のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

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昇格クエスト・棘竜

トウマ君15才、恐らく始めて空を飛びました。といっても乗っているのは飛行船のようなもので、雲を越すまで上に昇った訳ではない。と言うのも、今回のクエスト地である『樹海』がメゼポルタがある大陸から海峡を渡った別の大陸まで行かないといけないからなのだ。

なにもメゼポルタが管轄しているのは周辺地域に限ったものではない。大陸の周辺の群島、ならびに僻地で未探索の秘境の調査も管轄内らしい。メゼポルタで活動していた最上位ハンターは、今はその『秘境』での探索を行っているんだとか。俺が向かう『樹海』も昔は秘境認定をされていて、周辺調査が十年ほど前に終わった後に一般公開となったらしい。

 

まぁそんなわけで俺が降り立った樹海の地、未だ解明され尽くされていない遺跡があるとの噂の地。今回のターゲット『エスピナス』はそこの主な生息モンスターの一種だ。詳しくは知らないが、依頼文の『寝坊助』という単語を見るに、寝てばっかりいるのだとは思う。・・・寝るのか、こんなまっ昼間から。

ベースキャンプに着いた。ここまで来るのに約1日を有した、もうへとへとである。日も落ちかけているし、今日のところは一旦寝て、明日から狩りを始めようかな。ホル吉はほっておけば勝手に夕飯は食べるだろうし、ゆっくり寝る事にしよう。

 

◇ ◆ ◇

 

樹海には、狩猟指定区域内に途轍もなく大きい樹が生えている。驚く事に地表は空洞になっていて、中にモンスターが生息しているらしい。そんな出鱈目な洞窟の中で、俺は物陰からとある1匹を観察している。ホル吉は別場所で待機、呼ぶまで来ないように言い付けてある。

観察対象は今回のターゲット、エスピナス。鼻提灯をぶら下げて寝ている奴をしっかりと観察する。周りには小型モンスターすら居ない。余裕綽々だな、どうにも嫌な予感がする。殴らなきゃ倒せないが、殴って奴が起きたら大変な事になりそう。うむむ、ジレンマである。帰りてぇ。

 

まぁ何時までもぐだぐだやってる場合ではないので、ゆっくりと近づいていく事にする。腰を落とし、いつ何が来ても回避出来る体勢を維持しつつ近づいていく。寝てると思わせておいて~、なんてことでやられたら冗談じゃない。

ところがどっこい、俺が尻尾の間合いに入ってもなにもしてこなかった。今俺は丸まっている奴の鼻先当たりにいる。起きたら下手しなくてもやられる場所である。こいつが本当に寝ているとして、さて一体どこを攻撃してやろうかな・・・。オーソドックスに顔か、バランスが崩れるのを期待して尻尾か、飛竜の長所を消すべく翼を狙うか。

 

・・・よし、決めた。俺は音を出来るだけ出さないように太刀を鞘から引き出し、構える。そして思いっきり下に向かって突き刺した!

流石にこれはたまったもんじゃないだろう。エスピナスは直ぐ様目を覚まし、余りの痛みに暴れたした。俺は太刀を引き抜き即座に下がる。

傷口からは暴れる度に血がボタボタと垂れてきている。どうやら当たりを引いたようだ。痛みで血走った目がこちらを睨む。その目が湛えるのは溢れる怒気、殺意。

エスピナスが怒りの咆哮を上げるが頭防具のお陰で俺は気にならない。こちらも準備万端、戦闘の始まりだ。

 

グルルルァァァァァ!!!

「っしゃぁ!行くぞゴルァァァァ!!」

 

 

◇ ◆ ◇

 

深緑の甲殻をたぎる血によって赤く染めながら、エスピナスは怒り狂う。暴れまわる体につられて動く尻尾を上手く掻い潜り、一歩分程の距離を取った。その瞬間悪寒が背筋を走り、横へと転がればエスピナスの甲殻の棘が防具を掠めた。太刀を急いで鞘に納め、更に距離を開ける。

そこを狙ってくるのは深緑の弾丸。赤い棘を全面に押し出して突撃してくるのを見て、チャンスだと思った。モンスターが突進をかましてくるときは、基本前しか見えていない。故に、終わり際に接近できればそれが隙となるのだ。

近づいて脚を狙う。慣性で振られる尻尾に気を付けつつ、太刀を鞘から抜き関節部分の甲殻を思いっきり切りつけた。確かに手応えはあったと理解しつつまだ肉は切れていないと判断し、直ぐに離脱をする。その後も何度か同じ場所を切りつけ甲殻を貫通さして流血、あわよくば転倒による隙を期待した。

 

