Summon Devil   作:ばーれい

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この話から新章開始です。

いつの間にかプロローグを投稿してから一年経ってました。

二日遅れの一周年記念ということで投稿します。


第3章 激動の時代
第23話 動き出す宿命 前編


 人間界のとある国のとある街には一つの便利屋がある。しかしそれを営む男はまともに経営する気がないのか、めったなことでは依頼は受けず、その反面四六時中ワインを飲み、ピザを食べる自堕落な生活をしているのだ。

 

 それゆえ、その一面しか知らない者から見れば、よくやっていけると感心するだろう。なにしろ便利屋のような非合法なことも請け負う業界には必然的に裏社会との関わりもあるのだから。

 

 だが当の裏社会には彼に関する一つの不文律があった。

 

 絶対に敵に回してはならない。もし彼を怒らせるようなことがあれば、冗談抜きにその組織は壊滅するだろう。それが裏社会の頂点に君臨する者さえ肝に命じているルールだった。

 

 しかし、その評判でさえ彼の本来の一面を表しているとはいえない。本業は別にあるのだ。

 

 彼とのパイプを持つ情報屋は語る。「もし悪魔が現れたのなら彼の事務所に電話するのがベストだ。たとえ報酬が安くとも断ることはしないだろう」と。

 

 悪魔を狩る。それが彼の本業なのである。

 

 事務所の名は「Devil May Cry」。男の名はダンテ。伝説の魔剣士スパーダのもう一人の息子である。

 

 そして件の事務所では壁に飾られた大きな剣が床に落下し大きな音を立てていた。

 

「あん?」

 

 朝っぱらからデリバリーしたピザを飲み込み、事務所の主であるダンテは音のした方へ顔を向けた。するとそこには父の愛剣にして形見の剣「フォースエッジ」が落ちていた。次に壁の方へ目をやると剣を支えていた止め金具がなくなっていた。どうやらそれが取れてしまったことでフォースエッジは落下したようだ。

 

「しょうがねぇな」

 

 ぶつくさと呟きながら立ち上がり、フォースエッジを拾い上げる。それをもう一つの父の形見である大剣「リベリオン」と同じように机に立てかけた。そうして再び座りなおし足を机の上に乗せる。品のない座り方だがそれを咎める者は誰もいない。

 

「ん?」

 

 さらにピザを一枚とろうと身を乗り出した時、不意に机の上に飾られた母の写真の横にあるアミュレットに意識が向いた。

 

「…………」

 

 無言のままアミュレットを手に取る。これは母が自分にくれた物であり、その母が亡き今では唯一の形見とも言うべきものである。

 

 剣とアミュレット、父の形見と母の形見を交互に眺めながらダンテはここにいない唯一の家族へ想いを馳せた。

 

(バージルの奴、どこで何やってんだか……)

 

 今でこそ双子の兄の生存を信じて疑っていないが、数年前まではてっきり死んだと思っていたのだ。

 

 ダンテが直接バージルと会ったのは十数年前にフォースエッジとアミュレットを巡り、テメンニグルによって繋がった先の魔界で戦った時が最後になる。その戦いの果てに兄は、自分の手を振り払い魔界に身を投げたのだ。

 

 それから十年弱、彼は一人で悪魔と戦い続け、そしてついに母を死に追いやった仇である魔帝ムンドゥスと戦える機会を得た。マレット島で待ち構える魔帝軍の大悪魔達を次々と打ち破り、ムンドゥスに戦いを挑んだのだ。

 

 しかしムンドゥスは、封印から解放された直後で全盛期の力はないものの、予想以上に手強かった。単純な力ならほぼ互角ではあったが、魔帝の「創造」という無から有を生み出す能力はダンテの想像を遥かに超えて強力だったのだ。

 

 途中、ムンドゥスに母エヴァと瓜二つの悪魔として創られたものの、人としての心に目覚めたトリッシュが力を貸してくれた。しかしそれでも、魔帝を超えるまでは至らない。

 

 そうしてじりじりと消耗を強いられていた時、ダンテは魔力の波動をはっきりと感じ取った。体を駆け巡ったその波動に、ダンテの魔力は呼応したのだ。

 

 それは同じ血を引く者同士だけの現象だった。

 

 いくらダンテが魔力の探知が不得手でも、この魔力の持ち主を間違えるわけはない。

 

 ダンテはこの時はじめてバージルが生きていることを理解したのだ。

 

 既に家族は一人として残っていないと思っていたダンテにとって、バージルの生存は望外の喜びだった。そしてそれは彼の心に火をつけるのには十分過ぎたのだ。

 

