のんべんだらり狩猟紀行 作:手巻きおにぎり
初めてアン子に会った時から早半年、何故か俺らは二人で狩りを重ねていた。あいつがハンマーで、俺が太刀。この役割は変わることはなく、ひたすら修練を積んでいた。『一人より二人のほうが楽やし、何より楽しいやろ?』とはアン子の談。まぁあいつらしいっちゃあいつらしいか。
そんでいつも通りに狩りを終えて帰ってきたら、受付のちょっと遠くに立っているギルドマスターに呼び出された。
「ふむ。お主ら、ちょいとまてい。お主らのハンターランクが30に達してのぅ。より高みをゆく為に昇格クエストを受けてもらわなければいけぬ」
「へぇ、もううちらもランク30かいな!これをクリアすれば上位やで!頑張れトウマん!」
「頑張るのはてめぇもだろアン子。で、今回の相手はどういうモンスターなんですか?」
「まぁまぁ、そう急くでない。相手はまだ決まっておらぬ、その時に目撃情報がある子の中から選ばれるでの。今日はしかと休み、昇格クエストに臨むが良い」
ふむ、まだ相手は決まってないときたか。その場その場で戦い方を聞かなければいけない、と。こりゃまた面倒なことだな、できるだけ弱い奴にあたりますようにー。
「トウマんに強い奴が当たりますようにー」
「なんてことお願いしてんだテメェ」
頭を小突きながら貸家へ向かう。半年経った今でも同じ部屋を借り続けている。広いくせに家賃が低い、という好条件なうえに広場からも遠くはないという好立地。これは手放す理由がない、ということでずっと一部屋占めているわけだ。
そんで、あろうことかアン子までそこに住みだしたのだ。部屋は俺の隣、ファリナさんから部屋を譲り受けて住んでいるらしい。そのファリナさんは俺がペアを組まされた辺りで「二人を呼びに行く」といって出てったっきり戻ってきていない。まさか死んでるなんてことはないと思うけど、どこまで行ったのやら。
「さてトウマん、あんたはいつ昇格クエ受けるん?」
「いつって、んなもん決まってるだろ。明日だよ明日。今日は工房寄って道具揃えて、ゆっくり寝て明日モンスターを叩く。お前はどうすんだよ」
「んー、明日受けてもええんやけどなぁ。どないしよ、トウマんか出るんやったら暇やろうし。ウチも明日出ることにしよっかなー」
ふむ、こいつも明日出るのか。なら話は早いな、さっさと準備に向かうことにしよう。
部屋に入って太刀を壁に立てかけ、防具を一つずつ外していく。俺の今の防具は『フルフル』装備一式。防具といっても大半が白色の弾力がある皮な為、そこまで重いもんでもない。防具の特性上耳が塞がるためモンスターの咆哮を無視して動ける、お気に入りの防具だ。
そんでもって武器は『鬼斬破』と名打たれた太刀。中に『電気袋』が入っていて、なんやかんやあって刀身に電気が通っている危ない代物。まぁフルフルの皮が絶縁体になっているので俺は心配いらないんだが。
防具を外しきって普段着を着る。ハンターも防具を外せば一般人と大差ない、この時だけはそれをしっかりと理解できる。人外とばかり対峙しているとたまにそれが頭から抜けてっちまう、しっかりと自分を見つめ直す事は大切だな。さて、今は午後5時辺り。さっさと一周してきますかね。
◆ ◇ ◆
「どうも、親方。防具の修理お願いしてもいいですか?」
「ん、おう。ぼうず、今日もせいが出るな。どれどれ、って、焼け跡があるぞ。何狩りに行ってきたんだよ」
「森丘にちょっと。
「おま、この装備でレウスって。よく焼けなかったなオイ。そうか、あれか。愛の力は偉大ってか?」
「はぁ、何言ってんですか。さっさと治してきてくださいよ、皮もちゃんとありますんで」
「・・・お前に限ってそれは無いか。わかったよ、いつも通り後で取りに来な。一時間ぐらいで終わるだろうからさ」
