のんべんだらり狩猟紀行   作:手巻きおにぎり

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後始末と始点

うねる谷を通り抜けて砂漠に出ると、薄暗闇の中目立つ一行が見えた。遭難者救出・討伐隊の皆さんである。あの時と同じ様に座っているのがブローダさんだとすると、女がファリナさん、男が・・・えっと、うぅんと。

 

「誰でしたっけ」

「いくらファリナとブローダさんの後だからってそれは酷くね!?シャルドだよ、シャ・ル・ド!!」

「そうそう、そういえばそんな名前でしたっけ。てか、そんな大声出さないでくださいよ耳が痛くなりますんで」

「くっそ、俺はこんなガキにも弄られるのか・・・!?」

「あんたが馬鹿だからよ」

 

俺はもう15だぞ?ガキって言うほどの歳でもないし、下に見られるような体はしてないと思うんだけどなぁ。

勿論、そんなことは口には出さない。また騒がれたら面倒だからな。

 

「それよりも、その。そこで死んでるのが、今回の・・・?」

「ああ。ブローダさんから大体は聞いてると思うが、こいつが不明種翼飛竜型、通称『ラ・ロ』だ。毎回言ってて思うけど、ふざけた名前だよなー」

 

概ね同意だ。二文字なんて名前じゃねーだろ、それ。

そんなことを頭の片隅で考えつつ、地に伏している飛竜を観察してみる。

黒の甲殻に紅い棘、対称的に蒼い目。見てくれは雌飛竜『リオレイア』のそれと酷似しているが、死んでなお放つ威圧感がそれを真っ向から否定する。

よく見ればラ・ロの身体中に、引き裂かれたような傷口が見える。黒と赤が混じって見えづらいが、それこそ無数にあるようだ。しかし直接の死因は・・・、喉元から脳みそへの直接攻撃のようだ。でっかい穴が開いている。

 

「お。トウマ君、そいつが気になるのかい?」

「え?あ、えぇ。この甲殻に無数にある引っ掻き傷や裂傷、こんなことが出来るんですか?」

「んー、結論から言えば中々出来る人はいない。逆に言えば少しはいるってことになるんだけど、それこそブローダさんぐらいの強者にならないと無理なんじゃないかなぁ」

「シャルドさんは出来ないんですか?こう、その背中の武器でスパッと」

 

シャルドさんが背負っているのは、太刀にしては肉厚な、大剣にしては細身な、いまいち分類が付けにくい武器。恐らく元の素材は秘境産だろうから、相当な業物に違いないはずだが。

 

「いやいや、俺なんてまだまだだからね。思いっきり力を込めたらそりゃ出来るだろうけど、それだと間違いなく殺られるから。モンスターの攻撃に当たらないっていう前提条件があるからこそ、これは難しいんだ。君もその武器から察するに、足の関節やら薄い翼膜やらを狙うスタイルだろ?」

「・・・正解です。なんでわかったんですか?」

「俺もあっちに行くまでは太刀を使っててなー。俺もそのやり方でやってたし、太刀使いの模範の一つみたいだぞ?」

 

知らなかった。アン子以外のハンターと接点が無かったのが気づけなかった原因だろうか?いや、正直どうでもいいけど。

 

「けどなー、秘境の連中って頭おかしい奴らばっかなんだよな。翼膜はゴム質で切れないし、関節に武器差し込んだら痛がるよりへし折ること優先してくるし。とにかく世紀末なんだわ。だから甲殻を断ち切るほうが安全っていうトチ狂った状況が出来上がってるんだよ」

「うわぁ・・・」

 

甲殻っていうのはわかる通り身を守る為にある。だから一太刀では切れないのが当たり前だし、下手したら反撃をもらうし。狙う旨味は毛ほどもない。つまり秘境ハンターには『猛攻を掻い潜って堅い甲殻に武器をぶつけ反撃をもらう前に逃げ切る』技術が最低限必要なわけだ。

頭おかしいんじゃないのか?よく開拓する気になったなギルドの連中よ。

 

「えっと、話がそれた。つまり何が言いてぇかっていうと『それをなんてことなくこなしてしまうブローダさんマジキチガイ』ってことだ。わかったか少年──」

「言いてェことはそれだけかクソがッ」

「えっちょブロさんなんで聞いていやこれには深い訳があぁぁぁぁぁちょっと待ってマジですんません俺のヘルムが粉砕されるぅぅぅぅ!?」

 

頭の両サイドに手を置き一気に押し潰す。結果、相手は死ぬ・・・なんてことはないけど。でもあれは生身の人間にやったら確実に猟奇殺人になってると思うんですよ。俺ぁ。

というかシャルドさんのヘルムにひび入りそうなんでやめてあげませんかね?

