のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

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アイマアイマ

「──なるほどな。それでトウマボーイはそんなぼろぼろなわけだ」

 

「そうなんだよ。しかもアン子のやつ、俺を軟禁しようとしてきやがって。逃げるのが大変だったんだ・・・」

 

 

 

現在、俺はドンドルマのカフェでヘルメットブラザーと話をしている。俺が休憩していると声をかけてきたのだ。

話といっても、俺が一方的に愚痴を言ってるだけなのだが。ブラザーは優しいことにずっと話を聞いてくれている。ありがたいことだ。

 

因みに今日のヘルメットは黒色。グラビモスの亜種のヘルムだ。

 

 

 

「っても、正直俺は彼女さんに賛成だがなぁ。軟禁はちとやり過ぎかとは思うが、心配ももっともだと思うぞ?」

 

「いやいやいや、あの時はそれが最善の策だったんだって!なのにアン子のやつ、ちっとも聞いてくれなくてさぁ・・・」

 

「『彼女じゃねぇ』とか、一言ぐらい否定しろよガキがァ!!!」

 

「あっははは、悔しいでしょうねぇ」

 

 

 

真面目な話の中でも笑いを挟むのを忘れない、ヘルメット兄弟(ブラザーズ)のコミュニケーション力の高佐にはいつも驚かされる。

母親も無事みたいだし、あちらも順風満帆みたいだ。

 

 

 

 

「にしても、いつでも一緒のヘルメットブラザーが一人なんて、珍しいこともあったもんだな?どうしたんだよ、いったい」

 

「あー、まぁ、な。ちょっとやらかしちまったんだよ。トウマボーイは、こっちにいる極限化モンスターの噂を知ってるか?」

 

「・・・なんだったか。聞いたこともあるような気がするんだが、いまいち思い出せん。どんな奴だ?」

 

「最近ここいらを騒がしてる、セルレギオスだ。そいつが今回の騒動の根源らしい」

 

 

 

セルレギオス。他に類を見ない骨格、獰猛な性格と圧倒的な戦闘能力を存分に使い、ここら一帯で暴れまわってる飛竜種。

元々は未開拓の樹海の奥地に生息していたらしいのだが、ある日唐突に表に姿を現すようになったのだ──

 

 

──というのはもう一月以上昔の話。今ではもうドンドルマでよく見られるモンスターの一種としか考えられていない。確かにモンスターがとしての強さは上位クラスだろうが、歴戦のハンター達にはそんなことお構い無しだったようだ。

 

・・・しかし、それの極限化個体か。さすがにおっかないんだろうな。

 

 

 

「そいつが、狩りの途中に乱入してきたんだよ」

 

「ふーん・・・、って、えっ!?マジで大丈夫なのか!?」

 

「ブラザーが足をやられた。幸い命に別状はないが、暫くは休まなきゃいけねぇ。かくいう俺も浅くない傷を負ってな、二人共々休業だ」

 

「そうか・・・。お大事にな」

 

「話聞いた限り俺より重傷のお前に言われたかねぇよ」

 

 

 

それもそうだ。

 

と、そこに渋いおっさんの声がかかった。

 

 

 

「ここにいたか少年よ。全く、手間をかけさせおって」

 

「ん?・・・げっ、師匠じゃん。なんでここに、ってかなんであんたが向こう側についてんだよ!」

 

「友人の頼みだ、引き受けん訳はない。そら、さっさと戻るぞ。団長が心配している」

 

「だから俺はアン子以外とは無関係だって・・・、っておい、首根っこをひっ掴むな!わかった、歩くから引きずらんでくれ!じゃーなヘルメットブラザー!」

 

「お、おう。じゃーなー・・・」

 

 

 

なんとか引き摺られるのだけは回避して、連行される。

だから逃げていたというのに・・・。撒いたと確信してのんびりなんてするんじゃなかった。

 

 

 

「・・・あっ。俺金払ってねぇじゃん。大丈夫かなぁ」

 

「問題なかろう。きっとお前の友人が払ってくれる」

 

「だといいけど。今度代金ちゃんと返しとかないとなぁ」

 

「そこだけは妙に律儀なのだな・・・」

 

 

 

 

 

数分間歩いて着いた所は、広場の中心から少し外れた一画。かの『我らの団』が駐留しているエリアであり、

 

現在の俺の軟禁(療養)場所でもある。

 

