大変お待たせして申し訳ありません‼︎更新速度は亀ですが、これからもよろしくお願いします。
時刻は午前7時半。
箒ちゃんが着替えを行っているため、一夏は俺の部屋に居る。一夏は箒ちゃんと相部屋らしく、着替えなどには特に気を遣っているらしい。どうやら、昨日そのことで、箒ちゃんを怒らせたとのこと。俺は一人部屋だから良かったものの、一夏の愚痴に付き合わされるのはちょっとだけ癪だ。
しかし、この学園に入学して、以前より俺と接する時間が増えたのか、一夏の顔は活き活きとしていた。
「待たせたな。行くぞ」
ノックと共にドアが開いて、箒ちゃんが俺たちを呼ぶ。今から朝食の時間だ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ちょっとよろしくて?」
トイレから教室へ戻る際、聞こえてきたのはそんな言葉だった。
この学園に男なんて俺達しか居ないので、必然的にというか、口調でその相手が女だということは察することができた。
俺に声を掛ける人がいたとしても、俺は当然シカトするが、前方を歩いていた一夏はそういうことはしなかった。
「ん?何か用か?」
「まあ!何ですのそのお返事は⁉︎この私が話しかけているのだから、それ相応の態度を示すべきではなくて⁉︎」
なんだこのヒステリックな女は……。それがこの金髪の女に抱いた第一印象である。
しかし、こうは思っていても、現実の俺はなんとも無様だった。
この女に話しかけられた瞬間、俺は返答する一夏から2メートル程距離を取る。
箒ちゃんという、昔からの知り合い以外からの女に話しかけられて、呼んでない焦りが瞬時に俺の全身を駆け巡る。顔は熟したトマトのように赤く染まり、背中や脇からは冷汗が滝のように噴き出す。
俺が返答する訳でもないのに、勝手に体は異常をきたす。
その金髪の女が何か言いかけたところで、授業を開始するチャイムが鳴り、渋々彼女は引き返して行った。
「……やっと終わった」
「悪い春助。次からは気をつけるよ」
「……ごめん」
別に一夏が謝る必要はないのに、自分が気を遣うのを忘れていたことを詫びる。そんな謝罪をどう受け止めていいのか分からず、俺も謝ってしまう。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
織斑千冬は、教卓の上に出席簿をやや乱暴に置くと、日直に号令をかけさせる。皆が着席すると同時にチョークを手に取り、黒板に向かう。が、数秒程立ち止まり、「む、しまったな」と誰にも聞こえない声で呟いた。
「あー、本来なら朝のSHRで決める予定だったクラス代表を決めなければならない。クラス代表とはその名の通り、クラス委員会への出席や対抗戦への参加。それ以外は…まあ、私の雑用だ」
千冬は今さっきの小さな呟きとは大違いの、皆の意識を引くため割と大きめに声を張った。
「自薦他薦は問わん。意欲があるもの、誰か推したい者は挙手しろ」
「はーい、織斑君がいいと思います!……あ、兄の方で!」
千冬がそれを言い終わるのを待っていたかのように、一人の女子生徒か勢いよく挙手する。
「え?俺⁉︎」
意外そうな顔をする一夏。反対に春助は、まるで興味がなさそうに文房具を弄っている。
「はーい!私も!」
「同じく私も!」
最初に挙手した女子生徒に続くように、段々と一夏を推す者が現れ始める。
そんな時だった。
「なら、私は弟くんで‼︎」
その声に反応した者は三人居た。否、皆反応しているのだが、その中でも、春助を推す者の発言に力強く引っ張られるように首を動かしたのは、織斑家の面々だった。
「……いや、こいつは、その……」
一番最初に反応したのは一夏だった。しかし、その先の言葉が見つからずしどろもどろの状態だ。
当人である春助は、何と言ってるか聞き取れない声でボソボソとマスクを動かしていた。それを見た周辺の女生徒は、隣の生徒の肩を叩き、春助に対して汚物を見るような視線を送った。
「納得がいきませんわ‼︎」
机を叩き、勢いよく立ち上がったのは、先程の休み時間、織斑兄弟に話しかけたセシリア・オルコットだった。
