のんべんだらり狩猟紀行 作:手巻きおにぎり
草陰に隠れ双眼鏡を覗く。敵さんはどうやらまだこちらには気づいてないみたいだな。俺特製の罠へとゆっくり歩いていっている。
それからさらに数分、ようやく敵さんが罠にかかった。置かれた肉につられてたやってきた敵さんは、地面に敷かれたとあるブツを踏み抜いてガクガク痺れている。今こそ好気と、草むらから飛び出て太刀を鞘から抜き放つ。そのまま駆け寄って横に一閃、両断とは行かなかったがそこそこの深傷を負わせることができた。切った勢いで吹き飛んだ敵さんを追いかけて横倒しの体を踏みつける。そして思いっきり顔面に太刀を突き立てて決着だ。
「はい、おつかれさまー。狩猟時間は、およそ8分です!初心者としてはまあまあだけど、これくらいは罠なしで倒せるようにならないとねー」
「そうですか、相変わらず手厳しいことでなによりですよ。それで、今回の反省ポイントはどうなんです?」
「そうねー、罠の使い方は上手かったけど、そこに誘導が付け加えられてるとなお良しかな。こいつぐらいの攻撃じゃ下手こかない限り死にはしないだろうし、もっと前に出てってもいいと思うよ?」
モンスターからの剥ぎ取りをしながらファリナさんからのアドバイスを聞く。もっと前に出ろとな、命最優先の場所で何をおっしゃるかあなたは。いや、もちろん相手の強さを見極めろという話なんだろうが、初心者にそこまで求められても困るってもんだ。
ハンター登録からの酔い潰れ事件から早一週間、俺はファリナさん付き添いの元狩りの基礎を習っていた。あの時一緒にいた二人が戻ってくるまで暇だから手伝ってくれるらしい。喜ぶべきか、悲しむべきか、まあ運が良かったと思っておけば幸せだろうな。
剥ぎ取りを終え、もう既に腐食が始まっている足元の死骸に目を向ける。この青色に黒のシマシマ、赤いトサカがいかしているモンスターは『ドスランポス』という、ここら『密林』に住む『ランポス』の統率個体だ。ちょいちょい大量発生する上に個体数自体が多いから新人ハンター達の練習相手になってるとかなんとか。かく言う俺も結構お世話になってるんだがな。
っと、そのドスランポスが踏んだ罠についても説明しとかなきゃいかんかな?あれは通称『シビレ罠』と言って、読んで字の如くそれを踏んだモンスターをシビレさせる罠だ。これはファリナさんから貰ったもんだから詳しくは知らないが、聞くに罠作成の基本セットに砂漠地方にすむランポスの亜種の麻痺牙を合わせるとできるらしい。新人が簡単にできないことトップ5に入ってるとか、どうでもいいか。
そんな訳で狩猟を終え、メゼポルタへと戻ってきた。一日一往復しかしないが、一週間毎日歩けばそりゃ慣れる。すいすいと人の波をかいくぐり、受付嬢にクエスト完了の判を押してもらう。ファリナさんは俺の付き添いの後、続けて密林で狩猟を開始してしまった。青い飛竜を見つけたら直ぐにバビュン、と走り去ってしまったのだ。あの飛竜は一体何だったんだろうか、ファリナさんが帰ってきたら聞いてみようかな。
狩場から帰ってきたと言っても密林はここから結構近い。時間にして凡そニ、三時間といったところか、なのでまだ時間的には夕方が始まったばかりの頃である。さて何をしようかと考えていると、先ほどの受付嬢に声をかけられた。
「えっと、トウマさん、でよろしいですよね。今少しお時間いただけますか?」
「え、あ、はい。今は暇なんでいいですよ。どうかしましたか?」
「はい、今回のクエストクリアであなたのハンターランクが10となりました。なので、次からは昇格クエストを受けられるという旨と、それをクリアするまでハンターランクの上昇は一旦停止となる旨を伝えに来ました」
「そうですか。ハンターランクが10、となると、次の昇格クエストは噂のイャンクック、とやらですか?」
「そうですね、一人でイャンクックを狩猟できれば晴れて一人前ハンターのスタートラインに立つことができます。昇格クエストは私に言っていただけたら受注できますので、いつでも言ってくださいね」
「わかりました、わざわざありがとうございます」
「いえいえ、では私はこれで失礼しますね」
昇格クエスト、聞きなれない単語が出たと思ったな?ファリナさん曰く、ハンターランクに実力が追い付いているかを試すための試験とのことだ。各昇格クエスト毎に決まったモンスターを一人で狩らないといけない、というもの。これは最近ハンターランクだけを不当に上げていく初心者レベルのハンターが急増してるらしく、それの対策のために作られたのだとか。これは受付嬢さんの言ってたことだけどな。
さて、そんなわけで次の相手は熟練ハンターの間で『先生』という愛称で呼ばれているイャンクックだ。この先生という愛称はイャンクックの各飛竜との共通点の多さと、モンスターとしてはかなり高い知能を持っていることから呼ばれているんだそうだ。一部では熱心な先生ファンかいるとか、いないとか。
そんな訳で次の日、借りてる部屋で俺は昇格クエストの作戦を練っていた。今回は借り物じゃない、すべて自分が揃えたもので勝負しようと思う。防具は昨日の狩猟を経てようやく完成したランポス装備一式に、武器は鉄鉱石やモンスターの骨でできた太刀『骨刀』でいく。
回復薬と、砥石をポーチに詰め込んで、昨日も使ったシビレ罠を別のバッグに入れる。作戦は拙いもんだろうが、準備は万全だ。万全なんだが・・・
「はぁ、どうして今日に限って雨が降っちまうかねぇまったく!」
雨、そう雨だ。今回の狩猟地も密林ということで、ここメゼポルタとそこまで離れていない。おそらく向こうも雨ザーザーだろうよ。狩猟を明日に伸ばしても良かったんだが、それだとなんとなく俺の気がすまねぇ。
さらに悪いことに、ここらの雨は2、3日降り続くことがざららしい。だから雨上がりを待ってたら最悪、クエストがお流れになってしまう可能性もあるわけだ。だったらと、今日行くことに決めたわけだな。
荷物を持って玄関から出る。雨はそれなりに強く降っており、防具越しに俺の頭を叩いてくる。視界はもちろん平時より悪い、密林なんぞに行ったらさらに悪くなるだろう。コンディションは最悪、しかし後には戻れねぇ。何が何でも今日出発して、ハンターランクを上げれるようにしてやる!
