帝都ウルゴーラ近郊の森の中に陣を張ったアズリア率いる帝都奪還の部隊は、敵情の偵察に赴いたイスラから報告を受けていた。
「警戒はどこもかなり厳重だね。奇襲は望めないと思う」
「帝都の市民はどうだ?」
そのイスラの報告はアズリアも覚悟していたことだった。ほんの数日前にこの場にいるアズリア、イスラ、ネロの三人は帝都から脱出したことがあるのである。特に帝国軍でも指折りの将軍であるアズリアを逃がしたことは、当然知っているだろうし、それが厳戒態勢を敷く理由としては十分だろう。
「外出は厳しく制限されているみたいだ。もっとも兵士は帝都周辺への警戒に回されていて、取り締まる兵士はかなり少ないみたいだけど」
「そうか、なら市街地への被害はなるべく少なくしなければならんな」
アズリアは安堵したように息を吐きながら言った。相手は無色の派閥というだけでなく、悪魔の力も利用するような奴らだ。最悪の場合、既に大きな犠牲が出ていることも覚悟していたのだ。
とはいえ、敵側もまだ帝都を制圧してから日も浅く、リィンバウム全土に対して宣戦布告したその時に、首謀者たるレイが頭を撃ち抜かれるという醜態を全世界に晒している。その際の混乱がそう簡単に収まったとは考えづらい。実態としては警戒を強化する以上の対応がとれず、市民に対しては余計なことをされないように外出を制限しているだけかもしれない。
「ただ、少し気になることがあってね。……兵士は少なかったけどそこらに犬のような生物がいたよ」
そういってイスラは一枚の絵を取り出した。人間界のように写真が普及していないリィンバウムにおいては、やはりこうした絵に頼らざるを得ないのだろう。そうなると当然、正確性も問題になるが、少なくとも今回に限っては、着色もされており、細部まで描かれているためさほど問題ないだろう。
「あ……、これって……」
その絵を見たミコトが声を漏らした。それと同時にネロが鼻を鳴らしながら口を開いた。
「ああ、お前が捕まった悪魔だ。名前は……バジリスクとか言ったか」
記憶の中からかつてフォルトゥナで起きた事件で、首謀者である教皇に与した男が生み出した悪魔の名前を口にした。猟犬と魔力を持った銃を交配させて生み出した悪魔であり、ネロもフォルトゥナで何度か戦ったことがある。
「どんな悪魔だ?」
「一匹一匹は大したことはなねぇ、見た目通りの猟犬だ。ただ、頭を弾にして飛ばしてくるから気を付けた方がいいぜ」
単純な戦闘力で言えば一つの個体である分スケアクロウよりは手強いかもしれないが、総合的に見て最下級の悪魔とほぼ同程度と考えて差し支えないだろう。だからこそ、数が多いのだろうが。
「なるほど、その点は気を付けるとして、奴らは何の目的でその悪魔を使っていると思う?」
「さあな。まあ、番犬代わりにでもしてるんじゃねぇか」
アズリアの質問に適当に答えたネロだったが、意外と正鵠を射ていた。バジリスクは生まれからして人工の悪魔であるため、普通の悪魔より遥かに扱いやすい。魔界で生まれた最下級の悪魔が本能でしか行動しないのと異なり、ある程度の命令を実行できるだけの知能はあるのである。
「番犬……」
ミコトが那岐宮市で捕らわれた時のことを思い出したのか、ネロの言葉を繰り返しながら呟くと、イスラがかぶりを振りながら続いた。
「それは、随分と息が詰まりそうな番犬だね」
「だからこそ、我々は一刻も早く帝都の市民を助けなければならないんだ」
「……で、どうすんだこの後。すぐにでも仕掛けりゃいいのか?」
そうしたアズリアの意見には全く異論がないネロが今後の方針を尋ねた。彼としてもこれからすぐに行動を開始しても何ら問題はなかったのだが、依頼主が出したのは別な答えだった。
「いや、仕掛けるのは可能な限り人出の少ない時間帯にしたい。動くのは夜明け前だ」
外出に制限がかけられているとはいえ、昼間は市民がいないとも限らない。戦闘に巻き込むのを避けるためには、できるだけ人の出ていない時間に行動を開始することが重要だった。
「了解、前に言われた通りなら俺は、悪魔をぶっ潰しながら城を目指せばいいってことだろ?」