「実力から言えばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、男だからという理由で推薦されては困ります! わたくしはこの様な極東の島国までIS技術の修練に来ているのであって、動物園に来たわけでも、サーカスに所属する気も毛頭ございませんわ!」
意見はいつのまにか中傷混じりと気づかぬまま、彼女は続ける。
「いいですか!クラス代表とは実力トップがなるべきもの。そしてそれは、この私ですわ!」
彼女が言っていることは正しい。しかし、それを聞いている人にとって、それは不愉快でならないものだ。
セシリアは、実家が英国の貴族で、生まれた時から何不自由ない生活を送ってきたお姫様というやつだ。幼い頃から、食事のマナーや貴族の嗜み、紅茶の淹れ方まで徹底的に教え込まれている。しかし、今さっきの淑女らしかぬ言動。それにも、女尊男卑の風潮があらわれているのだろう。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、私にとっては耐えがたい苦痛でーーー」
「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
セシリアの言葉を途中で遮ったのは一夏だった。
「なっ…あなた!私の祖国を侮辱しましたわね⁉︎」
「先に馬鹿にしてきたのはそっちだろ」
いつの間にか一夏も立ち上がり、顔を真っ赤にしたセシリアを煽り出す。
クラスメートは静まりかえり、春助も二人の口論をただじっと見つめるだけで、それは担任である千冬も同じだった。
「決闘ですわっ‼︎」
「ああいいぜ。その方が分かりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたら、私の小間使い、いいえ、奴隷にしますわよ!」
「ハンデはどのくらいつける?」
「あら?さっそくお願いかしら?」
「いや、俺がどのくらいつけたらいいのかなー、と」
一夏がそう言った途端、クラス中から笑いの声が溢れる。
「織斑君、それ本気で言ってる?」
「男が女より強かったのって、ISができる前の時代だよ?」
「もし男と女が戦争したら、三日保たないって言われてるよ?」
しまった…と、一夏は後ながらに思った。
戦車や戦闘機、空母でさえ上回る戦闘力とコスパを持つISを使えるのは女性だけだ。さすがに女性全員が使える、という訳ではないが、それでも、女性の社会的立場が男性を追い越したのは事実だ。
「ねぇ、今からでも遅くないよ。ハンデつけてもらったら?」
「男が一度言ったことを覆せるか!……無くていい」
一人の女子生徒の忠告を受け入れることなく、一夏は意地を通した。
「決まりだな。それでは、オルコットと織斑兄弟は一週間後、第三アリーナにてクラス代表決定戦を行う。各自、準備をしておくように」
「……ちょ、ちょっと待ってくださぃ」
最後に千冬がうまく纏めたが、その声に待ったをかける人物が居た。その人物は、この授業中、一度も発言していない織斑兄弟の弟の方、春助だった。
クラスメートの視線が一斉に彼へと移る。それに気圧されながらも、春助は続ける。
「お、俺もその、代表決定戦に、出なきゃいけないんですか?」
「自薦他薦は問わんと言ったはずだ。お前が推薦された以上、参加する義務がある」
「……」
きっぱりと、冷徹に返された返答に、春助は何も言うことができず、ゆっくりと腰を下ろした。
しかし、千冬も心を鬼しての返答だ。かわいい子には旅をさせよ、とまでは言わないが、それでも、ハンデのある春助を鍛える目的で、わざと辛辣な態度をとったのだ。
「…それと、織斑兄には、政府からの専用機が支給される」
"専用機が支給される"と聞いた瞬間、クラス中の誰もが(セシリアと織斑兄弟以外)が湧いた。
しかし、一夏は何のことか分かっておらず、春助に至っては現実から逃避していた。
「それは良かったですわね。エリートである私と闘うのに、素人の貴方が訓練機では話にならないですから仕方ないですわ!ISは世界で僅か467機。くれぐれも大切にすることですわ。よろしくて?」
「…467機。たった?」
一夏の疑問に対して、側にいた女子生徒が答える。