幾度目かの突撃の際に、努力は報われた。脚の傷から血が吹き出し、エスピナスが勢い余ってすっ転ぶ。そこに駆けつけ、まず狙うはもう片方の脚。両足をボロボロにきてタコ殴りを目指す!甲殻の隙間を縫って太刀を差しこめば、ブチブチと筋肉を断ち切る感触が伝わってくる。

太刀をへし折られないうちに引き抜き、次に狙うは顔。眼球を通して頭の中をかき回せば、いくらモンスターであっても即死は免れまい。そう思いエスピナスの顔の前まで近寄れば、待ってましたと赤く煌めく炎が口元に。

 

「あ、待てこれちょ待どぉぉうわぁぁぁぁ!?」

 

驚きで足が縺れて俺がすっ転ぶ、その背中に何かとてつもなく熱い熱源がかすっていった気がした。気がしたじゃねぇ転ばなかったらトロットロに熔けてたところだったぜ畜生!

あぁびっくりした。まさかブレス攻撃を持っていたとは、運が良いのか悪いのか、生き残れたんだから良い方なのか。焼けたかもしれない背中部分を気にするのは後にして、起き上がったエスピナスをしかと見据える。もう油断も慢心もしねぇぞと、覚悟しろよお前と、そういう意思を込めて。

 

エスピナスへ向かって走り出す。向かってくる火球ブレスを避け、姿勢を低くして再び脚を狙いだす。入り込んだところで空が明るくなる。上を見上げれば空中を軽くホバリング(・・・・・)をしてこちらに頭を向けるエスピナスの姿が。即座に放たれるブレスを走ってかわしつつ、懐からある道具を取り出す。そしてそれを思いっきり下に投げつけた。

溢れだすは閃光、生物の目を潰すほどの圧倒的光の奔流。それはエスピナスの視界をも例外無く圧殺した。視界が無いと生物はバランスを崩すのだとか、それをエスピナスは体現し空から落っこちて地面との熱い接吻を果たした。またしても隙、今度は隙を逃さずに攻め入る!

 

頭でも打ったのか、ぐったりしているエスピナスの尾部へと周り、外す事無く甲殻の隙間へと太刀を滑り込ませる。神経を、肉を断ち切り、骨は流石に一太刀では切れなかった。引き抜き、もう一太刀。堅いものを切る感覚とほぼ同時に、地面を浅く太刀がきった。詰まる所、尻尾の先の切断が完了したわけだ。

切れた痛みでエスピナスが復活するものの、尻尾が減ったせいで上手くバランスが取れず、立ち上がる事が出来ない。こうなってしまえばほぼ俺の勝ちが確定する。後は立ち上がれず抵抗出来ない相手をひたすら切り付け、血を外界に晒し続けさせるだけ。

 

短いようで長い35分程。それまでの生涯の何百分の一の時間で、ある一体の生物の死が確定した。

 

◇ ◆ ◇

 

倒れ伏すエスピナスの前で一礼、絶やしてしまった命に謝罪と意思の表明をする。全然時間的には足りないかもしれないけれど、殺してしまったお前の分まで必死に生きて行きますよ、と。ホル吉が隠れ場所から飛んできて頭の上に止まる。爪立てるの止めろよ、お前の爪固いから防具貫通しそうで怖いんだよ。出番が無かったのがそんなに不満かコンチクショウ。

さて、供養が終わったからさっさと剥ぎ取りを始めよう。棘を残らず折って素材とする、甲殻や鱗をひっぺがして素材とする、牙をなんとかほじくりかえして素材とする。そんでもって首や翼の辺りの骨をほじくり出して肉を削ぎ、これも素材とする。その内半分を、死骸の横にお供えしておいた。化けて出てこないでくれよー?

 

頑強な、モンスターという生物は体まるごとが人間にとっては武器になり、鎧になる。人々は古来からそうして力を身につけ、生存圏を少しずつ広げていった。そして『生き物の死』に真摯に向き合い、生と死に折り合いをつけて生活していた。

だから、俺らハンターはそれを継承する。抗うために力を貰い、それに感謝、自然を尊重しながら生きていくんだ。だから素材を全て持ってったりしてはいけないし、無駄な殺生も基本禁止されている。人間もまた自然の一欠片であるのだ。

まあこんなこと長々と考えていても仕方がない。やる事やりたい事は全て終わった、そんならさっさとお家に帰りましょうかね。

 

 

帰りもまた飛行船で一日、ここまで移動が不便だと嫌になってくる。滞在時間の2倍以上はこの飛行船で過ごしてるわけだから、時間の無駄使いここに極まれりって感じだ。なんで嫌かって、何よりやる事が無さ過ぎるのが嫌なんだよ。俺に何かやらせろ、頭上の雲の数を数えるのはもう飽き飽きなんだよ!

