のんべんだらり狩猟紀行 作:手巻きおにぎり
けれど見た方がより深く楽しめる、かも
そんなお話。
ドンドルマに戻ってきて、本日で四日目。
貸家で気持ちのいい朝を迎えた俺は、狩りの支度を始める。昨日の採取ツアーとやらで、ちょっとしてクエストを受けられる位の金は貯まった。なので本日は本格的な狩りに出ようと、そういうことである。
昨日までに集めた道具をポーチに詰め、武器防具を装備して外に出る。防具はハンター一式、武器は作った片手剣──そろそろ名前を決めなければならない──である。ハンター一式は駆け出し用の軽鎧なので非常に心もとないが、片手剣の方は『メゼポルタ周辺の変異種共にも
道具類であるが、此方は昨日森に平地に崖の上にと駆け回ったお陰で薬の類いは充実した。罠や閃光玉などの妨害系は不揃いであるが、そんなものに頼るほどの奴はまだ狩りに行かない。こちらも大丈夫だろう。
家を出て広場までは、商業区を突っ切っておおよそ
とは言っても買い物を楽しむ位の金は無いので、大抵が冷やかしに終わるのだが。
「あうあう!そこの兄ちゃん!ちょっと寄ってかんかい?」
「俺?・・・悪いが、今は手持ちが空なんだ。また今度寄らせてもらうよ」
「そうかえそうかえ!まあハンターなんてなんぼでも稼げる仕事よな!うちはそーゆうのも相手しとるけぇ、入り用なったらご贔屓に!」
「お、おう。またな、じーさん」
お金は世渡りに必要な物である。
「そしたらね!そしたらね!炉がドーンッ!って火柱上げたの!グラビモスのかったーい甲殻が、バッカーンって割れてぐにゃぐにゃになっちゃったの!」
「へぇ・・・!!すっごいですね!グラビモスの甲殻が壊れるぐらいの火柱を上げられる炉・・・。何か凄い秘密があるのでは!?」
「・・・まぁ、確かに。そんじょそこらの炉とは一味違う・・・」
「うちの技術とおししょーの知識を組み合わせて作ったんだよ!えへんっ!」
「ぐ、具体的に教えてもらえませんかっ!?技術ってどんな!?知識ってどんな!?すっごーい!!」
「・・・竜人族や土竜族が長い間培ってきたものだ、そう簡単には教えられん・・・」
「むぅ・・・」
なんだか騒がしい鍛冶屋がある。子供、しかも女が二人騒ぎあっていて、大柄の男が黄色の子供──身内なのだろう──の説明を補足している。
子供の方は鍛冶士見習いなのだろうか。まさか本当に鎚を振るっているわけではあるまい。
・・・そういや、メゼポルタにも似たような奴がいたな。えっと、名前は何だったか──
「そんでねぺーちゃん!その後おししょー紅蓮石とか煉獄石をね、ばんっ!ていれたの。するとね、またグラビモスの甲殻がバコーン!ってね」
「更に温度を上げるんですか!因みに、どんぐらいまでの温度なら大丈夫なんですか!?」
「・・・火柱が上がる程度だ。一千度は下らないだろう・・・」
「へぇ・・・!!」
──そうそう。確かぺ何とかだったと思う。
何だったかな。ぺ、ぺ・・・。ペヨン、違うな。ペケポ、違うな。
俺ってこんな忘れっぽかったかなぁ?うぅんと──
「そ、それじゃあ!・・・いえ、ちょっと待ってもらっててもいいですか?」
「うん?別にいーけど。ね、おししょー?」
「・・・ああ。どうせお嬢が帰ってくるまでは暇だ。どんな用事を思い出したかしらんが、ゆっくりと解決してこい・・・」
「ありがとうございます!ではでは・・・」
──うーん、思い出せん!
とりあえずさっさと受付に向かうかな。分からんものを考えてても仕方ない──
「んーっと、トウマくん?君もドンドルマに来てたんだね?」
「・・・んお?俺か?」
「そうだよー。なに、もしかして私のこと忘れちゃったの?」
「・・・ふむ、そっくりさんじゃなさそうだな。勿論覚えてるぞ。えっと・・・」
「覚えてないじゃん!ほら私だよ、私!一月ぐらい前までメゼポルタにいたじゃん!」
「いやー、それは覚えてるんだがなぁ・・・」
名前何だったか、なんて口が裂けても言えない。
ええい、こうなったらあてずっぽうだ!
