織斑家の穀潰し   作:AGITΩ(仮)

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はい、正直に言います。


プロローグ足りませんでした。


第一話 入学

 織斑千冬は、先にHRを始めている山田麻耶が待つ教室へ向かっている。その右脇に重い出席簿を抱え、眉間にはしわを寄せながら歩いていた。

 

(……どうしてこうなった)

 

 自身の弟である織斑一夏が世界初の男性操縦者として発見され、それに続く男性操縦者を捜すため世界中で一斉に男性のIS適性が検査された。

 そこまではいい。

 問題はそれで見つかった男性操縦者がもう一人の弟、織斑春助だというとこだ。

 千冬は目を瞑る。

 

 

 

 ________________________

 

 

 二週間前

 

 

 

 一夏が世界初の男性操縦者として発見され、世界中で男性のIS適性検査が行われることになった。もちろん日本でも実施されており、政府から各役所を通して行われている。

 

「……」

 

 春助は紙を持ったまま何も言わない。

 この紙は封筒に内包されてあり、その封筒が今日、春助の部屋の前に貼られていたのだ。春助宛てに届くものなんて滅多にないが、こうして春助宛てに送られてきたものはテープで部屋のドアの前に貼られるのが織斑家の当たり前だ。

 封筒の送り主は日本政府であり、その内容は案の定IS適性検査の案内であった。

 ざっと目を通し、やっと春助は動き出した。しかしその動作は簡単なものだった。

 丸めてゴミ箱に投げ入れる。

 例え国から召集がかかろうが、春助はこの家を出る気は全くなかった。

 

「そういや今日、二年ぶりに担任からメールが来てたな……」

 

 そう言い、改めて受信メールを確認する。

 

【今日はIS適性検査が行われるので学校に来てください】

 

 と、たったの一言。

 その文を鼻で笑い、削除する。

 今までろくに心配もしなかったくせに、政府からの圧力がかかるとこれだ。元から期待していなかったが、改めて人が嫌いになる。

 春助は携帯の時刻を見る。

 今は昼を過ぎたころだから、今行っても間に合うまい。行く気はないが、時刻を確認するだけ春助は成長したのだろう。

 こんなに外に出るのを嫌がる春助も、近々重要人物保護プログラムにより全然知らない場所に連れて行かれるのを知らない。ISを動かそうが、それに関係なく春助の人生からは平穏というものが消え失せたのだ。

 

 ガチャリ、と玄関のドアが開く音が聞こえる。

 階段を上って部屋に近づく人物は誰だろうかと気になるもの、春助は毛布を被り直す。

 

「春助、居るか?」

 

 ノックと共に聞こえたのは千冬の声だった。

 返事をする間もなく、千冬は厳重な内鍵をまるで元から無かったかのように打ち破る。

 

「な、なんだよ千冬姉っ⁉︎」

 

「お前、今朝の通知は見ただろう?」

 

「み、見たけど。お、俺検査なんて絶対嫌だからね!」

 

「……いつまでそんな事をほざくつもりだ?」

 

「ち、千冬姉?」

 

 春助は千冬の重低音に縮こまる。それをお構いなしに、千冬は春助の胸ぐらを掴む。

 

「貴様は今までの間何をしてきた⁉︎こんな汚らしい部屋で、どれだけの時間を過ごすつもりだ‼︎」

 

「あ、ああ……」

 

 いきなりの罵声と凄まじい気迫により後ずさろうとも、体は宙に浮いたままで、いつも寝転ぶベットが遠く離れているように見えた。

 それよりも春助にとって驚くべきところは、千冬が自分に『貴様』と言ったことだった。

 普段は名前で呼び、怒る際もせいぜい『お前』だったのが、今日、生まれて初めて『貴様』と呼ばれたのだ。

 ああ、とうとう見限られるのか……

 春助が思い浮かんだのはこれだけだった。

 

「高校に行くわけでもない、職に就くわけでもない。貴様は一体、これからどうするつもりなんだ?」

 