「いやー、今日は生憎の雨天。それなのにトウマ君はそんなにガッチガチフル装備で一体どこへ行くつもり?」
「ちょっと昇格クエストで密林へ。我らが先生と戯れてきますよ」
「あー、うん。今日行っても先生いるかなー?」
ん!?聞き捨てならんな、先生っている時といない時があるのか?いや、まあそりゃ生き物だから当たり前だっつったらそうだけどよ。
「いや、なに。昨日ね、あの後別れて私だけで狩りに行ったじゃない?あの時ねー、クシャルダオラって言う、まあなんかすごいモンスターが来たのを確認したのよ。多分この雨もそいつの所為ね。だから、先生もスタコラと逃げてっちゃったかもしれないわねー、と思ってさ」
「そのクシャルダオラって、いわゆる古龍ってやつですか?古龍ってのは天災すら操るって昔聞いた事があるんですけど」
「そうねー、古龍。クシャルダオラは暴風と豪雨の化身みたいなやつでね、あいつがいるところには常に大嵐級の暴風豪雨があるのよ。ほんと、面倒よねー」
古龍、この世界数あるモンスターのなかでトップクラスの化け物といえばわかりやすいか。件のクシャルダオラのように、それぞれ様々な『能力』とでも言えるようなものを持っているらしい。
有名どころでいえば、嘶き一つで雷を何個も落とせるらしい《幻獣》キリンや、羽ばたき一つであたり一帯を火の海にして、その気になれば火山の噴火すら起こし得る、と噂の《炎王龍》テオ・テスカトルだな。そのほかにも各地に古龍に関係する伝承・伝説が数多くあり、未だ人々に見つかっていない古龍は沢山あるんだとか。探せば島を作った古龍とかいるんじゃないのかな?
そして他のモンスターは古龍がやってくると大半は別の住処へ逃げていってしまう。そりゃ近づいただけで死ぬような奴らばっかだからな、逃げたくもなるだろう。ただ、そんだけ派手な事をしでかすもんだから真っ先にハンターに狙われる。今回の騒ぎも古龍の仕業なら、既にギルドが動いているだろう。数日中にはなにかしら進展があるはずだ、そう願いたいね。
いやー、これは参った。出鼻挫かれるどころか捻挫レベルで派手にスッ転んだぞ、どうするねこれは。
「まぁそれでも一応様子を聞きには行ってみますよ。もしかしたらってのもあるでしょうしね」
「お好きになさいな。私はまだ寝足りないから今日一日は寝てるわぁ。ほいじゃ、お休み~」
「あぁ、はい。おやすみなさい・・・」
まぁ自由なこってな。ハンターってのは言うなれば自由業、休むも動くも気の向くままってか?稼げん間は地獄のようさ、だから時間と金のありがたみをしっかりと理解するんだろうよ。
さてそうと決まればここでポヤッとしてる場合じゃないな、さっさと確認しにいってきますか。
「昇格クエスト、対象はイャンクック、狩猟場所は密林、ですか。今朝がた古龍討伐隊が出発しましたので、もうしばらくすれば封鎖はなくなるでしょうけど・・・、1日か2日は待たないと戻っては来ないでしょうね」
「やっぱりそうですよねぇ。それじゃ、また明日出直してきます・・・」
「あ、ちょっと待ってください。暇をもて余しているならこんなクエストは如何でしょうか?」
暇をもて余しているとは、いってくれるなこいつ。受付嬢が渡してきた依頼書にかいてあったのは≪タイクンザムザ一体の狩猟≫という文字。狩猟場所は『潮島』、時間は指定なしと書かれている。
「このクエストでしたらおそらく古龍の影響もないでしょうし、トウマさんの実力的に考えても十分安全でしょう」
「なるほどね。これを受けるとして、いつぐらいから出発できそうですか?」
「トウマさんの準備次第ですね。今からでも出発できると思いますよ」
さて、どうしたもんかな。はっきり言ってめんどくさい、というのは確かな事だけども。今俺は慢性的な金欠状態の真っ只中にいる。武器や防具の強化・新調が相次ぎ、それに加え回復薬や罠の素材など狩りの道具は勿論、日々の食事代なども重なって出費が激しいのだ。
今はファリナさんのおかげでなんとか食い扶持は確保できているが、いつまでもおぶられてるわけにもいかんだろうしなぁ。だから早くハンターランクを上げたかったんだが・・・。