作戦開始後のそれぞれの役目は帝都に来るまでに簡単ながらも説明を受けている。その中でネロに与えられたのは悪魔の殲滅と陽動だった。敵情がある程度分かった現状で考えるなら、帝都内のバジリスクを引き付け討伐しながら敵の本拠地を目指すといったところだろう。
ネロが本拠地に向かっているとなれば敵側はそれ相応の戦力を向けなければならない。それに加えバジリスクも減っているとなれば、必然的に他の制圧を担当する部隊に向けられる戦力は少なくなる。そうして戦力的に有利な状況を作り出すことで速やかに帝都の奪還を目指すというものだった。
「そうなるな。これが終わり次第、連絡用の無線機を渡そう」
「無線機? んなもんいらねぇよ、連携とって戦うわけじゃないんだ」
ネロもアズリア率いる帝国軍も同じ作戦に参加するとはいえ、複雑な連携を求められる作戦を実施するわけではない。むしろそれぞれが与えられた役目を果たすだけの比較的シンプルな作戦なのだ。失敗したときなどの撤退の合図に用いるにしても、その程度の意思疎通であれば信号弾などで十分だろう。
「今回の作戦は相手が悪魔なのだ。用心には用心を重ねておくためにも情報は何よりも重要なんだ」
戦場における情報の重要さはアズリアにもよく理解している。その相手が悪魔という人知の及ばぬ相手であったてもそれは変わりない。バージルとの通信で軍の情報を流しているのも、ギアンを情報源として使っているのも、彼女が情報を重視している現れなのだ。それだけにこの点はどうしても譲れないものだった。
それを感じ取ったのか、ネロは早々に抗うことをやめて黙って話を聞いているカイの視線を向けながら答えた。
「わかった、わかった。……ならあんたが持っててくれ」
「わ、私が……?」
いきなり声を掛けられて狼狽するカイを尻目にネロが続ける。彼とミコトはシャリマに用があるため、ネロについていくことが決まっていたのだ。
「あんた技術者なんだろ、なら無線機くらい扱えるよな」
彼が技術者だったことはゲックから聞いている。二十年程前の話だったはずだが、それでも自分が預けられるよりはいいだろう。それに加え、戦闘時のネロの動きはかなり激しい。そもそも戦闘用に作られたレッドクイーンやブルーローズならともかく、ただの無線機がそれに耐えられるかはわからない。カイに任せたのはそれらを総合的に判断してのことだった。
「……こちらとしてはそれで構わない」
最初は断っていたネロから譲歩を引き出せたのであれば、それでいいだろうとアズリアはネロの提案を呑んだ。
「んじゃ決まりだな、後で無線機も受け取っといてくれよ」
「……ああ、わかった」
カイは不承不承といった様子で頷いた。了承したわけではないのに、話が勝手に進んでしまったことには納得しかねるが、同時に無理を言ってついてきたという立場でもあるため、拒否することができなかったのだ。
「さて、作戦開始まではまだ時間がある。それまで十分に体を休めていてくれ」
作戦が始まってからでは休む時間はないぞ、との意味を言葉の端々に込めながら言ったアズリアの言葉に頷いたところで、この会合は終了となった。
帝都奪還作戦の発動開始時刻の僅かに前、ネロはミコトとカイとともに帝都近くの岩場に隠れていた。まだ夜明け前であるとはいえ、天には月も出ているためさすがに堂々と姿を見せておくわけにはいかないのだ。
「始まるまで後どれくらいだ?」
「もうまもなくだ」
ネロの問いにカイが時計を見ながら答える。少し前からこの場に潜んでいるため、ネロはだいぶ退屈そうだった。これが彼一人の仕事であれば、もう殴り込みをかけているところだが、今回はアズリアの指示に従うことも含めて仕事であるため、あくびをしながらも大人しくしていた。
「…………」
一方、そんなネロとは対照的にミコトはずっと黙りっぱなしであった。トレイユを発ってから帝都に到着するまで口を開くことが少なかったが、今はそれにも増して一言も喋っていなかった。
「ミコト、大丈夫か?」
「え、あ、うん……」
カイに声をかけられて一応返事こそするが、それでも普段通りとは言い難い。戦闘前であるため、恐らくは極度の緊張状態にあるのだろう。
