Fate / Hybrid Stories   作:さんくてるるるく

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はい、遅れに遅れて投稿です。ごめんなさい。



幕間
ランサーの休日


「暇はあるか?」

 ランサーが三袋目のポッキーに手をつけたとき、唐突に葛木が訪ねて来た。

「アンタから用なんて珍しいじゃねーか。そうだね、別に今すぐ忙しい訳じゃないけどさ。誰がいつ攻めてくるかわかんねーんだ」

 ポッキーを二本ほど一気に噛み砕き、一息入れて続ける。

「だからさ、先に用件を言いなよ」

 見張りはアサシンに任せているとはいえ、完全に安心できるわけではない。まして陣地を離れるとなれば、異常が起こったときに対応することができない。葛木もそのことはわかっているのだろう、言葉を返すのに時間がかかる。

「...なんでもないなら部屋もどんなよ。それとも世間話でもするかい?」

 そう言ってランサーがお菓子を差し出す。

「...街に出る。衣類、お前が必要だと思うものを揃えてこよう」

 女性物はここにはない。そんなことで揉めたこともあったな、とランサーは思い返した。今は戦闘服を常時装備しているが、それも魔力を消費するので出来ることなら衣服はほしい。

「本当にそれが用件か?」

「興味があればお前もついてくるといい」

(やっぱな)

 暇かどうか聞いてくる時点で分かりきっていたことだ。行ってこよう、というのは葛木の譲歩だったのだろう。

「最初ッからそう言いなよ。どーせアンタじゃロクなもん買ってこれないだろ」

「...」

「行ってやるよ」

 そう言うと杏子は残りのお菓子を口に放り込み、立ち上がった。

「... 一つ気になったのだが」

「なんだよ?」

「その格好で行くのか」

「...」

 赤いドレス。どう見ても普通とは思えない格好だ。好奇の目で見られること請け合いだろう。

「れ、霊体化して」

「服を買うのだろう」

「え、選ぶだけなら」

「試着は必要ないのか」

 試着室まで葛木が持っていく、という案を出そうとしたが、いくらなんでも絵面が酷すぎる。

 

『試着を頼む』

『お、お客様。これは女性の』

『構わん』

『ですがサイズも』

『構わん』

『...』

『案内を頼む』

 

(~~ッ!!!!)

 この風体でその言動は逮捕されかねない。笑いをこらえ顔と腹筋を引き攣らせつつ葛木から目をそらす。

「どうした」

 それはそれで見てみたいが、どうやらこの格好で行くしかないようだ。

「はぁ、マジかよ」

 

 

 

 

 大きなショッピングモール。知識にはあったが、もちろん見るのは初めてだ。

「すげえ!!」

 どこを見ても人だらけ。まるで宝石箱のようにそこらが光輝いている。吹き抜けによって光の輪を積み上げたような造りになっているショッピングモールに、ランサーは目を輝かせて感嘆した。

「なんでも買っていいのか!?」

「構わん」

 手を出すよう葛木が促す。

「これを持っておけ」

 クレジットカード。ランサーはそれを受けとると、ポケットに突っ込んだ。

「私はそこで待っている。用がすんだら来い」

 そう言って某ファストフード店を指差す。どうやら葛木は何かを買うつもりはないようだ。

「アンタは来ないのか?」

「邪魔になるだけだろう。それに私は興味がない」

 少し考えたあと、ランサーが葛木の手をつかみ歩き出した。

「...なぜだ」

「せっかく来たんだからさ、ただ座ってるだけなんてもったいないだろ」

「だが」

「つべこべ言うなよ。えーと...まずあそこだ!」

 ランサーが示したのは某国産ファッションブランド。清楚系で有名な女優がCMをする、女の子らしいデザインが人気だ。

「...意外だな」

「う、うるせえ!どーだっていいだろ!」

 少し顔を赤らめながら店内に入っていく。がしかし前述通り、知識はあるが見たことあるわけではないので多種多様な服に目移りしてしまう。

 そうしてランサーがうろうろと迷っていると、それを見かねたのか葛木が手を離し一人店の奥に歩いていき、しばらくして店員と戻って来た。

「葛木?」

「この子に合う服を見繕ってくれ」

「かしこまりました」

「え?え?アタシは」

「可愛いドレスですね。赤が好きなんですか?何かこうしたいってイメージとかありますか?」

 にこやかに店員がランサーに話しかけてくる。

「えっと」

 おろおろして葛木に目で助けを求める。

「なんでも言ってみるといい」

 そうですよ、と言って店員が笑いかける。

「じゃあ、女の子らしい服が、いいな」

 俯き気味に、すこし恥ずかしそうに答えるランサー。

「かしこまりました!」

 そこからはランサーのファッションショー。上を替え下を替え、腰まである髪まで形を変えて現代の女の子を楽しんだ。

「どう、かな」

「ああ、よく似合っている」

 これで何度目であろうか。無反応を店員に怒られて誉めるようになったのはいいが、さっきから同じ言葉しか言っている。

「そうかな」

 それでもランサーは満足しているようで、そのまましばらく取っ替え引っ替えを続けた。

 

