那岐宮市での調査を終えた四人は一度ラウスブルグへと戻り、その中の一室で情報を整理していた。そうは言っても、今回まともな情報を得たのはバージルだけであるため、情報の整理というよりむしろ共有と言った方が正確かもしれない。
「やはり今回の件には悪魔は関与していない、か。まあ、予想通りと言えば予想通り、だが……」
あの場所でバージルが見たことを聞いたネロが言った。彼としては先の調査で自身の右腕が反応しなかったことから薄々はそう感じたようで、特に驚きには値しないようだ。
「この世界から魔力を抜き取っている……?」
ネロの言葉を引き継ぐ形でクラレットが、バージルの説明に出た言葉を繰り返した。那岐宮市でバージルのもとへ行った時、彼女もその光景を目にしているが、やはり中々それを信じられないでいるようだ。
「何のために……ってことは確かに気になるけど……、それはみんながいなくなっていることと何か関係があるのか?」
ハヤトもそれに関して疑問に思わないわけではないが、彼にとって優先順位が上なのは那岐宮市で起こっている「神隠し」の方なのだ。
「さてな。……だが、魔力の繋がりがあるせいであの街と向こうの繋がりが強くなっている。という解釈はできるだろう」
バージルは推論であるという断りを入れた上で、自らの考えを口にすると、ハヤトは眉を顰めながら答えた。
「でも、魔力を抜き出しているのはリィンバウムの
対してバージルは、淡々と持論を続けた。
「奴ら自身はそれぞれの世界のように結界で隔たれているわけではない。それぞれに全く関わりがないなどありえまい」
五つの
「確かに何らかの理由であちらとの繋がりが強くなっていれば、集中的に召喚されても不思議ではないかもしれません」
バージルの推論は召喚師のクラレットを部分的にでも納得させるものだった。召喚術はサモナイト石に魔力を注ぎ、サモナイト石の色に応じた世界との間に道を作り、召喚獣を呼ぶことから始まる。一度誓約してしまえば再び召喚することは可能だが、最初は何を召喚するのかは召喚師本人にも分からないのである。
そこで
「じゃあ、やっぱり向こうに召喚されたって言うのか……」
現役の召喚師であるクラレットもバージルの考えに賛意を示したことで、ハヤトも悪魔の仕業ではなく召喚されたと思い始めたようだ。
「何のことだ? 知り合いでも召喚されたってのか?」
ハヤトの言い方からネロは、彼の親兄弟や友人が召喚されたのではないかと尋ねると、ハヤトは力なく頷いた。
「ああ、うん……。クラスメイトがさ。それに知らない人も何人もいなくなってるから、結構話題にもなってて……」
このことはネロやバージルには話していなかったことを思い出し、簡単に事情を説明した。
「悪魔でないだけ幸運だ」
「それは分かるけど……」
それを聞いたバージルが吐き捨てるような一言にハヤトは言葉を濁した。確かに今回の原因が悪魔にあったのなら、ハヤトのクラスメイトだった樋口綾も含め、行方不明者の生存は絶望的だっただろう。その意味ではバージルの言葉にも一理ある。
「……向こうに召喚されても無事だっていう保証はないからな」
ネロが少し前の思い出しながら言う。彼がリィンバウムに来たばかりの時も文化や考え方の違いから騒ぎを引き起こしたことがある。ネロであれば当人の戦闘能力も相まってまず命の危険に晒されることはないが、普通の人間であれば話は別なのだ。
「ええ。残念ですがいくら見た目は人間と変わりなくとも、召喚獣扱いされることは変わりありません。ハヤトのような例は極稀ですし」
クラレットの言葉は召喚師にとっての常識だった。どんな姿形をしていようとも召喚術によって召喚されたものは、すべからく召喚獣なのである。ハヤトのように召喚された時に召喚師がいないというのは、まずありえないイレギュラーに過ぎないのだ。
「なら早く見つけてやるしかないのか……」
「見つけたとしてどうするつもりだ?」
無色の派閥であればそれをしたところで大した問題にはならないだろうが、蒼の派閥や金の派閥の召喚師が、神隠しにあった者を召喚していた時は簡単な問題ではない。公に認められた召喚師から彼らが召喚した者を奪えば国家からも犯罪者として扱われてしまう可能性が大なのだ。