「ISの中心に使われてる『コア』って技術は、いっさい開示されてないの。そのコアは、篠ノ之束博士が作成したものなのよ」
篠ノ之束と言うのは、今や世界の理を覆したISの産みの親であり、箒の実姉であったりする。コアは彼女しか作ることができず、しかも、一定数以上作ることを拒否している状態だ。
本来なら、専用機は国家代表や企業の専属パイロットしか与えられない。しかし、一夏の場合は、初の男性操縦者ということで単純なデータを計測するために与えられる。故に、双子の弟である春助のデータは、兄である一夏とほぼ同じであると予測され、一夏だけに専用機が支給されることになったのだ。
「クラス代表決定戦…同じ専用機持ち同士として、楽しみにしておきますわ。……まあ、貴方の弟は運がなかったと言わざるを得ないですけど」
そう言い、セシリアは華麗に去っていく。
学園に配備されてある訓練機と、操縦者専用に調整されてある専用機では、結構な差がある。千冬ほどのレベルとなると、訓練機でも充分に闘えるのだが、世界大会に出場するとなると、迷わず専用機を使用する。それほど専用機に利があるのだ。
「…おい、俺は兎も角、何で春助が負ける前提なんだよ」
さっきまでより、低いトーンで一夏がセシリアを呼び止めた。
恐らく「何ですのいきなり?」と言おうとしたセシリアを途中で遮り、一夏は続ける。
「お前がいくらエリートだろうと、春助が負けるわけねぇ。こいつは、ただちょっと人とのコミュニケーションが苦手なだけで、本当は何でもこなせる天才なんだよ」
一夏がそう言うと、さっきまで春助に対して汚物を見るような視線を送っていた生徒も、少しだけ感嘆の声を漏らした。
皆の視線が己へと突き刺さるなか、春助は先ほどの一夏の言葉に対して、いい迷惑だと思っていた。
(ちょっとどころじゃないから引きこもってたんだけど……。というか、皆こっち見てるし…。早く帰りたいんだけど)
一夏は春助に対して、過大評価している。まだ幼い頃、前世の知識を活かし活躍する弟を誇らしく思っていたのだろう。それに思い出補正も加わり、双子の弟である春助は一つのヒーロー像として一夏の中に確立されていた。
確かに昔は、春助は神童と呼ばれるほどの子どもだった。しかし、今ではすっかり落ちぶれている。勉強も、運動も何かも一夏がとっくの昔に追い越したのだ。まあ、それに気づいてないのは、恐らく一夏本人だけだが。
「私に負けるわけがない?…日本の男性はジョークの才能だけはあるようですわね。いいですわ。二人とも、私を怒らせたことを後悔させてあげますわ」
そう言うと、颯爽と自分の席へと戻って行くセシリア。春助は、自分が悪いのかと問いたかったが、そんな勇気はないので、おとなしく授業が終わるのを待つことにした。
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目を開けると、そこは何もない、真っ白な世界だった。
何故自分がこんな場所に居るのか、さっきまでの自分の行動を思い出そうとすると、頭に、まるで雷に打たれたような激しい痛みが走る。
この殺風景な世界で、色がついたものなんて、自分の着ている服と露出している肌しかない。
いつまでも突っ立っておく訳にはいかないので、取り敢えず辺りを散策してみることにした。
小一時間ほど適当に歩くと、(というか進んでいるかさえ分からなくなる)どこからともなく女性の声がした。
『…あれれ?おっかしーな。完成したと思ってたのに、急におかしくなっちゃったかな』
私は、この声の主を知っている。
世界的に有名であり、世界を変えた人物。
「…篠ノ之……束…」
『ん?……なるほどー。そういうことかー』
私が何気なく呟いた一言をどうやら束に聞かれたみたいだ。それは別にいいとして、何故私がここに居るのか問いただしたい。あいつだけが知っていて、私だけが知らないのは不公平だ。……まあ、大方予想はついてきたが。恐らく、とてつもなく面倒なことになったようだ。
私はこれまでの人生で、一度もしたことがないような深いため息をついた。
え?春助の台詞が少なすぎるって?
……き、気のせいですよ!