のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

2 / 27
どるどるドンドルマ

ドンドルマっていう名前は何度か聞いた事はある。なんでもハンターズギルドの本部やら研究所があって、狩りの世界の中心地なんだとか。

で、俺は予定よりも長く一週間ほどかけて村からドンドルマまでやって来たわけだ。ドンドルマは山を切り開いて作った街らしく、俺も山道を登るのに苦労したもんだ。今はドンドルマのメインストリートの入り口に来てるんだが・・・

 

「なんだか、こりゃ拍子抜けだな。ハンターってのはあんまり集まらないもんなのか?」

 

メインストリートも坂道になっており、頂上にはなんか凄そうな屋敷がある。そこから扇状に建物が並んでおり、その中にギルドの受付やら研究所やらがあるそうだ。近くにいたおばちゃんに聞いた話だがな。

しかし、そのメインストリートには人があまりいない。いや、人はいるんだがハンターらしき人が見当たらない。ハンターの中心地と呼ぶには余りにも残念な状況である。仕方ない、あのおっさんがいるかどうか怪しくなってきたが取り敢えずギルドに向かってみるか。

 

 

 

 

微妙に重い武器防具を纏い坂道を登る。体力にはそれなりに自信があったんだが、なかなかにキツイ。ギルドに着いた頃には息が上がってしまったぜ、情けない。しかし、ギルドだと思っていたんだが酒場だったんだな、ここ。『大衆酒場』って書いてあるぞ。まあそれは置いといて、いつまでも入り口にいるもんじゃないからな。まず中に入ろう。

中に入った。おいおい、なんなんだよここは?誰もいないぞ、この建物!大衆酒場(跡地)ってか!?・・・ゴホン、いや一人だけいた。奥の方、カウンターのようなものの更に奥に人影を見つけた。どちらにせよ固まってたら話以前の問題だ。話しかけっとするか。

 

「すまん、ちょっといいか?少し聞きたいことがあるんだが」

「はいはぁい、っと。承りま・・・、どちら様ですか?今は撃退依頼は出してない筈ですし、ハンターがここにいるわけないんですが・・・」

「・・・ここってドンドルマでいいんだよな?狩りの中心地にハンターがいるわけないって、どういうことだよ?あと俺はまだハンターじゃねぇよ」

「え、いや何年前の話をしてるんですか。メゼポルタに狩場が移ってからもう2年も立ってますよ?それに、ハンターでもないのにそんなに使い込まれた武器防具を持ってるわけありません。いったい何者ですか?」

 

そういって俺に訝しげな目を向ける女のギルド員。見た感じ二十代ぐらいに見える。耳が尖ってるように見えるが、人間・・・なんだよな?まあいいや。俺が一体何者か、か・・・。なんつーか、いまいち説明しづらいな。どうやって言ったもんかなー。

 

「俺か?あー、なんつーか、だな・・・。親がモンスターにやられて、進退極まって親の武器防具引き出してここまでやってきたハンター志望の一般人、じゃ悪いか?」

「・・・いえ、十分です。辛いことを思い出さしてしまって申し訳ありませんでした」

 

ギルド員は深々と頭を下げる。別にそこまでのものと思ったが、よくよく考えれば当たり前の反応だろう。普通の人ならば親が死んで悲しくないわけがない。ま、俺は普通ではないがな。

 

「いや、別にそれは気にしてない。が、そのメゼポルタ、とやらは一体なんだ?そこに狩場が移ったとかなんとか言ってたが」

「・・・メゼポルタも知らないとは、どんな秘境に住んでたんですか?いいですか、メゼポルタというのはですねーー」

 

説明は省略。つまるところ、メゼポルタっつうのはドンドルマに変わる新たな『狩りの中心地』らしく、そこからは世界各地へと日々ハンターが散らばっていってるんだとか。そこへ拠点が移ったことによって、ここドンドルマはいわゆる研究都市のような側面を持つようになったらしい。新しい技術をドンドルマで作り、それをメゼポルタで活用するって感じだな。

因みに、ギルド員も言ってたとおり完全に移ったのは2年ほど前なんだよ。で、俺がおじさんから話を聞いたのが3年前。情報伝達が完全に途絶えてたんだからそのことを俺が知っているわけがない。ハンター登録をしたくて来たのに「ここでそんなこと言われても」とか言われたんだよ。どうすればいいんだよこれ・・・。

 

「とりあえず、もうドンドルマの大衆酒場はクエストカウンターとしての役割は果たせない、ということは理解してください。それを踏まえて、私はあなたがメゼポルタに行くということを提案します。あそこなら新人ハンターの扱いも心得てるでしょうし」

「メゼポルタ、な。了解した。ここからどの方角に何日向かえばそこに着ける?」

「そんな必要ありませんよ。メゼポルタ行きなら馬車を用意できます。さすがに今すぐというわけには行きませんが、明日の便を開けておきましょう。明日の朝8時にそこの坂を下った先の待合所に行ってくださいね」

