のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

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お祭りで騒げない系男子

「おいおい、大丈夫かその傷?防具ボロボロじゃないか」

「あぁ、これか。狂竜化ギザミにやられたんだよ!あんにゃろう、俺がどんだけ頑張ってこの防具作ったと思ってやがるんだ・・・」

「あのザックザク刻んでくるやつなー。ま、御愁傷様だな」

 

 

 

「お嬢、極限化だ!森丘でリオレウスが成りやがった!」

「森丘、レウス極限化確認!緊急クエストを貼ります、皆さん奮ってご参加を!」

「また特異個体かしら。放置し過ぎたバチが当たったのかしらね・・・」

「いくらなんだってこりゃ想定外だろ!おら野郎共、レウスコロがしに行くぜぇ!」

 

 

 

「古龍観測隊より連絡!『黒瓜』が移動を開始したとのことです!砂漠より、進路方向沼地!」

「こちらも観測隊より連絡です!『悪鬼』が沼地に到着したとのこと。『禍蛇』がこれに気付くのも時間の問題かと」

「古龍観測隊に伝達、現地ハンター共をベースキャンブに下がらせぃ。伝達員を派遣して『悪鬼』、『禍蛇』に喰い合いをさせよ。恐らくそこを『黒瓜』が潰してくれるじゃろうから、それを倒せばよい」

「ギルマス、俺が行く」

「おい、お前大丈夫なのか!?来週彼女とデート(狩り)に行くって言ってたろうよ」

「心配いらんよ。それに実はな、あいつも沼地の方に今行ってるらしいんだ。ついでに一週間早い狩り(デート)をしてくるよ」

「では、これが任務書じゃ。参加人数は無制限、成功条件は『極限モンスター三体の討伐』。報酬は弾むがネコタクは無いものと思え。お主も合わせて向こうで稼いで来てこい」

「応よ!」

 

 

 

「それにしても、じゃ。ドンドルマの狂竜ウィルス研究所の使いはまだ到着せんのか!?」

「なんせこの狂竜騒ぎですから、到着も遅くなるもんでしょう。言ってても仕方ありませんし、目の前の事に集中しましょう?」

「ギルマス!秘境より救援の到着です!ハンターが七人との事!」

「よぅしそれを全員極限モンスターに当てろ!位置情報を其奴らに公開、好きなようにやらせてやれ!」

 

 

 

 

メゼポルタは今、猛烈に騒がしい。まさにお祭り騒ぎだ。

 

狂竜ウィルスの伝来、狂竜化・極限化モンスターの登場から早一週間。あの日からずっとこんな調子だ。具体的に言えば、メゼポルタ在住のハンターが狂喜乱舞して狩りに出掛けている。緊急事態に対する悲壮感は無く、只々新たな脅威に対する喜びしか存在していなかった。ハンターとは罪な生き物である。

 

しかし、それは『狩りに出る事を許されたハンター』だけの話。許されなかったハンター達は自宅待機を余儀なくされていた。これは大問題である。何が問題かって、

 

 

収入が無い。

 

 

これに反対して、大半の駆け出しハンターは別地方へ飛んでいった。狂竜ウィルスの影響を受けていない所へ向かったり、ここよりも落ち着いた場所へ移動したり。新天地を探しに海を渡ったハンターもいるらしい。

 

そしてメゼポルタに残ったハンターは、狩り以外の方法で収入を得る事を試した。そこで注目を浴びたのは道具を販売する店である。そこで調合役の仕事に付く者が多かった。つまり、俺の行きつけの店の店員さんみたいなことをやってるわけである。調合代行サービスだな。

 

 

それ以外、俺みたいな調合も出来ない極少数ハンターはといえば。

 

 

 

「おぅい!『オニマツタケ添えキングミート弁当』四つくれー!」

「弁当四つ、かしこまりましたー!」

 

 

「『サシミウオのブレスワイン煮ザザミソ添え』四人前くださーい」

「定食四人前、かしこまりましたー!」

 

 

「『ドスヘラクレスのハチミツ漬け』、一ついただこう」

「先輩あんなゲテモノ食う気なんすか」

「解せぬ」

 

 

 

こうして飯屋での臨時雇い等で汗を流しているのである。

 

 

 

 

「よぅ、キリキリ働いてるかー弟弟子よ」

「どちら様でございましょうか」

「はっ倒すぞコラ」

 

 

昼間のクソ忙しい時に野次馬の様に店に来る迷惑客(兄弟子)。俺はそんな人とお近づきになった覚えはございませんが、なにか?

