Fate / Hybrid Stories 作:さんくてるるるく
プリヤが盛り上がって参りましたね。私は王道、イリヤ好きなのですが、皆さんはどうでしょうか?
広い部屋の中心には、赤をを引き立てるように縫い合わされたカーペットが敷かれている。そしてそれを囲うようにして、名のある装飾者によって施されたのであろう、部屋に似つかわしく美しい家具が並ぶ。窓からカーペットの中心まで手を伸ばす光に包まれて、椅子の上で士郎は眠っていた。
外傷は見られない。もちろん息もある。もっとも、あの話しぶりなら士郎に危害を加えていることはないだろうと容易に想像はできた。
「士郎!起きろ!ここから出るぞ!」
しかし、あくまでそれは見た目の話だ。『精神干渉』、心に手を出していないとも限らないのだ。
「セイバー下がって。...やっぱり魔術を受けているわね。半覚醒状態、つまり半分眠っているようなものよ」
「だ、大丈夫なのか?」
「心配いらないわ。そこまで強くない、ほとんど暗示に近い魔術ね。士郎が魔術師として素人なのが功をそうしたわね」
セイバーがほっと胸をなでおろす。
「じゃあセイバー、頼んだわよ」
「ああ、
第3の剣『
「セイ...バー...?...遠...坂...」
「おはよう衛宮くん。起きて早々悪いけど、今すぐここから出るわよ。あのサーヴァントのことだからそろそろ帰ってくるはず」
「そういえば凛、イリヤと協力しようって話は...」
「無理でしょうね。あれはあくまで対等の関係でするもの。戦力差があるだけならともかく、協力者である士郎を監禁して解放を拒否するんだから。さっきまでならともかく、衛宮くんを助け出せた今、ここに残るのは得策じゃないわね」
そう言うと宝石を握り締め、出口に向かって駆け出した。
「まぁそうだよな。よっ...と」
セイバーがぐったりとした士郎を背負いあげ、凛の後を追うようにして部屋を出た。
いったいどれほどの布を使っているのだろうか。屋敷の廊下を彩っている、あの部屋と同じ赤いカーペットはどこまでも広がっている。なぜだろうか、逃げているはずなのに、血塗られたのような道は死に誘っているように感じる。
(まだ...頭がぼけてるせいかな)
士郎は頭をかすめた不吉な予感を振り払い、ふたたびセイバーの肩に顔をうずめ真っ暗な世界に落ち着いた。上下に揺れる軽い衝撃と、二人の足音や戦いの音が耳に響いてくる。
「そろそろ屋敷の出口につくわ!このまま駆け抜けるわよ!」
凛の声で、セイバーの足がより早くなる。この角を曲がれば玄関ホール。そうすればゴールは目の前だ。と、思っていた。
玄関ホールについたと思ったら、そこに広がっていたのはただの廃墟であった。大理石の床は砕け散り、そこかしこに噴煙が立ち込めている。そしてその中心、宙からのびる金色の鎖に縛り付けられているのはバーサーカーであった。
「なによ...まさかバーサーカーが追い詰められてるっていうの?何者よあのサーヴァントは!?」
バーサーカーに相対し不適に笑っている男。鎖と同じく金色の鎧に身を包み、その周囲には剣や槍が顕現している。
セイバーに体を預けていた士郎が起き上がり、床に足を下ろした。そして凛たちと同じくあのサーヴァントに目を向けた。
「士郎、大丈夫なのか?」
「ああ、二人のお陰でもう大丈夫だ。ありがとう遠坂、セイバー」
その様子を見て安心したのか、凛とセイバーは金のサーヴァントへ顔を戻した。凛もセイバーも険しい表情でその惨状を見つめる。バーサーカーを打倒するとなると、より事態は最悪だ。アーチャーとセイバーが協力しても勝つのは難しいかもしれないし、なによりバーサーカーと比べて情報がなさすぎる。
どうしようかと凛が頭を抱える。出口があの一ヶ所しかない以上あのサーヴァントととの一戦は避けられないだろう。かといって正攻法で倒せる相手とは思えない。ならばバーサーカーを助けて共闘すべきだろうか。
