のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

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既に明かされた現実と、未だ明かされぬ真実

『砂漠』の岩肌に、容赦なく太陽が照りつける。いくら砂原エリアより涼しいとはいえ、それでも暑いことには変わりがない。

全身装備のハンターとか、どうやってこの暑さを凌いでいるのだろうか。

そんな何てことない事をふっと思いつき、雑念を消し去ってから目の前の出来事に集中した。

 

 

ヒッゥオ、と飛来する鱗をしゃがんでよけ、前転して体勢を立て直しモンスターに向かって走る。

 

ある程度距離があるからなのか、はたまた此方を侮っているからか。モンスターは懲りずに首から鱗を射出してきた。しかし扇状に、逃げ道を作らないように。

しかし弾幕としては余りにもお粗末。距離が離れるにつれ開く隙間に体を捩じ込み、無傷で突破。

その勢いでモンスターの、空いた横っ面に剣を叩き込む。

すぐさま離脱。数瞬前に俺が居たところには、力を十分に溜めたアン子が、ハンマーを振りかぶっていて。

 

 

「どるぁっしゃぁぁぁぁ!!!」

 

 

頭の頂点から叩きつけられたモンスターの頭部は勢いそのまま地面に押し付けられ、しかし押し潰されることなく形を保っていた。

普通ならば直ぐ様復活しこちらに怒りの咆哮をあげてくるところなのだが、もうこの作業は四回目。流石にモンスターにもめまい(スタン)が起きる。

 

ぐったりと伸びた体に、容赦なく攻撃をする。アン子はそのまま頭を、俺は機動力の要たる翼を、執拗に。

 

 

しかしたった一度の猛攻で倒せるほどこいつ──今回のターゲット、セルレギオス──は柔くない。スタンから立ち直り、無理矢理体を起こすと飛び上がり、俺たちとは少し離れたところに着地。

 

そのまま怒りの咆哮─かと思いきや、そこから更に軽快なバックステップ、流れるように空へ昇ってしまった。

どこへ行ったかなんて、目で追わなくてもわかる。なんせ、この攻撃はもう両手で数えるほどに食らっているのだから。

 

 

「トウマん!」

「わかってらぁ!」

 

 

片手剣をしまって、代わりに取り出したるは剥ぎ取りナイフ。外皮を裂き肉を断ち、ハンターの収入を支える縁の下の力持ちである。

それを腰だめに構え、後ろに振り返る。

 

 

「いや、ちょ、はぁ!?」

 

 

ゾブリと皮膚と肉の断ち切られる音。

 

次いでセルレギオスの悲鳴と浮遊感を受け取った。

 

 

やったことは簡単である。此方を鷲掴みにしようと向かってきたセルレギオスの足に、ナイフを突き立てただけ。そして前からくる衝撃に逆らわず、後ろに飛んで威力を逸らした。

ぶっつけ本番だが上手くやれたようである。けど実際やったら難しかったな、一瞬でもタイミングずれれば腕折れるぞ、これ。

 

痛みに悶えるセルレギオスが俺を振りほどこうとしていたので、ほんとに叩き落とされる前に飛び降りた。勿論ナイフを引き抜くなんて行儀の良いことはしない、刺さったままである。

 

お陰さまで少し離れたところに着地してしまった俺の元に、アン子が駆け寄ってきた。

 

 

「アホかトウマん!?なんも分かっとらんなかったやんけ!」

「はぁ?攻撃を利用して反撃しろってことだろ、ちゃんと分かってたよ。生憎負った傷もかすり傷程度だ、問題ない」

「それがなんも分かっとらんっちゅうんや!・・・ぁあ、もう!後でお説教やで!!」

 

 

しかし俺がお説教を受ける程度で狩りが安全に進むのなら、まぁ儲けもんだろう。

 

命は何にも代えられない。

 

 

セルレギオスは足のど真ん中に深く刺さったナイフのお陰で上手く立てないらしく、何度も起き上がっては倒れるを繰り返している。

空を飛べば解決するのに気付くのも時間の問題だろうが、それだけあれば命を狩る(刈る)のに十分である。

俺も参戦すべく、起き上がって駆け出した。

 