「昼食にするか」

 5件目をまわり、そろそろ買い物袋が葛木の両手に収まらなくなってきたあたりで、彼が腹ごしらえを提案した。時刻は12時をすこし回ったくらいで、ちょうど昼飯時である。

「そうだな、たしかに腹も空いてきた気がする」

 ランサーはお腹をさすり、そう返した。

 

『出張開店!紅洲宴歳館・泰山』、ランサーはフードコートに入ると麻婆豆腐を選んだ。

「本当にそれでいいのか」

「生前にマーボドーフ?は一度たべたことあったんだ。それがすげーうまくてさ、また機会がめぐってくるなんてな」

「...そうか」

「なんだよ?」

「私はお前のやることに口を出すきはない。ただそれだけだ」

「?」

 一瞬表情が険しくなったように見えたが、すぐに葛木は手元の天津飯を頬張り始めた。

「へんなやつ」

 遅れてランサーも麻婆豆腐に手をつける。

 見た目で、あるいは葛木の発言で気づくべきだったのかもしれない。こうなる未来を確定せしめたのは何だったのか。魔術師になったこと?魔術師狩りをしたこと?世界を旅したこと?生前に中華料理を食べたこと?いや、生まれたその時点でどうあがいてもこの結末に収束していたのかもしれない...。

 断末魔の叫びと共にランサーは意識を失った。

 

 

 

 

 温かい。ゆりかごに揺られているような浮遊感。でもそれは全然不安じゃない、ううん、むしろ安心できる。

 うっすらと男の顔が見える。自分を抱きかかえるている人。

「おや...じ...?」

 声に応じて男が自分を見下ろす。

「目が覚めたか」

 父親に見えたのは葛木だった。

「葛木...?」

「お前はアレを食べた後、気を失って倒れた」

「あぁ、そうだったな」

 あれはやっぱり幻だったのだ。

 ランサーが葛木に下ろすよう促した。

「もう大丈夫なのか」

「あぁ、悪かったな...」

「...」

 その場に足を止めうつむいている。

「どうした」

 なおもうつむいてるランサー。

 すでに夕日が伸び、見渡せば家へと駆ける子供たちや、買い物かごを抱えた主婦が目に写る。もうすぐ夜になる。明るいうちに帰られねば戦闘の危険も増すだろう。

「あの、さ」

「...」

「手、繋いでいいか」

 

 

 

 周りから見れば親子のようだったかもしれない。

 背の高い無愛想な父と、明るく元気のよい娘。

(親父が死ななかったら、こうやって一緒に歩くことも出来たのかな)

 横を歩く葛木を見上げると、同じく葛木も見下ろしてきた。

「なんだ」

「べっつに、なんでもねーよ」

「...お前の父親と重なったか」

「!?」

 普通のことのようにさらりと問いかける葛木。全く心の準備もしていなかったランサーは、言葉を返すこともできず立ち止まった。

「生前のお前を見た」

 サーヴァントとそのマスターは、契約をもって繋がれている。それは深く強固なもので、お互いの魂にすら触れてしまうようなものなのだ。

 恐らく、葛木は夢でランサーの人生を垣間見たのだろう。

「...ッ」

「今日もお前を見ていて思うところがある。何かあるのなら、人に話すのも一つも手段だろう」

「ハッ、アンタ保護者にでもなったつもりかよ?親父みたいなこと言うんなんてさ」

「...教師という肩書きのせいかもしれんな」

 虚勢を張るが、いまだ動悸はおさまらない。葛木の言ったことは全て図星だった。

 不器用な父親と一緒に買い物をして、ご飯を食べて、そして手を繋いで帰る。

 それは生前に何度も夢見てきたこと。掴み取ろうとしてこぼれ落ちた、記憶に欠片のみを残す幸せな夢。幸せだった夢。

 ランサーは一人の娘として、葛木は一人の父親として、聖杯戦争なんてなかったように接してしまった。それこそ葛木の感じた違和感だろう。

「話したくないのなら構わん。話したくなったらいつでも言うといい」

 夜も近いな、と続け、止めた足を再び動かす。しかし数歩進んだところでまた立ち止まる。ランサーが動かないのだ。肩を震わせ、俯いたままに立ち尽くしている。

「...」

「アタシの...話を聞いてくれ」

「ああ」

 繋がれた手をより強く握りしめた。

 

 

 

 

