Summon Devil   作:ばーれい

11 / 130
今回は非常にグロテスクな表現が多くなっています。ご注意ください。


第10話 虐殺

 バージルはアティに向けて放たれたオルドレイクの召喚術を次元斬で消し飛ばし、彼女の前に腕を組みながら悠然と立った。

 

 こうして彼がアティを庇うように立つのはこれで二度目だ。

 

 一度目は結界を解く鍵である魔剣の所持者という、アティを守る合理的な理由があった。しかし今回はそれがない。彼女が死んでもこの島から脱出するというバージルの望みに影響が出るとは考えにくいのだ。

 

 にもかかわらずバージルはアティを守った。

 

 そんな彼らしくない行動をとらせた原因は彼女にあった。

 

 全ての終わりにして始まりの日。悪魔から身を呈して自分と弟を守り、殺された母の姿。それと今のアティの姿は、バージルの目には瓜二つに映った。

 

 だからこそアティを守ることで証明したかったのかもしれない。

 

 もはや自分は力なき子供ではない、と。

 

 もし、彼がもう少し若ければ感情に任せて無色の派閥を問答無用に皆殺しにしていたかもしれない。力を得たことをより強力に証明するために。

 

「船を置いて失せろ。従うなら命は取らん」

 

 だが今のバージルは、既に感情をコントロールする術は既に身につけていた。この程度のことで感情を爆発させることはない。

 

 むしろ感情を爆発させたのはオルドレイクの方だった。

 

「どんな手を使ったのかは知らんが、そう何度も防げると思うな!」

 

 格下だと思っていた相手に、自身の召喚術を二度も防がれた彼は激高した。

 

 そして三度召喚術を使うべくサモナイト石に魔力を込める。だがその量はこれまでの倍以上だった。これほどの魔力を込めればサモナイト石が壊れてしまう恐れがあるが、その代償に通常より強力な威力を発揮することができる。

 

 そうしてオルドレイクは再び鬼神将ゴウセツを召喚した。先程より強烈な魔力を帯びた斬撃がバージルに迫る。

 

 しかし彼は表情一つ変えず閻魔刀で迎撃した。

 

 閻魔刀とゴウセツの斬撃が衝突する。だが、拮抗したかに思えたのはほんの一瞬、次の瞬間にはバージルの一撃がオルドレイクの召喚術を破っていた。そしてそれだけでは終わらず、ゴウセツの斬撃を破った剣閃は、威力をほとんど減衰させずオルドレイクの右腕を斬り落とした。

 

「ぬぐおおおおおお!」

 

 斬り落とされた腕から血が噴出し、オルドレイクに激痛が襲いかかる。あまりの痛みに彼は斬り落とされた腕を抑えながら膝を折った。

 

 先程までの尊大な態度はすっかり消え失せ、醜い悲鳴を上げるセルボルト家の当主を一瞥し、バージルは別の者に視線を向けながら閻魔刀を納めた。

 

「少しはやるようだな」

 

 バージルはオルドレイクを両断するつもりで抜刀したのだ。それが腕を落とすだけに終わったのは、剣閃が直撃する寸前に剣閃の軌道を変えられたからだ。

 

 少し離れたところで抜刀しているウィゼルによって。

 

「あなた!?」

 

 ツェリーヌが腕を抑えながら悲鳴を上げるオルドレイクのもとへ走るのと同時に、カイル達と戦っていた暗殺者達がヘイゼルの指示によって、一斉にバージルに襲い掛かった。

 

 四方からほぼ同時に斬りかかるが、彼にとっては止まっているのと大差ない。居合でまとめて両断した。

 

 分かれた上半身と下半身から噴き出した血がバージルに降りかかり、彼を赤く染めた。オールバックにしている銀髪も血を浴びたことで垂れ下がっていた。

 

 そしてその直後、ヘイゼルがバージルの左から接近した。抜刀の直後、それも鞘を持っている左側からなら刃による攻撃はないと踏んだのだろう。

 

「愚かな」

 

 もしも彼女がダンテほどの速さを持っているのなら、この攻撃は成功したかもしれない。だがバージルにとって彼女の動きは、止まっているのと大して変わらず、何ら脅威にならないものだった。