「おいおい、そんな状態で大丈夫かよ。なんならここに残ってもいいんだぞ」
「だ、大丈夫です。いろいろ考えちゃってただけですから」
ミコトが戦うのはこれが二回目だ。忘れじの面影亭で悪魔と戦った時は状況が切迫していたこともあり、余計な事など考える余裕もなかったのだが、今は戦いが始まるのを待っている状況なのだ。これまでは戦いや命の危険とは無縁の暮らしをしていたのだから、なおさら緊張しない方がおかしい。
「ならいいけどよ」
「ミコトは私が見ている。君はこちらのことは気にしないでいい」
「ああ、そうするよ」
カイの言葉にネロはそう返すが、それでもその言葉通りミコトやカイを全く気にかけないということはないだろう。それが父であるバージルとは最も異なる点と言ってもいいかもしれない。
キリのいいことで、ネロがその言葉を言い終わりカイが時計に目を落とすと、作戦開始時刻が目の前に迫っていた。
「話もここまでだ、まもなく時間になる。……10、9、8……」
カイが秒針を読みながら二人に聞こえるくらいの小さな声で作戦開始のカウントダウンを始めた。
「とにかく、無茶はすんなよ。死んじまったら何の意味もねぇんだ、覚えとけ」
ネロはそれだけは言い残して、一気にその場から跳躍した。作戦開始と同時に仕掛けようというのだろうが、残されたミコトとカイは啞然としたまま見送るしかなかった。
(バジリスクばかりか……、これだけの数をどこから用意したんだか)
空中を移動しながらネロは視線を下に向ける。まだ夜明け前だというのに街中にはバジリスクが徘徊していた。眼下に見えるのが住宅街だということを差し引いても相当な数だ。だが問題は数より、これだけのバジリスクをどこから集めたのか、という点である。
そもそもバジリスクという悪魔は、かつてフォルトゥナの魔剣教団技術局の長だったアグナスが作り上げた人工の悪魔である。当然、魔界の悪魔のように勝手に数を増やすようなことはできない。
作成者のアグナスが死に、彼が作った悪魔はフォルトゥナの事件の後、全く姿を見なくなったとは言え安心はできない。彼の残した研究資料やバジリスクの素体となった猟犬などの購入記録を見る限り、バジリスクはまだ数百体は存在している可能性があるのだ。もちろんそれはバジリスクに限らすカットラスやグラディウスといった他の人工悪魔も同様ではあるが。
(自由に呼び出せるとなると厄介だが……)
残りの人工悪魔はフォルトゥナの件でネロが知らないところで倒されたことは否定できないが、それでも多くは疑似魔界と呼ばれる異空間の中で生存しているだろう。アグナスは自身を悪魔化することで疑似魔界との繋がりを作ることができるため、そこに自らが作った悪魔を保管していたのだ。
ネロがアグナスと戦った時も、幾度も悪魔を召喚されたのだった。
もし、その疑似魔界に誰かがアクセスでき、自由に悪魔を呼び出せるとしたら相当厄介であることは間違いない。単純に考えて数百体分の悪魔を敵に回すことになり、想定した以上の被害が発生する可能性もあるのだ。
とはいえ、既に作戦は始まってしまったのだ。あとは、その都度臨機応変に対応するしかないだろう。
そう覚悟を決めたネロは、ホルスターからブルーローズを抜き取り、着地と同時に手近にいたバジリスクめがけて引き金を引いた。
「要は全部ブッ潰しちまえばいいってことだ!」
奇しくもそれは、秒針が作戦開始時刻を示したのと同時であった。
ネロが放った銃弾に端を発した帝都奪還を目指す軍の攻撃は、それから僅かな時を経て現在の帝都の主のもとへと届けられた。
「ここは兵力を温存し、城に籠るのが上策かと」
レイのもとに集まったオルドレイクが早々に進言した。帝国軍との戦力差はオルドレイクも理解している。シャリマの悪魔を用いるとしても、さすがに正面から戦って戦力差を逆転できるほどではない。
それゆえに攻め落とすのに三倍の戦力を要するとも言われる籠城戦を進言したのはオルドレイクとしても当然のことだった。
「ならぬ。全戦力をもって迎え撃ちこれを殲滅するのだ。帝都の民はただの一人も逃がしてはならぬ」