「えっと、ペヨン・・・だったがぐぼぁ!?」
「鉄槌制裁!」
腰に付けていた小槌で殴られた。どいつもこいつも俺の扱いがひでぇ。
「もー、名前忘れるとか、信じられない!いい?私の名前は『ペイファ』っての!オッケィ!?分かった!?」
「りょ、了解であります・・・」
女の名前は忘れちゃいけない。このことだけは死ぬまで覚えておこうと、そう思った。
「ぐっへ、全く、少しは加減しろよな・・・」
「自業自得だね。そんで?なんで君がここに居るのさ。向こうでの生活はどうしたの?」
「あぁ?・・・んなもん知らん。全部向こうに捨ててきた」
まだ、全てを捨ててこちらに来たのが良かったのか、それははっきりと分からない。まぁなんせまだ来て四日目だからなぁ。
「そ、そっか」
「それよりお前はなんでなんだよ。親方がどっかの町に修行に行ったとか言ってたが。それがここなのか?」
「そーそー、それがここなわけ。・・・ま、実のところもっと他に理由はあるんだけどね」
ふぅん、他の理由ねぇ。ま、そんなの人それぞれだろう。
しかし、鍛冶士か。あれについて相談してみるのといいかもしれんな。
たしかポーチに突っ込んであったはず・・・っと。あったあった。
「なぁ、一つ聞いてみてもいいか?実はな、前に原生林で変な鱗を見つけたんだ。何か知らないか?」
そう、あの空から落ちてきた鱗だ。あれ以来、しばしば頭痛が再発するようになった。出来ることなら早く捨ててしまいたいものである。
しかしどんな値が付くかもわからんので、迂闊に捨て置けないのだ。
「どれどれ?ふむ、白に黒か。確かに、自然物としては明らかに変な色合いだね。・・・これ、少し借りてもいい?」
「あー、ならしばらく持っててくれ。これから狩りに行くから、そう時間が取れんのだわ」
「りょーかい。んじゃ、今日の夜か明日の朝ぐらいに寄ってね。分かったことは話すから」
「応よ」
これで心配事が少し減ったってもんだ。
荷も軽くなったことだし、早速狩りに出掛けるとしよう。
───
次の日である。
その日中に簡単なクエストを終わらせて帰ってきた俺は、早速結果を聞いてみようと早起きをした。
しかし、外に出た辺りではたと気がついたのだ。
「どこに行ったら、話聞けるんだろうなぁ・・・?」
昨日は道途中の鍛冶工房にいた。しかし多分だが、あいつはあそこの職人ではないだろう。炉の秘密とか聞いてた筈だし。
「しかし他にヒントになる物も場所もなし。とりあえず行くだけ行ってみるかな・・・」
結果も非常に気になる。なんとか探して聞き出したいところであるが・・・さて、見つかるかどうか。
「あっ、来た来たー!おーい、こっちだよー!」
心配は杞憂に終わったようである。昨日と同じ場所で、ペイファは俺を待っていた。
「よう。首尾はどうだ?」
「もちろん上々さ!・・・とはいかなかったんだよね、これが。その辺も含めて少し話さなきゃいけないんだけど、まぁなにはともあれ、上がってよ」
そういって工房の奥を指差す。
・・・どうやら部屋のようなものがあるらしいが、勝手に上がって良いのだろうか。他人の住まいな訳だし。
「・・・いやまて、勝手に上がってもいいもんなのか?ここ、お前ん家じゃないだろう」
「今日一日は許可を貰いました!安心してちょーだい、中は割りと広いから。ささ、どーぞどーぞ」
「おい、ちょ。押すなって。わかったから」
そんなこんなとコントを挟みつつ、中に上がらせてもらう。
実は内心わくわくしていたり。鍛冶士の住まいを覗かせてもらうなんて機会は、まずなかろう。
部屋はいたってシンプルであった。
着替えが入っているであろう棚、高さの低い机に座布団。一部可愛らしい小物が飾ってある一画があるが、子連れなのだろうか。
そして何より──
「やっぱ狭いな!もう一人でも入ってきたらギッチギチになんじゃねぇか」
「我ら鍛冶士は一人部屋が基本なのです。これでも広いほうなんだよ?」
一人用の部屋(物理的に)ってか。ハハハ、笑えねぇ
「まぁそんなこたどうでもいい。早速結果を聞こうじゃないか」
「はいはーい。んじゃ、まずは現物の返却からだね。どーぞ」
腰のポーチから、布に包まれた物品が取り出される。布を開いて確認すると、そこには変わらず奇妙な配色な鱗が。
「確かに受け取った。んで、どうだったんだ?勿体ぶらずにさっさと言えよ」
