Fate / Hybrid Stories 作:さんくてるるるく
ふと目が覚めると、あたりはまだ夜だった。
しかしそのような気がしただけで、実はまだ覚めていないのかもしれない。
誰かを見つけようと開かれた目はどこまでも真っ暗な世界を映し、誰かに触れようと伸ばした手はどこまでも孤独な空間を掻き回す。
五感が失われたら生きていると言えるだろうか?その人は自分が生きていると自信をもって言えるだろうか?もっとも話すこともできないのだが。
必死に、バタバタと振り回す腕。おや耳は聞こえるようだ、などと思う。一先ず自分は肯定できた。じゃあ彼はどうなのだろうか。
なおも振り回し続ける腕。次第に息があがってくる。そうだ、まだ声を出していないではないか。
「...カ...ッ」
うまく声がでない。カラカラに乾いたのどは形にならない空気を通すのみだ。
「......アッ...!」
涙が出てきそうだ。なんとも無様な自分の姿に?それとも"誰か"の存在を証明できないことだろうか。
しばらくして自分の手が何かをとらえた。いや、とらえられた、というほうが正しい。荒れ馬のようにアッチヘコッチヘ暴れまわっていた手は、誰かの逞しい手によってその身を鎮めた。
「バ......」
「おはよう、イリヤ」
誰かは"誰か"ではなかった。
時刻は昼の12時、らしい。何故『らしい』とつけたのかと言うと、昼とは言ってもあたりが真っ暗でなにも見えないからだ。
「落ち着いたか?」
「...」
イリヤの手を掴んだのは士郎であった。やはりバーサーカーが消えたのは夢ではなかったのだ。いつも傍にいてくれた彼への繋がりはすでに感じられない。金色のサーヴァントによって討たれたのだ。
(バーサーカー...)
彼のことを思うと何やら頬を温かいものが伝った。
「3日は寝てたんだ。声がでないのもそのせいかもな。ちょっと待っててくれ、何か持ってくる」
そう言って士郎は部屋を出ていった。
目に手を伸ばすと、包帯が巻かれているのがわかる。目を裂かれたのだ。柔らかな包帯を手で撫でながら、少しずつその時のことを思い出す。包帯の隙間からよりいっそう思いが溢れ出てきた。
「食べられるか?」
士郎が持ってきたのはお粥だった。もちろん見えないので確認はできないが士郎はそう言っていた。
暖かい湯気が鼻腔を駆け抜け、腹がぐぅーっと大きな音をたてる。どーやら自分は腹が空いていたらしい。
「スプーンで口に持ってくから、はい、あーん」
「あ...」
うまく食べられない。口の端から汁が零れ、寝巻きと布団を濡らしてしまう。
「悪い。次はちゃんとやる」
今度はちゃんと食べられた。体が徐々に満たされていくのを感じる。
「うまいか?」
「それはよかった」
口から入り体の奥に落ちていく。しばらくしてお粥がなくなると、士郎は空の容器を持ってどこかへ行ってしまった。
もう少し休んだほうがいい、と士郎は言っていたが、すでに目は覚めてしまっている。
寝ていたのだから3日など一瞬のことだ。けれどなぜか世界が懐かしく感じる。風を浴びたい、ふとそうおもった。
雪のように白い足は、膝をたてることも困難なほどに消耗していた。
それでもタンスや戸を支えに、なんとか縁側にたどり着いた。
「あら、思ったより元気そうじゃない」
風の流れるほうから女の声が聞こえる。
「よいしょ、と。掴まって」
『ほら掴まってイリヤ』
しなやかな、それでいてどこか頼もしい手。
『切嗣が向こうで待ってるわ』
「お母様」
「まだ寝ぼけてる?私は凛。遠坂凛よ」
縁側に座ると、すうっと風が体を駆け抜けていった。目には見えないが、はるか上のほうから暖かく包み込んでくれるのは太陽だろうか。
「ここ、いいわよね。私は家が西洋風な作りだから縁側なんてないけど、こんなにいいなら一つ和室が欲しくなるわ」
西洋風な屋敷に和室はどうだろうか。畳の中心に寝転がりら洋菓子を頬張る凛を想像し笑ってしまった。
「まぁ、屋敷のコンセプトには合わないわよね」
まったくだ。
「...その様子なら大丈夫そうね。これでも貴女のこと心配してたのよ」
「...」
「バーサーカーもいなくなっちゃったし、これからは貴女をあの金ぴかから一人で逃げなくちゃいけない。もしかしたら他にも敵はいるかもしれない。今までよりずっと危険な戦いになるでしょうね」
協会に行けば保護してくれるかもしれないが、そんなもの英雄王には障害とならないだろう。危険どころの話ではない。
そんなことはわかっている。
「...なんてね。きっと貴女は一人になんかならない、させてくれないわ。衛宮くんが許さないに決まってるもの。敵とか味方なんて関係ない!なんて言っちゃって」
しかしそうは言っても生き残ることは諦めている。元々そういう運命だったのだから。