そうこう悩んでいるうちに戦場は変化する。金色のサーヴァントは一振りの剣を出し、イリヤの目を切り裂いた。聖杯戦争に情けなどない、慈悲などない、勧善懲悪の正義などない。儚い少女が、圧倒的力によって踏みにじられ蹂躙されようと、それを拒絶することは不可能なのだ。わかっていた。そんなことはセイバーにも士郎にもわかっていた。
「ダメよ衛宮くん、セイバー。今出たら...」
「セイバー!!」
ひゅっという音とともにセイバーが姿を消す。いや消えたのではない。正確には瞬間移動したのだ。バルコニーの上、戦場を傍観する観客席から非情と殺戮のステージへと。士郎の手に刻み込まれていた『令呪』は今の瞬間移動で残り一画となった。
足を宙に投げ出し、顔を苦しさに歪めている。目から溢れ出す深紅の涙は頬を伝い体を伝い、足の先からポタポタと少女の影を紅く染め上げていた。首をつかみあげられ、宙で苦悶のうめき声をあげるその姿は、どこか絵画のような不気味な美しさを纏っていた。
しかしそれも一瞬で終わりを迎える。少女を苦しめていた左手は根元から切り落とされ血のなかに沈んだ。
「な...貴様はッ」
「ひさしぶりだなギルガメッシュ。どうしてお前がここにいるのかはわからないけど、ここで退場してもらうぞ」
イリヤは床にたおれこみ、咳き込んでいる。どうやら目を除いて目立った傷、今すぐ治療が必要なことはないようだ。それだけ確認すると、セイバーは剣を構えて英雄王に向き直った。
「ハル...グローリー...」
「なんだ、俺の名前覚えててくれたのか」
「俺の手を片方切り落とした程度で調子に乗るなよレイヴマスター。
そのことばを言い切ると同時にどこからともなく剣や斧が現れる。
「そんなの」
血しぶきが跳ぶ。それとともに英雄王の右手も宙に舞い上がった。
「この距離で許すわけないだろ」
「ぅぐっ... 貴様ぁあ!!」
そのまま後方に倒れこむ英雄王を見下ろし、セイバー が剣を振り上げる。第1の剣『
もうどんな武具を出そうと間に合わない。英雄王はセイバーの剣によって両断され葬られるであろう。
「覚悟しろギルガメッシュ」
「レイヴマスターあああああ!!」
風を切り振り下ろされる剣。それは大きな衝撃と共に大理石の床を砕いた。英雄王の顔のすぐ横、セイバーの一撃は外れたのだ。床には数本の短刀のようなものが転がっている。どうやらそれで軌道を逸らされたらしい。
「すまんが少し待ってくれないか?私もその男は好きじゃないが、こちらも仕事なんでね」
すでに破壊し尽くされた屋敷の扉の向こう、姿を現したのは黒いローブを身に纏った男であった。白と黒の混じった髪と、つぎはぎのような顔の異様な姿だ。
「...おっさん何者だ?」
「私かい?ただの医者だよ」
「とぼけるなよ、この短刀を投げたのはあんただ。サーヴァントなんだろ」
「むろん私はサーヴァントだ。生きているときは『ブラック・ジャック』なんて呼ばれていた」
「悪魔の天才外科医、だったっけか」
「ほう、よく知っているな」
「あともう少しでギルガメッシュを倒せるんだ。邪魔をしないでくれ」
「そいつを殺すってのかい?」
「...ああ」
「そいつぁ困る。さっきも言ったが仕事を受けていてね、前金はすでにもらっちまってるんだ。今その男を見逃すなら、私も君らに手を出さないことを約束しよう。」
話しても無駄だと判断したのか、セイバーは剣をブラック・ジャックに構えた。
「こいつはイリヤを殺そうとした。まだ幼い少女をだ。それにこれは聖杯戦争だ。邪魔をするならお前から倒す」
「喧嘩っ早いのは構わんがね、一度お前さんの周りを見回してみることだ。」
「...何が言いたい」
「もし私に負けるようなことになれば、そこにいる子供とバルコニーのお嬢さんたちは危険にさらされることになる」
たしかにそうだ。相手の手の内がわからない以上、今戦って勝てる保証などどこにもない。負けでもしたら士郎たちも襲われることになるだろう。しかしギルガメッシュを今倒さないのは危険ではないだろうか。相手の油断と令呪の力と運によってうまくいっただけなのだ。次もここまで追い詰めることが出来るとは思えない。
(いったいどうしたら...)
