宅間に案内され、通された部屋
テーブルの上には新品の制服と制帽。ホルスターに拳銃…拳銃?
「制服と制帽は1佐のものだから理解できる。しかし、拳銃は何故だ?」
自衛官は平時には銃器を携帯することはない。制服なら尚更で、作業服(戦闘服とは呼ばない)の場合でも訓練で必要な時だけだ。無論、弾装は空である。
「ここでは常に戦闘地域にいる前提で行動して下さい」
無表情のまま宅間は告げる。
ホルスターを確認すると、脇に下げるタイプだな…
警務隊じゃあるまいし、制服の上から腰に下げる訳にはいかんからな!
第二次大戦時や軍オタアニメになっちまう(笑)
中身は9㎜拳銃かな?
出てきたのは「シグP226」…自衛隊制式採用のP220ベース9㎜拳銃ではないんだな?
銃弾は同様の9㎜パラべラム弾だが、装填数が15+1発と多い。自衛隊モデルは9発だ。
「使用条件を考慮し、官給品は避けました。任務の都合上、どこで使用することになるかわかりませんから…」
所謂「足のつかない」ということか…
所内で必要となるIDカードを受け取り、自室へ案内された。
広くはないが、自衛隊の官舎に比べると快適な造りだ。
ビジネスホテルの部屋を若干豪華にしたみたいで、デスクにテーブル&ソファーがあり、バスルームとトイレもある。
クローゼットを開けると、スーツなど衣類が揃えてあった。
一通り揃えてあり、私物を持ち込む必要はないようだ…
と、いうか…拉致同然に連れて来られたんだがな!
そうしていると、宅間の横にスーツ姿の女性がやってきていた。
「これから所内施設を彼女が案内します。私はこれで失礼します」
そう言うと、宅間は退室していった。
「本庄です。渡瀬さんの担当をさせて頂きます」
歳の頃は20代半ばくらいかな?黒髪を後ろにアップして束ねている…最近は見掛けなくなったスカートタイプの黒スーツ姿はスカーフがあれば、どこかの航空会社のCAみたいだ(笑)
能面の様に表情が固いところを除けばだが…
「どうかなさいましたか?」
怪訝そうに聞いてきたよ…
「あ、いや、ここの職員の方々は皆…あまり表情が固いなと感じてね。渡瀬です。宜しくお願いします」
「ここでは…感情を殺してないともちませんから」
目線を逸らしながら小さく呟いた。
名称からして、生物関係の研究所なんだろうが…
常識的な範囲ではなさそうだな…
「では、ご案内致します。IDカードはありますね」
「ああ、これだね。認証チップ内蔵だな」
「はい、それは自室から出る時に必ず付けて下さいね。無いと警報が鳴ります」
「当然、ドアも開かないだろう?」
「はい、2回ノブに触れると警告音が鳴り、3回目で警報が鳴りますから気をつけてください。それから、居住区以外では網膜認証が必要なドアもあります」
「研究施設なら当然だろう。私は研究員ではないから必要ないのかな?」
そう尋ねると
「いえ、渡瀬さんの網膜パターンもこれから登録いたします」
廊下を歩きながら答えると、「生体登録管理室」とプレートが付いた部屋に通された。
「では、これからまず渡瀬さんの各生体情報を管理システムに登録いたします。網膜・指紋・手の静脈・声紋・骨格の5種類をスキャナーで取り込みます」
「DNAは良いのか?有りそうな話だが♪」
ちょっと軽口叩いてみたら…
「そちらは既に入手済みです」
選任された理由が微かに予想できて、一瞬ゾクッとした。
一通りの手続きが終わり、漸く研究所内へと案内される。
どのドアも認証端末機があり、廊下以外には部外者は全く移動できない造りだ。本庄の話によると、各部屋ごとに許可対象が違っており、全てのドアを通ることが出来るのは所長だけだそうだ。
そうして歩く間に着いた先には…
「渡瀬さんの仕事相手です」
壁に横長の大きなガラス窓がある部屋に通されて、彼女はガラスの向こうを指さしている。
一見して分厚いガラスとわかる。おそらく防弾、いや防爆?恐る恐る近より、ガラス越しに見下ろすフロアに目を疑った‼
「なんだこれは!!!」
見下ろした先には…10代半ばくらいだろうか?
30人くらいの少女達が食事中だった。
全員が病院の検査服のような物を着ている。
「俺に教師をやれとでも言うのか?」
沸き起こる怒りの感情を抑えながら、視線はフロアを見つめたままで、横に立つ本庄に質問した。
少女達を見た瞬間に悟った!
(この少女達が研究対象だ)
「渡瀬さんでなければ出来ない仕事です…彼女達は人の姿をしていますが、人ではありません…」
能面の様に表情のなかった本庄の顔に苦悩の色が浮かんでいた。
「あなたは現時点で日本国内で唯一人見つかっている雄生体…」
雄?…俺のこと
「どういうことか説明しろ!!」
思わず声を荒げてしまった。
「所長がお会いになります。詳しい話は所長から説明があるはずです。行きましょう」
そう言うと足早に部屋を後にして歩きだした。