のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

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人間一月会わなければ

ジュウ、ジュウゥゥ

 

 

「ふふふん、ふふふん、ふふふん、ふふふん、ふんふんふんふんふん♪」

 

 

にくのやけるような、いいにおいでめがさめた。

だれだよ、こんなとこでにくやきしてるやつは。

 

おきあがって、目をこすって、ぐっと一伸び。

ふぅ、大分眠気が飛んだかな。まだ若干頭がぼうっとしてるが。

空を見る。赤い空が目に染みた。朝焼けってのはないだろうから、おそらく夕方か。

 

 

「お?起きたんかいな。ほれ、肉食いや。起きがけにガッツリってのもええもんやで?」

「んー?・・・おう、んじゃ食わせてもらおうかな」

 

 

視界外から現れたこんがり肉を手に取り、ガブリと一口。

うむ、噛んだ瞬間から溢れ出る肉汁がたまらん。しかしアプトノスともブルファンゴともポポともモスとも違う食感だな。飢えに耐えかねて食った鳥竜種どもとは比べるまでもない。何の肉だろうか。

 

 

「どや?うちの焼いた肉は。なかなか旨く焼けとるやろ」

「んん、合格点。けどなぁ、こんなに肉汁があるんだったらもっと内まで火を入れたほうがいいぞ。生の血と混ざってえぐくなる」

「なんやの、それ。完全にあんたの趣味趣向やないかい」

「旨いもんを旨いように食べる。なにか悪いことがあろうか──」

 

 

肉をもう一口分噛みちぎる。しかしこれはこれで旨いのも事実、最後までしっかりと食わせてもらおう。

 

 

 

──いやいやいやいや、まて、ちょっとまて。非常に今更なんだが今俺の隣で肉焼きの自慢をしているこいつは誰だ。

寝起きでぼーっとしてたから全然考えもしなかった。そもそも俺が寝る前に誰か他の客がいたか?寝た後に来たとしたら、あれからいったい何時間経っているのだろうか。

 

 

「な、なぁ。お前って、いつぐらいにここに──」

 

 

隣を見ると、ニヤニヤとこちらを見てくるアン子の姿が。

・・・なんだ、夢か。

 

 

「わり、夢だったわ。寝直す」

「いやまってぇな!なんで夢なん!?どっからどう考えても現実以外ありえへんやんか!」

「いやだって、それこそありえんだろ?アン子は一月程度前にメゼポルタを出発して、どこへ行ったかもわからないんだよ。なのにそれがいきなり目の前って・・・。信じられん、寝直す」

「んじゃあトウマん!あんたさっきおもっきし肉食ぅとったやろ?それはどうなんや!」

 

 

むぅ、それもそうだが・・・。しかしだからといってこの状況が信じられないものであることは変わりない。

・・・だとしたら、偽者か?

 

 

「それじゃ、お前のあだ名はなんだ」

「な、なんやのいきなり・・・」

「いいから、答えろや」

「はぁ?・・・アン子」

 

「俺の非常食と言えば?」

「モスジャーキーのー、たしかグラビモスハード」

 

「俺のホルクの名前は?」

「ああ、あの可哀想な名前な。ホル吉やったか」

 

「お前が出てったのはどんな時だ?」

「どんな時って、そんなに根に持たんでぇな・・・。トウマんが留守しとった時や」

 

「俺がお前に話した『誰にも話したことのない秘密』ってのはなんだったか?」

「はぁ?・・・んなもん知らんわ。聞かされた記憶もない」

 

 

「ふむ、本物か・・・」

「うち疑われとったんか!?つか最後のあれは知らんので正解だったんかい!」

「そりゃそうだろ。俺はそんなことはお前にゃ話さん」

「信用の低さが露見しよった・・・ッ!」

 

 

仰向けにばたんと倒れるアン子。悪いな、俺の信用はハードルが高いんだ。

しかし。これが本物だとすると、本当に現実なのか。疑わしいが、事実であるというのか。

・・・まぁ、拒絶する理由も無し。こうなった以上素直に信じるとしようか。

 

となると、気になるのはアン子がなぜここにいるのかということである。

 

 

「あー、なんとなしに次のトウマんのセリフ解ったで。『なんでうちがここにおるんかー』、やろ?」

 

 

どや顔を決めてきた。非常にムカつくが、合っている。

 

 

「どや顔すな。んで?なんでここにいるんだよ」

「いやー、ここまで来るのにうちも山あり谷あり大冒険があってやなぁ──」

「そういうの要らんから。端的に、簡潔に、どうぞ」

「えー、少しぐらい聞いてくれたってええやんかー」

「聞いてやるから。端的に、簡潔に、どうぞ」

「えー、少しぐらい──」

「端的に。 簡潔に。 どうぞ 」

「・・・少し」

「さっさと言わんか」

「メゼポルタ出てバルバレってとこ行ったら『我らの団』ってとこに拾われて冒険して古龍倒してドンドルマ危なくなって助けに来た!」

「はい、ご苦労。・・・古龍って、お前」

 

