のんべんだらり狩猟紀行 作:手巻きおにぎり
「ブローダさん、戻ってきたんですね・・・」
「ファリナの奴から報告を受けてなァ」
砂漠へと向かう馬車の中、俺はブローダさんと面を向かって話をしていた。やっぱり、会話の出だしとしてはこんなもんだと思う。
あの時振り向いたときはおったまげたもんだ。なんでお前がおるんやぁ!?とアン子弁で叫びそうになったぐらいだからな。
「お前もびっくりしただろうがよォ、俺も正直驚いてんだよ。まさかバカ正直にハンターやりにここまで来てるたぁよォ」
「え、あぁ、そうですか。・・・俺も色々考えたんですよ。なんで俺の村があぁなってしまったのか、ですとかね」
「カァ、真面目ちゃんかよ」
・・・なんというか、意外と話しやすい。
偏見もあっただろうが、もっといつもビリビリしてて『話しかけんなぶっ○すぞ』みたいな感じになるとおもってた。人は見かけによらないとはいうが、初対面の印象にもよらないとは驚きだ。
「そういえば、今回砂漠に現れたって話の古龍ですが。どんな奴なんですか?」
「・・・残念ながら、今回のこれは古龍じゃあねェ。何を勘違いしてやがる」
・・・おろ?
おかしいな、確か古龍が砂漠に出現してそのせいでアン子が帰ってこれないって話だった気がするんだけど。
「今回現れたのは、俺らの中じゃあ『不明種』と呼ばれている、最近ここいらにも出るようになったらしい秘境原産の殺戮生物の一種だ。馬鹿弟子二人を先行させてあるから、確証もある」
・・・おい、おいおいおい。古龍とも比類するほどの化け物じゃあないかよ。
秘境ってのはいまいちよく知らないが、メゼポルタの最上位ハンターを導入してるところらしいからな。秘境っつうか魔境みたいな所だろう。
そこの住人をして『殺戮生物』と呼ばせるそいつ、怖いもんだ。
「まぁ、詳しい事は言わんが。間違っても乱入なんかしてくれるんじゃあねェぞ。お前じゃ瞬殺されるのが関の山だ」
「え、えぇ。そりゃ、もう」
・・・つくづくこの人が居てくれて助かった。一人だったら何も出来ずに死ぬだけだったろう。ギルドマスターが俺を行かせまいと躍起になったのも理解できる。
だからっつって行かないという選択肢は無いわけだが。
「それじゃあ、俺はアン子・・・、遭難者の救助に専念することにします」
「おう、是非そうしてくれィ」
到着する頃には夜になっていた。メゼポルタへ帰ってきたのが昼過ぎだったので、かかった時間は半日ない程度だろうか。
「お二方、そろそろ砂漠のベースキャンプに到着しますニャ。準備をお願いしますニャ」
御者台のアイルーが声をかけてくる。防具の調子を軽くチェック、動きに支障がないか確認する。・・・よし、どこも異常はないな。
太刀は今回使わなさそうなので、紐を鞘に繋げて背中に背負う。地面を擦らないか心配だな。太刀の長さは俺の身長から頭を除いた分ぐらいあるからな、擦らないように紐を調節せにゃならん。
暫くして、馬車が止まった。そこからまた歩いて数分、半年間ちょくちょく通って馴染みになったベースキャンプに到着した。こじんまりとしたテントと、その下には砂だらけのベッド。隣には、パッと見三人分の荷物が無造作に置かれている。
青色の箱、ギルドからの支給品が収納されているそれを覗いてみれば、中は空っぽ。あの荷物の持ち主のうち誰かが持っていったのだろうか。もしアン子が持っていったのならば、それで生存率は幾らか上がっている筈だ。
「んじゃあ俺はあいつらを探しに行くからなァ」
「わかりました。捜索はこっちで勝手にやっておきますんで」
「オゥ。こっちが終わったら赤の照明弾を上げる。それまでこっそり隠れてやがれ」
「わかりましたよ、っと」
砂漠のベースキャンプには、ちょっとした裏道がある。テントとは反対側にある井戸なのだが、この井戸は実は地下洞窟、およびそれに隣接する地底湖へ繋がっている。落下距離こそそこそこあって怖いが、本来地下洞窟に行くには砂漠を大きく迂回しないといけないため、その分時間が短縮出来るのだ。
地下洞窟へ降りたって周りを見渡す。いつもなら、ゲネポスやらカンタロスやらランゴスタやらといった小型モンスターが集まっているのだが、辺りにその影は見つからない。洞窟特有のひんやりした空気が漂っているが、まぁそこまで気にならない。フルフルの皮は、保温性も高いのだ。
「さて、と。見た感じ何も居なさそうだな・・・。おぉい!アン子ー、いるかー!?」
大声を出してみるも、洞窟内で反響してくる音しか聞こえてこない。やはりここには居ないのだろう。俺は腰のポーチから、橙色の薬を取り出して一気に飲み干す。