 

「そんなことよりもトウマ君、その背中に背負ってる子が例の?」

「ええ。今回の救出対象で、俺のパートナーのアン子です」

 

相棒、とまでは言いたくはない、パートナーぐらいがピッタリだろう。ほとんど同じとか言ってはいけない。

 

「ふぅん。・・・中々可愛い子じゃない、本命?」

「なに言ってんですか。アン子はそんなんじゃありませんよ。それ以上も以下もなく、パートナーです」

「そう、壁は厚いわけね。ま、気づいたときはちゃんと応えてあげなさいよ?」

「さて、何のことでしょうか」

 

うん、自分でも枯れてるとは理解してるんだよ。けど、どうもそういう気分にはなれない。使命とか相性とかそんなレベルじゃなくて、もっとこう・・・。いや、下世話な話だったな、止めよう。

 

「ところでファリナさん、その背負っている武器はいったい?弓にしては大きすぎる気がするんですけど・・・」

「ん、ああこれ?これはねー、私が向こうでメインに使ってる武器。まぁ思ってる通り弓を改造したものなんだけど、これは更に特化して『機動性を捨てた代わりに貫通力を強化した』もの。早い話、移動できるバリスタ台ってことね。バリスタ、わかるかしら?」

 

バリスタ、なんだったか。話には聞いたことがあるぞ、固定砲台みたいなもんだった筈だ。人の身の丈程もある矢を思いっきり打ち出す装置だったっけ?

実際見たことはないが、聞いた話でぼんやりと想像は出来る。それを持ち運べるようにしたって、かなり強引だな。

 

「まーあれね、さっきシャルドが大分説明したと思うけど、秘境は誇張なしに世紀末だから、普通の弓じゃろくにダメージ与えれなかったのよ。それで、向こうにいる職人に色々改造してもらって、できたのがこれって訳」

「えっ、それって矢ってどうやって準備するんですか。一本一本特注品ですか?」

「そうねー、全部特注品。全鉄製にして、相手に向かって思いっきりぶちこむ。倒したら剥ぎ取るついでに回収して、使えるものはそのまま、折れたり曲がったりしたら打ち直してもらうって感じね。とにかく矢の形にすればよかったから、新人の練習台にもしてたらしいわよ?」

「要らないですよそんな情報」

 

ともかく、これでわかった。恐らく俺には一生縁のない場所だということがね。死んでも行きたくねぇよそんなトコ。

 

「おいボウズ。どうせ行きたくねぇとか思ってんだろォが、そうはいかねぇぞ。俺が鍛えるんだ、そのレベルまでは行ってもらわねェと困る。つか俺が許さん」

 

希望は無かった。今からでもいいから逃げていいっすかね?

 

そんなこんなで次の日の夕方辺りに帰宅。途中アン子が起きたので事情を説明したんだが、顔真っ赤にしてたせいで恐らくろくに聞いていない。後からまた説明しないとな、めんどくさい。

アン子を自身の部屋に放り込んで俺の部屋に戻る。ここに戻ってくるまで何日かかったことか・・・、5日、いや今日もそろそろおしまいだから実質6日か。とにかく疲れた、今日はゆっくり休もう。もう面倒な事は明日でもいいやー・・・。

 

 

 

─チュンチュン、チュンチュン─

 

小鳥のさえずりで目を覚ます。うむ、いい朝だ。

ベッドから降りて体を軽くほぐす。今日仕事(狩り)に行くにしても行かないにしても、ストレッチってのは重要なことである。おめめぱっちり、一石二鳥だ。

 

起きて先ず主張してくるのが空腹。昨日の夜も何も食ってなかったからなー、なおさらのことである。とりあえず買い置きのモスジャーキーを噛み締めながら、外出の準備を整える。