これがバージルのように目的のためなら手段を選ばず、かつ、十分な力を持っているのなら、彼がかつて無色の派閥を相手にした時のように、相手が誰であろうが目的のものを奪い、敵対する者は殺し続けるだけでいい。相手はそのうち諦めるだろうし、そうでなくとも向こうが全滅するからだ。
だが、ハヤトの性格から考えてもそんな過激なことなどできるはずもないだろうことはバージルもよくわかっており、事実上彼が取り得る手段もほぼ決まっていることも悟っていた。
「それは……やっぱり話し合いでやるしかないと思う」
「そもそも見つけることすら難しいかもしれません。召喚師は蒼や金の派閥だけではありませんし、そもそもはぐれになっていないとも限りません」
ハヤトが答えた直後にクラレットは厳しいことを告げた。召喚師は蒼の派閥や金の派閥に所属しているものだけではない。帝国なら召喚術は一部一般にも開放されているし、軍人にも派閥の召喚師と遜色ない召喚師は存在するのだ。
その上、はぐれになっているとすればもはや召喚師を辿るだけでは見つけることが不可能になってしまう。そのため、リィンバウムで行方不明者を探すのは至難の業と言っていいだろう。
「聞いてるだけで頭が痛くなりそうだぜ……」
ネロが頭を振りながら呟いた。ろくな手がかりもなく捜索するということはネロの性格的に合わないものらしい。普段の仕事で相手をしている悪魔は逃げたり隠れたりするより戦うことを選ぶ上、近くにいれば右腕が反応するためまず見つからないということはなかった。この面から見てもデビルハンターという仕事はネロに合っているようだ。
「っていうかあんたも手伝ってやったらどうだ? 向こうには結構お偉いさんの知り合いもいるんだろ」
ネロは続けてバージルに言った。父親のリィンバウムでの人間関係はミントから聞いた程度ではあるが、それでも蒼の派閥の長と知り合いというのだからそれなりの繋がりを持っていることは想像できる。
そうした繋がりがあればハヤトの助けになるだろうと思い口にしたのである。
「……話をするぐらいならいいだろう」
僅かに間を置いてバージルが答えた。どうせアティあたりが聞けばネロと同じようなことを言われるのは目に見えていたため、さっさと承諾することにしたのだ。それに自身が探すわけでもないため、自らの計画には影響しないという計算もあった。
「ありがとう、助かるよ」
ハヤトも蒼の派閥にはマグナなどの知り合いもいるのだが、やはり上層部に直接話を伝えた方が効率的なのは間違いない。そう言う意味ではバージルの言葉は非常にありがたいものだった。
「……で、話は変わるが、あんたが俺の仕事について来たのは、前に俺が渡した本が関係しているのか?」
今回の調査のことはまだ人間界に着く前から公言していたことだ。当然バージルの耳にも入っているはずだが、その時の彼は特段興味も示さなかったのだ。
ところが、フォルトゥナに帰る際に帝都ウルゴーラの一件で手に入れた本をバージルに渡した後に、今回の調査に同行することを告げられたのだ。最初はただの気まぐれとも考えたが、合理的な性格をしているこの男が何の理由もなくそんなことを言い出すはずがないと思い、考えを巡らせた結果、あの本に辿り着いたのだ。
それを聞いたバージルは特に表情を変えることもなく頷いた。
「そうだ。何か手がかりが得られればと思っていたが、無駄に終わったようだ」
そう言うがバージル自身、この調査には大きな期待はかけていなかった。いくら魔界の悪魔が絡んでいるとはいえ、リィンバウムで起きた事件の手がかりが人間界にある可能性は低いだろう。そのため時間の余裕があったからこそ参加したのであって、実際のところそれほど重要度は高くなかったのだ。
「そいつは残念だったな。……で、あの本に書いてあったのは誰か分かったのか?」
ネロも以前に、グラッドから帝都で起こった悪魔を用いた暗殺事件の被害者のリストを借りて調べたことがある。その結果、被害者は全て本に書かれていた名前と一致したため、ネロはあの本が標的の一覧だと考えたのだが、結局その後いろいろとごたごたがあって、それ以上何の進展もなく、本はバージルに譲り渡したのだった。
「帝国の摂政の一派の貴族に、蒼と金の派閥の長の名があることは確認した。標的をリスト化したものの可能性が高いな」
