Fate / Hybrid Stories 作:さんくてるるるく
あと2話と番外編2話も軽く入ってきますが、ここはそんなに気にしないでも大丈夫です。
アーチャーさんは帰ってこれたのか!?というのはまた今度です。
先の戦闘を思い返す。
(アタシのロッソ・ファンタズマに対抗できる宝具を持っていたなら、アタシにはもう打つ手がなかった)
単純な打ち合いで負けていた。それがランサーには堪えた。
「マスター、敵は退けたんだ。もっと明るい顔してもいいんじゃねえか?」
アサシンが山門の防衛を終え戻ってくる。最弱のサーヴァントでありながらアーチャーを討ち取った、生き残れたのも彼のお陰と言えるだろう。
「そう、だな」
ランサーは俯き気味に応えた。
生き残るためには前向きに、勝つことを考えなくてはならない。
(ぼうやとの約束のためにも...)
明け方の空を見上げると、自然とライダーのことが思い出された。
川に架かる大きな赤い橋。裂傷や焦げ跡はそこでただならぬことが起こったことを示していた。
今はちょうど朝日が昇るころ。橋の上には二つの人影が見えた。彼らはランサーとライダー、両者ともサーヴァントである。二人の勝負は決し、横たわるライダーの首筋にランサーが槍を構えているところであった。
「今度こそとどめだ、ライダー」
そう言ってランサーが槍を構えた。
「待って...姉ちゃん」
息も絶え絶えに、ライダーはランサーに訴えかける。
「こういうときはさ、男らしく覚悟決めなよ」
「話を聞いてくれ」
「いい加減にしろって、恥さらすな...よ」
ライダーはただ命乞いがしたいんじゃない。彼の目は縋っておらず、ただまっすぐランサーに向けられていた。
「...わかったよ、聞いてやるよ」
「ありがとう」
ライダーは二回ほど深呼吸をし、空を見上げた。
(もう、この空気を吸うのも今日で最後か...)
白み始めた空には二羽の鳥が飛んでいた。まるで空だけ切り離されたように、このような惨状がなかったように翼を広げている。
「姉ちゃんに、俺のマスターを、桜姉ちゃんを任せたいんだ」
「マスターを?」
そうしてライダーは桜の現状を話し始めた。蟲に毒された体、極限まで捻じ曲げられた精神。衛宮士郎を除いて、彼女に生きる希望なんてない。蟲の海に沈められ、激痛にさいなまれながら毎日を消費していく。
「桜姉ちゃんは...幸せに...ならなくちゃいけない」
「それはアンタのマスターだから?」
「ちがう、不幸な人なんて...いちゃいけないんだ。だから、だから」
「そのために戦ってたのかよ、自分の願いもあったんだろ?」
「あったさ...けど、俺は...幸せだったんだ。家族がいて、友達もいて、化け物たちも、みんな仲良しだった。俺は...幸せだったんだ」
生気の薄れていた眼に強く光が宿る。
「だから、俺は...桜姉ちゃんがにこっと笑えるようにするんだ!!!」
ライダーに迷いはない。本気でそのために戦っていたのだ、その気迫にランサーは軽く気圧されてしまった。
「けど、俺じゃ...助けられない...だから、姉ちゃん、頼むよ」
「泥なんて何だい、か」
「?」
『泥なんてなんだい』
「いいよ、坊やのマスターのことはアタシに任せな」
「ありがとう...」
二人の間に穏やかな空気が流れる。しかし
「さっきから...ここに何か危険が...迫ってる」
「危険?」
「俺の...獣の槍は敵意なんかに...反応するんだ」
その震えは次第に大きくなっていっているように見える。
「こんな震えは...『白面の者』以来だ」
「アタシに逃げろっての?」
「うん、今の姉ちゃんじゃ勝てない。」
「いつもなら舐めんなって感じだけどさ、まぁ今回は従ってやるよ」
「本物の姉ちゃんは、どこかに隠れてるよな」
「!気づいてたのかよ」
『ロッソ・ファンタズマ』は30体の分身を創る魔術。ライダーが分身と戦っている間に本体は橋の下に隠れ、攻撃の機会を窺っていたのだ。
「わかったよ、アタシ達が死ぬのを見届けたらアタシは逃げる」
「桜姉ちゃんのこと...頼むよ、姉ちゃん」
「アンタ...」