「それとね、私も衛宮くんとは同盟を組んでる。だから衛宮くんがアンタを助けるって言うなら、私もそうしないわけにはいかないわ」
不本意だけど、と付け加えて凛が微笑む。
「バーサーカーは確かにもういない。けど貴女は一人じゃない」
どこか体が熱くなるのを感じる。
「それを持ってどこに行くつもりだったの?」
「...」
「たしかにロトの聖遺物であるソレを持ってれば少しの困難は乗り越えられるかもしれないわ」
気づかれていた。
「でも相手はサーヴァントなのよ。出来て時間稼ぎ、いいえ、もしかしたらそれすら出来ないかもしれない。そうなったら貴女は死ぬのよ」
行くな、と凛は言いたいのだ。長々と遠回しに、あげくに士郎を言い訳に、凛はイリヤを引き留めるつもりなのだ。
どこか儚げな少女を、どこかの誰かに重ねてしまっているのかもしれない。
「とりあえず何日かは休んでなさい。体力だって万全じゃないし、まだその目にも慣れてないんでしょう?」
心を許すつもりはない。いくら優しそうに思えても、彼等は自分の敵であり自分も彼等の敵なのだから。
(でも...今日は、いいよね)
凛の言うことも一理ある。仕方ない、一応のところは彼等に頼るのもありだろう。
「部屋まで戻れる?手を貸しましょうか?」
背を向けて歩き出すイリヤに凛が声をかける。
「ええ...おねが...い...する...わ」
ちょっとしたからかいのつもりだったのだが、凛はイリヤの返答に目を丸くし、そして微笑んだ。
「お安いご用よ」
まだ疲れが残っていたせいだろうか、なんだか眠く感じる。これなら布団に入ってすぐにでも眠れそうだ。
「おはようイリヤ」
前まで側にいてくれた彼は声をかけてくれることなどなかった。その事に関しては今の方がいいかもしれない。
「おはよう、士郎」
どこからか差し込んでくる日の暖かさを全身で感じ、大きく欠伸とのびをする。
「あら、そんな大きく口を開けるなんて淑女らしくないんじゃなくて?」
どうやら部屋にはもう一人いたらしい。布団を挟んで士郎の反対側には凛が座っていた。ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべている。
「おいおい、喧嘩するなよ遠坂。まだイリヤは疲れてるかもしれないだろ?」
やはり士郎は優しい。赤い悪魔とは大違いである。ならばこれは好機であり、それを逃すことはできない。いや逃すべきではない。
「あぅぅ~、しぃろぉ~」
よろけたふりをして士郎に抱きつく。病み上がりなのだ、仕方ないだろう。目が見えないのだ、偶然もあるだろう。
「うわっと、大丈夫かイリヤ?」
「ごめんね士郎、ちょっとよろけちゃって、目も見えないし、痛くなかった?」
声のしたほうへ上目使い(っぽい感じ)で顔をあげる。
「大丈夫さ、イリヤは軽いからな」
「えへへ」
ああ至福の時。これこそ夢に見た遥か遠き理想郷だったのかもしれない。士郎の腕の中は暖かく、いつまでも包まれていたかったが、唐突にそれは引き剥がされた。
「ちょっ、凛!何するのよ!」
「衛宮くんはこれからお昼ご飯の用意したりしなきゃいけないから忙しいの。とっとと離れなさい!」
「...」
凛に後ろから羽交い絞めにされて、イリヤがジタバタと暴れる。
「離して~!」
「ちょ、暴れないでよ」
「...はぁ」
少し考え方を変えてみよう。肉体的にも精神的にも、いつ立ち直れるか不安だったところにこれだ。元気になれたのだ。よかったじゃないか。士郎はそう思い、二人に気付かれないうちに立ち上がり部屋から去っていった。
そろそろお昼のころだろう。時計の針が頂点に着くまでにはまだ少しかかるが、静かな空気に乗って流れてくる香りがイリヤにそのことを告げてきた。焼き魚というのも久々だ。
「おーいイリヤ!お昼の用意ができたぞ!」
廊下の向こう、台所のほうから声が響いてくる。
「わかった~」
寝転がったまま、聞こえないことはわかっているが、呟くように返事をする。
しばらく凛と取っ組み合っていたが、士郎の不在に気づくと自然にそれは終息した。そのあとは各々の部屋で落ち着き、イリヤは布団の上で何をするでもなくコロコロと転がり今に至る。
「さて、と」
ゆっくりと体をおこし、目を擦りながら部屋を出る。これがいわゆるニートなのかもしれない。とろけた頭でそのようなことを考えつつ、食卓に向かう。
「あれ、寝てたのか?イリヤ」
「ええ、よく眠れたわ」
実際はそうではないが、そういうことにしておこう。特に説明するまでもないことだ。
「それは良かった。そうだ、これ、向こうに運んでくれるか?」
返事をするかわりに、その焼き魚の乗った皿を持っていく。なんの魚かはわからないが、自分の予想通りの献立だ。
「ふわぁ~あ、おはよう衛宮くん」