「ああ、悪いな。・・・馬車か。何ゼニーぐらいかかりそうだ?あんまり持ち金は無いんだが」

 

『ゼニー』っていうのはここら辺の通貨の名前だ。それ以上のことは知らんが、うちの村みたいな秘境にまで流通してるとなると、相当影響力は強そうだなと考察してみる。

いまの俺の所持金額は泣けなしの3,000ゼニー程で、多分結構少ないと思う。向こうに着いた後のことも考えてあまり使わずに残しておきたいところだな。

 

「持ち金の心配なんてしなくていいですよ。馬車を一席とるぐらいのお金はありますので。ただ、申し訳ないんですけど、さすがに今晩の宿代までは、ちょっと・・・」

 

そらそうだわな、いくら申し訳なくても宿代までみる必要は無い。馬車代だけで十二分なのだからな。でも、宿代、宿代か・・・。そうだ、いいこと考えたぞ!

 

「だったらさ、この施設の一角を貸してくれないか?あ、いや、別にものをとったり壊したりしたいわけじゃなくて、単に屋根があるところに泊まれたらいいなと思っただけだ。食事も自分で用意するし、本当に荷物置き場と寝床さえあればいいから、・・・悪いか?」

「それくらいでしたら別に構いませんよ。私もここにずっと一人は寂しいと思っていたところですし、ぜひご一緒にどうぞ。あ、そうだ!せっかくなら夕飯作ってあげますよ!こう見えても私、結構料理の腕には自信があるんですよ?」

 

よかった、思った以上に優しいギルド員だったみたいだ。いや、自分で言ってても怪しいと思えるほどのことを承諾してくれたんだから、むしろお人好しの方が近いか?

にしても、このギルド員も大概警戒心が少ないな。普通一晩男と女が一つ屋根の下って言って警戒しない奴はいないだろうに。もちろん、恩人に変な気は起こすわけ無いんだが、少し将来が心配になるな。うん、どうでもいいか。

 

「そ、そうか。それじゃ一晩、よろしく頼む。あ、そうだ。風呂とかってここら辺にあるか?しばらく入って無いからさっぱりしたいんだけど・・・」

「風呂場ですか。それなら住宅地区の方に銭湯がありますよ。大っきい煙突が見えるのですぐ分かると思います」

「そうか。それじゃ荷物置いたら入ることにするよ」

 

こうして、俺はドンドルマでの夕飯と寝床を確保したのであった。

 

 

 

 

銭湯に入ってさっぱりした。事前準備は抜かりなく、着替え一式とタオルは先に買っておいたのでスムーズに酒場に帰ってこれた。そしたらなんと、カウンター寄りのテーブルに豪勢な食事が所狭しと並べられていたんだ。

 

「あ、ハンター志望さんお帰りなさい。しっかり夕飯準備しておきましたよ!久しぶりなので張り切って作りすぎた感はありますが、そんな些細なことはどうだっていいんですよ!ささ、冷めないうちに早くたべちゃいましょう!」

「お、おう。そうだな。夕飯は冷めないうちに食べちまわないとな・・・」

 

別に食い切れない量ではないんだが、まさかこんなに沢山作ってくれるとは思いもしてなかったぜ。なんか白飯とか丼に大盛り盛ってあるし、どんだけ張り切りすぎたんだよ・・・。

夕飯を食べながら色々な話を聞いた。今のドンドルマの現状のこと、ハンター達の間の常識について、受付嬢達の間の常識について、ここら一帯の狩場について・・・。数え切れないほどではないが、それでも両手じゃ数え切れないぐらいの話題は出したな。

そのあと、寝るまでの間は俺の事について色々と話した。俺がどういう両親の元に生まれて、どういう15年を送ってきたか。どれだけ両親が優しかったか、愛情を注いでくれたか。その両親が死んでどう思ったか、その後どう過ごしたのか。村が全滅した時はどう思ったか、それから3年間はどう過ごしたか・・・。

 

 

 

 

ギルド員が寝てしまったので一人でポツポツと考え事をする。ここ3年でついた俺の癖みたいなもんだ。

今日は沢山喋った。まさに喋り倒す勢いで。今までの人生で一番喋ったかもしれないぐらいには。ここまで考えてふと頭にある仮定が浮かんだ。3年間人との接点が皆無な生活をしていた所為で、俺は人との繋がりに飢えてるんじゃないか、ということだ。

恥ずかしい気もするが否定できる要素がない。あの事件以降人と喋ることがなかった、人の料理を口にしたこともなかった。喋ってるときは、しっかりと自分を自分と認識できてるようで満ち足りていた。人の料理は、その人の思いがこもっていて、自分の料理よりも何倍も旨かった。

昔、似たようなことを考えたことがある。たしか『一体では生きていけない生き物はなんだったか』みたいな題をつけたはずだ。今になってその答えがようやくわかった。

どんな生き物でも一体で生きることはできる。しかし、一体ではその生き物が自分を自分と認識しながら、正しい意味で『生きる』ことは出来ない。自分と区別をする他者がいてこそ、初めて本当に生きれるのだろう。そう思うと、自然と涙が出てきた。・・・柄じゃねぇな、こんな湿っぽいのは。

 

「・・・グスッ」

「ん?あら、あらあらあら??もしかして、ハンター志望さん泣いてます?久しぶりの人との触れ合いで柄にもなく泣いちゃってます!?」

「う、うるせぇやい!!ちょっと感傷的な気分になっちまっただけだよ、さっさと寝ろや!」

 

びっくりしたぜ、まったく。なんでこいつはこんなにカンが鋭いのやら、女ってのはみんなそうなのか?