討伐が完了する、数分前の出来事であった。

 

 

 

 

「なぁ、アン子よぉ」

「何や?」

 

 

討伐を完了し、後処理を終え、ベースキャンプで帰りの飛行船を待ってる間に、俺はアン子に話しかけた。

 

 

「なんで俺、こんなとこに居るんだっけか」

「そりゃトウマん、うちらが砂漠のセルレギオス狩猟クエストを受けたからやろ?」

「いや、そういうことじゃなくて。そんなことは言われんでも分かってるが、なんで俺がこんなとこに居るんだ?」

「えぇ?せやから、うちらがクエストを受けたから。敢えて言い換えるなら、うちがトウマんを誘ってこのクエストに出発したからやな」

「オーケー分かった言い方を変えよう。なんで俺を誘った?戦力が足りんって話なら、俺より強い奴なんてそこらにゴロゴロ転がってるだろ」

「アホか。こんなもん、一人でも狩れるわ。理由っちゃ、あれやな。一人で狩れるっても面倒やし、トウマんの装備を整える意味でも、な」

「一週間経って、未だにハンター一式はおかしいか」

「せや。何がおかしいって、廉価版(下位)防具で上位指定のクエストを生き残ってること自体がおかしいわ」

 

 

そこからか。

 

・・・まぁ、なんだ。俺はこっちに来てまだ一週間だというのに、まだ装備もろくに整っていないのに、何故か上位指定のクエストを受けさせられている。

フリィラにちょっと聞いてみたところ、『メゼポルタとドンドルマは地域管轄としては同じなので、向こうでの実力分こちらでも下積みが免除されるのですよ』とのこと。

わりとガバガバだな、ギルドの制度も。

 

っと、そうだそうだ。

 

 

「それよか。お前、あの話聞いてるか?同郷が態々迎えに来てるって話じゃないか」

「あぁ?・・・なんで、そのことトウマんが知っとるん」

「偶然知り合ってな、俺もこの間までは何も知らなかった。そん時も紆余曲折あったが、まあこの際それはいい。・・・お前、故郷で何やらかしたんだ?」

「 ・・・んー!トウマんも聞いてまったか。ならしゃーない、か。わかった、ちゃんと説明するから」

 

 

そういってアン子はハンマー──やたら白い鈍器を置き、その場にどかりと座り込んだ。

しかし顔は俯きがち。彼女にしては珍しいことである。

 

 

「まぁ、一言でいうとな。うち、家出したんよ」

「家、出・・・?」

「そう、家出。多分うちのもんが知り合いってんなら察せるかもしれんけどな、うちの家系、っつかうちの一族って代々鍛冶業やっとるんよ。ほんで、うちはその族長の一人娘なわけや」

 

 

アン子が鍛冶一族の出ねぇ。確かにハンマー使ってるし、さほど違和感は感じんな。

それよりも──

 

 

「族長の一人娘が家出って。それ相当不味くねぇか?下手しなくてもとり潰しじゃねぇか、跡取り居なきゃ」

「実はそこまででもないんやけど、まあヤバイわな。それはうちかて分かっとる。まーそんでも戻らんのには、山より高く海より深い理由があるんやけども、それやら動機やらは今度ゆっくり話したるわ」

「そうかい。お家騒動には巻き込んでくれるなよ?」

「んなことにゃならんよ。うちは血筋やなくて腕で決まる。族長なんて大層な肩書きついとるが、んなもんほぼお飾りやしな。良い武器、良い防具作ったもんが、トップや」

 

 

ははーん、なるほど。完全実力社会だ、と。族長という立場があるものの、それも便宜上必要だったからというものだろう。

 

・・・しかし、それだとペイファの荒れ様が不可解だ。『生い立ちや過去を無かったことにして』云々とか言っていた。それは族長の一人娘という立場から来るものではないのだろうか?