 

 余裕を持って左手に握る鞘でヘイゼルを殴り飛ばした。感触からして骨の何本かは折れただろう。

 

 さらにそのまま、背後から向かってきた暗殺者を鞘で串刺しにする。串刺しにされた暗殺者は即死だったのか、力なく倒れ込んできた。

 

 すぐさま鞘を引き抜くと、その拍子にコートに返り血がかかった。

 

 それも含め、先程から浴びてきた血は相当な量だったようで、彼のトレードマークである青いコートはまるで弟のコートのように真っ赤に染め上げられていた。

 

 バージルはそれが気に入らなかったのか、ギルガメスを装備し空中へ躍り出ると近くにいた暗殺者に流星脚を叩きこんだ。その恐るべき速度によってコートについていた血が幾分か吹き飛んだ。

 

 ギルガメスの一撃は閻魔刀とは違い、直撃を受けた暗殺者の体を原型を留めずバラバラに消し飛ばした。後に残ったものは血だまりとそれにいくつか浮かぶ肉片だけであった。

 

 着地したバージルは最も近くの敵にエアトリックで飛び、回し蹴りで攻撃する。

 

 骨が砕け、肉が潰される。そして次の瞬間には先程まで生きていた人間が見るも無惨な死体に変わっていた。

 

 同時に少し離れた距離から投具で攻撃しようとしていた者を幻影剣が急襲する。いくつもの浅葱色の剣が暗殺者の体に深く突き刺さり、その命を奪う。役目を終えた幻影剣が砕けるように消滅すると、そこから血を噴き出しながら暗殺者は倒れた。

 

 その直後、いくつかの集団に分かれて近づいて来ていた二十人前後の暗殺者の頭上に、幻影剣が五月雨のように降り注いだ。幻影剣が暗殺者の体を貫き、腕を斬り落とし、肉を削いだ。以前、帝国軍に対して使った時とは違う無慈悲な攻撃だ。

 

 あっという間にスプラッター映画もかくやと、いわんばかりの死体の山が出来上がった。

 

 あまりの惨状に僅かに残った暗殺者達が恐怖からか距離を取った。

 

 それを見るとバージルは、再び閻魔刀に持ち替え今度はウィゼルの前に現れ、幻影剣を射出した。

 

「っ!」

 

 出現と同時に放った幻影剣をウィゼルは後方に跳んで避けてみせた。

 

 おそらくこの壮年の男はこの場にいるどの敵よりも強い。バージルはそう評価していた。現に、彼の反応速度は明らかに他の連中と一線を画していた。

 

「ほう、よく避けたな」

 

 一本だけとはいえ至近距離からの幻影剣を回避したことは賞賛すべきことだ。反応速度だけでなく身体能力も相当に高いだろうことは、今の動きでだけで十分に分かるだろう。

 

「…………」

 

 ウィゼルはバージルの言葉には何も返さず、再び居合切りを放つつもりなのか、体勢を立て直し刀を構えた。

 

 二人の距離はおよそ五メートル。ウィゼルの場所から居合を放っても距離を考えれば刀が届くはずはない。

 

 しかしオルドレイクへの剣閃を逸らした時のように、ウィゼルは離れた場所から攻撃できる術を持っていることは間違いない。おそらくそれを使うつもりなのだろう。

 

「むん!」

 

 掛け声と共に刀を抜き放つ。その瞬間バージルの位置に斬撃が発生した。

 

 バージルはその一撃を回避するとともに、つぶさに観察した。どうやらその技はキュウマが使っていた居合い斬りと同系統の技術のようだ。ただウィゼルの方がキュウマより洗練されてはいるが。

 

 この技一つ見ても彼が相当の達人であることは疑いようがない。バージルのウィゼルへの評価は正しかったようだ。

 

「Now,I'm a little motivated」

 

 言葉と共に振り抜いた閻魔刀から剣閃を飛ばした。

 

「おおおおお!」

 

 ウィゼルはそれを渾身の一撃を持って迎え撃つ。

 