「セイバー!!」
後方から声がする。
「凛...」
「ここは引くわよ、準備して」
選択するは撤退。ギルガメッシュを見逃すことを凛は選択したのだ。目的は士郎をつれて逃げること。それさえ出来れば万々歳なのだ。
「一つだけ答えてもらえるかしら。あなたのクラスはキャスター?」
「私が剣や槍を扱えるように見えるかね?」
「はぁ、貴方ならアサシンと言っても違和感ないわよ。でもそうね、わかったわ」
セイバーがイリヤを背負い、士郎や凛とともに屋敷を出る頃にはキャスターと英雄王の姿はなかった。
そろそろ夕方だろうか、赤くなりつつある空を眺めながら帰路につく。行きは惑わされた森もすでに魔術が消え、普通の森になっていた。
家につく頃にはすっかり日がくれてしまった。闇夜にたたずむ衛宮邸はぬっとその存在を示していた。我が家に着いたのだ。凛とセイバーにとっては一時の仮拠点に過ぎないが、ここ数日で何度も命の取り合いを体験したせいであろうか、士郎と同じように
時計の針が真上から少し右に傾く頃、月と星が存在を示す夜の世界、士郎はそれらの弱々しくも巨万の光粒を見上げ、縁側で思索に耽っていた。
他愛のないことから、もちろん聖杯戦争のことまで、永遠とも感じられる暗闇の時間の中にただ一人沈んでいた。深く深くまで潜り込んだ思考の海は、外界の様と相まって深海のように感じられる。
突然、士郎は覚醒へと引き上げられた。反射的にその手のほうに振り向くと、そこには少し癖のある黒髪を後ろで束ねた寝間着の少女が立っていた。
「...遠坂か」
「そんなところで寝てると風邪ひくわよ?」
おだやかな笑みを浮かべると、隣に座っていいかしら、と言って同じく縁側に腰かける。
「昨日と逆ね」
「え?ああ、そうだな」
しばしの沈黙。
「...」
「...」
しかし少年と少女、二人にとってそれはまるで違う居心地を感じさせるもののようだ。
「と、遠坂。こんな時間にどうしたんだ?」
「んんー、そうね。部屋に行こうとしたら衛宮くんが見えたから。寝る前の挨拶でもしようかと思ったのよ」
「そう、なのか」
「そう、それと言っておきたいこともあったし」
士郎は一瞬疑問符を浮かべたが、なんとなく察しがついたのだろう。どこか諦めたような顔をした。
「私は確かに止めたけど、結果的に衛宮くんの行動は正しかったと思うわ。あのバーサーカーを追い詰めたサーヴァントにあと一歩のところまで攻めいれたんだし、最後のサーヴァントと話すこともできた。なにより私たちが無傷で帰ることができたのは衛宮くんのあの行動のお陰なのよ。イリヤっていうおまけ付きでね」
あのあと、士郎たちは重傷のイリヤを家まで運んだのだ。バーサーカーのいない今、あの屋敷に置いておくことは士郎にはできなかった。見殺しとかわらない、そう判断したのだ。それを提案したとき、凛は反対しなかった。今は両目に包帯をし、セイバーの目の届くところに寝かせている。バーサーカーに死なれ、視覚を潰されたイリヤが、いくら高い魔力を持っているとはいえ、今すぐの戦闘に対応できるとは思えなかった。
「ありがとう、遠坂」
(慰められちゃったな...)
遠坂が本心からそう思っていないと士郎は感じていた。結果が良かっただけで、危険だったことにかわりはないのだ。もしセイバーが敵に返り討ちにされていたなら、自分達の死は確定していた。
「は~ぁあ」
凛は、まるで体にたまったものをすべて吐き出すように、長々と仰々しくため息をついた。
「うじうじうじうじ面倒臭いったらないわね!いつまでしょぼくれてるのよ!あのねえ衛宮くん。もちろんアナタの行動は愚かだったわ、自分のことを考えてない。まして敵のマスターを助けるために命を危険にさらすなんてちゃんちゃらおかしい。でもね、少なくとも私は衛宮くんに感謝してるの。きっとイリヤも、それに多分セイバーだってアナタに感謝しているはずよ」
「セイバーが...?」
「アナタ、セイバーのことなにも知らないのね。明日図書館にでも行って調べてきなさい。シンフォニア七世ハル・グローリーの、2代目レイヴマスマーの、アナタのセイバーの物語。なんで私がこう言ったのかわかるはずよ」
そういえば士郎はセイバーについて何も知らなかった。太陽のように笑う彼に、ただ何も考えずについていっていただけだ。どんな状況でも顔色一つ変えない彼が、なぜあのときあんなに激昂していたのか。自分は知るべきなのかも知れない。
「ふわ~あ、さすがに眠いわね、おやすみなさい」
そう言うと立ち上がり、凛は寝室へ歩いていった。
そろそろ寝るべきだろう、気持ちはまだ起きようとしているが、さっきから体は疲れを訴えている。まぶたも重くなってきた。布団までもつだろうか。寝室へと重い足を引きずりながら考えるのは、明日のことであった。
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大事な人を失う。大事な人のために逝く。仲間に裏切られ、新たに仲間を見つける。何も写さないその瞳には、言葉を持たない者の背が焼き付いて離れない。
聖杯戦争が始まってより数日、始まる前から数えてもそう日は経っていないだろう。多くの希望や悲しみや憧れや絶望、ありとあらゆる感情が渦巻く冬木の地。
誰も彼も、先のことはわからない。数時間後には路上で屍を晒すことになるともわからない。
未だ終わりの見えない争いのなかで、今日はどこか穏やかに明日を迎えられる気がした。
第一幕 完
第一幕完です。
前後編構成の予定ですが、もしかしたら"何か"が増えるかもしれないのでこの形をとりました。
ここからしばらくは幕間等が入ります。
詳しくは明日にでも報告でします。
とりあえず全サーヴァントに出番を作れたのでよしとします!