 柳洞寺への帰り道。話すと言ったものの、ランサーはトボトボと葛木の後をついて歩くだけであった。今は何も言うべきではない、彼女が口を開くのを待つべきだ。そのように葛木も判断し、ただ無言のまま二人は寺に着いた。

「よぉ、遅かったじゃねーか。見てわかるとは思うが一応義務だ。報告しておくぜ」

 アサシンによると、今日一日、敵サーヴァントの襲撃はなかったようだ。山門を背に座り込み、刀の手入れをしている。

「おいマスター」

「なに」

「報告通り、何も問題はねーからよ。今日はゆっくり休んどけ」

 アサシンが、ランサーに振り向くこともなく告げる。

「ありがと」

(らしくねぇな。おおかた葛木が何か言ったんだろうが...まぁ俺には関係ねぇか、ただ山門を守るためだけの存在だ)

「葛木、信用していいんだな」

「それはお前が判断することだ」

「まぁ、そうかもな」

 葛木とランサーは山門をくぐり、砂利に左右を囲まれた石畳を進んでいく。コツコツと鳴る音が遠ざかりそして消えた。

(けど、サーヴァントの立場抜きにして、なんかアイツはほっとけねえな。気が強くて力も強え。女の癖して男や大人にだって負けねえ。けど、一人悩みを抱えて泣いちまうような...)

 手入れを終えた刀を白い鞘におさめ、街へのびる階段の暗闇に神経を張る。何か人ならざるものの気配。

(あの時、俺は何も出来なかったな)

 そして刀を左手に携え立ち上がる。

「どこのどいつか知らねーが、今帰るなら許してやる。けどよ、やり合いたいってんなら受けてたつぜ」

 抜刀の姿勢。アサシンは右手をゆっくりと刀の柄に置き、闇へ鋭く剣閃を放った。

 

 

 

 

 夕食を終えると、ランサーは自分の身の上をぽつりぽつりと語り出した。

 家族四人で幸せだったこと。それが突然終わってしまったこと。自分がみんな死なせてしまったこと。そしてそれからの戦いの日々。

 悲惨なファンタジーの物語、そう言われたほうが納得できる。しかしそれはファンタジーでもないし、まして物語なんかではない。一人の少女がその小さい身体に受け止め背負ってきた負の歴史。どこまでも空虚で、どこまでも真っ暗だ。

「アタシが、アタシがみんなを殺したんだ!アタシが!!」

「お前が何かしたわけではないだろう」

「知ったこと言うなよ!!アタシが魔術なんてやなきゃ良かったんだ!!アタシが、アタシが白い魔術師と契約しなきゃ、モモはッ!!」

「すまん」

「あ、いや、アンタは悪くなかったよ。ごめん」

「お前の願いはそれに関する、あるいはそれそのものか」

「ああ、アタシの願いは『家族の死をなかったことにすること』。もう一度やり直したいんだ」

 過去改変などたしかに聖杯を使わないと無理だろう。ランサーにはこれ以外に方法がない。

「そうか」

 科学者、あるいは考古学者たちはこれを糾弾するだろうか。歴史の改変、ましてランサークラスの人物が行うとすればそれはどれほど大きな影響を残すだろうか。

「止めないのかよ」

「ああ、好きにするといい」

「自分でも馬鹿なことを言ってると思ってる、許されることじゃない。なのにアンタは何も言わないっての?」

「私は今まで生きている意味がなかった。それはこれから先も同じだろう。それゆえに、他人が何をしようと私は何も言う気はない」

 さらに、と言って続ける。

「お前は私のサーヴァントだ」

「そう、かよ。あとで後悔しても遅いぜ!」

 そうぶっきらぼうに言い放つが、もはや笑顔にほころぶ顔はごまかしようがなかった。

 

 

 

 

 サーヴァントに睡眠は必要ないのだが、葛木が殆ど魔力を持たないためこうして休息をとらなければならない。

(今日は楽しかったな)

 部屋の隅に置かれた買い物袋をチラチラと横目で見つつ、今日のことを振り返る。

 ただのデリカシーが欠如したおっさんかと思っていたヤツに慰められるとは思わなかった。ずっと抱えていたものが少し軽くなった気がする。

(人に話すのって、こんなに気分いいことだったんだ)

 もちろん問題は解決したわけではないし、解決に向かうわけでもない。しかし確実にランサーの心は安らいでいた。

 今日はよく眠れるだろう。目を閉じるとすぐに、ランサーは夢の中に落ちていった。




おいてけぼりになったり、なんか気持ちが入り込まなかったり、そういう部分を改善できるよう頑張りたいんですがなかなかどうして難しいです。
小説の書き方をどこかで学ばないとですね。

さて、幕間の1はランサーの話でした。次は未定ですが、詳細は活動報告にて連絡します。

境界の彼方の映画見ましたけど、映像がやっぱり綺麗ですよね!未来編も楽しみです。
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