 結果としてウィゼルの一撃はバージルの斬撃を僅かに逸らすことができ、体を両断されることはなかった。だが命が助かった代償に逸れた斬撃によって右足を切断されたのだ。

 

 もし斬撃がもう少し弱ければ、ウィゼルはそれを完全に逸らすことができたかもしれない。だが皮肉にも彼の実力の高さがバージルにより強力な一撃を使わせたのだ。

 

「ぐ、おお……」

 

 歯を食いしばりながら痛みに耐える。この様子ではもはや戦闘を続けるのは不可能だろう。

 

「撤退、撤退です! 総員直ちに船に戻りなさい!」

 

 指揮官クラスの者の中で唯一無傷で生き残っているツェリーヌが、辛うじて生き残っている者へ命令を出した。もっともその数は両手の指で数えられる程度しかいなかったが。

 

「馬鹿な……、たった一匹の化け物が我が軍勢を壊滅させたというのか……。新たなる秩序たる軍勢がこうも容易く滅びるというのか……」

 

 妻の召喚術によって痛みと出血が止まったオルドレイクだが、いまだに目の前で起きたことが信じられないようだ。しかし失った右腕が、目の前の光景が現実のことであると思い知らせた。

 

 そんな彼を生き残った暗殺者が抱えて船へ撤退していく。しかし怪我人の中で撤退できたのはオルドレイクだけだった。その他のウィゼルやヘイゼルはそのまま捨て置かれた。

 

「…………」

 

 バージルはそんな無色の軍勢をつまらなそうに見ている。これが悪魔なら撤退などしないだろう。

 

 生物の命を奪い、物体を破壊する。それが悪魔の本質であり、本能だ。それゆえ自分の命が惜しいからといって逃げるのことなどありえない。むしろ死を覚悟した悪魔こそ恐ろしい。中には自分の残りの力を全て使って、自爆をしてでも相手を殺そうとする悪魔さえいるのだ。

 

 閑話休題。バージルは戦闘の終了を宣言するように息を吐き、垂れ下がってしまった髪を手でかきあげ、いつもの髪型に戻した。

 

 彼の周りは惨憺たる有様だった。足の踏み場もない程に、何もかもが鮮血で真っ赤に染められ、さながら地獄のようだった。

 

 

 

 

 

 暗闇の中アティは目を覚ました。

 

 辺りを見回すとアリーゼが横たわっているのを見つけた。驚いて傍に駆け寄ろうとするが一向にその距離は縮まらない。

 

 そこにオルドレイクが現れ、召喚術をアリーゼに向けて放った。

 

「~~っ!!」

 

 アティが声にならない叫びを上げる。その瞬間アリーゼは召喚術で吹き飛ばされた。

 

 ようやくアリーゼの下に辿り着き彼女の体を抱きしめた。

 

「あ、あああ……」

 

 しかしアリーゼの体は既に冷たくなっていた。

 

 もっと力があればアリーゼを守ることができたかもしれないのに。

 

(力が……欲しいか……? ならば、我を手にせよ)

 

 碧の賢帝(シャルトス)の声が脳裏に蘇り、アティは気付いた。

 

 アリーゼを守る力はあったのだ。碧の賢帝(シャルトス)という強大な力が。

 

 最初に碧の賢帝(シャルトス)を手に入れた時も、もっと力があれば、アリーゼを守る力があれば、という想いに碧の賢帝(シャルトス)が呼応し、適格者となったのだ。

 

 しかし、それを捨ててしまったのは他ならぬアティ自身だった。

 

 もっとよく考えればよかったのかもしれない。碧の賢帝(シャルトス)を破壊せずともアズリア達と和解できる方法を探すべきだったのだ。

 

 もちろんそれは結果論にすぎないが、アティはそう思わずにはいられなかった。碧の賢帝(シャルトス)があれば、力があれば、アリーゼを守ることができたのかもしれないのだから。

 

「力がなければ何も守れはしない。自分の身さえも」

 

 気がつくとバージルが目の前に立っていて、いつか聞いた言葉を口にした。

 

 そして、手に持った刀でアティを突き刺した。

 

「あ……」

 