 

 

「まあそれは冗談として。何しに来たんですかシャルドさん。お仕事は休みですか」

「ちょっとした息抜きだな。また今夜には出発するから、」

「おーい!この『カジキマグロの一本焼き』っての、四つくれやー!」

「『シモフリトマトと三種野菜のパスタ』四人前お願いしまーす!」

「一本焼き四つ野菜パスタ四つかしこまりましたー!・・・ってなわけで、食ったらさっさと出てって下さいね」

「お、おう・・・。なんか、頑張れよ」

「勿論」

 

 

もらった給料分は働きまっせ!

 

 

しかし実を言うと、ここで働く利点は給料だけではない。この店はクエストカウンターの広場に面しているため、何か動きがあればすぐに聞くことが出来るのだ。利用客もハンターばかりである為、そっちの噂話にも耳を傾けられる。それ以上に忙しいが。

 

そんな訳で今日も今日とて人の話を盗み聞く。どうやら砂漠で暴れてた『黒瓜』と『悪鬼』が沼地で顔を会わせるらしい。沼地にはあのとき見た巨大蛇、『禍蛇』も居座ってるし、はてさて、この三竦みはどうなるのかねぇ。気分は喧嘩を見世物にする野次馬である。人のこと言えねぇな。

 

それにしても、この『狂竜ウィルス』は元々ドンドルマの方で発見されたんだったか?噂だからどうだかわからんが、本当だったら少し心配である。あそこにはいつだったか世話になったギルド員さんがいるからな。一夜の宿と夕食の借りもあるし、出来れば借りは返しておきたい──

 

 

「なぁ、兄弟」

「おう、どうしたブラザーよ」

「俺、さ。ここ出て故郷に帰ることにしたわ」

「そりゃまた唐突だな。お前の故郷ってどの辺だったっけ?んでもって理由は?」

「俺はドンドルマの街出身でなぁ、昨日母ちゃんから手紙が届いたんだ。なんでも、古龍の襲撃があったらしい。それに加えて、今回の狂竜ウィルス騒動だろ?向こう行って、なんか手伝えることがあるんじゃねぇかって思ってなぁ」

「そういうことか。なに、気にすることはない。俺とお前は運命共同体、一蓮托生のブラザーだ。それがお前のやりたいことなら、俺も一緒に手伝うぜ」

「そ、そうか・・・っ!ありがとう!兄弟よォー!!」

「ブラザーよォーー!!」

 

 

──が、そんなに人生は上手く行かない。謎の拍手喝采。客であるバケツヘルムの二人の寸劇を聞いて、俺は心中穏やかじゃいられなかった。

 

古龍の襲撃、聞くにそれ自体はドンドルマではさして珍しいものではないらしい。ラオシャンロンやシェンガオレンといった超巨大モンスターの散歩道に街があったり、テオ・テスカトルやらクシャルダオラやらルコディオラなどがよくちょっかいをかけてくるため、ちょくちょくメゼポルタにも古龍迎撃クエストが回ってくる。

しかし、ドンドルマは少し前に大規模な襲撃があったばかりの筈だが。結構な被害がでたと聞いているし、復興もまだ終わってないんじゃないのか?

 

それとは別に、一週間ずっと気になってたことがある。俺が渋々ハンターを始める切っ掛けになった出来事だ。あの時ブローダさんら三人が倒していたモンスターは『アビオルグ』というモンスター。非常に獰猛な奴で、常に誰かと争っている傍迷惑なモンスターだ。

しかし情報元(ブローダさん)曰く、『獰猛だが狂暴ではない。非戦闘員しか居ない村で暴れるのはあまりにもおかしい』とのこと。そこで考えられるのが狂竜ウィルス、それによる狂暴性の強化である。

 

・・・まぁ、何年も前の話だ。その頃から狂竜ウィルスがあったとしたら色々辻褄が合わなくなるし、何か別の要因があったのだと思う。例えば、周りか弱いやつらばっかでストレスが溜まってた、とか。

 

なんにせよ、これはチャンスだ。どうせここに居てもずっと細々とした金策しか出来ないだろうし、向こうに行って返せる恩は返しておきたい。もし復興中で人手が足りないとかだったら、いろんなクエストが回ってくるかもしれない。向こうにしか居ないモンスターも当然居るだろう。あぁ、楽しみである──

 

 

「・・・ははっ、俺も大分染まってきたなぁ」

「『ドテ煮カボチャ』追加で二人前頼むわー」

「カボチャ二人前かしこまりましたー」

 

 

ブローダさんの地獄特訓を経て、少しながら経験以外にも得ることがあった。『狩り』というものの楽しさ、である。

 

