のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

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エピローグ・これからもずっと

眼前に広がるのは、『廃村』の二文字を忠実すぎる程に再現した光景。

潰れた家々は草に纏われ、まだ建っている家も半ばまで蔦に覆われている。

地面を手入れする生き物もなにも居なく、ただただ漠然と草が生い茂っていた。

 

 

生き物の気配はない。皆ここにいる強者(・・)の気配を敏感に感じ取ったのだろう。ランポスやらファンゴやらは一目散に逃げていった。アプトノスやケルビもまた然り。

その草むらのなかをかき分け進んでいき、たどり着いたのは唯一まともに家として機能できるであろう、廃屋。ただ唯一まし、というだけだが。

 

 

 

 

「ふぅ・・・、戻ってきたのはいつぶりだか。草が生い茂ろうが変わらんなぁ、ここは」

 

 

 

 

頭防具を外して、一息つく。今はフルフェイスのヘルメットだ。こいつ、顔を隠すのには使えるんだが、如何せん息苦しいんだよな。・・・やっぱりオープンの方が良かったかなぁ。若干後悔。

 

その家の裏手に回ってみると、まだ生えたばかりの若木を見つけた。本当は大木の根本にでもと思っていたが、これはこれで趣深いかもしれない。

 

 

若木のそばにサクリ、と剣を地面に刺して盾を添える。父さんと母さんと俺、三人の力が混ざりあったこの盾剣、願わくば未来を守護する力にならんことを、なんつってな。

 

 

 

 

「そんじゃ、行ってくるよ。次もいつ来れるかわかんないけどさ、元気でやってくから」

 

 

 

 

近くからアーリィンの声が聞こえる。全く、心配し過ぎだと何度言ったら。

 

 

 

 

「おーい、アーリィン!こっちだー!!」

 

「トウマ!お前、勝手にふらつくなって何べん言ったら分かるんや!」

 

「俺はガキか!?ったく、態々探しに来てくれたのか?」

 

「当たり前やろ。もう、うちはあんたの何やと思っとるんや」

 

「悪かったって。じゃあこう言ってやれば良かったか?ありがとうな、マイハニー」

 

「なんか腹立つわぶっ殺す」

 

「なんつー理不尽」

 

 

 

 

くだらないコントを繰り返す。まぁ仲が悪いわけでもないんだし、許されてもいいだろう。

それと、ここに来たのはただの墓参りの為だけではない。

 

 

 

 

「ちょっと、ちょっと待ってくれ」

 

「なんや。こんな廃村、何の用があって──」

 

「言ってくれるな、俺の故郷に」

 

「えっ?って、ことは。ここが・・・?」

 

「ああ。・・・父さん、母さん。俺の婚約者を紹介するよ」

 

 

 

 

若木に振り返る。本当はここに眠っているというわけじゃないと思うが、こういうのは結局は気分だろう。

 

 

 

 

「は、はじめましてお義父さん、お義母さん。うちはアーリィンと申す者です。・・・・安心して任せてください、お宅のトウマは、うちがちゃあんと幸せにします」

 

「おい、おいおいおいおいおい。おま、そういうのは本来男が言う台詞だろう!?止めてくれよ、ったく恥ずかしい・・・」

 

「なんや、うちが思ぅたこと言っただけやん!嘘偽りはあらへんで、うちがあんたを幸せにしたる!」

 

「そういうことを恥ずかしげもなく言うもんじゃない!はぁ・・・。あー、まぁ、そういうわけだから。父さん、母さん」

 

 

 

 

ああ、本当に、

 

 

 

 

「俺、今凄い幸せだよ」

 

 

 

 

この世界は素晴らしい。

 

 

 

 

「産んでくれて、ありがとう」

 

 

 

 

そんな素晴らしい世界に。

 

 

 

 

「おやすみ。いってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が村を出て一年、この世に生を受けて十七年が経った日のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心の臓の鼓動が止まっているのが確認された後も、アーリィンは暫く呆然としていた。

 

 

 

 

「は、はははは。トウマんも、だ、騙すのが巧くなったなぁ。でもほら、今はふざける時間やないで。はよ目ぇ開けてや」

 

 

 

 

ゆさりゆさりと、物言わぬトウマの体を揺さぶる。瞳は茫然自失。今目の前に広がる現実が認められない、認めるわけにはいかないと全てを拒絶する。

 

 

 

 

「ハンターさん、ハンターさん。しかし、彼はもう・・・」

 