バージルもネロと同じことを考えているようだったが、標的にはネロが知り得なかった特徴もあった。
「はっ、なら悪魔を使って政権転覆か? それとも世界征服でも企んでんのか? どっちにしたってくだらねえ」
ネロは鼻で笑いながら馬鹿にするように言う。悪魔を利用する奴などロクな者がいないと暗に言っているようだった。
「目的は不明だ。決めつけるべきではない。……くだらぬということには同意するがな」
これがただ悪魔を利用しただけの事件ならさほど重要なことではない。問題はその時期なのだ。
「……そもそも、なんであんたはこの話を調べてるんだ?」
バージルの言葉を聞いてネロは少し考えた。この一件は悪質ではあるが、悪魔を利用して私利私欲を満たそうとすること自体は決して珍しくない。ネロも何度かそういうパターンに出くわしたことがある。げに恐ろしきは人の欲望なのだ。
とはいえ、今のバージルは悪魔との大規模な戦いに備えている身だ。にもかかわらず、この一件を調べていることを不審に思った。
「これが起こった時期はリィンバウムに悪魔が現れなくなった時期だ。にもかかわらず悪魔を使役していた。何かあると考えるのが当然だろう」
「なに?」
ネロが思わず聞き返す。グラッドやミントが悪魔と会った時の話をしており、リシェルも存在は知っていたうえ、トレイユは悪魔が現れたことがないという話だったので特に気にしなかったが、確かにリィンバウムに召喚されてから、あの一件以外では一度も悪魔と遭遇しなかったのだ。
「言われてみればそうだ。昔は結構な頻度で現れていたのに、最近は全然姿を見なくなったな……」
「ええ、最後に見てからもう何ヶ月も経ってます」
ハヤトとクラレットはラウスブルグに来る前のことを思い出して呟いた。一時はそれこそ毎日のように現れていた悪魔が今では不気味なほど姿を見せなくなっているのだ。
「そんな時期に俺が会ったのがあの男か……。確かに何かあると考えるのが普通か」
当時の状況を聞いてバージルの判断に納得するとともに、こんなことならあの黒髪の男を追っていたほうがよかったかもしれないとネロは少し悔やんだ。
「だが、手酷いしっぺ返しを食らって同じ手を使うかは微妙なところだ」
ネロが貴族の屋敷で会ったという男がどんな男であれ、一晩で手勢の悪魔を全滅させられたとなれば方法を切り替えてもおかしくはない。仮に男の裏に悪魔を送り込んだ存在がいるとしても同じことである。スパーダの血族相手に下級悪魔をいくら送ったとしても無駄なことくらいよくわかっているからだ。
「派手な方法でも選んでくれれば楽なんだけどな」
これが武力蜂起とかクーデターのようなもっと直接的な方法を取ってくれるのなら、探す手間も省けて一石二鳥だとネロは言った。もちろん彼はリィンバウムに戻るわけではないため、多分に冗談の色が強かったが。
だがまさか、本当にそんな手段を取るとは、この時のネロは思いもつかなかったのだった。
一通り話し終えた四人は場所を一室から食堂に移した。調査自体も想定以上に早く終わり、先ほどの情報の整理もさほど時間がかからず終わったため、時間はまだ昼前である。
今日やるべきことは全て終わったのだが、調査から帰ってきた折にポムニットから昼食を食べていったらどうかと誘われたため、こうして食堂にやって来たのである。
いつもラウスブルグでの昼食は昼を少し過ぎたくらいだったので、時間的には早く来た形となったが既に食堂には先客がいた。
「あ、そちらは終わったんですね」
眼鏡をかけてテーブルに座りながら何やらノートに書きこんでいたアティが顔を上げてバージルを見ながら言う。ラウスブルグにいる間、彼女はゲックと交代制でエニシアの教師を務めているのだ。今も次の授業の準備中といったところだろう。
「ああ」
バージルは短く答えつつ、アティの正面に座ると、ネロ達も三人も隣のテーブルに腰かけた。さすがに二人のテーブルに座るほど無粋ではないようだ。
「……とはいえ、満足できる成果はなかったがな」
「残念でしたね。でもあちらに戻ればきっと何かわかりますよ」
今回の結果を聞いたアティは励ますように言う。今回の調査で魔界の悪魔の出現に関する情報が欲しかったということは彼女も知っていたのだ。
