Fate / Hybrid Stories 作:さんくてるるるく
よろしくお願いします。
美しい女性。笑顔が印象的で、彼女が笑っているだけで心が暖かくなる。
その笑顔を守るために剣を抜く。
一緒に行った海。
一緒に行った山。
そして二人で過ごした夜...。
いろんな場所に行った。
彼女と一緒にいるだけで世界はよりいっそう美しく、輝いて見えた。
どこまでも旅を続けていたい。新しい世界を君と見たい。
俺の胸で涙を流す君。抑えきれない思いを涙に変えて...。
俺はそれを受け止める。この身を持って君の不安や恐怖を受けとめるんだ。
不安だったらまた旅に出よう。君が嫌がっても連れていくよ。また君の笑顔が見たいから。
少しずつ砕けて消える俺の体。それを見る君はとても辛そうで。泣かないでくれ。君は幸せになってほしいんだ。
愛してるよ、エリー...。
「おはよう、衛宮くん」
黒髪の美少女が自分を見下ろしている。そうだ、遠坂凛を家に泊めたのだった。
「エリー...」
「エリー...?エリーってたしか、セイバーが生涯愛し続けたって言われる女性のことよね?」
「わ、悪い、遠坂。何でもないんだ」
「!衛宮くん、どうしたの?」
「え?」
頬を涙が伝っている。あの夢を見たからだろうか。
サーヴァントの過去を夢として見ることはよくあることなのだそうだ。とすると、やはりあれはセイバーの過去なのだろう。
『愛してるよ、エリー』、彼女はセイバーにとってどれほど大切な存在だったのか。
(あんなに暖かい気持ちは初めて感じたな...ん?)
体を起こすと布団から筋肉質な上半身が生々しく露になった。どうやら感触的に下は履いているようだが、布団で下半身が隠れたこの姿は端から見れば全裸にしか見えない。朝日に当てられきらびやかに輝く体。士郎は一瞬頭が混乱した。
「とお...さか...?」
「ああ、バーサーカーに吹き飛ばされたときに背中を打ってたでしょ?ちょっと心配になって診てみたのよ」
顔が熱くなるのを感じる。
「か、看病してくれたのか。あ、あり、ありがとな!とお...さか」
笑顔がひきつっている。
そんな士郎にニコッと凛は微笑みかけ、立ち上がった。
「じゃあ先に行ってるから、早く来なさいよ」
はて?と士郎が何のことかわからない顔をしていると、凛がクスッと笑った。
「お腹すいてないの?しばらく何も食べてないでしょ、衛宮くん」
そういえばランサーに襲われたり、そのまま協会に行ったり、またバーサーカーに襲われたりとご飯を食べてる暇がなかった。結局寝たのは深夜の2時過ぎであった。
(昨日が金曜日でよかった...)
時計の針はぴったり12時を指していた。
「おはよう、士郎」
居間に入ると、ワンサイズ大きめのジーンズを緩めに履き、右胸にワンポイントはいったデザインの白シャツを肘あたりまで捲り上げ、シルバーネックレスを身につけた、いわゆるルード系ファッションのようないでだちでセイバーが現れた。
「お、おはようセイバー」
士郎の力不足のためにセイバーは霊体化できない。それゆえに一般人の服装をして目立たないように...とまではわかるのだが。
(いったいどこでこんな服を...)