「いや、いやいやいや。トウマんさっきまで元気に動いとったやん。はっ、もしや疲れ果ててマジで眠っちまったんか?ほら、トウマん起きぃ。ここはベットやないで」

 

 

 

 

容態を診察した医療隊がアーリィンに声をかけるも、聞き入れない。

それも致し方があるまい。確かに先ほどまでは元気に狩りを行っていた。

しかし実際心臓は動きを止め、物言わぬ物体に成り果ててしまっている。これは覆しようのない真実であり、現実。

 

何がきっかけで崩れるかも分からないアーリィンの精神を刺激しないように、医療隊の隊長は努めて優しく現状を述べた。

 

 

 

「ハンターさん。私もにわかに信じがたいことなのですが、これが現実なのです。人間というものは脆い、何がきっかけで命を落とすかも──」

 

「嘘や!嘘や嘘や嘘やぁ!!なんでや、トウマんはまだ死んどらん!今だってこうやって・・・っ、こう、やって──」

 

 

 

そしてふとした拍子に、彼女は見てしまった。必死になって目をそらして、無いことにしていた現実を。

それは強かに彼女の心を打ち付け、粉微塵に粉砕してしまった。

 

 

 

 

「あ、あぁ、ぁ、・・・・ッ!!」

 

「・・・英雄の墓だ。見晴らしの良い場所にデカイのを建ててやろう」

 

 

 

 

そういって医療隊は引き上げていった。一人にしておいてやろうという、彼らなりの気遣い。ともすれば死を最も多く見続けている彼らは、こういった事にもある程度馴れている。それ故の行動だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・嘘やん。なんでこんなところで。まだまだ、まだまだあんたと一緒に居られると思っとったのに」

 

 

彼は何があっても生きてきた。前の狩りもそう、自分が見ていなかった時もきっと、数多くの死線を潜り抜けてきたのだろう。

 

 

「ずっと一緒に居れると思ってた。うちが離れん限りまた、ずっと。うちの気持ちを察してか知らんでもか、ずっと隣に居てくれると思っとった」

 

 

彼は拒まなかった。素直になれなかった分、沢山振り回してしまっただろう。それでも文句一言こぼして、振り回されてくれた。

 

 

「もっとはよ言う気になればよかった。もっとはよ勇気が出せりゃよかった。何時でも言えた、なのにッ!」

 

 

何時も彼に甘えてしまった。言わなくても一緒に居てくれるから、今言わなくてもいいだろうと後回しにしてしまった。万が一、億が一に怯えて声に出せなかった。

 

 

「お前はッ!お前は遠くに逝ってしまった!うちの声の届かない所に行ってしまった!もう、うちが何を言ったって聞こえはしない、返事もしてくれない!聞き返しても、くれない!」

 

 

ああ、本当に情けない。必死に目を背けてた自分は、心の底に閉じ込めていた自分はこんなに弱いなんて。

 

 

「ずっとうちと一緒に居てくれ!」

 

 

「ずっとうちの隣に居てくれ!」

 

 

「ずっとうちにあの苦笑いを向けていてくれ!」

 

 

「ずっとうちの我が儘を受け止めてくれ!」

 

 

「ずっと・・・・ッ、ずっとッ!うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慟哭が一つ響き渡る。戦いのうちに日は落ちて、夜の帳が暗く哀しみを包み込む。

 

 

その中で、朽ちた龍の亡骸が薄ぼんやりと光を放つ。

 

 

 

喜び止まぬ町民も、

 

 

 

やるせなさに歯噛みする医療隊の面々も、

 

 

 

側で悲しみに暮れる者さえも、

 

 

 

気づかないほど、うっすらとした光が──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──まったく、そんな顔で泣くなよ。みっともない」

 

 

「ッ!!?」

 

 

 

 

突如、後ろから声をかけられた。

 

 

しかし、それはもう聞くことはないと諦めていた声色で。

 

 

 

 

「トウマッ!・・・エエェ!!?トウマ!?なんで、えっ!?はぁ!?」

 

「おう、少し落ち着けや。はい、ひーっ、ひーっ、ふーぅ」

 

「ひーっ、ひーっ、ってなんやこれ!アホか!」

 

 

 

 

突然の復活に心底驚いたアーリィン。しかしトウマの気を聞かせたギャグによって平常をある程度取り戻す。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ。あーびっくりしたわ。なんやの、あんた。マジで不死身か?」

 

「いやいや、勝手に死んだって勘違いしたのお前だろ?俺は何にも悪くねぇじゃねぇか」

 