 ダンテは感情を力に変え、内に眠る全ての力を解放し、魔帝に挑んだ。

 

 そしてその結果、ムンドゥスを倒しきることはできなかったが、再び封印することはできた。金の報酬は一切なかったものの、兄が生きていることを知ることができただけでダンテには十分過ぎる報酬だった。

 

 ただ、少なくとも人間界にはいないことくらいダンテでも理解していた。もしかしたら魔界にいるのかもしれないし、それともまったく違う別なところにいるのかもしれない。

 

「まっ、どこにいようが女っけのねえ人生を送ってんだろうな」

 

 たとえどこで生きていようと兄も自分と同じように女運はないはずだ。そうに違いない、とダンテは思っていた。何しろバージルは傍若無人で冷酷、自己中心的だ。顔こそ父や自分に似て整ってはいるが、そんな兄に思いを寄せる女性がいるとは思えない。いたらよほどの物好きだろう。

 

 そうは言ってもダンテの言葉は希望的観測に近かったが。

 

 ちなみに彼は数年後に兄の血を引く青年と出会い、物好きは案外いるのかもしれない、と思い直す羽目になるのだが、ダンテは知る由も無かった。

 

 一息ついたところで電話の大きな音が事務所に響いた。ダンテは受話器を取り連絡した者から話を聞く。

 

 少しして受話器を置いたダンテの顔には、さきほどまでのやる気のない雰囲気は消えていた。たった今電話をよこした相手は合言葉有り、つまりはデビルハンターとしてのダンテへの依頼人だった。

 

 机に無造作に置かれた二丁の拳銃「エボニー」と「アイボリー」を腰のホルダーに入れ、剣に目を向けた。

 

「……今日はこっちにするか」

 

 いつも愛用しているリベリオンに伸ばした手を止め、フォースエッジを手に取る。特に理由や意味がある選択ではなく、ただダンテがフォースエッジを持って行こうと思っただけであった。

 

 準備を整えたダンテはドアを蹴り開け、意気揚々と出かけていく。

 

 魔帝はあれ以来動きを見せていない。これまで通り悪魔はちょくちょく現れるものの人間界の平穏はいまだ破られていなかった。しかし、あの魔界の支配者が人間界を諦めた筈がない。こうして悪魔を狩り続けることで、いつの日か必ず再びムンドゥスと対峙することができるだろう。

 

 その時こそ父の代から続く因縁に決着をつける、ダンテはそう心に決めていた。

 

 

 

 

 

 雲が去り空に浮かんだ満月が夜の闇を照らした。あたりからは波の音しか聞こえてこず、ともすると世界に一人になったような錯覚すら感じさせた。

 

 それほどまで静かな船の甲板でバージルは閻魔刀を杖がわりに目を閉じ、じっと立っていた。時折、波が船体に当たり揺れることもあったが、それを気にしたような様子はない。

 

「そろそろ着くぜ、準備しとけよ」

 

 そこへ、この船の主たるカイルが声をかけた。

 

 この船が向かっているのは聖王国の港町ファナンである。しかし。当然ながら貿易港として栄えるこの港に海賊船であるカイル一家の船が堂々と入港できるわけがない。そのため夜の闇に紛れるのだ。

 

「ああ」

 

 カイルの言葉を受けて目を開く。そして閻魔刀を左手に持ちながら月明かりに浮かぶ港町を見据えた。

 

「あ、お待たせしちゃいました?」

 

 船内から出てきたのはポムニットだった。先程まで船の調理場を借りてなにやら作っていたようだが、どうやら出来上がったらしい。

 

「おう、もうすぐだぜ。ポムニットもここにいろよ」

 

 旅ともなれば身の回りのことはある程度自分でしなければならないのは当然のことだ。いくら旅に慣れたバージルといえど中には面倒な事はあるだろうと考え、雑用を全部引き受けるつもりでポムニットはついてきたのだ。

 

「しかし、こうして見るといいとこのお嬢さんってかんじだねえ!」

 

 ポムニットの服装を見たカイルが豪快に笑い飛ばす。

 

「もう、あまりからかわないでください」

 

 彼女の服装は長めのスカートに少しフリルのついたブラウスだ。それに長く伸ばした艶のある紫の髪が良く映え、お忍びで出かける良家のお嬢様と言っても通用しそうである。

 

 バージルのもとで力のコントロールを学んでいたポムニットは、既に人の姿を取り戻していたのだ。もっとも角だけは悪魔の力の象徴であるためか、どうしても消すことはできなかったが。