突然、全身に悪寒が走る。ランサーとライダーは一瞬にして理解した。やはりこの者には勝てない。徐々に迫るその存在にランサーは冷や汗が流れる。
「つまらん茶番はよせ」
そしてその者は現れた。ランサーが危険と言っていた者。声のほうに振り向くと、そこには金髪の男が立っていた。
「
無数の剣、槍、斧が宙に浮いている。そのすべてが宝具であった。
「な...」
「疾く失せよ」
それらが風を切ってせまり、ランサーはとっさに回避した。
辺りに飛び散る赤い液体。それはライダーのものであった。
「テメェ...」
「ふん、たまには女遊びに興じるのも良いか」
宙に先程の倍以上の武具が出現する。
「我を楽しませろ、女」
途端、ランサーの全身から力が抜ける。それは魔力供給が断たれたことを意味していた。
「己がマスターに見捨てられたか、女。せめてもの慈悲だ。痛みを感じるまもなく死なせてやろう」
「ッッッ綺礼ぇぇ!!!」
体を貫く剣。刺さったと同時にランサーの全身を焼き、消し炭にしてしまった。
飽きたのだろうか。金髪の男はなんの言葉もなくその場をあとにした。
橋の下、ランサーは気づかれなかったことに安堵したと同時に、契約が切られたことにより早急に新しいマスターを探さなければならなくなったことに焦りを感じた。
(綺礼の野郎ッ)
悪態をついたところで意味はない、時間がムダになるだけだ。ランサーは駆け出した。
ひとまず敵に見つかりづらいところへ行かなければ。この街で魔術師やサーヴァントの手がのびていない場所には心当たりがある。ランサーは柳洞寺を目指した。
柳洞寺の山門へ続く階段は想像以上に堪えた。それほどまでに衰弱しているということだろう。
(くそ、これじゃもう...)
一日ぐらいは走りとおせるぐらいの魔力はあると思っていたが、ライダーとの一戦で予想以上に消耗していたらしい。
階段の途中で足が縺れ倒れこむ。立ち上がるのにも一苦労だ。このままでは山門に着く前に消えてしまうのではないか。
(約束、守れないよ)
ランサーはそのまま階段に身を預けた。
どれくらい経っただろうか、まだ自分は消えていないようだ。
ランサーが目を開けると、そこは布団の上であった。
(!?)
あわてて周囲を見渡すと、すぐ傍に男が正座していた。
「目が覚めたか」
空虚な目をした男だ。生前、もっと世界が殺伐としていた時代、魔術師と争っていたときはたまにこのような顔をした者に会ったものだが、この時代で会おうとは思わなかった。
(聖杯の知識だと日本という国は平和だってなってるんだけどな)
なにはともあれこのような男は信用しがたい。
「テメェ...何者だ?アタシに何した?」
「私は葛木宗一郎。山門前で倒れていたお前を、屋敷に運んで手当てをしただけだ」
「...」
それよりもなぜ自分がまだ現界出来ているのか、ということだ。
不思議に思い、回りに目を向けると布団の横に畳まれた戦闘の装束の上になにやら魔力の痕跡を感じた。それは赤い布から発せられているもので、この布はライダーの槍についていたものだ。現存する遺物ゆえにライダーの消滅とは関係なく残っている。おそらく死ぬ前に投げ寄越したのだろう。獣の槍は索敵能力を持つらしいから本体の居場所もわかっていたというわけだ。
どうやら魔力が込められていたようだ。男に運ばれているときに無意識に取り込んだにちがいない。
(助けられちまったな...)
ライダーの顔を思いだし、少し感傷的になった。
「その赤い布がどうかしたのか」
ランサーは得たいの知れない男にまた注意を戻す。
なおも警戒を解かない様子の彼女に葛木は言葉を続けた。
「調子が戻ったら出ていくといい、恩を売ろうなどというつもりはない」
そう言って葛木は立ち上がり部屋から出ていこうとした。
「...ッ!?」
突如ランサーの体に異変が起こる。やはり聖骸布にある魔力などたかが知れていたようだ。今の時間はわからないが数時間分の魔力しか補給できなかったのだろう。
(クソッ)
自分の足の感覚が無くなっていくのを感じる。もうあと少しで自分の体が消えてしまう。
「どうした」
布団から這い出て葛木に近寄る。
(足が消えている...)