下着代わりにインナー、防具は着ずに適当にシャツとズボン。巾着に小遣い2000ゼニーほど入れて準備は完了だ。外出程度に防具は着ないぞ、あれは存外重いのだ。

無くなってしまったのでもう一つ、モスジャーキー・グラビモスハードを噛み締める。矢鱈硬いので空腹を紛らわすのに最適なんだよな、これ。味も悪くないし、一袋200ゼニーとお得なのだ。

家を出たら、目に西日が差し込んできた。いくらなんでも寝すぎじゃねーか、これ。

 

 

玄関を出て徒歩数秒、アン子の部屋の前につく。あいつ起きてるかな?ドンドンドンとドアをノックしてみる。

 

「おーい、アン子ー。起きてるかー?」

「───んー?ふぁ、ぁふ。はいはい、どちらさんでごじぇーま・・・しょ・・・?」

 

アン子は起きていた、起きてはいたが。ボサボサ頭に寝ぼけ眼、口許には涎の垂れた痕も見える。何より、下着しか着ていない。色々ツッコミたいところはあるけど、そんなこと考える前に、反射的に扉を押し返した。

 

「ちゃんと着替えてから出直してこぉい!!」

「な、なんやトウマんかいな。べっつに隠してるもんなんてなんもあらへんのやし、どうぞお入りー?」

「いいからさっさと服着ろ!」

 

いくら俺でもそれはいかんだろ!全く、信用しすぎるきらいがあるのか?俺は親でもなんでもないが、外に出すのが心配になってきたぞ!恥じらいを持て恥じらいを!!

 

数分後、服を着たという報告が来るまでずっと入り口で待ちぼうけをくらう事になった。出鼻を挫かれたが、本題に入ることにしよう。

 

「で、アン子。お前、いつここを出てくんだ?」

「あー、その話ね。うん、まーあれや。今日の夜」

「今日の夜って。またなんとも、いや、それも仕方ねえか?」

 

なんてったって昨日の今日まで行方不明だったんだからな。余裕を持った日程がキツキツになってしまっても仕方ない。でも、ということは、

 

「あー、もしかして、忙しかったか?少しぐらいなら何か手伝えるが」

「いやいや、気にせんでええよ。元々私物っても自分の武器防具ぐらいしかあらへんし。やることなんて強いて言やぁ保存食の買いだめぐらいやし、正直暇なぐらいや」

 

そういうことなら安心である。旅は中々疲れるものだからな、今日はゆっくり休んで英気を養ってもらいたいものである。

 

「そういやぁ、ここで契約したホルクとかって、いったいどうなるんだ?なんか話聞いてないか」

「んーっとな、なんやったっけ、『個人の物として契約したものは持ち出し可』とか言われた気がする」

「気がするって、お前なぁ」

 

そういう曖昧なところこそキチンと聞いておくべきだろう!向こうも気にしてないって可能性も十分あるわけだが。・・・俺も後で聞いてみることにしよう、アン子の証言じゃ心配だからなぁ。

 

「まぁそういうことなら大丈夫そうだな。んじゃ俺はこれで失礼する、また夕方辺りにでも寄るよ」

「なんや、これからどっか行くん?」

「師匠達に挨拶をね。先ずは話をしたいっていうから、今から行ってくるんだ」

「トウマんの師匠達ってゆーと、・・・うちの恩人か。ありがとう、お世話をかけてすみませんでしたって、言っておいて」

「あいよ。んじゃ、また後でな」

「おう!また、な・・・」

 

 

 

 

集合場所はメゼポルタ中央の広場。クエストの受注受付、出発出口の他にも多目的に使われることがままあり、その中の一つがオフのハンター達の集合場所、ということだ。

階段を上って辺りを見渡せば、ブローダさんらはすぐに見つかった。四人がけのデスクベンチに座って何やら口論をしている。何がとは言えんが、非常に目立つ。

 

「だからあの時は──っと、ほらトウマ君来たわよ!おーい!」

「だからそん時──ん?おう、遅かったな!まぁ座れや」

「・・・おう、ようやく来たかガキ」

「おはようございます。すみません、なんかお待たせしてしまったみたいで。皆さんお早いですね?」

「なーに他人行儀な口調してんのよ!もっと砕けて、ほらフランクにいきましよー?」

「そうだぜー?歳は違えど、同じ師をもつ兄弟弟子なんだから、な?」

「てめェら、早まんじゃねぇ」

 