「はぁ、せっかちさんは嫌われるよ?・・・その鱗ね、調べても
「・・・ま、そりゃそうか。俺も向こうで結構な種類のモンスターを見てきたが、こんなへんちくりんな鱗の奴はいなかった」
だからまだ俺よりもこっちに詳しそうなこいつに聞いたんだが・・・どうも無理だったみたいだな。
まあ元より少しでも分かれば儲け物と考えてやったことだ。無理だったからと責める訳にもいくまい。大人しく引き下がると──
「まぁそう落胆せずに聞いてほしい。その鱗ね、白の部分と黒の部分、別々のモンスターの鱗の素材で構成されていることが分かったんだ」
「──別々のモンスター、ね。種族の垣根を越えた異種配合とかか。そんなこと自然界で起こりうるのか?」
「別々のモンスターといってもこれまた面倒でね、幼体と成体で別種と決められているものなんだ。ゴア・マガラとシャガルマガラ、って言うんだって。知ってる?」
「いーや、全く。ふーむ、今度アン子にも聞いてみるかな──」
「その事なんだけど」
なんだ?ペイファの目が、今キラリと光った気がした。 そしてこの流れは記憶にある。確かフリィラに尋問された時と似たような流れだ。
最早逃げられまい、腹を括った。
「トウマくん、棟梁の娘さんとお知り合いだったんだね?なんで言ってくれなかったのさ」
「・・・ん?誰だ棟梁の娘さんって。アン子──アーリィンの事を聞くんじゃねぇのか?この流れだと」
「だから、その流れ。知らないとは言わせないよ、なんで私に隠してたの。ねぇ!」
剣幕が激しく、捲し立てるような尋問。からかい半分ではなく、どうもかなり深刻な問題みたいだな。
・・・ふむ。
「とりあえず落ち着こう。まず、お前が言う『棟梁の娘さん』即ち『アーリィン』。これは合ってるか?」
「何を当たり前のことを・・・!勿論だよっ!!」
「それで、だな。残念ながら、俺はアーリィン──アン子について、特に昔話の類いはこれっぽっちも聞いていない。」
「──ッ!?な、なんだよ、それ。じゃあ、あいつは、自分の生い立ちや過去、全部、無かったことにして、生きていくつもりだったっての・・・!?」
ポタリ、ポタリ、と。
なんだか、悪いことをしてしまったような雰囲気になってしまった。俺は事実を言っただけの筈なんだが。
それに客観的に見てみると──
『泣き崩れる女の子に、それを唯見守る男』
──どう善意的に捉えても事案発生です、本当にありがとうございました。
「・・・あー、なぁ。もし良ければ、何があったのか教えてもらえないか?よく分からんが切羽つまった用なら、俺も説得を手伝えるかもしれんだろ?」
すまん、これ以上は無理だ。なんとか機嫌を直してくれ・・・!
「っく、ぐずっ。ごめん、なんかいきなり怒鳴ったり、泣いたり。・・・経緯については、あいつから聞いて。それで向こうに理があると思ったら、向こうに着いてもらってかまわないから」
「わ、わかった・・・。なんとか機嫌が直ったようで、助かる」
「一言少なければ完璧だったのになぁ。フフッ、いや分かってるよ。湿っぽい話は終わらせて、結果報告の続きをしようか」
なんだか笑われてしまった。解せぬ。
『結論から言えば、本来脱皮の際に全て生え変わる筈の鱗が、何らかの理由で混ざったことになる。モンスターがモンスターなだけに大事にせざるを得ないから、ドンドルマギルドや狂竜ウィルス研究所にも報告しておいたよ』
家に帰ってベッドに寝そべり、大騒動の発端となるだろう鱗を眺める。
ゴア・マガラ、シャガルマガラ。幼体と、成体。
ドンドルマの襲撃、『白骸魔』。体調が悪くなったり、良くなったり。
体調が悪くなったり良くなったりってのは、多分だが狂竜ウィルスによるもの。
『なんか気分悪くなったが、ボコボコ殴りまくったら気分爽快になったぜ』とは兄弟子の言葉。単に行きすぎただけかと思ったのだが、そうでもないらしい。
そして・・・極限化個体から狂竜ウィルスが発見されたというのは研究所でも発表されている。つまり信憑性大。
つまり白骸魔はゴア・マガラ、シャガルマガラと種族的に似たモンスター、ないし別種の極限化個体ということになる。
「どうあがいても古龍級じゃねぇかよ・・・。大変だなドンドルマも」
開けっ放しのアイテムボックスに放り投げて、だらりと力を抜く。
今日はいっぱい頭使ったから、ゆっくりと寝られそうだ。
今日も、鈍痛は止まなかった。