オルドレイクの進言を言下に一蹴したレイにオルドレイクだけでなく、黙って聞いていたシャリマも目を見開いた。これまでのレイがこと戦術においては手堅い手段をとっていたため、今回のような投機性の高い方策を採ることは意外だったのだ。
「……承知いたしました。しかし、あの悪魔はこういった類の戦闘には向かないかと……」
レイの言葉の強さから翻意させるのは不可能と判断したオルドレイクは頭を下げると同時に懸念を口にした。
彼の言葉が指しているのは、
「……いいだろう。オルドレイク、
レイはオルドレイクの言葉を容れ、次いで二人に指示を出した。
また、城には帝都内の哨戒に出ていない無色の派閥の兵士とオルドレイクの子らが残っている。レイは守備兵力など残さずその全てを迎撃に用いるつもりでおり、その考えは確かにオルドレイクとシャリマに伝わったようで、二人とも足早にレイのもとを去って行った。
それからおよそ一時間後、全ての準備が整った時には、帝都の状況はさらに変化していた。
各所で帝国軍から攻撃を受けた兵士達が攻勢を防ぎきれず後退し始めていたのはまだいい。問題は既に敵の先鋒が近くまで迫っていることだ。それも守備する兵士やシャリマの悪魔など意に介さないほど強く、一度はレイの頭を撃ち抜いた男、ネロが。
(まさか、トレイユを離れるとは……見込みが甘かったか)
先ほど聞いた報告を反芻したレイは、オルドレイクを伴いながら直率となる彼の子らとシャリマのもとへ向かいながら胸中で苦々しく呟いた。顔に出さぬように努めているが、それでもこぶしを強く握りしめるのを抑えることはできなかった。
もちろん、レイとしてもネロという男を軽く見ていたわけではない。事実あの帝都から去った後の動向を探らせ、トレイユにいることまでは突き止めたのだ。しかし、そこにアズリア・レヴィノス率いる帝国軍最強部隊「紫電」が到着した直後、探らせていた者達からの連絡が途絶えてしまったのだ。
彼らが帝国軍の手で逮捕あるいは殺害されたのは想像に難くないが、ネロの動向を探ることができなくなってしまったのは痛かった。当然代わりの者を派遣しようとしていたのだが、その前にこの帝都攻撃となってしまったのである。
「オルドレイク、貴様も共に来い。
とはいえ、いつまでも嘆いていても仕方がない。こうなってはもはやネロとの戦いは不可避だと判断し、
これでレイの麾下には現状用意できる最高の戦力が揃ったことになる。数だけでいえば、
それゆえに、対策として考えられるのは少数精鋭による攻撃だけなのが実情だった。
同時刻、ネロはミコトとカイと共に帝都の中心部近くに位置する広場にいた。
「このあたりにもいないか」
周囲を見回しながらネロが呟いた。右腕にも何の反応もなく、かといって人の気配もない。バジリスクのような悪魔も無色の派閥も兵士もいないようだが、平時なら周囲を賑わせているだろう帝都の市民の姿もなかった。夜が明けた今、戦闘が行われている音がたびたび聞こえてくる状況では家でじっとしているしかなかったのだろう。
「もともと帝都にいる敵の数は十分とはいえない数だと聞いている。戦力を配置する余裕がなかったのでは?」
帝都を占領している敵の兵士の数は、今回動員したアズリア麾下の部隊と比べても劣っていることは既に知られている。その少ない数で侵入してきた帝国軍に応戦しようすれば相当の数を前線に張り付けなければならない。そのため、前線から離れたこのような場所に戦力を置くことはできなかったのだろう。
「なんだって構うかよ。こっちの目指すところは決まってるんだ」
ネロは正面に見える城を見据えながらそう返すが、内心ではカイの言葉が真実だろうと考えていた。ここに来るまで人間の兵士と戦ったのは最初だけで、その後、何度も襲ってきたのは全てバジリスクだったのだ。恐らく前線を突破した者への対処はバジリスクが担っていたのだろう。そう考えれば執拗に何度も襲ってきたのにも説明がつく。同時にネロ達が倒してきたバジリスクの数から軍への援護の任も果たしたことになるだろう。
「……だが、そう簡単にもいかないようだ」
「それって、敵が来たってこと?」