・・・夜も更けてきた。いい加減眠くなってきたし、俺ももう寝よう。

 

 

 

 

日が明けてから、俺は馬車の停泊場まで向かうこととなった。ギルド員はまだ寝てるので、酒場から静かに退散するとしようか。抜き足差し足忍び足〜っと。

 

「んぅ・・・?あぁ、ハンター志望さん、もう出発ですか?」

「!? お、お前起きてたんならそう言ってくれよ!びっくりしたじゃねぇか!」

 

ギルド員は俺の言葉を完全無視して大きなあくびを一つした。こいつ・・・!本当に傍若無人が極まってるなおい!

 

「あははは、すみません。本当についさっき起きたばっかなんですよ?けど、私を起こさないようにと静かに準備をしてるハンター志望さんを見てるとですね。こう、悪戯心といいますか、加虐心がムクムクと」

「膨らんでこんでいい!ったく、そうだ起きてんなら停泊場の場所教えてくれよ。たしかまだ詳しい場所は教えてもらってなかったよな?」

「えぇ、そうですね。わかりました。私もそこまでついていきますので、少々お待ちくださいねー」

 

またもや勝手にそう決めて奥へ向かってしまった。だが、本当に待ったのは少しだけ、彼女は寝て崩れた髪の毛と服を整えてすぐ戻ってきた。

 

「ほいっと、お待たせしました!さて、それじゃ停泊場へ向かいましょうか」

「はぁ、ようやくか。8時まであと15分しか残ってないぞ?」

「え、あ、あぁぁぁ!!!こ、これはまずいですよハンター志望さん!急がないと馬車が出てしまいます!!」

「はぁ!?ちょ、おま!何やってくれて、おいいきなり走り出すな!俺を置いてったら本末転倒だろうがー!!」

「ほらほら急いでくださいよ!次の馬車は一週間後ですからね、これを乗り過ごすと大変なことになりますよ!!」

「ちくしょう誰のせいだと思ってやがるてめぇ!!」

 

走り出したギルド員の元へ走る。意外な事に中々足が速かった彼女に俺は最後まで追いつけなかったわけだがな。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ。じ、自己ベスト更新・・・!まさか10分で走りきれるとは思いませんでしたよ・・・!」

「ぜひゅぅ、ぜひゅぅ、うぐ、ゲッホゲッホ!!おぇぇ、気持ち悪い・・・」

「ま、全く、ハンター志望さんは、体力が、足りない、ですね、!」

「そんな息も絶え絶えなお前に言われたって悔しくねぇよ!それにお前は身軽だろうがよ・・・」

 

なんとか馬車に間に合った。ここまで全力疾走したのはいつぶりだったか?本当に疲れた。朝から猛ダッシュとかほんと殺す気かよ・・・。

 

「ささ、早く馬車に乗ってくださいな。ここまできて乗れなかったなんて笑い話にもなりませんからね?」

「わかってるよんなこと。・・・その、なんだ。ありがとうな、ここまで親切にしてくれて」

 

ギルド員は豆鉄砲でも喰らったかの如く呆然としていたが、ワンテンポ遅れて思いっきり噴き出した。幾ら何でも大声で笑うか!?

 

「はぁ、わかったわかった。お前に礼なんか言った俺が悪かった。もう何も言わねぇ。そんじゃあな」

「ひー、ひー、あーお腹痛い!ふふっ、待ってくださいよ!思いっきり噴き出したことは謝りますから、そんな怒んないでくださいよ。・・・どういたしまして、です。久しぶりに楽しい時間を過ごせました。またドンドルマに寄ったら声掛けてくださいね?」

「戻ってくるかすらわからんがな。ま、見かけたら声ぐらいは掛けてやるよ」

 

あ、そういやまだ自己紹介ってやってねぇな。声かけるにも名前が無いとわからないし・・・って!なんで声掛ける前提で話し進めてるんだ俺は!

 

「あ、そういえばまだ自己紹介をしてませんでしたね。私は『フリィラ』といいます。どうぞ『リィラちゃん』と呼んでくださいね?」

「あーはいはい。俺の名前は『トウマ』ってんだ。覚えたきゃ覚えとけ。んじゃな、フリィラ」

「・・・素直じゃないですねぇ。わかりました、覚えておきましょう。さようならトウマさん、またいつか会いましょうね」

 

馬車が動き出す。次なる目的地はメゼポルタ。一物の不安と、大きな希望と期待を持って、東へと進みだした。

また一歩、歩みを進められた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。