「わかりました、それでは」
全く、どいつもこいつも。人間ってのはなんで男と女が一緒にいるとくっ付けたがるのか。独身でもあるまいし、いい大人が変な事で盛り上がるもんじゃねぇだろ。
そう頭の中で愚痴をこぼしてると、入り口の方から見慣れたちびっ子が一人来た。いつも通りの大声で呼ばれる。
「あー!やっほートウマくん!どうしたの、今日も修理の依頼?」
「ああ。レウスを狩りに行ったらブレスに掠って、アームが焦げちまったもんだからな。お前はどうした、今日もお使いか?」
「うーん、やっぱわかるかー。そうなんだよね、親方ったら中々槌に触らしてくれなくて。基本は一通り学んできたって言ってある筈なのにねぇ」
「はいはい、まあ見習いなんてそんなもんじゃねぇの?しかも鍛治師なんて女はそうそういるもんじゃねぇし、向こうも渋ってるんだろ」
「女の鍛治師だって沢山いるよー!だって私のーー」
「わかったわかった。すまんが今ちょっと急いでてな、また後で聞いてやるよ。じゃあな」
適当に切って返事を待たずに歩き出す。この手の話は長くなるって決まってるし、別に嘘を言っているわけでもない。午後5時半、防具の修理を頼んだから次は道具の調達かな。
俺の行きつけの道具屋は工房から比較的近いところにある。工房をでて左に曲がり、5分程歩いたところ。立地としては申し分なく、店主も気さくな人柄で話しやすい。欠点らしい欠点といえば、個人経営ゆえ少々高いところか。
「やっほ、店員さん。今開いてる?」
「・・・ん?おぉ、トウ坊か!いつでも開店中だぜ、今日はどうした?」
「明日昇格クエストに挑むことになってね、それでしっかり準備しておこうと思って。いつものと、それからシビレ罠と落とし穴をもらえる?」
「そうかそうか、昇格クエストか。そいつは大変だ、そんならしっかりと作ってやらなきゃな。五分ぐらいで終わらしてやる、ちょっと待ってな」
特に俺が気に入ってるとこ、それはこの調合代行サービスとも言えるものだ。それこそぼったくりともとれる程の高値だが、調合をしている時間が無い時やそもそも調合自体が難しい時にはかなり重宝する。道具の質はどれも高品質、罠の誤作動なんて起きたことがないのでとても信用している。
店の商品を見回りながら待つこと五分きっかり、店主が店の奥から戻ってきた。その手にはシビレ罠の機械と、台車に乗った落とし穴の機械一式。
「待たせたな。注文通り、シビレ罠と落とし穴、各一つずつだ。料金は合計1900zだ、道具は気が向いた時に取りに行くが、それで良いよな?」
「もちろん。それじゃあとは、回復薬とグレートを各10個。それと砥石5個、秘薬を一つ貰おうかな」
「おぉ、おお!羽振りが良いなぁ。オッケー、ちょいと待ちな・・・。よし、罠2つとそれらの道具を合わせた総計は5100zだ。が、本当に良いのか?秘薬はともかく、薬や砥石程度ならもっと安い所はあるぞ?」
人柄が良い、本当に人柄が良い。もしかしたら売り上げが減るかもしれないのに、それでも相手の懐を心配して忠告をしてくれる。だからこそ、俺はこの店で買い物をする。ま、ちょっとした恩返しみたいなもんだな。
「良いんですよ、ここなら。道具がいざって時に使い物にならなかったら命の危険だし、ここならその心配はありません。命を金で買ってるんです、こんぐらい当然でしょう?」
「・・・う、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!そんなにおだてたって、値引きしたりはしねぇぞコンチクショウ!」
「なんだ、それは残念。なら5100z、ここに置いておくんで。またよろしくお願いしますねー」
次に行く為に店をでる。正直、店主の男泣きがうるさかった。さすがにおだて過ぎたかなぁ・・・?