 掴んだ胸ぐらを不意に手放され、春助は尻餅をつく。

 

「……何も……ないよ」

 

「なんだと?」

 

「…俺は……何もできないよ‼︎人は恐いし、女の人だって、なんでも恐いんだよ‼︎外は全て、俺を嘲笑うんだ‼︎」

 

 しばらくの沈黙。

 己の弟の叫びを、千冬は黙って聞いた。

 

「……だからどうした?」

 

 そして千冬は喋り出す。

 

「お前がどう思い、何をされようが、世界は動き、そして変わらない。」

 

 そんなことは知っている。だから外には出たくないのだ、と春助は言おうとしたが、どうやらまだ千冬の話は続くようだった。

 

「一夏がISを動かした。それにより、世界中で次ぐ男性操縦者を捜索しても誰も現れなかった。……もうお前だけなんだ。双子の弟で一番可能性を秘めている。……頼むから、外に出てくれ」

 

 話のどの辺りからだったろうか。『貴様』から『お前』に戻っていたのは。しかし、そんなことは頭から消え失せ、春助は今、千冬の弱々しい姿を見つめていた。

 

 決してこの家のため、とは言わなかった。あくまでも、二人目の男性操縦者を捜すために外に出ろと言われて、春助は少し落ち着いた。

 

「……分かったよ千冬姉。外に出るのは死ぬほど嫌だけど、そんな顔しないでよ……。もっと死にたくなるからさ」

 

 その言葉に、千冬は驚いた。

 

「検査は受けるよ。けど、適性があってもなくても、二度と外には出ないよ」

 

 ほっとした表情で千冬は立ち上がる。

 

「車は下に停めてある。支度をして来い。待ってるからな」

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

 疎らに伸びた柔らかい髭を剃り、二年ぶりに学生服へと身をつつむ。サイズは少々きつくなっていたが、着る服がないので、背に腹は変えられない。

 

「……いってきます」

 

 久しぶりに出た外は、冬というのに太陽の日照りが強かった。

 玄関の門の外に停めてある黒塗りのセダンの後部座席に乗り込み、時は動き出した。

 

 慣れないことをするものではない、と言うが、全くもってその通りだと春助は実感していた。日照りのせいか、はたまたその言葉通りかは分からないが、だんだんと瞼が重くなってくる。

 

(いや、やっぱりこのシートのせいだな…)

 

 春助は深い眠りに就いた。

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

「起きろ」

 

 そんな一言で目が覚めた。

 時刻は夕刻を過ぎたころ。昼過ぎにこの検査場に到着したから、数時間は過ぎていた。

 

「検査は?」

 

「寝てる間に済ませた。その方がよかろう」

 

「うん、ありがとう」

 

 運転は千冬だったが、検査するのは技術スタッフ数名と科学者数名、看護師数名だ。そんな多人数に囲まれるのであっては、こっちが持たない。春助は千冬の気遣いに深く感謝する。

 

「それで、結果は?」

 

「ああ、予想通り…いや、残念ながら適正してしまった」

 

 やっぱりか……、と思うも、もうこれで解放されると思った春助は帰り支度を始める。

 

「何をしている?」

 

「え?帰る支度だけど?」

 

 学ランのボタンをはめながら答える。

 

「いつ帰れると言った?これからお前は一夏が待つホテルへ向かう」

 

「……は?」

 

 春助は唖然としたままだ。

 だってあれほど、検査が終わったら二度と外に出ないと言っていたのに、真っ向からしらばっくれられたのだ。

 確かに、帰れるなんて言ってはいない。しかし、この仕打ちはあんまりだろうと春助は涙する。

 

「嫌だあああああ‼︎帰るんだああああああああああああ‼︎」

 

「……許せ」

 

「ぐふぉっ‼︎」

 

 泣き叫ぶ春助の腹部に千冬の拳が埋め込まれる。そのまま気を失う春助を、千冬はゆっくりと抱きとめる。

 

