極黒のブリュンヒルデsidestory   作:apride

16 / 22
【外伝】ヴィンガルフ特殊部隊

長野県松本市

 

陸上自衛隊松本駐屯地

 

[災害即応集団東部方面分遣隊]

 

室内では憂鬱な面持ちで煙草を咥える男がひとり。

 

 

本間 大輔 41歳 既婚 単身赴任中

分遣隊隊長 1等陸佐

 

 

 

『・・・ということは・・・です。では何故[即応]の災害派遣部隊が未だに活動しないのでしょうか?』

『高屋防衛大臣』

『え~、その部隊につきましては・・・あくまでも災害発生の際に迅速な活動を行うための研究を目的としておりまして、実際の派遣を行う人員並びに装備はございません!』

『大臣!横にいる統幕長に渡されたメモを棒読みしてるだけじゃないか!知らないなら、知らないと言いなさいよ?私が調べた資料では、唯一の人員・装備を持つ部隊が松本駐屯地に存在してます。しかも驚きの内容ですよ!レンジャー中隊に装甲車にヘリコプター!説明してください!大臣じゃなく統幕長!』

『菅内閣総理大臣』

『ただ今のご質問ですが、統幕長はあくまで防衛大臣に随行しているだけです。答弁はできません』

『答えになってない!総理!』

『静粛に!!』

 

《プチッ》

 

侃々諤々な国会中継を流すテレビを消した・・・

 

ため息混じりに呟く。

 

「やれやれだな・・・まだ捜索活動も続き、復興の目処もつかないと言うのに・・・そう言えば、高屋防衛大臣の地元選挙区はここだな!?余計に面倒なことになりそうだ・・・」

 

 

半年前の3月11日15:33

 

日本を未曾有の大災害が襲った。

〔東日本大震災〕と名付けられた災害は東北地方の太平洋側に大津波が押し寄せた!死者・行方不明者が数万人・・・未だに捜索は難航している。

 

あの日、地震発生直後には我が部隊にも待機命令が入っていた。翌日には全国の部隊で出動準備が行われた。その為、留守居役に予備自衛官の召集まで行われていたのだ。

 

しかし、我が部隊へは未だに出動命令はない。

 

 

「隠れ蓑の部隊名が・・・皮肉なものだ」

 

 

前任地の長崎県に妻子を残し単身赴任して早3年になる。着任した際には、あまりに特殊な任務に驚きと戸惑いを感じずにはいられなかった。ところが今では当たり前に淡々とこなしている・・・

 

『入ります!』

 

通信隊の士官がやってきた。

 

『本間隊長!Vから出動要請が入りました!』

 

そう言って1枚の紙を差し出した。

 

「・・ご苦労様」

 

そう言って受け取ると、士官は退室していった。

 

 

「(いつもの移送任務だな)」

 

思ったとおり・・・

 

ため息をつく

 

「渡瀬・・・お前がいなくなってから、V機関駐在官は俺が兼務する羽目になっちまった。忙がしいぜ・・」

 

 

 

 

──────────────

 

────────

 

────

 

 

翌日

 

[災害派遣]と書かれた横幕を付けた車列が松本駐屯地を出発した。任務は訓練を装い、V機関から廃棄対象者を装甲車に詰め込み松本空港まで移送する。そこで、これまた災害派遣訓練名目で飛来した空自輸送機へ引き渡す。我々の仕事はそこまでだ・・・

輸送機の行き先は不明だ。知る必要はない・・・

 

 

 

数時間の後

 

『隊長!!移送部隊から緊急連絡です!攻撃を受けたそうです!』

 

「なんだと!!状況知らせ!」

 

『国道にて武装部隊による攻撃を受け、人員に死者・負傷者が出ているようです。尚、横転した装甲車から多数の逃亡者が・・・・』

 

なんてことだ・・・国内で武力攻撃を受けるとはな。

内通者が存在するのは疑い無いな・・

訓練中の部隊、それも災害救援訓練だぞ?内乱の最中の情勢不安定な国ならいざ知らず、ここは日本だ!

 

「逃亡する者は射殺してないのか?射殺許可は出してあるしな?どうなっている?」

 

『そ、それが・・銃火器は全て無力化されたそうです。』

 

「そうか・・・やはりか」

 

本間には心当たりがあった。隊員には詳細は伏せてあるが、移送対象者とは[出来損ないの魔法使い]だということ、そして魔法の前では通常の戦力は無力だと・・・

 

 

「救護活動を優先しろ!直ちに応援部隊を編成し、現場へ急行させろ!逃亡者は・・・放っておけ」

 

 

 

 

────────────

 

───────

 

 

「茜さん!しっかりして!」

 

タイヤの下敷きになった女性を助けようとしている少女が悲痛に叫ぶ!

状況からして、タイヤの下敷きになった女性はたすからない・・・装甲車のタイヤはホイールを含め200kgを超す重量なのだ・・・

茜の腰から下は潰れていた。

 

「寧子・・これだけは忘れるな」

 

茜はそう言うと、やや分厚い封筒を寧子に手渡した。中には小型端末と金属製のシリンダーがメモを添えて入れてあった。

 

寧子は受け取った封筒を持ち闇の森の中へ消えて行った。

 

 

 

────────────

 

──────

 

 

 

翌朝

 

事故現場には横転した装甲車や炎上し黒焦げになった輸送トラックが残されているが、死体は既に回収されている。

 

「横転の原因はこれか・・・」

 

本間が装甲車の底部を見て呟いた。

対戦車ロケット弾が側面からタイヤに命中して、車輌底部と道路の空間で爆発したことにより横転した模様。

 

「不幸中の幸い・・・と言っていいのかどうか、側面装甲に直撃してたら乗員は全て蒸発してたな。隊員は助かったが、積み荷に逃げられたな」

 

陸自の装甲車は諸外国軍のものに比べ、装甲が貧弱なのだ。対戦車兵器など当たれば簡単に貫通し、車輌内部で爆発してしまう・・・

 

「うちの部隊に死者が出なかっただけで良しとするか・・・」

 

ヴィンガルフ側の職員・警備員には多数の死者が出てる。特に警備員は全員死亡したが、彼等は襲撃を受けた時の対応が全く素人だった。

 

 

この事件がきっかけとなり、松本駐屯地を離れてヴィンガルフに常駐することになる。

身分もヴィンガルフ直属の特殊部隊と変わった。

 

 

 




補足:対戦車兵器は特性上、装甲の破壊や装甲を貫通して内部乗員の殺傷が目的です。本文中の本間1佐の台詞の「蒸発してたな」は敢えて大袈裟に描いてみました。
実際に装甲車内部で爆破しても破片や爆風で破壊力はありますが、乗員が蒸発してしまうほどの超高熱にはなりません!多分(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告