たしかに運んだときは五体満足だったはずだ、と首をかしげる葛木の足元にランサーがたどり着いた。
「おっさん!手を出せ!!」
(クソッ間に合え)
訳もわからぬまま差し出された手をランサーが掴みとる。
(イメージしろ、力のイメージ。アタシならできる。アタシなら...)
「...」
聖骸布から残りの魔力をすべて引き出す。巻き起こる魔力の渦。そしてそれは葛木の右手の甲に収束し、赤い痣のようなものをつくりあげた。
「なんだこれは」
「ははッ成功」
その痣は『令呪』。ランサーは葛木の手に令呪を宿したのだ。
想像と現実の境界を曖昧にする彼女の魔術。彼女は令呪を想像し現実に創造したのだ。しかしもちろん本物とは比べ物にならないほどお粗末なもの。一画の魔力はそよ風すら吹かせない。これでできるのはマスターとサーヴァントの契約のみであった。
魔力供給を感じる。
ランサーは畳にへたりこんだ。
「...というわけさ、わかってくれたかい?おっさん」
他にどうしようもなかったとはいえ、葛木は自分のマスターである。一時間ほどかけてランサーは聖杯戦争についておおまかな説明をした。
「ああ、つまり私にお前のマスターとして共に戦えと、そういうことか」
「ああー、まあそこはアタシ一人でもいいんだけどさ」
「理解はした」
「そりゃよかった...」
「どうかしたか」
ランサーが不思議そうな顔をして葛木を見ていた。
「いや、やけに簡単に信じるなぁ、て思ってさ」
「全て事実なのだろう」
「まぁ、そうなんだけどさ」
納得のいかなそうな顔をしていたがランサーであったが、まぁいっか、と呟いた。そして立ち上がり葛木に手を差し出した。
「よろしくな、マスター」
「ああ」
二人は握手をした。おたがいまだ知らないことだらけではあるが、不思議と警戒心はない。
改めてここにランサー陣営が組まれたのだ。
「さて、と。なぁマスター」
「なんだ」
「アタシの服、赤い衣装だったはずなんだけどさ。これはどう見ても違うよな?」
「ああ、浴衣だ。私が着替えさせた」
「へぇ...アンタが...」
「ああするより他なかった、許せないというなら訴えるでもしてかまわん」
その反応はどうなんだ、とランサーは苛立つ。
(少しくらい照れたって...)
「別にぃ、介抱してくれてありがとな、おっさん」
「もう少し休むといい」
そう言って葛木はまた障子を開いた。しかし何かを思い出したようにランサーに振り向く。
「一つ言い忘れていたのだが」
「なんだよ」
「女性ものの下着がここにはなかったため用意できなかった」
「...ああ、わかった」
「あまり必要も無さそうではあったが、困るというなら... 」
「ふざけんな!」
必要無いとは何事か。
ランサーは槍を顕現させ葛木の顎を殴りあげた。宙を舞う葛木。その一撃は脳を揺らし、まるで宇宙にでも漂っているかのような感覚を与えた。五秒間の無重力体験、目の前にチカチカと光る星に葛木が手を伸ばしかける。しかしそれを掴むことなく、ドサッという音ともに葛木は畳に倒れた。
「...」
もちろん葛木に悪気はない。そんなことはランサーにもわかってはいたが、つい手が出てしまった。
「わ、悪い」
転がる葛木に申し訳なさを感じつつ、いたたまれなくなり出ていこうとする。しかしふいに立ち止まりライダーから渡された聖骸布に振り返った。
(ありがとな)
障子をそっと閉めてランサーは出ていった。
「...なぜだ」
和の香りがほのかに触れてくる畳、葛木はいまだ冴えない頭をそこに預けつつぼやいた。
『おいお前、令呪の下り』と怒られたらどうしようとか思いながら書いてました。魔力供給を確保したり、キャスターじゃないのにアサシンのマスターになる都合を考えた結果です。
『魔力さえあれば令呪いくらでもつくれるじゃん』となりそうですがそうです。いくらでもつくれます。ただ形だけの模造品、まさに張りぼての竜です。
もしかしたら今日もう一話投稿します。
それと来週の投稿はありません。再来週もあるかわかりません。定期テストが来週からスタートしてしまうので、、、(;>_<;)