「ああ、昨日凛が届けてくれたんだ」
「心を読まないでくれセイバー」
ため息と共に訴える。
「それにしても、この服を遠坂が...」
背筋に悪寒が走る。マイナスの波動の発信源に目を向けると、凛が『なにか?』と静かに微笑みかけてきた。
「ありがとな、遠坂」
「気にしないで衛宮くん」
笑顔を崩さない凛。またすこし凛という理想像にヒビが入った。
「ん?ちょっと待ってくれ」
何かがおかしい。
「昨日の遠坂からもらったって言ったよな。あのあと遠坂は家に帰ったのか?」
泊まる、と言った凛には服を取りに行く暇なんてなかったはずだ。まさか所持していたわけでもあるまい。
「ああ、衛宮くんずっと寝てたものね」
「どういうことだ?」
「今日は日曜よ、衛宮くん」
「士郎は一日まるまる寝てたからな」
ぽかん、と口が開いたままふさがらない。なるほど、凛も心配になって看病するわけだ。
「なんだって!?」
「まあ、そんなことはいいわ。それよりご飯食べましょ、冷めちゃうわ」
そうだ、ここは少し気持ちを落ち着けよう。士郎たちは食卓についた。
「いただきます!」
まず味噌汁。乾いた喉と空っぽの胃に同時に幸福感を満たしていく。出汁は鰹、粉末でも使ったのだろうか。濃いめにつくられたそれは目が覚める美味しさであった。
「うまい!これうまいぞ遠坂、こんなに料理上手だったんだな!!」
きょとん、とした表情の凛。
「私じゃないわよ?この料理を作ったのは...」
「私だ」
そう言って台所からエプロン姿のアーチャーが姿を現した。
そのゴリラとレスリングでもしそうなムッキムキのアームからこんな繊細な料理が生み出されたというのか。士郎はその組み合わせが信じられずただ呆然とアーチャーの上腕二頭筋を見た。
「な...なんでさ」
美少女が鼻唄を歌いながらピンクのエプロンで料理をしている姿がすべて上腕二頭筋男に脳内変換された。おぞましい。
『それじゃあ私たちは帰るから』
凛はご飯を食べた後、すぐに帰宅してしまった。
藤村大河もいない居間にはセイバーと士郎の二人だけ。特に共通の話題もない二人は必然的に聖杯戦争の話をすることになった。
「始めに確認しておくべきだったな。士郎、聖杯にかける望みはなんだ?」
少し考えたあと、士郎は揺るぎない表情で答えた。
「一つのものを取り合って殺し会うなんて間違ってる。俺は聖杯戦争を終わらせたい」
「そっか。士郎がそう言うなら、俺はついていくよ」
「セイバーの望みはなんだ?できることなら俺も協力したい」
「俺は特に望みなんてないよ」
嘘だ。士郎にはわかっていたがなにも言わなかった。それはセイバーが自分から語るべきことだから。
「それよりセイバー、一つ頼みがあるんだ」
「なんだ?」
「俺も一緒にたたかわ...」
「無理だ。士郎、それは無理なんだ」
「なんでさ、セイバーが傷つくのを黙ってみてるなんてできない!俺も戦う」
「はっきり言うよ。士郎は足手まといになる。だからそれを許すわけにはいかない」
「そ、そんなこと」
「士郎が凛ぐらい強いなら、もしくは自分の身を守れるぐらい強かったならそれもできた。けど士郎は弱い」
わかってる。グッと拳を握りしめる。
(けど)
「セイバーが傷つく分を少し俺がかわりに受けることならできるかもしれない」
その眼差しはまっすぐとしていた。
セイバーが諦めたようにそれに答える。
「強情だな、士郎。わかった、少しだけ助けてもらうよ」
ただし、と続ける。
「俺が退いてくれって言ったときは素直に退いてくれ。士郎がやられたらそれこそ終わりだ」
「ああ、わかった」
セイバーが剣を顕現させる。そしてそれを胸のかまえ、士郎に目を合わせる。
「士郎の剣となり盾となることをここに誓う」
「セイバーの剣となり盾となることを...ここに誓う!」
フッと剣を消し、セイバーが微笑む。
「よろしくな、相棒」
「こちらこそよろしくな、セイバー」
それから好みのタイプや好きな食べ物等、男子らしい話などで盛り上がった。日曜の夜は更け、また明日に備えて寝床につく。
「おやすみ、セイバー」
「おう、おやすみ」
(夢のことは...聞けなかったな)
屋敷の電灯の最後のひとつが消え、一日が幕を閉じた。
「まったく、ライダーのやつめが屋敷を破壊したせいでこんなところでやらなくてはならなくなってしもうたわ」
暗闇のなか、しわがれた声が響く。
「まあ成功してよかったわい」
夜の森のなか。妖怪のような老人と黒ずくめの男が向かい合って立っていた。
「さて、おぬし、名はなんという?」
「...ブラックジャック」
轟轟と風が木々を揺らすなか、人知れず夜の会合は行われた。
出ました。新キャラ
彼のプロフィールは今度まとめます。
次の話も今日中に投稿しますのでよろしく