 

 

「ほんでまぁ、家出した後行商団と出会ってな、そこでお手伝いとして色々手伝いながら、メゼポルタへと着いたわけや。んで、ハンターになって、トウマんと出会った。そっからは知る通り、順風満帆やね」

「まー順風満帆かはさておき、経緯は分かった。・・・お前が居ない間、お前の故郷では何があったんだ?そこんところ、詳しく聞いても──」

 

 

 

 

 

ズッ、ドォォォォン!!

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 

激しい爆発音、というか最早地鳴りが砂漠一帯に響いた。

他のハンターが狩りに来ているというわけでもないし、そもそも大タル爆弾程度ではあんな大規模な爆発は起きない。

 

つまり──

 

 

「モンスターの仕業、か?」

うちら(ハンター)の出番って訳やな。うっし!帰る準備パーになるのは面倒やけど、この際気にしてられん!トウマん、様子見に行くで」

「言われずとも」

 

 

どうせ目撃者の一人になるんだ。勝てなさそうでも、情報の一つぐらい持って帰ってやろう。

 

 

 

 

 

爆発の現場は、砂漠地帯のど真ん中、窪地になっている辺り。そう判断した俺らは、クーラードリンクを飲み干し、急いで現場へと向かった。

 

窪地の外側、高所から見下ろして現場観察をする。強烈な焦げ臭さ、それに混じった血の臭いを感じた。

 

 

「すごいなぁ。見てやあれ、唯でさえろくに生えてなかった草木が全部炭になっとるわ」

「良いから少し屈んどけ。双眼鏡が無いのが悲しいとこだが文句も言ってられんし、暫く様子を見るとしよう」

「はいなっと」

 

 

現場には一体の死体と、二体の生存個体が居る。

 

死体は、砂色。翼とハンマーの様な尻尾、更に双角の頭部から考えて、『角竜』ディアブロス。砂漠の暴君とも称される、砂漠地帯の王者だ。

 

生存個体、その片方は初めて見るモンスターだ。

翼がなく、大きな後ろ足で体を支えている事から、推定獣竜種。青く、炎の様に上に尖った甲殻。鬼の様な顔。そして何より目を引くのは、胴体部と同じくらいに大きい、尻尾だ。

大剣の様な形をしており、ディアブロスのそれと同じく武器としても使えるのだろう。どういう訳か赤熱しており、とても熱そうである。仮称『斬尾』とでもしておこう。

 

そしてもう片方なのだが──

 

 

「なんや、ありゃぁ・・・!?ゴア・マガラ?いやシャガルマガラか!?分からん、なんやのありゃあ!?」

「分かった、いいから落ち着け!感付かれたら不味い」

「おっ、おう。せやな、せやったな・・・」

 

 

──アン子の方が、詳しく知ってそうだがな。

 

 

基本は四足歩行の竜。しかし翼に腕のようなものがついていて、場合によっては六足歩行なんて芸当もしてしまいそうである。

色は黒。しかしどういう訳か、半身が白に染まっている。・・・骨、というのは過大表現だと思うのだが。

そして何より、周辺を漂う黒い霧の様なもの。なんだか体に悪そうである。病魔のカラクリがようやく分かった。

 

 

俺が来る前にドンドルマを襲撃したとされる、『白骸魔』。そのものか、あるいはそれの同系統個体だろう。

 

 

考察を行っている間に、下で動きがあった。睨み合いを行っていた両者が動き出したのである。

 

 

 

『斬尾』が尻尾を振りかざし、赤熱したそれを『白骸魔』へと叩きつける。

しかしそんなものがどうしたとばかりに、白骸魔は軽やかなサイドステップでそれをかわす。

斬尾も懲りずに二度三度と斬撃を繰り出すが、そのことごとくが空振りに終わる。

お返しとばかりに、白骸魔が黒いブレスを吐き出し、爆裂。

もろに食らった斬尾は堪らず吹き飛び、横倒しに倒れてしまう。

白骸魔はその隙を逃さずに、前足と翼の腕──翼腕、とでも呼ぼうか──の四本を持って上から押さえつけ、だめ押しのブレスを三回、叩きつけた。

その後斬尾が動くことはなく、そのまま息絶えてしまった。

 