この薬は『千里眼の薬』という名前だ。なんか凄そうな名前で、実在効果も名前に見合った便利な効果である。この薬の効果は、自分の脅威になる存在がどの辺りに居るのか、距離方角含めてざっくりと判るというもの。
凄そうで、まぁ実際凄い効果ではあるんだが、何分千里先まで範囲が広いわけではないし、これくらいの事はベテランになってくると経験で推測ができるらしい。
それにこの『反自然的』ともとれる効果のでる薬、かなり入手が難しい。なんでも竜人族の秘術を使って作られているとかで、市場における絶対数が全く足りていない。しかもその少ない在庫を大半がギルドが買い占めているため、店売りされるのは実質不可能と言われるほどだとか。
しかしながら、緊急性が高かったりすると支給品として配られる事がある。今回のこれがそのいい例だな。今俺が一本飲んで、後残り二本。これは今回の救出クエストの支給品としてもらった物だ。もったいないが、出し惜しみはしない予定である。
・・・ふむ、周辺に居るのは一体だけ。東の方角だから、ベースキャンプを降りていった辺りのエリアか。その辺りで大型のモンスターが侵入し辛いエリアはー・・・、そこから地底湖へ抜けてくる細道、或いは北西へ向かった辺りの岩場だな。とりあえず近いところ、地底湖にそって洞窟を抜け、細道へ出てみようか。夜は水位が増すから抜けるのが大変なんだが、なんでも昔は通れなかったらしいし、文句を言うのもお門違いだろう。
俺は移動を開始した。
細道は、ゲネポスや手癖の悪いメラルー共のたまり場になっていることが多い。地底洞窟にも言えることだが、そこが強者から身を守れる安全地帯だと理解しているからである。
だがまぁ、それは俺らハンターにとっちゃ大変迷惑なことで。ゲネポスに噛みつかれたら神経が麻痺してしまうし、メラルーに大切な薬や道具を奪われたりしたら大変だからだ。だから俺は普通はここには近寄らない、恐らく他のハンター達も同じだと思う。
だがそれを考慮しなければ、ここ程避難するのに適している場所はベースキャンプ以外には無いだろう。それを聞いて、体験し、理解しているからこそ言えることではあるが。俺らはよくお世話になった。
ここでなければ、ベースキャンプに居なかった以上
「おぉい、アン子ー!?居るかー?居るなら返事してくれー!」
声を上げ、辺りを見渡す。耳に入ってくるのは俺の声ばかり、周りにはなんの生物の影も見当たらなかった。
「・・・うむぅ、困ったな。ここに居ないとなると、次はどこを探せばいいのやら・・・」
先程からモンスターの位置は変わっていないように感じる。ブローダさん達が狩りをしているのだろうな、この調子でずっと止まっててくれれば助かるんだが。
「・・誰や?誰か・・・おるんか?」
掠れた声が僅かに聞こえた。
反射的に身構える。確かに人の声には聞こえたが、用心するに越した事はない。それが今一番聞きたい声なら、なおさらである。
声は今俺がいるところから少し離れた岩の方から聞こえた。しかし周りが暗いせいで何も見えない。だがまぁ、順当に考えて岩影に潜んでいるとみていいだろう。
背中から太刀を下ろし、鞘から抜いて急襲に備える。足音は・・・立てないようにするのは無理なのでわざと立てながら歩く。意味があるかは全く分からないが。
そして、岩影を覗きこんだ。
「・・・っ、ははは、トウマんか。こりゃ、いよいよ幻覚でも見えるよぅなってしもうたかぁ」
「っ!?アン子!?良かった、無事か!大丈夫・・・、ではなさそうだが。生きてる、よな?」
他の部分は問題ないかと見てみれば、腹がどす黒く染まっていた。なんだろう、外側から思いっきり潰されたような・・・
「と、とりあえず回復をするぞ。痛くても我慢しろよ!」
「? っ、ぁぁぁぁぁああああ!?」
防具の粉砕されたところを引き剥がし、秘薬丸薬を口の中に落とし込み、回復薬グレートを傷口にかける。防具を粉砕する一撃なら体の方もただではすんでいないだろう。基本薬は経口タイプだが、直接かけても効果はあるのだ。というかその方が持続性が無い代わりに即効性が高いので、特定の場合ではかけた方がいいのた。勿論今回はその『特定の場合』である。
まぁ効果が高いからしみるんだけどね。お約束だね、仕方ないね。なめてかかると復活する前に悶死するからな、あれ。
その代わり効果は抜群だ。血を失いすぎて土気色だった肌は徐々に赤みを取り戻し、腹の傷もゆっくりとだが目に見える速度で治ってきている。これならもう心配ないな。
「っく、はぁ、はぁ、うぅぅ」
