Summon Devil   作:ばーれい

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第30話 戦う意味

 事態は無色の派閥の大幹部オルドレイク・セルボルトの思惑通りに進んでいる。既に彼の軍勢は後詰の戦力と合流を果たし、戦力を増強させていた。

 

 それに計画の柱の一つである魔王の召喚も、その儀式を行う準備はできている。他に必要なのは、新たな魔王の器となるバノッサの負の感情だけであり、もちろんオルドレイクにはそのあてもあった。

 

「ふむ……ならば、あやつらもおびき寄せまとめて始末するか」

 

 頭の中で今後の予定を組み立てる。既に無色の派閥には、フラットがサイジェントに戻ったという情報は数日前に届いていた。やはりバノッサは仕留め損なったらしい。

 

 そのためオルドレイクは邪魔な者達の始末も同時に行えるよう計画を修正することにした。ただ、ここで重要なのは現段階ではバージルとの交戦は避けるということだった。

 

 いくら戦力を増強したと言ってもあの男に勝てるとは思わない。あの島での戦いぶりを見てしまった以上、バージルを相手に人間をどれだけ揃えても勝てるとはどうしても思えないのだ。

 

 オルドレイクの想定では己の計画が成功してようやく、戦えるようになると考えていたのだ。

 

「……まだ駒は残っている。タイミングを見て悪魔を呼び出せば、これまでと同じようにあの男は悪魔に向かうはずだ」

 

 バージルをサイジェントに留めておくことは、彼の計画にとって最重要事項といっても過言ではない。そのための方法としてオルドレイクが選択したのは、これまでも行ってきた悪魔の召喚を継続することだった。

 

 少し前から再開した悪魔召喚の主目的は、バージルをサイジェントの街に現れる悪魔に注意を向けさせるために行っているのだ。

 

 しかし、事前に忍び込ませた召喚者は悪魔を召喚する毎に全てバージルの手で殺害されている。一応、僅かながらも生き残りはいるが、その者達も悪魔を召喚すれば、これまでと同じように殺害されるのは目に見えていた。したがって当初は、もはや手の指だけで数えられるまでに数を減らした彼らを呼び戻すつもりでいたのだ。

 

 それでもオルドレイクは、この悪魔の召喚ができる貴重な人材を使い潰す決断をしたのだ。計画の成功のためには戦力の出し惜しみなどするべきではないとの判断からだ。

 

 だが、同時にその決断は派閥の大幹部であるオルドレイクにとっても、もはや背水の陣となったと言っても過言ではない。

 

 一時期より派閥の勢威は回復したと言っても、バージルによる襲撃以前に戻ったわけではない。当然、今回の作戦は大幹部の立場を利用して半ば強引に戦力をかき集めたのだ。

 

 これだけの戦力を投入したにも関わらず、何も成果が得られなかったとなれば、現在の地位から追い落とされるのは確実だろう。

 

「……それと兵どもにも伝えよ、戦いは近い、とな」

 

 考えをまとめると、部下を呼んで手短に指示を伝えた。それは事実上の戦闘準備の命令だった。

 

 この命令を出した以上、もう後戻りはできない。にもかかわらずオルドレイクに焦った様子はない。その顔には狂気と自信が満ちているだけだった。

 

 

 

 

 

 サイジェントの街には現在、外出禁止の命令が出されていた。これが発令されれば買い物だけではなく、仕事に行くこともできないため、市民生活のみならずサイジェントの産業、ひいては財政にも大きな影響が出るのは避けられない。

 

 そんな理由もあって、外出禁止令は悪魔が現れた時にも出されたことはない。それが今、発令されているということは非常に切迫した事態にあることを意味していた。

 

「はあ……はあ……」

 

 騎士など一部の人間しか出歩けないサイジェントの街の中を、ハヤトが全力に近いスピードで走っていた。

 

 界の意志(エルゴ)の試練から戻ってきて数日、ハヤトはこんなことが起きるとは全く予想していなかった。

 

 なにしろ無色の派閥が軍勢を率いて攻め寄せて来たというのだ。本来ならこういう場合は騎士団で対応するのだが、悪魔にも備える必要があるため騎士団の人員が不足していること、無色にはバノッサ達オプテュスも与していることもあって、フラットは無色の派閥と戦うことを決意した。

 

 幸いにも現在の騎士団長イリアスとは見知った仲であり、共に悪魔と戦ったこともある。同時に騎士団に在籍していたレイドやラムダの後輩でもあるため、話はスムーズにまとまった。

 

 最終的にはサイジェントの街には騎士団の三割を守備隊として配し、残りの戦力で無色との戦いに挑むということになった。騎士団はサイジェントの顧問召喚師で実務を取り仕切っていた、イムラン=マーン、カムラン=マーン、キムラン=マーンの三兄弟が指揮を執り、フラットとイリアスは遊撃隊として派閥の本陣を狙うことになった。