 

 

「お、戻ったか師匠。ご苦労様だ、昼飯でも食ってくか?」

 

「そうだな・・・。少し早い気もするが、頂こう」

 

「昼飯のタネにされる俺。これはひどい」

 

「それはお前さんが逃げたからだろう?まだ治りきっておらんのだ、ゆっくり休め」

 

「だーかーらー!俺はもう痛みも感じねぇって言ってんじゃん!あんたは俺の親か!?」

 

「ミーは団のおかんニャル。子どもの友人はミーの子どもも同然。ホラ、さっさと食うニャル」

 

「・・・・・・解せぬ。」

 

 

 

ここにおいて俺が出来る精一杯の抵抗は、出された料理を食えるだけ食うことのみ。

・・・抵抗か?これ。

 

俺がもしもしと昼飯を食うのを見ているのは、団長と料理長の一人と一匹。師匠は俺の向かいの席で自分の飯をかっ食らってる。

 

団長は、アン子が所属している『我らの団』の団長。

人当たりがよく、面倒見もいい人物らしく、こうやって俺に色々と世話を焼いてくるのだが・・・

『反抗期の子どもにも昔通り接してくる鬱陶しい母親』とはアン子の談であるが、まさか本当にその通りだとは。

団長らしく責任感も強いらしい。やると言った事をやり遂げるは勿論素晴らしいことだが、

 

料理長、自称『団のおかん』。団員の食糧事情を一手に引き受けており、そういう意味では自称も間違いではないのだろうが。

味はすこぶる良いのだが・・・、やたらと量が多い。ハンターという職業柄食べる量は多いはずなのだが、それでも半分ぐらいしか食べれない。

しかも料理を残すと何故か満足げな表情を浮かべるから、訳がわからない。大食いチャレンジャーに勝った料理人の気分なのだろうか。

因みに、料理長はアイルー。あの小さい体が厨房をあっちこっちに動き回るのは、なんというか癒される。

 

そして、俺の目の前でもりもり飯を食らっている、師匠と呼ばれる男。この男が、これまた凄いビックネームなのだ。

彼は引退したハンター。現役時代は『勝てぬモンスターなど居ない』とまで称された、生ける伝説の一人。

ドンドルマの住人は、彼の偉大な功績に敬意を持って『師匠』の呼ぶのだそうな・・・。俺はあくまで便宜上そう呼んでいるだけであって、敬意なんぞこれっぽっちも持っていない。ただの厄介じいさんとしか認識していないので。

 

因みに、ここに居ない中でもう一人、生ける伝説がこの団には住み着いているのだが・・・、今は姿が見えない。

ふむ、そういえば。一つ気になることがあるので、聞いてみるとする。

 

 

 

「なぁ、アン子はどこに行ったんだ?姿が見えないが」

 

 

 

ふむ、と一つ返事に答えたのが団長。そのままつらつらと話をし出す。

 

 

 

「お嬢なら、今は別件で出掛けとるよ。なんでも、同郷の者と偶然出会ったらしく、そいつと話をするそうだ。先代もそちらに着いていった」

 

「ふぅん、なるほどねぇ・・・」

 

 

 

 

『自分の生い立ちや過去、全部、無かったことにして、生きていくつもりだったっての・・・!?』

 

 

 

 

頭のなかで、ついこの前の会話が再生される。

あいつの声色は、確かに悲痛と怒りに染まっていた。アン子が故郷で何をやらかしたのかは知らんが・・・。

 

部外者は部外者なりの気遣いをしていくとしよう──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その彼女らといえば。

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

「何がだ?」

 

「何ですか?」

 

 

 

現在とある一室にてお話をしようと、机を挟んで向かい合わせに座っているのだが、

 

前には無表情の奥に怒りを湛えた、有り体に言えば恐ろしい形相の同郷の徒(ペイファ)

 

後ろには純粋にこれから起こることを考える、少々頭の弱い完全部外者(師範)

 

どうしてこうなった、と心のなかで二度目を呟いた。

 

 

 

「いや、なんでも。で?なんでうちはここに呼ばれてん」

 

「なんでと言われても。勝手に居なくなった何処かの誰かにお灸を据える為に決まってるじゃないですか」

 

「言葉にぶっとい棘が何本も生えとる・・・。なんでや、そんなに家出が悪いことか!?」

 