 一夏のIS学園入学が決定された。ならば恐らく、春助もIS学園へ入学するだろう。

 一夏はなんとかなるだろうが、春助は心配で気が気ではない思いだ。

 ただでさえ他者とのコミュニケーションが苦手で、女性恐怖症なのに、女の園であるIS学園へ送り込むだなんて、特攻隊さながらのようだ。

 しかし、こうするしかなかった。

 一夏がISを動かしたことにより、どっちにしろ春助は危険に晒される。ならばセキュリティが高く、自身の目が届くIS学園へ入れるしか選択肢はないのだ。

 

 千冬は春助の体を持ち上げると、担架を持ってきた看護師にゆっくりと託して部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 ________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は一夏と一緒に教室に入る。あらかじめ振り当てられている席に鞄を置き、椅子に腰掛ける。

 

「大丈夫か?春助」

 

 一夏は俺に声をかけて来る。一夏の席は俺の前だ。教室はまだ半分も埋まっていなかったが、それでも一夏の声を聞き、安心感が生まれる。

 

「帰りたい」

 

 俺はマスクを整え答える。

 冬は過ぎ、今は春だが、マスクをしていても花粉症として誤魔化せるだろう。

 この学園に来る今日までは、一夏とホテルで暮らしていたが、慣れることはなかった。ホテルマンのサービスには一夏が答え、女性なんて千冬姉以外会うことはなかった。

 というか、何故俺がここに居るのかと言うと、千冬姉の命令からだ。例えどんなに俺が理屈を捲し立てても、物理的にも論破させられてしまう。実際そうだったのだ。

 ならば下手に拳を食らうより、おとなしく学園へ通うことにしたのだ。

 一人だったら心が折れていたが、一夏が居ると心強い。とは、言っても恐いものは恐いが。

 

 チャイムが鳴り、緑色の髪をした女性が入ってくる。スーツ姿であることから教師とは分かるが、どうにも幼い。かなりの童顔だが、出るとこは出ている。というか、かなり主張が激しい。

 

 いつの間にか席は完全に埋まり、その先生が出席確認がてらに自己紹介を始める。

 まったく余計なことを……。

 自己紹介なんて適当に紙に書いて出しとけばいいのだ。それで後ろに掲示される紙を見て覚えればいい。まあ、クラスメイトの顔なんて覚える気はないが。

 

「織斑一夏です。……以上」

 

 一夏も流石にこのパンダを見るような視線に慣れないのか、緊張気味に自己紹介を終わらせる。何と言っていいか分からなかったのだろう。一夏の顔は真っ赤に染まっていた。

 と、次は俺の番か……。何て言えばいいんだろ?

 

「お前はまともに自己紹介もできんのか」

 

 教師の外に居ても聞こえてきそうな轟音と共に出席簿が一夏の頭に落ちる。

 

「ち、千冬姉⁉︎」

 

「ここでは織斑先生だ」

 

 千冬姉は頭を押さえる一夏の質問を一蹴し、山田先生に労いの言葉をかける。

 

「あー、まだ残っているだろうが、後は各自でやってくれ」

 

 教壇に立ち、そう言いながら千冬は俺と目を合わせる。

 どうやら気を遣ったらしい。

 

 千冬姉が俺たちの担任を務めることは本人から聞いていた。しかし、どうやら一夏は知らなかったらしい。

 一夏は千冬姉に驚いたが、俺は千冬姉の振り下ろす出席簿に驚愕した。

 

 

 朝のHRが終わり、千冬姉と山田先生は教室から出て行く。俺は自分の机にうずくまり、周りとの接触を断ち切ろうする。寝たふりだ。そんな俺を見守るように、一夏も席を動かなかった。

 

「ちょっといいか?」

 

 女性の声だった。

 どうやら一夏に話しかけたらしく、一夏の前に立ちはだかっている。

 その気配を鬱陶しく思っていると、一夏はその女性に返事をした。

 

「お前、もしかして箒か⁉︎」

 

 箒。

 篠ノ之箒。それは俺たちのよく知る女だった。

 

「場所を変えたい。……春助もついて来い」

 