 

 それでも帽子などで頭を隠せば十分に人として生活することはできるだろう。

 

「バージルもそう思うだろう?」

 

「さあな」

 

 相も変わらずのそっけないバージルの返答にカイルは肩をすくめて苦笑した。

 

 そうこうしているうちにファナンに着いたようで、船は桟橋に横付けされた。月明かりしかないこの暗闇の中でもピタリと接舷するあたり、さすがは多くの航海をこなしてきた歴戦の海賊一家だ。

 

「それじゃあ、気を付けてな。スカーレルにもよろしく言っといてくれ」

 

 今回バージルとポムニットが旅に出ることになったのはスカーレルの手紙がきっかけであることは聞いていた。既にカイルの船からスカーレルが下りてもう何年にもなるが、彼はカイルやソノラにとってかけがえのない仲間であることは変わりないのだ。

 

「ああ」

 

「ありがとうございました」

 

 軽く挨拶を交わすと船はゆっくりと離れていく。甲板にはいつのまにかカイルだけでなくソノラも出てきたようで、しきりに手を振っていた。

 

 ポムニットも大きく手を振り返した。この二人はまるで姉妹のように仲が良いらしく、カイル一家が島を訪れた時は決まって夜中まで話をしていた。

 

 月が出ているとはいえ夜間であるため、すぐに船は視界から消えた。できるならバージルとて、こんな真夜中の下船はしたくはないが、ここ数年、各国では海賊船の取り締まりが一段と厳しくなっているのでやむを得なかった。

 

 ただ厳しくなっているといっても、人間界のように常時レーダーで監視しているわけではない。あくまで昼間の入港が難しくなっただけだ。

 

 もっともこれは聖王国の状況であり、より厳しい帝国では夜間も歩哨が立っているため船が港に入ることはできても、人の乗り降りや荷物の積み下ろしは難しくなっているのが現実だった。

 

「行くぞ」

 

 船を見送ると、バージルは踵を返し街の中心部に向かって歩き出した。

 

「あ、はい!」

 

 ポムニットはつば広の白い帽子をかぶることで角を隠し、バージルの後をついていく。島の住人達やカイル一家など事情を知っている者達といる時には角を隠すことはないが、不特定多数の人の目に晒されるだろう、これから先の道程では常に隠すつもりでいた。

 

 リィンバウムにおけるサプレスの悪魔という存在は召喚師だけでなく一般の人々にも広まっているが、それは決して良い意味ではない。負の感情を好み糧とする悪魔は多くの人にとって害悪でしかなく、それ故に恐れられる存在でもあるのだ。

 

 そのためいくらポムニット自身が自分のことを人間だと思っていても、角を見た者が彼女のことをただの人間として扱うなど期待できない。それが今のリィンバウムの現状なのである。

 

 港を抜け、店や民家が所狭しと並ぶ市街地まで来ても人は誰もおらずひっそりとしていた。まだ明け方にもなっていない真夜中であることを考えればしょうがないのかもしれないが。

 

「…………」

 

 市街地の中心を走る大通りを、外の方へ歩いていたバージルは突然立ち止まった。

 

「? どうかしまし――」

 

 不思議に思ったポムニットが声をかけようとした時、二人を取り囲むように二十体程の悪魔が現れた。

 

 これは魔界の甲虫が群れをなして体を構成するスケアクロウという種の下級悪魔だ。人間界にもよく現れる悪魔であり、バージルも以前に訪れたフォルトゥナで戦ったことがあった。

 

 ただ、フォルトゥナにいたスケアクロウは甲虫が布袋に入り込んでいたのに対し、目の前の悪魔は船の輸送等で使われる麻袋に入り込んでいたため、体色が茶色になっていた。

 

 また、武器として手足にくくりつけている物は、聖王国で多く流通している一般的な剣だった。

 

「っ……」

 

 スケアクロウは多数の甲虫が袋に入ることで形を為す性質上、容姿が周りの状況によって変化するのは必然だが、そのことを知らないポムニットにとっては全く別の悪魔に見えるのだろう。彼女は不安げにバージルの袖を握った。

 

 ポムニットはもう二十歳を超え、大人の女性と呼んでも差支えないが、いまだに不安になった時や恐怖を感じた時は無意識にバージルの服の袖を握っているのだ。

 

「持っていろ」

 

 とは言えいつまでも握られても邪魔なだけだ。バージルは肩から下げていた旅行袋を彼女に投げ渡した。

 