「家出が悪いこと?ハッ、中々間抜けなこと言ってくれますね」

 

「おい今コイツ鼻で笑いよったぞ」

 

「あぁ、因みに俺はただの付き添いなので心配せんでもよい。自分たち同士で好きにやってくれ。他言はしないと誓おう」

 

「当たり前じゃドアホ!つかさっさと出てけ部外者!」

 

 

 

まあ騒がしいことで。

 

しかし周りのテンションが底をついてる以上、一人でばか騒ぎしていても仕方ないと、上げたテンションを素直に下げた。

 

それに、相対する彼女の視線が冗談でなく氷点下。ただならぬことが自分の居ない間にあったのだろう、そして何を話し出すのか分からない以上、否応にも警戒心が上がってしまう。

 

 

 

「・・・では、早速話を始めていきましょう。先ずは、貴女が居ない間に集落で起こった、出来事についてです」

 

「・・・ん。ほな、頼むわ」

 

 

 

蛇が出るか、鬼が出るか。

 

なんであろうと受け止める覚悟を、彼女は決めた。

 

 

 

「まず端的に結論から言いましょう。私たちの集落は、消えました」

 

「・・・。さよか。んで?」

 

 

 

ダンッ、と派手な音がなる。向かいの少女の椅子が突き飛ばされた音だ。

同時に喉が詰まる。胸ぐらを掴まれているのだ。ギリギリと拳が喉を圧迫する。

 

 

 

「なぜっ!?何故平然としていられる!お前の故郷でもあるんだぞ!?なぜ悲しみの一欠片も見せん!」

 

「冗談抜かすのもええ加減にせぇ!じゃあうちかて言ってやろう!あんな、鍛治しか考えず人のことを省みないクソ共、滅んで当然や!ざまぁみろ!」

 

「ッ!!ふざけんなぁ!!」

 

 

 

ボッとついた火が何か可燃性物質に引火すると、一気に燃え上がります。あるいは爆発する可能性もありますので、皆さんも火の扱いには気を付けましょう。

 

 

鬼の形相でペイファが拳を引く。拳は尋常ではないほど握りしめられ、あたかも一つの岩のよう。

そんな拳が飛んでくる寸前、その手をやんわりと抑える者がいた。

 

 

 

「少し落ち着かんか、これでは話し合いにならん。まずは落ち着いて、深呼吸。相手に何を言われても動じないという、鉄の意思を持って会話に臨め」

 

 

 

開いた拳は、真っ赤に染まっていた。爪が手のひらを突き破り、血を流していた。

 

 

 

「あ、ありがとう、ございます・・・」

 

「ふんっ、そんなん言われんでも分かっとるわ」

 

 

 

お互い椅子に座り直す。さあ会話再開、なのだが、どうやら師範は自分が居ないと不味いことになると判断した様子。対面している二人の真ん中辺りで、推移を見守る為にちょこんと腰かけた。

 

 

 

「で?集落の消滅とうちの脱走の、何に関係性があるん?今んとこうち全く関係無いんやけど」

 

「あんたが集落を抜けてから、族長はショックで寝込んでしまってね。全く工房から出てこなくなったんだ。そして日に日にやつれていった」

 

「アホらし。んで、そんでそのバカ野郎が死んでおしまいか?」

 

 

 

ブチブチ、と何かがキレる音が部屋に響いた、気がした。勿論幻聴であるが、そんなものが聞こえてしまうのも仕方がない程に、ペイファの怒りはたぎっていた。

 

しかし額面上は努めて冷静に。動じない、動じない──

 

 

 

「それだけじゃない。話にはまだ続きがあるのさ・・・」

 

「いやいや、あんたそれで冷静なつもりなんやろうけど、声プルっプルやし握りこぶし固く握っとるし、バレバレやでな?頭ん中で何を思おうが勝手やろうけど、いきなりキレ出さんでよ」

 

 

 

気持ちを覚らせぬというのは、とても難しい事なのである。

 

 

・・・話し合いは続くようだ。

 

 

 

「あんたの言う通り、族長は死んだ。栄養不足からの衰弱死。恐らく何も喉を通らなかったんだろう。それで、次の族長は誰がなる、という話題になった」

 

「先代の子供はうちだけやったから、跡継ぎはいない。だから村中総出で頭を決めようって話か。読めてきたで」

 