「悪い。どうやら寝ちまってるみたいだ」

 

 一夏はそう言い、立ち上がる。

 さっきから気を遣ってもらってばかりだが、ありがたかった。

 篠ノ之箒こと箒ちゃんは、俺たちの幼馴染みだ。昔からよく遊び、道場では剣を競い合っていた。男勝りの女の子で、実家は神社だった。この情報だけでも、現実では非常に珍しい。恐らくは原作ヒロインだろうと引きこもってから初めて気づいたが、もうその頃には彼女は引っ越していた。

 

 しかし、この学園で再会するとは、嬉しい限りだ。こんな地獄のような学園で、昔からの知り合いが増えるとなると、とても心強い。

 

 そういえば、箒ちゃんは一夏のことが好きだったな。

 まだISが世に出回る前、箒ちゃんをからかう男子達を一夏と二人で懲らしめた時からだったな。あの時、一夏は迷わず飛び出して行って大変だった。俺は先生を呼んできて事情を説明していたな。……あの頃はまだ、信頼があったのだろう。俺の言うことを殆ど信じてくれて正直助かった。今は目も当てられないが。

 

 それ以来、俺は箒ちゃんの淡い恋心を、彼女の姉である束さんと見守ったりしていた。

 

 なんて昔の思い出に浸っていると、二人は戻ってきた。

 

「いや〜、箒が居て助かったぜ。俺たちの二人だけじゃ心細いからな」

 

「……ほんとそれだよ。全然変わってなかったね」

 

 箒ちゃんをちらっと見ると、彼女は引っ越し当日に一夏から貰ったリボンを今も使用していた。

 一途だなぁ、なんて思っていると、チャイムが鳴り千冬姉が教室に入ってきた。

 

 俺は気だるげに立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 ________________________

 

 

 

 2○○○年。○月○日。

 

「泣くなよオータム」

 

 彼女は、少し汚いシングルベットに仰向けになって言った。

 

「……無理よ。貴女が亡くなるってのに、この娘が我慢できる訳ないじゃない」

 

 そう答えた金髪の女性も、声は震え、涙混じりだった。

 

「ったく仕方ねぇな」

 

「タチバナさん‼︎」

 

 オータムと呼ばれた女は、細々と答えた女性に抱きついた。

 そんなオータムを、タチバナは、優しく撫でた。

 

「まだこれからってのに、早すぎるわ。……オータムは貴女に憧れて、貴女の言葉遣いを真似したのよ?こんな可愛い部下を持って、本当に貴女は死ねるの?」

 

「そりゃ私だって惜しいさ。けど、もう体も言うこと聞かねえ」

 

 金髪の女性ーースコールも、彼女の死を心から惜しんでいるのだろう。一度は諦めたが、どうにも希望を捨てきれなかった。

 

「……貴女とは4歳からの腐れ縁ね。孤児院だったけど、貴女はいっつも楽しそうだった」

 

「思い出語りかよ」

 

「……貴女を亡くすなんて、世界も惜しいことをしたわね」

 

「そうだな。それより、とうとう卒業できなかったな」

 

「あら、別にいいじゃない。綺麗な体のまま逝けるなんて、滅多にできないわよ?」

 

「皮肉かよ。というか、お前達もだろ?」

 

 そう答えるタチバナの声は、最初よりもかなり弱々しくなっていた。もう喋るのさえままならないのだろう。スコールも、彼女の手を握る。

 

「生まれ変わるとしたら、……次、は……」

 

 その言葉を最期に、タチバナは静かに息を引き取った。

 

「タチバナさああああああん‼︎」

 

 部屋には、オータムの叫び声だけが虚しく響いた。

 

 





初めて5000字いってしまいました。詰め込み過ぎたかな?
誤字脱字に気づかれた方はご報告下さい。


あと、主人公の機体ですが、私のネーミングセンスとアイディアが壊滅的なので、ご意見をお聞かせください。
活動報告にて、待っております。


それでは次回もお楽しみに
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