漂っていた仲良しムードが一気に霧散した。ブローダさんが殺気すら篭ってそうな、鋭い眼光を此方に向けてくる。

 

 

「てめェは、強くなる目的はあるか」

 

「・・・故郷を襲ったモンスターの謎を調べたい」

 

「強くなる覚悟はあるか」

 

「どんなことでもやり遂げると誓おう」

 

「仲間を殺してでも進む覚悟はあるか」

 

「決して殺させはしない。そのためにも」

 

「自らの命を投げ捨てる覚悟はあるか」

 

「強くなる。そんな覚悟は要らない」

 

 

「・・・帰るぞ」

 

突然踵を返し返し、そう宣言した。テストみたいなもんだと思って堂々と言ったつもりだったが、やらかしたか?背中を汗が伝う。

しかし横の二人が意味ありげにクスリ、ニヤリと笑いあう。どっちなんだ、誰か何か言ってくれよ!

 

「明日の朝、また此処に集合だ。道具類、武器防具、しっかり準備しておけよ」

「おめでとう、また明日ね」

「おめでとさん、遅れるんじゃねぇぞ?」

 

そう言い残して三人は歩き去ってしまった。どうやらどうにかなったらしい、俺は無言で、去り行く背中に頭を下げた。

 

 

 

一難が去り安堵を意識すると、途端に腹の虫が喚きだす。もう少し待て、あと一つ終わらせれば餌をやるから。

途中でリノプ肉の串焼きを買って、食べながら家へと歩く。リノプ肉はアプト肉と比べて固い、固いからこそ今はありがたい。しっかり噛むと腹がふくれるのはどこの人間でも変わらないのである。

 

十分ちょい歩けば家へたどり着く。アン子は集合住宅の隣の部屋なので、俺が家に帰れば自ずと近づいてくるのである。昔はうっとおしがったが、何だかんだ言って利便性は高かった。

ノックをした、反応はない。あまりにも暇すぎて寝てしまったのだろうか。あんまり寝てると乗り過ごしちまうぞ?

声をあげた、反応はない。ますます不安だ。こりゃ、俺が起こしてやらんと逆に怒られちまうかもなぁ。ったく、めんどくさい。

合鍵を使って中に入った。しかしそこに寝過ごしそうな女の子はおらず、もぬけの殻で・・・

 

据え置きの机の上に、俺の部屋の合鍵と、手紙というにもおこがましい、殴り書きのされた紙切れが置いてあった。

 

『さよならは言わん。また会いましょう。アン子』

 

俺は部屋を飛び出した。もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。一言、一言言っておかなければ気がすまない!

馬車の発着場は知っている。ここ半年で、周辺の地理はばっちりだぜ。大通りに出て、広場につながる大階段を横目に走り抜け、更に奥、一番西側っ!!

 

ラストの直線まで来て、一つだけある馬車に荷物を持ったアン子が入っていくのを見た。追い付け、まだ間に合う!

 

 

追い付け

 

追い付け!

 

追い付けっ!!

 

追い付けぇぇぇ!!!

 

 

馬車がゆるりと発車しだした辺りでようやく発着場に着いた。ギリギリ間に合ったか?今から声をあげれば少なくとも向こうには届くはずだ!

跳ねる息を無理やり押さえ込み大きく息をすって、ぐっと詰まる。何て言おうか、全く考えてなかった。数瞬考えを巡らせ、出した答えを表に出す。

 

 

「さよならは言わねぇ!また会おうぜぇ!!」

 

 

 

 

 

 

部屋にポツリ置かれた殴り書き。裏にはこんなことも書いてあった。

 

『合鍵はちゃんと返しておいてよ』

 

 

同時刻、とある馬車の中で。ある少女がむせび泣いていたとか、いなかったとか。





秘境とは、この世の殺意・悪意を練り固めて具現化させたような地獄、そんな感じのイメージです。
具体的には、ジョジョブラキやランディープラギ亜レベルの化け物がそこら辺を徘徊してると思っていただければ。殺意増し増しの状態で。
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