 これは罰なのだと思った。アリーゼを守れなかった自分への罰。

 

 それを受け入れるようにアティは目を閉じた。

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 アティはゆっくりと目を開けた。どうやら夢を見ていたようだ。

 

 寝惚けた目で辺りを見回しながら起き上った。先程まではベッドで横になっていたのだ。周りの調度品から考えるとここはラトリクスのリペアセンターだろう。

 

 そうしていると意識が覚醒していき、これまでのことが一気に思い出した。

 

 バージルが無色の派閥を壊滅させた後、みんなは傷ついた者の介抱に追われた。特に出血が多く危険な状態にあったアリーゼは、ヤードが付きっきりで召喚術による治癒を施していた。

 

 その他にもアズリアやギャレオ、そして無色の派閥に見捨てられ置いていかれたヘイゼルやウィゼルもここに運ばれたのだ。

 

 特に傷が酷いアズリアやウィゼルはファリエルとフレイズが、得意ではない召喚術や癒しの奇跡を使って応急処置をしていた。

 

 そんな中アティはずっとアリーゼについていた。リペアセンターに着いた後も可能な限り傍にいて夜を徹して看病し続けたのだ。

 

 さっきまでベットで横になっていたのは、寝てしまった彼女を誰かが運んでくれたのだろう。

 

「アリーゼ!」

 

 生徒を探しに行くため部屋を出るとクノンに出くわした。

 

「クノン、アリーゼは、アリーゼは大丈夫なんですか!?」

 

「落ち着いてください。彼女は大丈夫です」

 

 クノンはアリーゼの状態を説明した。彼女の傷は決して浅くはなかったが、ヤードが召喚術をかけてくれたこともあり、命に別条はないとのことだ。

 

「皆さんの看護は私に任せて先生も休まれてはいかがですか? 随分お疲れのようですが……」

 

 クノンの言う通り先程まで眠っていたにもかかわらず、いまだ体は鉛のように重かった。

 

「……わかりました。アリーゼの顔だけ見たら船に戻ることにします」

 

 さすがにこの状態でこのまま看病を続けることはできないことは理解している。下手をすれば病人が一人増えることもありえるのだ。そんなことになっては本末転倒のため、今日はクノンの言葉に甘え休ませてもらうことにした。

 

 アリーゼの顔を見て船に戻ったアティはみんなに一言だけ伝え、まだ日も高かったが早めに休むことにした。

 

 かなり疲労していたためか彼女はあっという間に眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 アティの意識が覚醒する。

 

 今度は前のように悪夢で目を覚ましたわけではない。十分休めたため自然に目が覚めたのだ。その証拠に眠る前までの倦怠感はきれいさっぱり消えていた。

 

 それでもアティの心の中には強い後悔と不安が渦巻いていた。

 

 こんな状況でまた眠るのは難しい。気分転換に外へ出てみることにした。

 

 既に深夜と言っていい時刻。満月が船を照らしていた。他の者はもう寝ているようなので、音を立てないように静かに外に出た。

 

 そこにはバージルがいた。いつものように大きめの岩の上に座り瞑想をしていた。

 

「あの、隣に座ってもいいですか?」

 

「好きにしろ」

 

 バージルの許可を取り、隣に座ってじっとしていると無力な自分への嫌悪感が湧きあがってくる。アティは膝を抱えながら俯いていた。

 

「……一つ聞きたい」

 

 唐突にバージルが話しかけてきた。

 

「……なんですか?」

 

「何故あの時逃げなかった。あの娘を見捨てればお前だけは逃げられていただろう」

 

 アティは顔を上げ、バージルを見つめる。

 

 あの時とはおそらく、オルドレイクの召喚術がアリーゼとアティに放たれた時のことだろう。

 

 彼の言う通り、アリーゼを見捨てればオルドレイクの召喚術を避けられていたかもしれない。

 

「あの子は私の大切な生徒だから……。だから、守らなくちゃって思ったんです。でも……」

 

 言葉を詰まらせ、涙が浮かんできた。思い出してしまったのだ。あの時の、アリーゼの体から命が失われていく感触を。

 

 アリーゼの命が助かったからといって、アティがあの時感じた感触が消えていくわけではない。

 