いつだったか、攻撃をひたすら避けている時にふとモンスターの目が俺の視界に入ってきたときがあった。

輝かしい目だった。自分の持てる力を尽くして、ただ一心に俺を潰そうと、自らの命を燃やすように光っていた。

羨ましいと思った。俺はこの十五年半、今の今までこんな目をしたことがあっただろうか。命を課してまでやり遂げたいと思ったものはあっただろうか。

俺は何時だって斜に構えて、ひどく冷たい目で世界を見ていた。この世界に楽しいものなんて無いだろう、と根拠もないのに達観していた。

 

そのときの狩りは、心の底から熱くなれた。いつものように『死なないように』ではなく『相手の更にその上を行くために』やれば、見る世界がまるで違って見えた。

今でも狩りが命の危険がある仕事だというのは忘れていないし、やっぱり安全が一番だとは思う。しかしそれでも、あの時の熱さを思い出しに危険に飛び込んでいってしまう。

 

『ハンターは究極の被虐趣味者で加虐趣味者』という言葉がある。まさにその通りだろう。自らを命の危険に晒すことでしか、自らの力で危険をねじ伏せることでしか、自らを奮起させることができない。

 

俺もその境地に片足突っ込んだわけだ。決して抜け出せない狂人の境地に。

 

だから、今は狩りが楽しみだ。何よりも、どうしようもなく。

 

 

まぁそれ自体は、仕事にやりがいを感じ始めたってことでいいとして、とりあえずは──

 

 

「このことを、ブローダさんに打診しなきゃならんなぁ」

「おーい!この『ドスヘラクレスのハチミツ漬け』四つくれー!」

「あ、それこっちにも三人分頂戴!」

「こっちも、思いきって八つだ!」

「『ドスヘラクレスのハチミツ漬け』四つに三つ八つかしこまりー・・・。冗談だろオイ」

 

 

この日、ドスヘラクレスのハチミツ漬け(吐き気すら催すゲテモノ)は開店史上最多販売数を記録したそうな。

 

 

 

 

 

「はーい、どちら様で・・・あら、トウマ君じゃない」

「こんばんはファリナさん。ブローダさんいますか?」

「えぇ、いるわよ。さ、どうぞ入って」

「失礼します」

 

いつもより少し早めに仕事を抜けさせてもらってすぐ、俺はブローダさんら三人の借家へとお邪魔しに行った。借家っていってもそこは最上級ハンターだ、借りる家も豪邸・・・まではいかないがかなりの広さを持つ。少し羨ましい。

 

何回も中に入ったことがあるので、ブローダさんは直ぐに見つけられた。一番奥の、自分の部屋で武器のメンテナンスをしていた。

 

 

「ブローダさん、ちょっとお時間もらってもいいですか?」

「・・・ぁあ?お前か。許可する、手短に話せ」

「俺に・・・、いや、俺をドンドルマに行かせて下さい!」

 

 

頭を稼働域ギリギリまで下げ──

 

 

「バカ言え。出来るわけねェだろンなこと」

 

 

──即座に、はっきりと、否を突きつけられた。

 

 

「いいか?ドンドルマに行くってことは所属するハンターズギルドを替えるということだ。それには多大な費用がかかる。具体的には、モンスターの素材由来の武器防具の没収、持っていく物以外の道具素材の没収。少なくない金額を払わにゃならんし、信用も実績もその時点で零になる。少ねェ手持ちと自分の実力以外、全てを捨てることになんだよ」

 

 

ブローダさんの双眸が、鋭く、強く、俺に刺さる。

 

 

「ドンドルマの現状は俺の方にも聞こえてきてる。だが、俺の修行の基礎の基礎で手一杯な程度のてめェに何ができる?向こうはこっちと違ってごり押しは通用しねェ、戦い方の勝手が違うんだよ」

 

 

声が、深く、荒々しく、俺の胸を抉っていく。

 

 

「思い上がんな、テメェは雑魚だ。そこらの凡百じゃあ、何をしても無意味なんだよ。諦めてじっと耐えろ、それもハンターには必要な事だ」

 

 

話は終わったとばかりにブローダさんは視線を外して、再び武器を手入れし始めた。

既に俺の心は満身創痍で、直ぐにでも謝ってここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

まるでその通りだ。俺はまだまだ弱いし、そんな奴が行ったところで何も変わらないだろう。

 

だけど、これは他人がどうとか、意味がどうとか、そういう話だけではないのだ。

 

 

「それでも・・・」

 

 

ギロリ、と再びあの眼光が俺を突いてくる。ここで怯んじゃ駄目だ、勢いに乗って押し込む!上げていた頭を再び限界まで下げ、はっきりと噛まないように宣言した。

 

 

「それでも!俺は!ドンドルマに行きたいんです!」

 

 

言い切って、ふぅと一息。なんとなく相手の顔は見たくなくて、俯いたまま話を続ける。

 

 

「確かに俺は弱いですよ。向こうに行っても何も変わらないだろうし、まず何か出来るかも怪しいです。でも、それでも俺は向こうへ行きたい」

 