 

 

 

「うぃー、漸く到着したぞ。今日ぐらいはフカフカの布団でぐっすり眠りてぇなぁ」

 

メゼポルタについた飛行船から降りて、固まった体を解しながらそんなことを呟く。このままクエストカウンターへ行って、それで依頼は達成、お仕事完了になる。いや、昇格クエストだからギルドマスターに直接報告するんだったか?よく覚えてねぇや。

のんびり歩いて5分ほど、受付広場へと到着したなんやだ結果、取り敢えずギルドマスターへと挨拶に行くことに決定した。ギルマスさんは竜人族の女性、背の高いすらっと美人だ。しかししゃべり方は老人風、あの見てくれで一体何歳なんだ・・・?

 

「どうもー。ギルマスさん昇格クエストクリアしてきましたよー」

「む?ぉ、おぉお主か!丁度いいところに来た。お主、たしか『アーリィン』という女子(おなご)と一緒にペアを組んでおったよな?」

「え、えぇ。そうですけど・・・、何かあったんですか?まさか・・・」

 

嫌な予感がした。何があっても起きて欲しくないような事態が、起きたような。

ギルマスさんは、難しい顔をしながらも首を横に振った。

 

「お主が思ぅておる事は大方予想はつく、しかし安心せい。まだそうとは決まった訳ではない。が、非常に危険な状態じゃ」

 

ここで一拍置いて、ギルマスさんは再び話を始める。

 

「まずは事の始まりを説明しようかの。まず知っておくべき事はアーリィンが向かった先は『砂漠』だという事、それとお主も知っておろうが『ここから砂漠までは往復しても2日程度で帰ってこれる』事。昨日、古龍観測隊から連絡があっての。砂漠に強大なモンスターが飛来したとの報を受けたのじゃ。そして、今現在までアーリィンはここに帰ってきておらん。まぁ、つまりはそういう事じゃな」

「・・・それで、その古龍は?そこまで強いのなら、討伐隊が組まれて然るべきでしょう?」

「それがの、其奴は余りにも強すぎるんじゃよ。じゃから一般の上位ハンター共では太刀打ち出来んのだ。幸いそれを狩りえる者達が今此方に向かっているとの報せも受けた、その者達に事の重大さを話し、討伐に向かってもらう予定じゃ」

 

アン子が向かった先は砂漠、そこまで行くのに確か片道半日と少しぐらい。そこにはやばそうな古龍が居座っていて、アーリィンが行方不明。

・・・くそ、柄じゃねぇってのに

 

「ギルマスさん、俺に依頼を出してくれ。内容は『行方不明のハンターの救出』。目的地は砂漠、報酬なんて要らねぇ」

「な!?お主、馬鹿な事を言うでない!お主が向かっても一緒に遭難が関の山、最悪お主まで死んでしまうのやも知れんのだぞ!?」

「だからってここで手ぇこまねいて待ってろっつうのかよ!?だったら死にに行く方がましだ!」

「ならん!ギルドマスターとして、若人を死地に向かわせる訳にはいかん!」

 

くそ!分からず屋め!

 

何か認めさせる方法はないか、模索をしていたところにふと、後ろから声がかかった。

 

「ったくよォ、ギルマスなんて非戦闘要員がグチグチしゃべってんじゃねぇよ。死にてェ奴は死なせてやりゃぁいいんだよメンドクセェ」

 

どこか聞いたことある声だった。

粗雑というか、野蛮というか。自分の力に驕り高ぶり、それでいても尚絶対強者としての風格を崩さない、恐怖すらも感じる声。

そんな久しぶりに聞いた声は、今だけは頼もしくすら感じられた。

 

「・・・最上位ハンターが一組帰ってくる、とは聞いておったが。まさかお主だったとはな。向こうは大丈夫なのかえ?」

「若手が一組入って来たからなァ。お前らは1回休んでこいってありがてぇ御言葉頂いて、帰ってきたわけだわ」

 

身長が伸びても、威圧感は変わらず

 

「・・・ふむ、お主が着いていくというのなら、な・・・。だが、いくらお主でもあれを狩るのは出来まい?」

「生憎うちの馬鹿舎弟共も一緒に帰ってきててなァ、ちょいと三人入れて伸してくることにするぜ。んで、空いた所にこいつブチ込めば完璧だ」

 

なまじ力をつけたからこそわかる、絶望的なまでの力の差

 

「それでいいよな、ガキ」

 

その全てが今、俺に見方してくれている。

もう、負ける気はしないな。

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