のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

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プロローグ

雪が降ってきた。それはそうだろう、今は12月だ。それも記録的な寒さだとかニュースで騒いでいたし、雪の一度や二度全く不思議ではない。

高校二年の冬。終業式が終わり、まだ昼間。青年は家へと帰って、体を震わした。

 

 

 

「おー、さび。ったく、外も外なら家も家だな。早く暖房つけなきゃ」

 

 

 

青年はコートに着いた雪を払い、家の奥へと向かっていく。部屋は一室のみの所謂ワンルーム。懐に優しい良心的な価格だった。

ハタチ製の暖房を付けて部屋が暖まったのを確認してから、彼は漸くコートを脱ぎ始めた。本来建物のなかで着るものではないが、青年は寒がりなのだ。

 

 

 

「はぁ、あったけぇ。やっぱ文明の利器って偉大だわ」

 

 

 

制服を脱いで私服に着替える。どうせ誰も見ないから制服のままでもいいとは思うが、シワができてもみっともない。消す努力はしなくてもつけない努力はする、彼はそういう男だ。

 

部屋着は全部コニクロで買った安物。どうしてコニクロ製の服はもっと流行らないのか。安くて丈夫で温かい、夏はともかく冬は辺り一面コニクロ製で埋まってもいいと思うのに。

 

 

 

「いや、俺が知らんだけかもしれんなぁ。今度探して・・・いや、やめとこ」

 

 

 

なんて口に出してしまう。一人暮らしは独り言が増えると聞いたことがあるが、それはそうだろう。人間無音の世界じゃ生きられなく、他に言葉を発する生き物が居なければ自分が喋るしかないのだから。

 

壁に掛けてある写真を見る。そこには大人の男女と小さい子供、仲睦まじい家族の写真があった。母とおぼしき女性の腹は膨れており、写真という二次元的なものでありながらも新しい生命の息吹を感じさせてくれる。

三人が三人、誰もが笑みを浮かべていた。典型的といっては聞こえが悪いが、良くある幸せな家庭のようだ。

 

 

 

「・・・・一人」

 

 

 

彼には、家族が居ない。

 

彼の両親は彼がまだ小さかった頃、交通事故で死んだ。居眠り運転だったそうだ。彼に深い絶望が刻まれた。

それからは父方の祖父母に育てられた。とても優しい夫婦で、二人が居なければ彼は中学校すら行けていたか怪しい。あまり野菜が好きではない中、必死になって三食漬物付きの食事を何年も耐えた。お陰で今は漬物が一番の好物。

 

そんな祖父母も、今年の春頃に亡くなった。もうすぐ九十歳程だったはず、大往生だった。彼が家を出てすぐに体調が悪くなり、そのまま。

そして今彼は地元では多少名の知れた、世間的にもそこそこ良いとされているだろう高校に通っている。勉強はすべて独学、バイトにも時間をとられるせいで成績トップというわけにはいかないが、それでも比較的上位にいると思える。

 

 

 

「まだ貰ったもん、なんにも返してねぇなー・・・」

 

 

 

物や気持ちは沢山受け取ったが、返す相手はもう誰も居ない。虚しい気持ちが胸を満たす。

周りが少くとも大学程度の進路は決めていっている中、彼はまだ何も決めていない。どこを目指すべきか、何になるべきか、何になりたいのかもてんでわからない。

 

 

 

「まぁ、それはまた今度。とりあえず昼飯買ってこなきゃ」

 

 

 

しかし彼は楽観的な性格。楽観的ゆえに、深く悩まない。欠点でもあるが、この場合利点とも取れなくないだろう。

彼は暖房を消して、コートを羽織って外に出た。雪は更に強くなっていた。足を滑らせないように気をつけなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃぁとっござっしたー」

 

 

 

この上なくふざけた挨拶を背に、ローンソを出る。彼の本日の昼食は梅昆布おにぎりに唐揚げ。なんだかんだと、やはり脂っこいものは美味しい。

 

さて冷めないうちに家に帰ろうと歩き出したところで、ふと入り口にあった幟の広告が目に留まった。

これは確か、近頃発売したゲームだったか。『モンスターハンター』とかいう、ハンティングゲームらしい。そのハンティングゲームとやらは良くわからないが、まぁ狩りをするんだろう。ゲーム好きな友人は狩りだけじゃないとこが面白いとかいっていたが、さっぱりである。

 

 

 

「・・・ゲーム、ねぇ」

 

 

 

勿論憧れない訳ではないが、それに現を抜かすというのは如何なものか、と彼は考える。

学生とは人が勉強をする期間だろう、と前に友人に言ったことがある。趣味趣向が良く合致する、高校での一番である彼だが、ことゲームの話題となると全く話が噛み合わなくなるのだ。

 

 

『まー言いたいこともわかるがな?人間ってのは遊びに生きる生き物なんだ。少くとも現代っ子にとっちゃ遊びとは休養であり血肉でありステータスだ。如何に遊びが今に必要なのか、知りたければやってみればいいさ!』

 

 

こう言われた。そうかもしれないと納得する部分もあったが、腹が立ったので殴りかかったら避けられた。これだからリアリストは、と呆れられた。まるで意味が分からん。

 

 

 

「・・・帰るか」

 

 

 

小さく呟いて、歩みを進める。なんにせよ、自分とは何も関係がない話である。自分は自分の生き方をすればいい、と。

ローンソから五分ほど歩けば、借りているアパートに到着する。雪もどんどん強くなってきているし、さっさと帰って暖まろう。暖房をつけて昼飯を食べて、銭湯にでも足を伸ばそう。昼風呂というのと乙なものだと思う。

 

 

 

足を滑らせないようにおっかなびっくりに歩いて、公園の横を通る。公園にも雪が積もっていて、雪合戦をしている子供が沢山いた。

 

ギャギャギャギャー、とゴムが滑る音が響いた。雪だから、勿論車も滑る。車に轢かれないように気を付けて歩かなければ。

 

 

 

そこを曲がるともうアパートが見えてくる、側の角。裏路地というか、閑静な住宅街の中なので基本的に車通りはかなり少ない。

 

曲がるときにつつっ、と足が滑った。転ばないようにバランスを保つ。雪の上では重心を下に持っていくと転びにくいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが命取りだったのかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャギャギャギャー、とゴムが滑る音が響いた。

 

 

しかし今度は遠くではない、すぐ目の前。

 

 

走馬灯や辞世の句なんてものを思い浮かべるよりも早く、

 

 

 

彼の意識は闇に葬られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは龍と人が別れる以前の物語

 

彼の謎について明かされる、最後(最初)の一欠片

 

 

 

もしかしたらあなたの身に今すぐにでも、

 

 

 

 

 

奇跡(悲劇)が起こるかもしれない──

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