まさに、蹂躙という言葉が相応しい。勝者である白骸魔は、そのまま勝鬨すらも上げることなく斬尾の死体を貪り始める。

 

 

「・・・恐らく新種であろうモンスターも驚きだが、なんじゃありゃ。圧倒的じゃないか」

「──なるほど、な。あれが所長の言うとった・・・」

「幼体と成体が混ざった、とか聞いたが。アン子も知ってるか?」

「多分、トウマんと同じ程度やけどな。あれが白骸魔・・・噂に違わず、冒涜的な姿や」

「冒涜的・・・?」

「あぁ。『この世の者とは思えぬ異形の徒』って噂やったが、まぁものの見事にその通りやな。言い得て妙、ってやつや」

 

 

白骸魔を再び見る。

 

・・・そうだろうか?確かに少し、いやかなりへんちくりんな姿ではあるが、吐き気を催すような醜悪な姿ではない。

寧ろなんというか・・・、絵とか芸術とかには詳しくないのだが、こう・・・。

 

 

不釣り合い故の美しさ、とでも言おうか。それを感じる。

 

 

他のモンスターに見られる、生物としての完成した姿とは別。未完成故の稚拙さ、粗さ、そういうのにシンパシーを感じる。

 

俺も、人としてあまりにも不揃いだから。

 

 

 

動きがあった。白骸魔が食事を終えたのである。

俺らはより一層息を殺して、観察を続ける。

 

 

「次はディアブロスの死骸を食いよるで・・・。腹ペコキャラはイビルだけで充分なんやけどなぁ」

「どうだろうな。唯腹を満たす為だけの行為ではなく、なにか他に別の理由があるのかもしれん」

「他の理由って?飯食うんに腹満たす以外の理由なんて要るか?」

 

 

・・・そういわれてみれば、それもそうだな。

 

別になんか食ったら強くなるとか、そんなことあるはずも無いわけだし。

なんでそんなことを疑問に思ったのだろうか。我ながら不思議である。

 

 

 

 

──ミツケタ、ゾッ──

 

 

 

 

「ぬ、グゥ!?」

「え?ト、トウマん!?」

 

 

ビシリ、と頭に鋭い痛みが走った。思わず頭を抱えてしまう。

 

 

またあの時の、謎の声だ。また見つかってしまったらしい、しかもあの時よりも痛みが強いときたもんだ。

人ならざるモノの声、痛み。原因として考えられるのは白骸魔だけなのだが、しかし何故?アン子には何も変調が無いように見られる。俺だけ?

 

 

途端、白骸魔が翼を広げ、空へ躍り出る。敵対行動が早すぎる様に思うのだが。なんにせよ、見つけられたということだろう。

高高度から強襲でもかけるつもりなのだろうか。よもや逃げるなんて選択はないだろう。

 

分りやすい、濃厚な殺気が向けられる。

 

 

「トウマん!大丈夫か、しっかりせぇ!」

「大丈夫、じゃないが。来るぞアン子!避けろ!」

「えっ、ちょ、のわぁぁ!?」

 

 

白骸魔が襲いかかってくるのを視界の端で確認した俺は、アン子を思いっきり突き飛ばす。下に転がり落ちれば、少なくとも潰されることは無くなるだろう。

 

 

 

俺も早く脱出せねばと体を動かそうとして、またもや頭に電撃がはしる。

 

 

白骸魔はもう目の前だ。

 

 

反応が遅れた、間に合わない。

 

 

 

体が宙を舞う。痛みは、無かった。

 

 

思い出されるのは今までの思い出──ではなく。

 

 

これから先を生き残るように耐え抜いた、特訓の日々。

 

 

 

どれだけ頑張ったとしても、死ぬときは死ぬのだ、と。

 

 

 

理解したその時には、意識は地獄の彼方へと飛び去っていた。

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