「なんだ遠坂も二度寝してたのか」
まったくしょうがないな、と言って苦笑する士郎にイリヤは少し不満を感じた。本当は違うのに一緒にしないでほしい。
「さて、昼御飯を食べよう」
美味しかったので二度寝の件は大目に見るやることにした。
午後からは士郎の提案で町に出ることにした。危険ではないか?と凛が不安がったが、士郎はキャスターの言ったことを信じるらしい。つまり、しばらくは安全だろうというのが士郎の見解だ。
「ランサー達がわざわざ出てくるとも思わないしな」
まぁそれはそうだろうが、万が一ということもあるのではないだろうか。
「セイバーもいるから大丈夫さ」
「おう、任せとけ!」
少しでもイリヤに楽しんでもらおうと、傷を癒してもらおうというのだろう。今はイリヤも元気よく振る舞っているが、本当のところは本人以外わからないのだから。
「お、着いたぞ」
車の入そうな大きな通りの脇に、それに沿っていくつもの店が立ち並んでいる。それぞれが食べ物や日用品、本やスポーツ用品を掲げ、店主が陽気な声とともに売り捌いていく。こう形容するとまるで市場の競りのようだが、実際は少し元気のある商店街だ。
「商店街なんて久し振りかも」
「遠坂は来たことがあるのか」
「ええ、前に、お母さまがいたころに一度ね」
「そっか...」
若干シリアスな空気に包まれる二人をよそに、セイバーとイリヤは心を踊らせていた。聖杯戦争が始まってから、セイバーもイリヤもほとんどお出かけなどしていない。店主達の元気な声や漂ってくる料理の香り、なによりここの暖かい空気が彼らを掻き立てた。
「士郎、俺ちょっと見て回ってくる!」
「私も行くー!」
「え?あ、ちょっと待っ」
士郎が二人を止めるより早く、彼らは未知の世界へ飛び込んでいった。
「あいつら...」
「はぁ、仕方ないわね。私たちも行きましょ、衛宮君」
「そうだな」
二人にはお金を持たせていないのですぐ戻ってくるだろう。凛に手を引かれ、士郎も商店街に入っていった。
「衛宮君、ちょっとそこ入ってみない?」
『出張開店!紅洲宴歳館・泰山』
「遠坂、腹がすいてるのか?」
「それもあるんだけど、前に似非神父が私に薦めてきたことがあったのよ、このお店。だからせっかくだし食べてみようかなーって」
「別にいいけど。食べるならセイバーとイリヤも一緒のほうがいいんじゃないか?」
「ああ、それなら」
後ろに振り向く凛につられて士郎が目を向けると、二人がこちらに歩いてくるところだった。
「来たわよ」
士郎と目が合い、イリヤが大きく手を振って駆け寄ってくる。
「士郎~~!」
「なにかいいものはあったか?」
「欲しいものがたっくさんあったよ!おっきな熊のぬいぐるみがいいなぁ、きっとモフモフしてて暖かいんだろうなぁ。あとね!キモノ?を来てる虎のぬいぐるみも置いてあったの!手に竹の剣を持ってたりしてね、お腹を押すと喋るの!なんだか笑っちゃったぁ」
クスクスと笑うイリヤ。きっと心から楽しいのだろう、今日誘ったのは間違いではなかったのだ。士郎にはそう思えた気がした。
「ありあっしたーー!」
威勢のいい挨拶共に、中華料理店から一人の男が出てきた。そしてその男は膝を震わせ数秒ののちに膝をついて倒れた。
「うっ...まったくトンでもないな。私のいた時代にはあんなものはなかったぞ」
後からもう一人、今度は可憐な少女が出てきた。左手でセミロングの髪を撫でつつ、男に笑いかける。
「サーヴァントも案外弱いんですね。本当に私を守れるんですか?」
「君は食べていないから...そう言えるのだろう。あれは、人の触れてはならないものだ」
「ふーん」
息も絶え絶えという様子の男とそれを嘲笑する少女。どこか見覚えがある。
「あの、大丈夫ですか?」
士郎が声をかけ手を差しのべるが、男はそれを手で制し断った。
「心配には...及ばない」
もう見るからに死にそうな雰囲気を放っているが、本人がそう言うなら仕方ない。放っておいて店に入ろうとするところで、凛が声をあげた。
「ねぇ、今サーヴァントって言わなかった?」
はっとして全員が男に目を向ける。たしかに連れの少女がそう言っていた。黒のズボンに革靴、そして上は白のシャツにベストとコート。全身黒尽くめの服装だ。そしてなによりその顔、白と黒がきっちり別れた髪色をしており、顔の中央に斜めに縫い後が残っている。つい最近会った男、それも最悪のかたちで。
「おまえ、キャスター!?」
倒れている宿敵を囲んで見下ろしているという異様な状況、ちなみに一緒にいたはずの少女はいつのまにか姿を消していた。
予告からだいぶ遅れてしまい申し訳ないです。
そういえば先日FGOでヘラクレス引きました。イリヤ礼装つけて戦ってもらってます。いやぁテンションがあがる