次に寄ったのはいつかに行ったホルクの飼われている所。アン子とペア組む前はあまり出番が無かったが、今は非常に良く働いてくれている。半年間餌(モンスターの素材)を与え続けた為、それなりに育っている、と思いたい。
前にも説明したが、ホルクには『与え続けた素材の属性に染まる』という特性がある。しかし、俺はその辺適当にあげていたので特に決まった属性には染まっていない。うちのホルクちゃんはプレーンでノーマルなピュアな子ざます。
「おう、来たなハンター殿よ。ホルクをご所望だな?」
「ええ。『ホル吉』をお願いします」
「あぁ、あの可哀想な・・・。わかった、しばし待たれよ」
受付のおっさ・・・、お兄さんに挨拶をする。可哀想とは失礼だな、俺のホル吉に何か文句あんのか?
ホル吉、分かるだろうが俺のホルクの名前だ。半分以上ノリで付けた名前ではあるが、今はなんだかんだいって愛着がある。呼びやすくて良いじゃないか、ホル吉。
ホル吉ホル吉と頭の中で連呼していると、ホル吉を呼んできたとおっさ、お兄さんが俺を呼んできた。
「ほれ、待たせたな。相棒の到着だ」
ギョァ、ギョァァ!
「おぉ、よしよし。どうどう、落ち着け。落ち着けって、落ち着けって言ってるだろうが髪の毛を咬むんじゃねぇゴルァ!!」
はむはむ、と俺の髪の毛を咬んでくるホル吉の首元を鷲掴みして離す。別に見た目には頓着しちゃいないが、さすがに唾液ダラダラになるのは許せん。呆れた奴だ、生かしておけぬ!
まぁそれは冗談、というかスキンキップの一環みたいなもんだから隅に置いとこう。今日持ってきた素材は、『火竜』リオレウスの鱗。火炎のブレスを放つ、モンスターの代表格だ。素材の品質は高くはないものの、モンスターとしては一級品の代物である。
それをボリボリ食べるホル吉を見つつ、ホル吉の育成について考えを巡らせる。ホルクというモンスター自体がかなり小型なので、戦闘力としてはあまり活躍できないのはもうわかっている。なので方向性としてはやっぱり、定石である支援方面へ向かうしかない。しかし支援、といっても色々あるからなぁ、どのように働かせるべきか・・・。
食事の後もホル吉と10分ほど遊んでいき、また次の目的地へ向かった。ここは工房や道具屋からは少し離れている。工房に戻ったらちょうど防具の修理が終わってる頃だろう。
「あ、来た来た!お帰り、防具の修理終わってるよー」
「・・・おう、悪いな。助かった。料金はいつものぐらいで良いよな?」
「うーん、それで良いって言ってたはず。素材は持ち込みだから、修理代1000zお願いします。こっちで預からせてもらうよ」
なんでお前が渡すんだ、とかもしかしてお前がやったのか、とか。色々聞きたいことはあるけど、とりあえず黙っておこう。俺は空気が読める男だからな。
修理された防具をしっかりと確認してみる。うん、どこにも綻びは見つからないな。明日は一人だし、何かあったら困る。帰ったら他の防具と、それと武器も見なきゃいけない。
「それと、さっきの話!後で聞くって言ったからにはちゃんと聞いてよ!いいね!?」
「んー、そういやそんなことも言ったな。わかったよ、それで?お前の故郷がなんだって?」
「えっとね、私の故郷には女の鍛冶士の人も沢山いたんだよ!それでねーー」
長いからカット。ちょっとした世間話程度だから説明する必要はないだろう。なんのかんのと一時間ほど話し込んでしまい、夜も更けてしまった。腹がへったな、帰ったら飯にしよう・・・。
◇ ◆ ◇
家に帰ってきた時には、もうあたりは大分暗くなっていた。。一般家庭は日の昇り降りと行動を共にするから、周りの家は殆ど寝ている頃だろう。
それはさておき、今日の俺のディナーは『アプトノスのこんがり骨付き焼き肉』だ。え、それただのこんがり肉じゃないかって?そうだよ、その通りだよ。