 それを攻撃のチャンスと判断したのか、数体のスケアクロウが飛びかかってきた。

 

 バージルはそれを見ようとせずに左手にもった閻魔刀の鍔を持ちあげた。

 

 しかし、ポムニットに見えたのはここまでだった。次に見えたのは、先程まで威勢よく奇怪な声を上げながらバージルに飛びかかっていたスケアクロウが、体液を撒き散らしながら消滅していく姿と、いつの間に移動していたのか悪魔の群れを抜けた所で悠々と閻魔刀を鞘に納めているバージルの姿だった。

 

 ポムニットは島にいた時、何度か彼と手合わせをしたことがある。しかしその時にはこれほどの速さを見たことはなかった。もちろんバージルが本気を出していたとは思っていないが、それでもまさかこれほどまでに強いとは思わなかった。

 

 しかも今の状態でさえバージルからは余裕が感じられる。まだまだ全力とは程遠いのだろう。

 

「バージルさん……」

 

 預けられた袋を両手で抱きしめるように持ちながら彼をじっと見つめる。

 

 ポムニットが最初にバージルと会った時は恐怖を感じるばかりだった。

 

 しかし、彼のことを知っていくにつれ恐怖は薄れていき、かわりに憧憬の念を抱くようになっていたのだ。

 

 だからこそポムニットは自分を救ってくれた恩人であり、憧れの人でもあるバージルのために尽くしたいのだ。それはもしかしたら魔界の悪魔が力を認めた者に魂を捧げることに近いのかもしれない。

 

「Disappointing...」

 

 閻魔刀を鞘に納めたバージルは、自分がどこに行ったのかすらわからず右往左往する悪魔を見ながら呟いた。

 

 彼にとって、もはやこの程度の悪魔はいくら来ようと問題にすらならない。

 

 だが、この程度の悪魔でもそこらへんのはぐれ召喚獣や盗賊と戦うよりはずっとましなのが現状なのだ。

 

 それに以前なら考えられないことだが、今ではどこに行っても悪魔は現れるため戦いの相手としては都合がいい。

 

 このようにリィンバウムに悪魔が現れるようになったのは、バージルが喚起の門でブリッツと戦ったのと同時期だという。

 

 この情報はカイル一家が直に見聞きしたものであるため、バージルは信頼性は高いと判断していた。

 

 それから既に十年以上の時が過ぎている。そのため悪魔の出現による混乱はある程度落ち着いており、少なくとも表面上は以前とさほど変わらぬ様子に戻っているようだ。

 

 そうこうしているうちにスケアクロウはようやくバージルに振り返り、緩慢な動きで襲いかかった。

 

「Too late」

 

 再び閻魔刀を抜き、悪魔の群れを駆け抜ける。当然、下級悪魔程度にはその動きを止めることはおろか、認識することはできなかっただろう。

 

 そして最初に居た場所へ戻り、一瞬静止した。

 

 世界が全て静止したような静寂の中、バージルだけは悠々と閻魔刀を体の前で納刀する。瞬間、彼の背後で残された悪魔の体は上下に分かれ次々と倒れて消えた。

 

 愚かな悪魔の末路には目もくれず、一連の動きでほんの少しだけ乱れた髪を後ろへ撫でつけた。

 

「どうした? さっさと来い」

 

 ポムニットに声をかけ、町の外に向かって再び歩き出す。スケアクロウとの戦闘は一分とかからず終わったが、もとより彼らの目的は悪魔と戦うことではない。

 

「今行きます!」

 

 バージルの荷物を抱えポムニットは急いで彼の後を追う。ファナンの街並みの間には月明かりで作られた並んだ二人の影がどこまでも伸びていた。

 

 

 

 

 

 港湾都市ファナンを出たバージルとポムニットは、街道沿いにある休憩所で今後の話をしていた。

 

 以前であればこういった油断しやすい場所は盗賊が出没しやすかったのだが、現在は悪魔が出没するようになった影響で旅人自体少なくなっており、商人達も共同で多くの護衛を雇うようになったため、休憩所にはあまり姿を現さないようになっていた。

 

 と言うよりも盗賊自体がどんどん数を減らしていっているのだ。

 

 なにしろ悪魔は突然現れる。見張りなど意味を為さない。おまけに盗賊の大多数のアジトは人里離れたところにあるため、助けも期待できない。そこまでのリスクを負ってまでアジトを構えようとはする者は極少数だ。それ以外の多くは各地の都市で強盗やスリ等を行うようになり、治安悪化の一因となっていた。

 

「……ゼラム、ですか?」

 