 それでも涙をふき、鼻をすすりながら彼女は続けた。

 

「私、守れませんでした……。あの時だってバージルさんに助けてもらえなかったら、きっとアリーゼは……」

 

「あの娘を守れればそれでいいということか」

 

 確認するようなバージルの言葉にアティはこくんと頷いた。

 

「……そうか」

 

 あの時の母もそうだったのだろうか。命と引き換えにバージルとダンテを守った気高い母も、アティと同じように考えていたのだろうか。

 

 バージルはずっと理解できなかった。母がなぜ命をかけてまで自分たち兄弟を守ったのか。

 

 なぜ命を惜しまなかったのか、なぜ自分達を庇ったのか。

 

 なぜ見捨ててくれなかったのか。

 

 そうすれば母は生き延びることができたのに。

 

 その答えをアティの言葉から見つけたような気がした。

 

「私、どうしたらいいんでしょう……。力がなくちゃアリーゼを守れないのに、私にはその力がない……。自分の都合で碧の賢帝(シャルトス)を捨てたのに、今はその力を失くしたことを後悔しているんです……」

 

 アティの独白を聞いたバージルは、無言のまま彼女の前に一本の剣を突き刺した。

 

「それはくれてやる」

 

 今のアティはバージルと同じように力を求めている。しかし両者には守りたいものの有無という決定的な違いがあった。結論は同じでもそこに至る過程が違いを生んでいるのだ。

 

 力なき自分へ怒りから力を求めるバージルと、大切な者を守るために力を求めるアティ。

 

 もしもあの時、バージルが生き残った弟を守るために力を求めていたら……。

 

 いわば彼女はバージルのもう一つの可能性なのかもしれない。

 

 しかし、だからといって折角手に入れた力をアティに与える合理的な理由にはならない。

 

 それでも碧の賢帝(シャルトス)を与えたのは、彼女が自分と同じく力を求めていたからか、あるいはアリーゼを守るアティの姿に母エヴァの姿を重ねたからか、あるいは他の何かか。

 

 悪魔として生きることを選んだバージルにはわからなかった。

 

 彼はただ己の魂の声に従っただけなのだ。

 

「こ、これ……碧の賢帝(シャルトス)ですか? でも、なんで……?」

 

 アティは目の前に突き刺さる剣を見て呟いた。

 

 それはバージルの魔力によって修復された碧の賢帝(シャルトス)だった。ただ、彼女の知る魔剣が碧の魔力に満たされているのとは違い、目の前の剣は蒼い魔力に満たされていた。

 

 だが碧の賢帝(シャルトス)は壊れたはずだ。他ならぬバージルが破壊したはずだ。それなのになぜ彼が壊れたはずの魔剣を持っているのだろうか。

 

「大切なものがあるなら、守ってみせろ」

 

 彼はそう言い残し船に戻っていった。

 

「守る……」

 

 残されたアティはバージルの言葉を反芻しながら、蒼い魔力を放つ碧の賢帝(シャルトス)を見つめた。

 

 果たして本当にこの剣を手にしていいのかという疑問が浮かんだ。この剣を手にしたことで人格を消されかけたこともあったのだ。不安や恐怖がないといえば嘘になる。

 

 しかしそれ以上に力を欲しているのも事実だった。

 

 意を決してアティはおそるおそる剣に手を伸ばし、その柄を握った。

 

 その瞬間彼女の姿が変わった。これまで碧の賢帝(シャルトス)を抜剣した時と全く同じ姿になったのだ。

 

 ただ、明らかに以前と違うところがあった。

 

「バージル、さん……」

 

 彼女を包む魔力がバージルのものだったのだ。それがまるで彼に守られているような感覚をアティに与えた。

 

 もう不安も恐怖もなかった。

 

 バージルに感謝しながら、今度こそ大事なものを守ってみせるとアティは誓った。

 

 

 

 

 

 

 




SEのほうが一段落したので取り急ぎ第10話を投稿しました。

なお、以前のような投稿ペースに戻るのはもうしばらく先になります。

ご意見ご感想お待ちしております。

ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。