「まあ、何も糸口が掴めていないわけではないからな」
バージルの言う糸口とは言うまでもなく、ネロが帝都ウルゴーラで会ったと言う黒髪の男のことである。探し出すのは困難であるが、彼が唯一の手がかりであることには変わりないのだ。
「いくら人より丈夫だからって、あまり無理はしないでくださいね」
「分かっている。そもそも、そればかりに構っている時間もないからな」
アティの諭すような言葉にバージルは「言われなくとも分かっている」と言いたげに答えた。実際、彼は黒髪の男については自分の計画もある以上、自分自身が率先して探し出そうとは考えていなかった。アズリアやエクスあたりに捜索を任せ、見つけた場合に限り自分の足で出向くつもりだったのである。
バージルとしては自らの手を煩わせることがないため楽な手段だが、頼まれた方にとっては災難であることは疑いようがないだろう。
そのように話をしていると食堂にレンドラーとゲックを伴ったエニシアが訪れた。今日の午前中の授業はゲックが担当していたため、それが終わってからレンドラーとも合流し、ここに来たのだろう。
「おう」
それに気付いたネロが左手を挙げて声をかけるとエニシアは顔を赤くしながら口を開いた。
「こ、こんにちは。お、おに……ネロさん」
どうやら「お兄ちゃん」と呼びたかったらしいが、いまだ恥ずかしさが抜けないため結局はこれまで通りの呼び方となってしまったようだ。もっとも今の状況でそんな風にネロを呼んだらエニシアと一緒に来た二人に何を言われる分かったものではないが。
その様子を見てネロが苦笑していると、エニシア達はネロ達の隣のテーブルに座った。
「随分と熱心に勉強してるんだってな」
エニシアがアティとゲックに師事して勉強していることはネロの耳にも入っていた。
「は、はい! 今日は教授の授業を受けていました」
「実に優秀な生徒じゃよ。教え甲斐もあると言うものじゃ」
エニシアが答えるとゲックが微笑みながら続ける。彼女はこれまでまともに学ぶ機会がなかった反動か、貪欲に知識を吸収しているようだ。
「たいしたもんだな。俺はそういうのは苦手だったし」
孤児院育ちのネロだが、算数や文法など基礎的なことは一通り学んではいた。もっとも本人が言うように優秀な成績を収めたというわけではなかった。昔から彼は頭より体を動かす方が向いていたのである。
「まあ、勉強が好きっていう奴はそんなに多くないかもな」
ハヤトが言外にネロに同意しながら言った。彼も数年前までは那岐宮市の高校に通っていたのだが、成績は悪くはないが突出して良くもなかった。勉強もテストの前に集中してやる程度で、当然勉強が好きだとは言えなかった。
それを聞いたクラレットは冷たい視線を彼に送りながら口を開いた。
「確かにハヤトはそうかもしれませんね、あまり覚えも良くないですし」
数年前にリィンバウムに召喚されたハヤトにとってクラレットは、リィンバウムのことを教えてくれる教師代わりの存在でもあった。サイジェントにいた頃は他の仲間から教えられたことも多かったが、
「し、仕方ないだろ、暗記とかは苦手なんだよ」
しかし、残念ながらハヤトはエニシアとは違い優秀な生徒から程遠かったため、何度か同じことを聞くようなことが多かった。召喚術のように自分の体や魔力を使うようなことであれば問題なく覚えられるのだが、頭だけを使うことに関してはそうではないらしい。この面ではネロと同じようなタイプと言えるかもしれない。
そうしてハヤトが図星を突かれて狼狽えているところにポムニットが厨房から出てきた。両手にはサラダが乗った盆を持っている。
「ところでバージルさんはどこで習っていたんですか?」
サラダをテーブルに置きながら尋ねた。厨房は食堂に併設されているため、先ほどの会話は全て聞こえていたのだ。
「独学だ」
言葉少なくバージルは答えた。そもそも彼はまだ幼い頃に母と死に別れ、弟とも袂を分かっている。一応、子供レベルの算数くらいなら母から教わっていたが、それ以外は家を出てから自分で学んだものだった。もっとも経緯が経緯であるため多くを語るつもりはなかったが。
「それって刀の使い方も?」
ハヤトが横から口を挟んだ。バージルの閻魔刀の使い方は日本における居合に似ており、それが以前から気になっていたのだ。