治る途中の傷が痛むのか、アン子が腹へ手を伸ばす。おいおい、傷が悪化したらどうするんだよ。アン子の腕をひっ掴み、傷口には砂が入らないように布をかけておく。あんまり綺麗じゃないけど、大丈夫・・・だよな。うん。
千里眼の薬の効果が消えてしまった。躊躇いもせずに二本目を飲み干して敵の位置を探る。今だ場所は変わらず東の砂漠。しかしこの距離ならば流れ弾は来るまい、まだ安心だな。
「うぅぅ、ん。トウマん、か?どうしてここに」
「帰りが遅ぇから迎えに来てやったんだよ。・・・もう大丈夫そうだな、どこか痛む所は無いか?」
「んん。いや、あらへん。・・・そっか、うち、助けられたんやな」
「ま、そういう事だ。それより、本当に痛いところは無いのか?」
「あらへんって。もう、過保護なんてトウマんのキャラやないやろー?」
「いや、そう言うがお前、本当に死にかけてたんだぞ?ここで放置して後からポックリなんて洒落にならんだろ」
話してるうちにもアン子の顔色は良くなっていく。・・・血行が良くなるのはいいんだが、些か赤くなりすぎじゃないか?顔真っ赤だぞおい。薬使いすぎたかなぁ。
あ、なんか次は青くなり始めた。腹の傷も完全に塞がっていて、悪くなったりはしてないように見えるんだがなぁ。唇も紫色になっている。・・・って
「忘れてた。寒いだろ、ホットドリンク飲むか?」
「お、おう。いやー、なんか生きてるって実感湧いてきたら急に寒くなってきてなー。おー温か温か」
ホットドリンクを両手にもって暖をとり始めた。いいから早よ飲めや。
「で、だ。何があったんだよ。なんか凄いモンスターが乱入してきたってのは知ってるんだが、そいつにやられたのか?」
びくり、とアン子の肩が跳ねた。あんまり聞かない方がいい話題なのは重々承知だが、なんにせよいずれ聞かれる話なのだ。それならまだ気心知れた奴の方が話しやすいと思うんだが・・・。
少しの間をおいて、アン子は話を始めた。
「あれは、うちが対象モンスターを探し始めて三日目のことやった。まぁそもそも三日も探して見つからんこと事態がおかしいんやけどな。んで、もう帰って事情を説明しようって思った時やったん。突然な、あの黒赤が降りてきてな、うちを見よってん」
「それ見た瞬間、嫌な予感が全身駆け回って、うちは一目散に逃げ出したんや。あれは相手にしちゃいかん、いや見つかってもあかん奴やって、思って」
「あと少しでここにつくって所でな、後ろでおっそろしい咆哮が聞こえて。そんで後ろ見たら、何もおらんねん。んで、前向いたらな、そいつがおってん」
「こうなったらしゃーない、気を逸らせれたら儲けもんやー思て、ハンマー抜いて振りかぶって。そしたらあいつ、なんやワケわからん動きでうちの後ろ回ってきて、うちはヤバいって思った」
「地面に打ち付けたハンマーを無理矢理引き戻して後ろ向いたら、そいつの尻尾がすぐ目の前にあって。後ろに飛んで、ハンマー間において盾にして、できるだけダメージを減らそうとしたん。けど、ハンマーは一瞬で粉砕されて、うちの腹には尻尾ガッツリ当たって」
「死ぬほど痛いなか必死にここまで逃げてきた。多分、今日の昼だったんやと思う。じゃなきゃ、うち死んどるもん」
後半は震え混じりに、話してくれた。本当に命懸けの半日だったんだろう。そんなアン子に、俺は慰めの一言も言えないでいた。俺は昔から運は良かったから、そんな命懸けの事態には遭遇してこなかったから。どんな言葉が必用だったかもわからない。そんな自分を、俺は酷く惨めに感じた。
アン子は、落ち込んだ俺のことを察してか、話題を変えてくれた。
「ト、トウマんあれ。赤の照明弾。何のやつや?」
「え?あ、あぁ、あっちも終わったみたいだな。んじゃ、帰るか。立てるか?」
「え、あ、うん。問題あらへんで?」
そうは言っているが、足に血からが入っていない。それじゃあ上手く立てんだろうに。・・・腰でも抜けたか、全く。
「ほらよ、俺の荷物背負え。俺がおぶってってやるから」
「い、要らんわ!見とれよ、ふんぬぐぐぐぐぐぅ!!」
気合いがあるのはいいことなんだが、全く足が動いてないぞアン子よ。ったく、こんなときまで意地張ってどうすんだよ。
さっと荷物を肩にかけて、アン子を背負う。
「え?あ、・・・うぅ。あ、ありがと・・・?」
「どういたしまして、だ。んじゃ、さっさと帰ることにしよう」
命あっての賜物、ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。
まさにその通りだと思う。うん、いい言葉だ・・・。
「にしても重いな。食い過ぎで太ったか」
「!? ぅ、うっさい!!馬鹿!阿呆!のろま!!」
冗談だよ。冗談だから叩くな。バランス崩れるだろ!