 

ことも無さげに言い切ったのが信じられない。

・・・まあ。端的に、簡潔に、と催促したのは俺だけどもさ。

 

 

「なんや。端的に簡潔に言いよったんはあんたやろ、なんも説明したらんで」

「求めとらんから必要ないが、まぁそうむくれるなよ。んで?今回は何を狩りに」

「んー、今回は『セルレギオス』っちゅうもんを狩りにな。黄色のこーんな松かさなんやけど、なんか知らへん?」

 

 

そういってアン子は両手を首の横において上に向ける。首元の何かが逆立っているということなんだろうか。松かさ・・・ってのはなんだったか、なんとなく輪郭しか思い付かん。

 

しかしまぁ、黄色の、ってのには覚えがある。

黒瓜の土手っ腹に穴を開けた、あの素早いやつは黄色だった。

 

 

「逆立った何かも松かさも知らんが、黄色いのは寝る前に見た。黒瓜に猛攻撃を仕掛けていたよ」

「さよか!んで、黒瓜っちゅうもんはなんや」

「黒瓜、そうかこっちではそう言わないか。なんて説明すべきかなぁ。黒?緑?二足歩行で、古傷が背中の方で赤々と」

「あーはいはい、はいはいはい。成る程な、あれな、あれやな。トウマん、あんたが見たっちゅーのはな。『イビルジョー』っつって、何処にでも突然現れて何でも食い荒らしよる傍迷惑なやつや。よー生きて帰ってこれたな」

「そんなにヤバイ奴なのか、あいつは」

「ヤバイも何も。上位区画におけるクエストでの死者は、半分はあいつらの腹ん中って言われるぐらいやしなぁ。言ってるうちかてまだ一体しか狩っとらへんし」

「やっぱ何処でも世紀末なんな」

 

 

誰だそんな化けもん作ったやつ。

 

 

「んで?トウマんはなんでこっち来た。態々こっち来ーへんでも、向こうで悠々生活できるやんけ」

「俺?俺はー・・・、強いて言うなら、もっと自分を成長させに、だな」

「なんや、それ。トウマんそんなキャラやったっけ。なんか似合わへんわ」

「言ってろ。俺だって成長するってことだよ」

 

 

自分でも想像出来なかったがな。

 

十数年間停滞していた時間が動き出して、明日を望むようになった。

これって人として、かなりの変化だと思うんだ。

実際、まだ自分でも不思議な感覚だし。

 

 

「そっかぁ。・・・うん、確かにトウマんかっこようなった」

「なんだよいきなり。ドキドキノコ食って頭でもおかしくなったか?」

「ちゃうわ!なんかこう、生きる希望に溢れとるっちゅうか、生気が漲っとるっちゅうか。今のあんたの方が好きやで、うちは」

「す、好きって、お前・・・。バッカ、なに言ってんだよ」

 

 

よくもまあそんなことを人前で言えるもんだよ。

・・・そういや周りに一人っ子一人いない場所だったか。なんかニヤニヤしながら見てるアイルーが見える気がするが、居ないったら居ない。

 

 

「へっへ。なんや顔赤くしよってからに、女々しいなぁ。なんや、恥ずかしかったんか?うちみたいな可愛い女の子に好いとる言われて恥ずかしくなっちゃったか?うりうりー」

「バッカお前!んなことねーし!顔なんて赤くなってねーし!恥ずかしくなんか・・・」

 

 

ああいかん、なんか話が変な方向に曲がってきたぞ。

元の筋に戻さなければ。えっと、なんの話してたんだったか・・・

 

 

「まぁ、トウマんの可愛い反応見るんはこの辺にしておいて・・・。おらミケ!自分何をこっち見とるんやゴラァ!」

「ニャんだと!おミャー、また俺のことミケ呼ばわりしたニャ!?俺には『シャム』という師匠から貰った偉大な名前があってだニャー!!」

「アァ!?んなもんシャムもミケも変わらんやろが!さっさと周囲状況報告しぃ!!」

「うニャニャ、こんの小娘が・・・!」

「猫風情に言われたく無いわボケ!」

 

 

・・・なんだが落ち着いたわ。

 

アン子とアイルーの喧嘩。話を聞くに、おそらくはパートナーとかそんな感じなんだろう。とても仲が良さそうだ。

・・・良さそうか?良さそう、だな。うん。

 

 

「まあいいニャ。寛容な俺はおミャーの無礼も許してやるニャ。感謝しろニャ」

「あんなトウマん、こいつは『オトモアイルー』っつってな。まああれや、いわゆるパシリみたいなもんだと思ってもらえりゃええわ」

「うんニャーー!!!腹立つニャ!表出ろニャ!俺直々にぶちのめしてやるニャ!」

「ほぉ冗談でも大口叩いたんなら言うだけのことはやってくれるんやろなぁ、オイ?上等や受けてたったるで!」

「落ち着けお前ら」

 

 

なにこいつら怖い。

 

え、なに?こいつらこんななりでパートナー同士なの?