「・・・わかりました、受けましょう。それじゃ準備をしてくるので、また10分後にきますね」
「了解しました。それでは私はここでお待ちしていますね」
さて、なにが必要かな。罠、はイャンクックの為に残しておくとして、薬と砥石とかかな。あ、そうだそうだ。確か初めてのモンスターと戦う時は閃光玉ってのを持ってったほうがいいって聞いたな。素材玉に光蟲を練り込むんだっけ?10分で終わるかなそれ・・・。
10分後、俺は準備を整えて先程のクエストを受けに来た。結局閃光玉ってのは作らなかった、試し蟲を玉にねじ込んでみたら見事にゴミになったぜ。
「せやから、ウチが受けたいんはザムザのクエストなんやて!さっき来たときはあんさんめっちゃ押してきたやん!なんで今受けに来たらそれが無いのや!?」
そんな意味のないことを考えていると、右前の辺りから大声が聞こえた。なんか独特の訛りが入ってるな、何故か笑いたくなるのはなんでなんだろな?
喧嘩をしているのは例の受付嬢と、防具とおっきな鉄塊を背負った女、後ろ姿を見た感じ俺よりも少し年上、16才ほどかな?ブロンドの髪の毛を後ろに束ねている、活発そうな印象が強いな。防具は初心者ハンターのお供、ハンターシリーズ一式である。
そしてなんとその場所が俺が今からクエストを受けようと思っていたカウンターである。これは面倒事に巻き込まれる確率十割ですわー・・・
「お言葉ですが!一度他のハンターさんが受けたクエストは勝手に他のハンターに流すことはできないんです!なんでもっと先に言っとかなかったんですか!?」
「しゃーないやろ!まさかこのハンマーの教化先でいっちゃん強いんがザムザの素材使うとは思うとらへんかったんやもん!しゃーない、せやったら他のクエストなんか出しぃや!ザムザかて、その一体しか見つこうとる訳やないやろ?」
「残念ながら本日はその一体しか見つかっていません!本っ当に、残念ながら!!」
「うっそやろぉ!?なんでこんな日に限って出てこうへんのや・・・。ん?」
やべっ、見つかった!急いで逃げないと!え、もう逃げられない?ですよねー・・・
「にいちゃん、もしかしてウチからザムザ奪ったハンターか!」
「奪ったなんて人聞きの悪い。俺はただクエストを受けただけですよ。俺のほうが先なんでしょう?」
見つかっちまったからには仕方ない。完全論破してさっさとクエストに向かっちまおう。
「せやけど!せやかて・・・、せやかてこれ逃したらウチのハンマーいつ教化できるかわからんくなるねん!頼む、どうかウチにこのクエスト譲ってくれへんやろか!?この通りや!」
そういって彼女は頭をおもいっきり下げる。きれいな頭下げだ、上半身と下半身がきれいな直角を作っている。ってそんなことはどうでもいいんだよ。
「・・・はぁ。受付嬢さん、クエスト受注、参加人数二人でお願いします」
「えっ?・・・あ、はい。えっと、え?あっ・・・」
「えっ・・・?いや、あれ?にいちゃん、いま参加人数二人って・・・!」
受付嬢さんは完全に忘れていたとばかりにうなだれ、訛りハンターはお前が神かと言わんばかりに感無量。はたから見たら無茶苦茶な光景である、できれば外から見たかったなこの光景。
少しして、受付嬢さんが参加人数が二人になった依頼書を持ってきた。
「はい、これが依頼書です。猫タクさんに見せれば狩猟地まで送って行ってくれますので」
「はい、どうも。そいじゃ、行こうか」
「りょーかいや!いやー、にいちゃんが優しい人でほんまよかったわ〜。今日一日、よろしゅうにな!」
うるさくなりそうだなぁ。もしかして失敗したかもなこれは。
降りしきる雨の中、俺と訛りハンターは潮島へと出発したのであった。
昇格クエスト。皆さんには聞きなれない単語が出てきたと思います。
これはゲームの世界観を話にするにあたり、より現実味を持たせるために追加した、まあいわゆる独自設定です。
そういったものが嫌いだという読者様もいますでしょう、しかしこれは本作品が読み物として機能する為に必要なものなのです。
もちろん、独自設定を話の中心に持ってくるようなことは断じてありません。そこだけはご理解ください。