部屋で焼くと匂いが残るからベランダに出て焼こう。鼻唄を歌いながら暫く肉を焼く。うーん、肉の焼ける香ばしい匂いがしてきた。もう少しで完成かな。
そんな頃に、後ろから声が聞こえてきた。声質からして聞きなれた、おそらくアン子の声だろう。肉の焼ける旨そうな匂いにでも誘われてきたんだろうな。
「お?なんやなんや。星見ながらのディナーなんて、トウマんも中々ロマンチストやなぁ、えぇ?」
「んな訳あるか。こんな大胆な骨付き肉にロマンチックも何もあるかってんだよ。それよりお前はどうしたんだ、もう良い子は寝る時間だぞ?」
「なんで子供扱いされなあかんのや。うちかてまだまだ活動時間やで。こっち来たんは特に意味無いわ、暇やから来ただけ」
そういって俺の部屋の中から勝手に椅子を持ってきて、隣に座る。何してるんだ、とツッコミたくなるが言っても聴くまい。時には諦めも重要だと、学んだ。
「なぁ、トウマん」
隣のアン子から声がかかった。声色がいつにも増して真剣味を帯びている。肉の具合もいい感じになってきたので、それを食べながら話を聞くことにしよう。
「どうした、アン子」
「うちな、・・・。これ、この昇格クエストが終わったら、ここを出ようと思っとるねん」
「・・・ほう、そりゃ俺は構わんが。またどうしていきなり?」
「・・・最近な、なんか伸びなやんどるねん。新たなモンスターと戦って、新しい武器防具揃えて。けど、なんなのか、違う気がするねん。うちに足りんのは、それやのぉて、なんや別なもんなんじゃないか、と」
「それがここを出て、外に向かう理由・・・。なるほどな。二人でやることに不満、あるいは不足を感じたわけだ」
「いや、トウマんが悪いんやないで!?ただ、そろそろ誰かに頼りながらやってくのは、卒業しようかと思ってな」
ふむ、こいつもこいつで考えてるわけだな。そういう事なら誰も引き留めまい。そろそろ肉も食い終わって来た頃だ、話にけりをつけるか。
「そういう事なら俺は何も言わない。お前の好きなように生き、自分を高めたいだけ高めろ。それが出来る時は自由な時だけで、出来る奴は自分自身だけなんだからな。話は以上!俺は寝る」
「・・・っ。そうかい、わかったわ。ほな、また明日な!」
声が若干ひきつっていた。隠すように鼻をすするような音も聞こえた。非常に申し訳ないとも、少々可哀想とも、若干やり過ぎたかとも思った。しかし人の可能性を潰す訳にはいかない。後ろめたい気持ちに引きずられながら、今日も夜は過ぎるのであった。
◇ ◆ ◇
次の日。日が昇るのと同時に起きて、今日の準備を始める。防具のチェック、武器のチェック、道具のチェック。どれも万事ぬかりなく、終わった。防具を着て、武器を背に担いで、道具のバッグを肩に担いで。すべてが完璧に終わったのを確認してから家を出る。
出口には、もうアン子が準備を済ませて待機していた。緑色の鱗や甲殻で急所を固めた鋼鉄のドレスメイル、リオレウスの番リオレイアの防具を身に纏い、背中にはリオレウスの顔を模したハンマーが背負われている。
「ようやく来たかトウマん。相変わらず無駄に慎重やな、もう少し大雑把でもええやろう?」
「自分の命がかかってるんだ、慎重過ぎてなにが悪い。・・・さて、それじゃ行こうか」
「せやな。ほな、行こか」
そういってしたり顔でアン子が見せるのは二枚の依頼書。片方には『アーリィン』の指名が書いてあり、もう片方にはもちろん『トウマ』の指名が。こいつ、もう先に行ってやがったのか。
俺がため息をつき、アン子が忍び笑いをする。全ていつも通り。そして俺らは別々の出発口へ向かった。
クエスト名:昇格クエスト・棘竜
狩猟地:樹海
報酬金:9600z
契約金:480z
備考:条件・ソロ限定、条件・HR30限定
依頼人:ギルドマスター
依頼文:これはHR30からHR31へ、つまり上級へと昇る為の試験じゃ。相手は棘竜・エスピナス、中々起きない寝坊助小僧じゃ。協力な炎や毒なども使うゆえ、重々気をつけて行ってこい。