カイにミコトが尋ねる。今回の戦いにおいて主として戦闘を担っていたのはネロだった。これは事前に取り決めがあったわけではないが、圧倒的な戦闘力を誇るネロが戦う以上、二人が何かする前に決着がついてしまうのである。そのため自然とカイは周囲の偵察を主として担うようになり、ミコトはその護衛に徹するようになったのだ。
即興の連携だったが、五月雨式に襲い掛かるバジリスクには実に効果的だった。召喚獣を用いて空から偵察を行い、敵の来る方向がわかってしまえば、ネロにとってはいいカモでしかないのだ。かといって召喚獣を操るカイを倒そうにも、護衛を務めるミコトも普通の兵士や数体の下級悪魔に倒されるほど弱くはない。事実、数回バジリスクと交戦したが、いずれもカイの援護も必要ないほど危なげなく勝利していた。
「ああ。城の方角からまっすぐにこちらに向かってきている。数は多くないが、用心するべきだろう」
ミコトの言葉にカイは頷いた。少数でこちらに向かってきている以上、これまでのようにただ悪魔を向かわせているわけではないと思うが、こればかりは実際に戦ってみるまで分からない。
「なら、ここで出迎えてやるか」
レッドクイーンを肩に乗せながら敵が来るだろう方向をネロが見る。この場所なら余計な建物もないため、派手に戦っても市民への被害は出ないだろう。
そう思ったところで、正面に一体の巨大な悪魔が現れた。召喚獣だ。
「早速仕掛けてきたか」
ネロは呟きながら召喚獣を見る。先に帝都を訪れた時にも見た、戦槌を持ったサプレスの悪魔だ。その時は手にした戦槌を奪い取って叩き潰してやったかが、また同じ手を使う手を使う気にはなれなかった。
「何度やっても無駄なんだよ!」
ネロはその場から跳躍して悪魔の顔と同程度まで飛び上がると
「Crash!」
言葉と共に右手を握るとそれと連動して。サプレスの悪魔を掴み上げていた
ミコトとカイはその様子を呆気に取られたように見ていたが、早速戦闘が開始されたのを見て慌てて後を追いかけ始めた。それを尻目にネロはそのまま召喚獣を呼び出した集団の目の前に着地した。
そしてその中で、守られるように一歩下がったところにいる男を見ると口を開いた。
「やっぱり生きていたやがったか……」
その男はほんの数日前頭を撃ち抜いたはずのレイだ。やはりネロの予感は当たっていたのだ。
「っ……」
対してネロに視線を向けられたレイは顔を歪めた。彼の規格外の強さは理解していたつもりだったが、こうしてはっきりと見せつけられては、見込みが甘かったと言わざるを得ないだろう。
「何をしている! 殺せ、殺すのだ!」
レイ以外で一早く状況を理解したオルドレイクが己の子に叫ぶ。
(悪魔の力を感じるのはあいつらだけ……他はただの人間、おまけにやる気がない奴もいるか)
父親の声に反応して傍に控えさせていた
「邪魔なんだよ、お前ら」
自分に向かってくる意思なき
そこにすかさずブルーローズを撃ち込む。狙いはネロに恐怖を抱いていたカシスだ。とはいえ、戦意もない相手を殺すほどネロは非道ではない。銃弾を撃ち込んだのは彼女の足元だった。
「ひっ……」
初めて明確に命の危険を感じたカシスが声を上げる。もはや普段の彼女の強気な姿はどこにもなかった。
「そこで大人しくしてな。死にたくないならな」
そう言って視線をカシスから離す。脅しはしたが、もはや彼女が立ち向かってくることはないということは分かり切ったことだ。そして再度レイとオルドレイク、そしてシャリマに目を向ける。強弱はあれど悪魔の力を感じたのはこの三人からだった。
「ネロさん!」
そこへようやくミコトとカイが追いついてきた。そして二人は、ネロと相対している者の中に見知った顔があったことに気付いてその名を呼んだ。
「シャリマさん……」
「シャマード……!」
一人は困惑したような視線を、もう一人は苦々しい感情を込めた視線を受けた当の毒婦は、ただ薄く笑うのだった。
なんとか10月中の投稿ができました。
次回は5SEも出るということで、12月中の投稿を予定しています。
ご意見ご感想評価等お待ちしております。
ありがとうございました。