「このままここで強くなっていくのもそれはそれでいいとは思います。けど、俺、初めて『心の底からやりたい事』ができたんです!」

 

「俺は・・・、俺はこのまま生きていきたくはない!」

 

 

俺の、『人生初』の、我が儘。

 

それに対する答えは簡潔で。

 

 

 

「そうか。それなら好きにしろ。俺は知らん」

 

 

「・・・・・・えっ?いや、でも、ブローダさんあんなに──」

 

 

「知らねェっつってんだろ。俺は『赤の他人』と話すのは一度っきりだ。さっさと失せな」

 

 

 

こちらを見るその目にはありありと『無関心』が現れていた。

 

 

「・・・失礼します」

 

 

破門、という言葉が頭に浮かんだ。

 

思うところは多々あるが、後悔は無い。

 

 

 

 

ガチャリ

 

 

「「あっ」」

 

「えっ」

 

「・・・えっと、まぁ、なんだ。子供は大人に反抗してなんぼって言うし、やりたい事をやりに行くならそれで良いんじゃねぇの?」

 

「そ、そうそう。人生一度きりだものね、時間は無駄にしない方がいいわ」

 

「・・・なんか、すみません。御三方の期待を裏切るようなことをしてしまって」

 

「なに、良いってことよ。俺らが言いたいことは、単に『死ぬなよ』ってことだけだ。死ななきゃまた会えるもんな」

 

「とはいっても、私達次こっちに戻ってくるのがいつになるかわからないけどねぇ・・・」

 

「お二人は、また秘境に行かれるんですか?」

 

「応よ。ブローダさんあのままほっておけねぇからな。俺らが止めてやらねぇと」

 

「なんだかんだ言っても、あの人には育ててもらった恩があるからね。死ぬまで面倒見てやるわよ」

 

「そうですか。・・・それじゃ、俺はこれで!お二人とも、御幸せに!」

 

「ば、ババババッカ野郎何言ってやがんだべらんめぇ!」

 

「フフッ、ありがとう!あなたこそ、伝えられた思いにはちゃんと応えてあげるのよー」

 

「?・・・わかりました。それではまたいずれ、失礼しました!」

 

「おう!またな!」

 

「またいつか会いましょう!」

 

 

 

 

 

 

あれから二日、俺はいつかも来た竜車乗り合い所にいた。

 

あの後は色々あって、すぐに過ぎてしまった。数少ない関係各所に挨拶を済ませて、ついでに工房で急ピッチで一つ仕上げてもらって。世話になった奴に挨拶できなかったのが心残りだ。なんでも、別の工房に修行しに行ってしまったのだとか。

工房で依頼をして、ギルドの審査を受けて有り金と素材、武器防具をほぼ全部引き渡して、仕上げてもらったものを受け取って、今ここにいる。つまり裏道を通って来たわけで、さっさとずらからないと取っ捕まえられるかもしれないのだ。

 

竜車の乗車賃を買って、すっからかんになった銭入れをバックに押し込んで竜車に乗る。

 

そんな俺の腰に隠しながら下げられているのは、一振りの片手剣。鮮やかな黄色刀身に、きらびやかな金色と黒色の輝く装飾。故郷からここへ持ってきた両親の防具の素材を再加工して作った片手剣だ。

レックスSとダマスクの素材を中心に金獅子や舞雷竜、更には工房長のおまけであるモンスターの端材を使って補強加工したそれは、雷に対してかなり高い親和性を持つという。

盾も一緒に持てと勧められた(脅された)ので、それも別途発注した。こちらは多殻蟹と棘竜の素材をふんだんに使った小盾である。

 

俺の他には男二人しかいないがらんどうの車内で、外の見える席をとる。

 

もちろん見送りをしてくれる者などいない。それでもいいと思うわけではないが、思うところがあるわけでもない。非常にさっぱりと、いや投げやりな気持ちだった。

持つ者は、なるように成るのだ。俺はただ持っていなかっただけ。

 

 

「あれ?君ってもしかしてゲテモノ売りの店員さん?」

「なんじゃそりゃ・・・って、もしかしてあのピンクバケツブラザーズ!?」

 

 

新しい話仲間を手に入れつつ、新しくスタートを切った。

 

同じようなものだけど、決定的に違うものがある。

 

 

知識がある。

 

技術がある。

 

自信がある。

 

なにより、目標がある。

 

 

三歩進んで二歩戻った。ならば次は四歩進んでみせよう。

 

 

この恐ろしく、辛い、素晴らしい世界で。






のんべんだらり狩猟紀行、完!
~手巻きおにぎり先生の次回作にご期待ください~

嘘です冗談です。まだ続きますよ。


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