「知らなかったのか?」

 

 目的地を聞き、少し困惑しながら尋ねるポムニットに言葉を返した。

 

 彼女はサイジェントにいるカイル一家のご意見番であったスカーレルに会うことが今回の旅の目的だと思っていた。船に乗っていた時もカイルやソノラからスカーレルによろしくと言われていたので、てっきりそう思っていたのだ。

 

「サイジェントにも行く予定だが、まずはゼラムだ」

 

 バージルは断言した。スカーレルからもらった手紙によって旅に出ることを決めたのは事実だが、それはあくまでメイメイからの「話したいことがあるから店まで来て欲しい」という言付けを託されていたからに過ぎない。

 

 もう何年も前になるが、バージルはスパーダについて書かれた本をメイメイに預け、解読と解釈を依頼していた。もしかしたらそれが終わったのかもしれない。

 

 また手紙にはサイジェント近郊の山に剣竜という竜が住んでいて、それを打ち倒すと奥義が手に入るという噂を聞いたとも書いてあった。噂である以上、大した期待はしていないが、わざわざ聖王国まで足を延ばすのだ。話くらいは聞いてもいいだろうと考え、サイジェントにも立ち寄るつもりでいるのだ。

 

 ちなみに、アティもサイジェントに行く予定ではあったが、彼女はアズリアにも会い行くつもりでいたため別々に行動しており、サイジェントで合流する予定でいた。

 

「えうぅっ、ごめんなさい……」

 

 旅の目的すら勘違いしていたポムニットはべそをかきそうになりながら謝った。なんとか彼の助けになりたくてついてきたのに出だしからこれでは先行きが不安だ。

 

「泣くしかできないならさっさと帰れ」

 

 冷たく言い放ち、歩き出す。

 

 もちろん彼女はこのまま帰るつもりはなく、袖で顔を拭い彼を追いかける。

 

 二人はそのまま無言で歩き続けた。元々バージルは饒舌ではないため必要な会話以外で口を開くことはまずない。

 

 そのため必然的に会話を生むにはポムニットから話しかける必要があるが、さきほどの言葉が胸に突き刺さり、彼女に話しかけることを躊躇わせていた。

 

「……なんだ? 言いたいことがあるなら言え」

 

 その雰囲気が伝わったのか、珍しくバージルから声をかけられた。

 

「あの、わたしがついてきたの……迷惑、でした?」

 

 一瞬、バージルはなぜ彼女がそう考えたのか理解できなかったが、すぐにさきほどの己の言葉を曲解しているのだとわかった。

 

「さっき言った通りだ。泣くしかできない『なら』帰れ」

 

 あくまでも彼は言葉通りの意味で言っただけだ。それ以上の意味などない。そもそも邪魔だと思っていれば最初から同行させなかっただろう。

 

「あ……、はい!」

 

 その言葉で理解できたのだろう。ポムニットは元気よく返事をした。

 

 彼女がいつもの調子に戻った時、バージルは唐突に思い出したことがあった。

 

「ゼラムについたら酒を買っておけ。シルターンの酒だ、安物でいい」

 

「え? あの、飲まれるんですか?」

 

 彼女の記憶ではバージルはあまり飲める方ではなかったはずだ。宴の席ですら少しずつ杯を傾けていた程度、普段は酒類など一切口にしていなかったのだ。

 

「報酬代わりだ」

 

 端的な答え。だがそれだけでも十分意味は通じる。

 

 バージルはメイメイに本を預けた時に報酬は酒で、と言われていたのを思い出したのだ。正直もう二十年近く前の話になるため今も有効かは不明だ。しかし彼女が依頼を果たしたのなら、こちらも約束を果たさなければならない。もっとも酒の種類までは指定されていないため、安酒をくれてやるつもりだが。

 

「わかりました! 買っておきますね」

 

 初めてバージルの役に立つ機会を得たポムニットは嬉しそうに頷いた。

 

 そうして二人は聖王都への道を進む。辺りは静かで人っ子一人いない。以前にこの道を通った時は多くの商人や旅人が行き来していたというのに。

 

 きっとこの平穏で静かな光景は、皮肉にも悪魔の存在がこの世界に大きな影響を与えている証拠なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




魔剣スパーダがなくともムンドゥスはどうにかなったようです(倒すことはできませんでしたが)。

一応DMC2の小説ではダンテが並行世界のムンドゥスをスパーダも魔人化もなしに倒してますので、ご理解いただければと思います。

ご意見ご感想お待ちしています。

ありがとうございました。

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