「いやいやいや、トウマんほんとに心臓止まってたで?そら誰でも死んだと思うわアホ」

 

「いやいや、えっ?あー、まじか。あんにゃろう、ちょっとぐらい気を回してくれよ・・・」

 

 

 

 

『あんにゃろう』とは誰のことを指すのか。トウマの死骸がそっくり消えているのも理解しがたい。いったい何が起こっていたのやら。

しかし今は、本来迎えるはずのなかった再開を喜ぶとしよう。

 

 

 

 

「そういやぁ、俺が起きる前にお前何か叫んでたよなぁ?なんだっけか?えーっと、確か『ずっとうちと──」

 

「あーっ、あーっ、あーっ!ストップストップ!なんで聞こえてんねん!あ、あれは。その、せやから・・・」

 

 

 

 

アーリィンは羞恥でもじもじと、二の句を告げられなくなってしまった。トウマはそれをニヤニヤしながら見ている。

しかし次の瞬間フッと表情が柔らかくなり、『にやけ』から『微笑み』へと変わる。

 

 

 

 

「俺さ、ずっと悩んでたんだ。俺は存在自体が少しイレギュラーだから、このまま他人の気持ちに答えてしまってもいいのかなって」

 

「その、えっ?トウマん、何を言って──」

 

「けど、漸く決心が固まった。もう俺は迷わないし、はぐらかさない。さあ、なんでも言ってくれ。俺はそれに答える用意は出来ている」

 

 

 

 

さぁ、と促してくる。その目付きは優しく、しかしどこかアーリィンの本来望んでいる目とはすこしズレが生じていて。

 

まあそれでもいいやと開き直る。せっかくまたこうして再び出会えたのだから、今はこれでもいいさ、と。

 

 

 

 

「・・・うちと!うちとずっと一緒に居てくだしッ!?」

 

「・・・・」

 

 

 

 

噛んだ。ド派手に、盛大に。この一番大事な場面の最後の最後で。アーリィンの顔が再び羞恥で真っ赤に染まる。

 

何も口に出せず思考だけがグルグルと頭を駆け巡る。そろそろ目を回して倒れるかと言った頃合いに、頭をポンと撫でられた。

 

 

 

 

「ふぇっ?」

 

「まったく、なんで肝心なとこで噛むかなぁ?仕方のねぇ奴め」

 

 

 

 

そしてひしと抱き締められる。力強く、されど優しく。

 

 

 

 

「分かった。ずっと一緒にいよう」

 

「・・・・『愛してる』って言わんと、許さん」

 

「好きだ、アーリィン。愛している」

 

「・・・・・・・・・・・・・まぁ、ええわ」

 

 

 

 

ケチはいくらでもつけられた。けれどこんなときぐらい正直になるのも悪くない。

 

どうしようもなくだらけきった表情線を正当化するために、腕の内でそんなことを考えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?トウマ、これからどうするん?」

 

 

「どうもこうも。好きなことを好きなようにやって生きてけばいいだろ」

 

 

「そういうことじゃなくて、直近の話や。極限個体も狩りきって狂竜ウィルスも鎮静の一途を辿っとる。もうこれでケジメはつけたやろ?」

 

 

「うーん。俺は今のままずっと生活できれば、なんでもいいけど・・・。お前はどうしたい?」

 

 

「そ、そらうちもあんたと一緒に居れれば十分やけど・・・。あの、な?欲を言うと、こ、子供が欲しいかなー、なんて・・・」

 

 

「・・・・はっはっは、愛い奴め。ならその前に、定住地を探すとしよう。どこが良いかな?ドンドルマかメゼポルタ辺りが便利そうだけど」

 

 

「な、ならユクモっちゅー村はどうや?新大陸にある村で、穏やかな気候と温泉で有名な所なんやけど」

 

 

「お、中々いいとこなんじゃないか?それじゃ、まずはそっちの方に行ってみるとするか」

 

 

「ほんなら、善は急げや!たしか新大陸行きの便はメゼポルタから出とるはずやで、はよ行こうや!」

 

 

「おい、ちょ!・・・ったく、まー相変わらずなことだ。おーい、もうちょっとのんびり行こうぜー──」

 

 

 

 

 

 

 

 









はい、というわけで。

拙作『のんべんだらり狩猟紀行』は堂々(?)完結いたしました。

今にして思えばとてつもないタイトル詐欺。全然のんべんとも紀行もしてないという。



では後味もさっくりと。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
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