「だろうね、よくある話だ。・・・襲われたんだよ、モンスターに。皆の意識の隙間から」

 

 

 

誰もが予想できたであろう結末に、しかしアーリィンは僅かな動揺を見せた。

数秒の後に「チッ」と舌打ちを一つ、険しい顔で黙りこくる。

 

 

 

「なにに、何にやられたん」

 

「色々、さ。リオレウスやらグラビモスやらウラガンキンやら、私は見ていないがアグナコトルまで居たらしい。まさに潰す気満々だったんだろうね」

 

「おお、火山棲モンスターのフルコース。穏やかじゃない、ってそりゃ当たり前か。でも、そんないっぱいのモンスターが一斉に動き出すって、何が起きたんやろうか」

 

「そんなこと、一住人が知るわけないさ。火山の噴火だとか、黒き神の復活だとか噂してたけど、今ではそれも闇の中」

 

「で、あんたはそれの中逃げて生き延びたっちゅーわけや。他の奴等は?どれだけ生き残った」

 

「ああ。皆は散り散りに逃げたから、どれだけ生き残ったかは分からないし、今のところ他の誰とも会っていない。・・・悪いことなのかな?逃げることは、そんなにも。お前は私を、逃げることしか出来なかった弱虫だと、笑い嘲るのかい?」

 

 

 

彼女は自嘲する。悔しくて、悔しくて、あの時の自分が酷く醜く覚えて、それでもどうすることもできない自分に心底失望した、そんな笑い。

ずっと心残りだったのかもしれない。自分が逃げて、唯一助かったことが。

 

それこそ、アーリィンは一人のハンターとして、笑い飛ばす。

 

 

 

「笑い嘲る?ハッ、なんでうちがそんなことしなきゃならん。戦略的撤退、いい言葉やないか。・・・一般人が馬鹿なこと考えるんやない。命張るんは、大馬鹿野郎だけの専売特許や」

 

「──・・・ハハ、そうか。大馬鹿野郎か!それはやだなぁ、まだ馬鹿野郎の方がましだ」

 

「なんやと!言っとくけどなぁ、馬鹿やっても大馬鹿やっても許されるんは、大馬鹿野郎だけなんやで!いっそ突き抜けた方が楽しいに決まっとるやん!」

 

「へぇ。でも生憎、私は馬鹿は馬鹿でも賢い馬鹿なんだ。突き抜けることを良しとしないのなら、馬鹿野郎ほど生きやすい生き物もいないさ」

 

 

 

先程までの剣呑とした雰囲気は鳴りを潜め、流れ始めたのは和やかなムード。これには、一時はすわ大喧嘩かと身構えていた師範も一安心。

 

 

 

「そうだ。一つ聞いておきたかったことがあるんだけど。なんであんたは集落を逃げ出したの?次期族長っていう約束された未来があったのに」

 

「あぁ?・・・そうやな。うちは、あそこに心底嫌気が差したんや。族長の娘だからと、周りからは期待の目でみられた。女だからと、族長からは路傍のゴミをみるような目をされた。・・・あんたかて経験はあるはずやで、『女か』と蔑む目でみられた事が」

 

「辛いところだよねぇ、あそこは徹底的な男尊女卑だから。でも──」

 

「せやな。うちも我慢して、あんたみたいに村を出て鍛治師として生きていく手もあったんやろう。けどな、うちには族長みたいなセンスは無かった。良くも悪くも人並みやったんやな」

 

 

 

重たく、暗い空気が三人がいる部屋を包む。

吐きだされる、膿のような幼少の記憶。現在の明るい彼女からは想像もつかない、灰色の数年間。

 

 

 

「周りは勝手に期待して、なのにうちがたいしたもん作らんかったら勝手に失望してうちを罵る。ああそうやな、ぶん殴られた事もあったなぁ。『あんたはそれでも族長の子供か!』ってな」

 

「・・・そっか、それで──」

 

「せやから、うちは逃げ出した。あの絶望しかない地獄から。せやな、命の危険でも感じ取ったんかもしれへんなぁ」

 

 

 

遠い目。しかし眼光は鋭く、もうこの世にはいない怨敵を射抜かんと宙を飛び回っていた。

 

刹那、アーリィンの脳裏に忌まわしき過去が蘇る。

 

 

昔の話。まだ不幸な少年が家族と暖かい時間を過ごしていた、今を十年と少し遡った頃の話だ──

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