「そうだ。貴様の国の技術も参考にはしたがな」
バージル自身スパーダから剣の使い方は教わっていたが、刀についてはそうではなかった。そのため、力を求めて閻魔刀と共に家を出たバージルがまず行ったことは父の形見を十全に操る技術を身に着けることだった。
当然、閻魔刀と非常に形状が似ている日本の剣術や抜刀術も参考にしながら自分にあったものへと昇華したのが、今のバージルの基本となる技術なのだ。
「なるほど、そういうことか」
「その国って今日バージルさんが言ったところですよね? どんなところだったんですか?」
納得したように頷くハヤトにポムニットが興味津々な様子で聞いてきた。
「気になるなら行ってみるか? 近々祭りもあるようだしな」
もっともポムニットが行きたがるのはバージルも予想していたので、彼女が直接口にする前に先手を打った。
「い、いいんですか!?」
「構わん、しばらくは予定もないからな。アティもそれでいいな?」
嬉しそうに言うポムニットを見てバージルはアティに確認する。行くとなれば彼女も一緒なのだから確認するのは当たり前だ。
「ええ、私は構いません」
アティもバージルの提案を歓迎した。特に断る理由もなく、珍しくバージルからの誘いだったので、そもそも断るつもりがなかったと言った方が正確かもしれない。
「確かに再来週に夏祭りがあったけど……、よく知ってるなあ」
三人の会話を聞いていたハヤトが感心したように呟いた。夏祭り自体は毎年恒例であるため、数年前まで住んでいたハヤトなら特にお知らせやポスターを見なくとも開催されることは知っているが、恐らくはバージルは先ほどの調査の中で市街地を通った際に、ポスターか掲示板を見て開催を知ったのだろう。
「お祭りかぁ……」
そのやり取りを見ていたエニシアが羨ましそうに呟いた。
同じテーブルに座るレンドラーとゲックにはそれが耳に届いていたはずだが、さすがに今の状況でエニシアも連れて行けなどとは言えるはずもなく、代わりにネロに視線を向けた。
「ん? ……ああ、そういうことか」
その視線に気付いたネロは少し二人の様子を眺めると言わんとしていることが理解でき、やれやれといった様子で息を吐くと口を開いた。
「エニシア、お前も行くか?」
「え?」
「ふむ、勉強も結構じゃが時には息抜きも必要と言うもの。姫様、言って来てはどうですかな?」
「左様、小僧も一緒のようですし、楽しんで来てはいかがか?」
思いもよらない言葉を掛けられたエニシアは戸惑いの声をあげたが、ゲックとレンドラーによって背中を押された。
「は、はい、行きたいです」
エニシアがそう言うとネロは片手を上げて了解の意思表示した心の中ではレンドラー達二人への不満を吐露していた。
(俺も行くことになってるのかよ……。仕方ねえ、後でフェアとミルリーフも誘うか)
ネロとしては体よくバージル達に預ける気でいたのだが、レンドラーの言葉によって一緒に行くことになってしまった。バージル達の邪魔をするつもりはないし、かと言って恋人がいる身で二人きりというのもどうかと思ったので、先日フォルトゥナを案内した時のようにフェアとミルリーフを誘うことにした。
フェアは厨房で料理を作っているため話こそ聞いているかもしれないが、ミルリーフは御使いと至竜の力を操る練習をしているため、まだこの場には姿を見せていない。ただ、祭りに出かけるというのを否定することはないだろう。
「そう言うわけだ。場所の確認は任せる。必要なら泊まる場所も確保しておけ」
「え? 俺?」
そう告げられたハヤトが言った。バージルとしては祭りという普段とは違う行事を行うため、これまでラウスブルグの
もっとも、それを自分ではなく
そうしてハヤトにはまた面倒な課題が押し付けられたが、人のいい彼は断ることができず那岐宮市にもう一度行くことになったのである。
本作を連載して明日で五年目に入ろうとしています。皆さまのおかげこれまで連載してくることができました。たぶん五年目でも終わりそうにないですが、今後もご覧いただければ幸いです。
さて、次回は5月18日か19日に投稿を予定しています。
ご意見ご感想等お待ちしております。
ありがとうございました。