ。

「久しぶり、母さん」

「久しぶり、まま」

そこに写ったのは一樹達の母親。名前は藤宮 マリア。とても二児の母には見えない容姿をしている。

実際は三十代後半だが、まだ二十代に見られても可笑しくはない。ミールの童顔はこの母から受け継いだ物なのだろう。

「何かあったの?」

一樹達は母親に連絡をとるのを控えている。本当は頻繁にしたいのだが、状況がそうさせない。いくらハッキングをされないと言っても頻繁にしてしまえば尻尾をつかまれてしまう。だから何かあった時以外はあまり連絡をとらない。

「うんん、特に変わったことはなかったよ」

「そう?良かったわ。」

と二人に微笑みかける。きっと連絡が来たとき何かあったのかと思い、心配をかけてしまったのだろう。これこそ、便りがないのはいい便りだ。

「心配を掛けてごめんね、母さん」

「うんん、子どもの心配するのが母親の仕事なのよ

どうしたの?ミル?」

「会いたい」

「そうね、私も画面越しではなく、直接会って抱き締めてあげたいわ」

「夏休みにはそっちに戻るよ」

兄妹はどうしても四高に通わなければならなかったので静岡に引っ越してきたが、二人の母は兵庫にある本家に住んでいる。当主の娘なのでこっちにはこれなかったのである。

しかし、理由はそれだけではなかった。

「楽しみにしてるわね。私がこんな体でなければ、一緒に行くことができたのにね」

はぁ~とため息をついた。マリアは下半身が動かず、車イスの生活をしている。

それなりにバリアフリーが進んだ世界だが、不便には変わりない。本家には家政婦がいるから、そういう面ではあまり苦労しなくてすむ。

「大丈夫だよ、母さん。俺が直すから」

いくら、富や名声を捨て、苗字を変えていたとしても、最新医療を受けられるくらいの財産はある。

それなのに、一樹はすでに最新医療を受けても回復しなかった自分の母親にそう言った。

「今日、魔導書を見つけたんだ。それが解析できれば石が完成へと近づく」

「賢者の石」

隣でミールが小さく呟く。

賢者の石は錬金術師でなくても知ってる物が多い。

卑金属を貴金属に変えたり、どんな万病もたちどころに直し、不老不死にする。伝説上にだけ存在すると思われている石。だが、その石は存在する。

現に一樹は持っている。

「ありがとう、一樹。でもあまり無理をしないでね?あなたは十分賢者の石を進歩させた。歴代のフラメル家の中で最も賢者の石を完成へと近づけた。もう十分よ?」

「ダメだ。母さんの病気を直すまでは完成とは言えない」

一樹は賢者の石を持っている。だが、それは本物の賢者の石とはほど遠かった。

卑金属を貴金属に変えると言うことは、物体を全く違う物体へと変換させるということ。

今の現代魔法や古式魔法は改変までしかできない。

改変と変換の違いはかなり大きい。改変はあらゆる法則に乗っ取って変化すること。変換は全ての法則を無視して変化させること。

変換は今の魔法と科学では不可能。今後もできることはないと言われている。しかし、賢

者の石はそれを可能にする科学と魔法の結晶なのだ。

そしてその能力を使い、人の体でさえも変換できるのだ。

かつて賢者の石を完成させた錬金術師。フラメル家の開祖と言ってもいい人物。

 

ニコラ・フラメル

 

ニコラ・フラメルは賢者の石を完成させたが、どちらかと言うと偶然、奇跡に等しかった。

二度目を作ろうと試みたが、失敗。後は自分の子孫に任せるため、研究成果を記録し、伝承させた。それは途絶えることなく今でも伝承されており、歴代のフラメル家の当主が自分の研究成果を記録し続けている。今ではそれを一樹が伝承し、賢者の石の研究をしている。自分の母のために。万物変換の術式と不老不死の術式はもうわかっている。しかし、それは賢者の石に魔法式を保存し、発動しなければ意味がない。その二つの術式はどうしても賢者の石以外では発動されなかったのだ。

賢者の石の完成まであと二歩程度。だがその二歩が難しい。

魔法式を保存する技術または術式の発見、再現。

魔法式を保存する物質の発見または精製。

一番の難関である。

故に魔法式を何らかの技術で保存した魔導書は喉から手が出るほどの品だったのだ。

「ごめんね、一樹。藤宮とフラメル。その上組織の事まで背負わせてしまって」

組織。

ミールを道具として扱い、利用しようとしている奴ら。

そして、その組織の設立者こそが一樹達の母親である、マリアをこんな体にした張本人。

マリアは魔法の過剰な使いすぎで、精神が磨耗し、体にまで影響を及ぼしたのだ。

科学では魔法と体への影響の因果関係は分かっていないが、体は精神の器と呼ばれるほど、密接に関係している。魔法の過剰な行使は体に負担がかかるということは魔法師の中では常識だった。

「いいんだ母さん。そうじゃないとあいつはまた母さんを利用する

そんなことは絶対にさせない」

「・・・ありがとう」

マリアは涙を流してしまった。組織の連中はかつては子ども達を人質に取り、今度は母親を人質に取って子どもたちをこき使う非道な奴らなのだ。

そんな組織の相手を一樹にさせることが悔しくてたまらないのだ。

「泣かないで、まま

ミル達は大丈夫。私たち一緒にいればどんな奴らより強いよ」

「そうだよ、母さん。俺達は操られるだけの操り人形じゃない」

泣き出してしまった母親を慰める。

「そうね、あなた達は強い。だって私の子供だものね」

 

藤宮 マリア

 

日本生まれのクォーターだが、国籍は違った。

東西に分離されたEU諸国の東。

魔法の発展はかなり遅れている国。マリアはそこを代表する魔法師であった。

聖母マリアという異名を持つ世界最強の魔法師の一人なのだ。

マリアはその言葉で泣くのをやめ、笑顔を取り戻す。

そして、三人は時間を忘れて話し始める。

この時間がこの三人にとって一番幸せな時間なのだった。




長くなってしまって、すみません(´Д`)

誤字や魔法理論の矛盾などありましたら気軽に報告してください。

感想もよかったら書いてください!よろしくお願いします!(^_^)/
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