仲良すぎだろオイ・・・

 

 

「っと、せやな。おらニャンコさっさと報告せんか」

「ぐ、ぐニャニャ。・・・周囲は酷い有り様ニャ。辺りは血塗れ、生き物は虫一匹すら居らず。それがここら一帯に広がってるニャ。んでもって、区画(エリア)4に死体発見ニャ。それもイビルジョー・セルレギオス双方の」

「両方なぁ・・・、って両方!?同士討ちってか。まぁ珍しいこともあるもんやなぁ・・・」

「イビルジョーってのは相当やばいんだろ?それと相討ちって、セルレギオスってのもかなりの奴なんだなぁ?」

 

 

そう俺が質問すると、アン子は少し考える素振りを見せ、俺の質問に答えた。

 

 

「うんまぁ、確かにセルレギオスも強さっちゃあかなりのもんや。けど正直・・・、イビルジョーと相討ち出来るかって言われちゃ、疑問やなぁ」

「しかもそのイビルジョー、どうも通常個体じゃないみたいなんニャ。狂竜ウィルスの残留を肉片から確認したから、恐らくは狂竜化個体。さらにその上セルレギオスはただの通常個体だったニャ」

「んなアホな・・・。どう考えても同士討ちなんてありえへん、こりゃ第三者の乱入が起きたと考えて然るべきやな。いや、つってもこの二体を始末できるモンスターなんて他におるとも思えんし──」

 

 

なんだかぶつくさと呟きながら思考するアン子。こちらは非常に暇である。

・・・そうだ。

 

 

「なぁオトモよ。この相討ち現場になんか変なものとか落ちてなかったか?」

「変なものってなんニャ。これは非常にデリケートな問題ニャ、駆け出しのぺーぺーは口を出すなニャ」

「まぁまぁそう言うなって。例えば、そうだな。イビルジョーでもセルレギオスでもない者の鱗や体毛、だとか」

「うんニャァ、そういやそんな物も拾ったニャ。えーっと、あったあった。おい、ご主人」

「なんや。真犯人でも見つかったんか?」

 

 

オトモアイルーの、たしかシャムとか言ったか。そいつが腰に着けていたポーチからガサゴソとなにかを取り出した。

 

 

「まぁ近いようなもんだニャ。ホレ、こいつが死体に付着してたものニャ。恐らく、真犯人の手がかりだと思われるニャァ」

「ほぉ、どれどれ・・・。白い鱗と、金色の毛?なんやろ、ラージャンでも通ったんかいなぁ。いや、つっても白い鱗なんか・・・。いや、それこそまさかやしなぁ」

 

 

ラージャン。

超攻撃的生物とも称される牙獣種である。見てくれは黒色の角の生えた猿、といった風貌なのだが、これがまたべらぼうに気性が荒い。

大型モンスターと会えば殴りかかり、ハンターがくれば殴りかかり、終いには一人佇んでいる時にも周囲を威圧しだす。

さらにこれは、ぶちギレると黒い体毛を金色に染め上げて襲いかかってくるのだ。その恐ろしさは筆舌に尽くしがたいものであるから、ここでは省略する。

 

つまりアン子は、激昂時の金髪が落ちていたのではないか、と。そう判断したわけである。

 

しかしそれだと白い鱗の説明がつかない。ラージャンは基本的に猿なので鱗は無いわけだし、仮にあるとしても黒であろう。白ではない。

 

 

「んー・・・、わからん!ここで推論しとってもなんも解決せんし、そもそも狩猟対象がおらんのやったら話にならん。トウマん、うちはもう帰ることにしたけど、あんたはどうするん?つかトウマんはここに何をしに来た」

「俺か?俺はここにゲリョスを狩りに来たんだが、それもイビルジョーとやらに食われちまってなぁ。そのままリタイアしようと思ったんだが、ちと深刻な問題があってだな・・・」

「なんや、問題って。話してみぃ、うちがサクッと解決したるわ!」

「非常に個人的な問題で、他人を頼るのもおこがましいものだと自覚はしてるんだがな。聞いてくれるとすごく助かる──」

 

 

アン子に事のあらましを話した。

 

俺がメゼポルタを出るときのこと。

やって来た後のこと。

次の日の朝のこと。

昼のこと。

 

 

「──まぁそれで今に至るわけだ」

「ちょっと待ちぃな。あんたどんだけ危ないことしよってん。分かっとるか?命の危険すらあったんやぞ」

「分かってるって、だから困ってるんだ。このままじゃ良くて追放、悪くて抹消だ。だからどうにかして上手く帳消しに出来ないかと色々悩んでたんだよ」

 

 

それを聞いたアン子の顔に、ありありと呆れの表情が浮かんだ。

しかしそれも一瞬のうち。すぐに何かを決意したかのような、しっかりとした表情を見せた。

 

 

 

「ま、そういうことならうちに任せとき。『我らの団』ハンターのネームバリュー、見したるわ」

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