 

 ハヤトはさきほどまで出発前にリプレ達をスカーレルに預けに行っていたのである。さすがに悪魔が現れる状況で戦う力がないリプレ達を残していくわけにもいかず、結局、自分達が界の意志(エルゴ)の試練を受けていた時のようにスカーレルのもとで預かってもらうことにしたのだ。

 

「ん……?」

 

 道路を走っていくハヤトの視界に老人のうしろ姿が映った。

 

「おお……ちょうどよかった」

 

 老人が振り向き、声をかけてくる。その老人はウィゼルだった。彼とハヤトはこれまでも何度か話をしており、その度に道具のなんたるかを教えられてきたのだ。

 

「爺さん? どうしてこんなところに……?」

 

「どうしても渡したい物があってな、探していたんじゃよ」

 

 ウィゼルは鞘に収められた一本の剣を差し出した。

 

「これから戦いに行くんじゃろ? 遠慮せずに受け取ってくれ」

 

 困惑しながらもハヤトはおずおずと剣を手に取り、鞘から抜き放った。精緻な装飾が施された剣は一見、儀礼用のものにも見える。しかし、ハヤトにはこの剣がただの剣ではないことを感じ取っていた。

 

「これ……もしかしてサモナイト石で?」

 

「さよう。この『サモナイトソード』は昔、ある召喚師に製作を頼まれたものでな」

 

「それをどうして俺に?」

 

 この剣が頼まれて作ったものであるなら、その召喚師に渡すべきではないか、と思ったのだ。

 

「……この剣が完成した時、気付いたんじゃ。これは世界を滅ぼしかねない代物じゃとな。そう、その召喚師は世界を滅ぼすつもりだったのじゃ。……もっとも完成する前にワシはあの男と縁を切っていたがな」

 

「…………」

 

 世界を滅ぼせる力が手の中にある。その事実にハヤトは自然と剣を握る力を強めた。

 

「ワシは正直、この剣を己と共に滅ぼしてしまおうとも考えた。しかし、その度に思い出してしまうんじゃ、あの光景を……」

 

 ウィゼルは独白する。その時、彼の脳裏に浮かんだのは、かつてオルドレイクと共に上陸した島でバージルが閻魔刀を振るう姿だった。

 

 凄まじい魔力を宿した閻魔刀を自分自身のように振るう姿にウィゼルは心が震えた。それまでの彼は最強の武器を作り上げることだけに全てを懸けていた。

 

 しかし、バージルとの邂逅でウィゼルの心の片隅に新たな望みが生まれた。それは自分の作った武器を誰かに振るってもらいたいという願望だった。それこそがオルドレイクと袂を別った後もサモナイトソードを作り続けた理由だったのだろう。

 

 ウィゼルはそこで過去を思い出すのをやめ、ハヤトに向き直った。

 

「道具は誰かに使われてこそ意味がある。しかし、剣を泣かすような使い方をする者に託すにはあまりに忍びない。……じゃが、あんたなら正しく使ってくれると思ったのじゃ。自分のことより他人のことを考えるあんたなら、な」

 

 そう言ってウィゼルは微笑んだ。

 

「爺さん……」

 

 正直なところ、ハヤトは買い被り過ぎだと思った。自分はただ理不尽なことが許せなかったから、そして大切な者を失いたくなかったから戦ってきただけにすぎない。自分より他人のことを考えたわけではない。

 

 だがそれでも、ウィゼルの言葉を否定することはできなかった。ここまで自分を信じてくれている者を無碍にすることができなかったのだ。

 

 それに今は非常時だ。大切なものを守るためにも力は必要だ。

 

「俺にどこまでできるか分からないけど……精一杯やるよ。それだけは約束する」

 

「それで十分じゃ。……さあ、早くいきなさい。仲間が待っているんじゃろう?」

 

「ありがとう、爺さん」

 

 そう言ってハヤトは仲間のもとへ向かって再び駆け出した。

 

 ウィゼルはそんな彼を嬉しさと寂しさが入り混じった顔で見送っていた。

 

 

 

 

 

 ハヤトがウィゼルからサモナイトソードを受け取っていた頃、アティは「告発の剣」亭に戻ったところだった。彼女はさきほどまで街に現れた悪魔と戦っていたのだが、それもようやく一段落したため戻ってきたのだ。

 

 店の中にはスカーレルとポムニットだけではなく、リプレや子供達もいた。リプレ達は数日前、ハヤト達が戻ってきた際に、フラットのアジトへ戻ったのだが、彼らが今度は無色の派閥との戦いに赴くため、再び預かることになったのだ。

 

「その様子では召喚した者は見つけられなかったようだな」

 

 戻って早々バージルから声をかけられた。彼もアティと同じように悪魔と戦いに出かけていたはずだが、先に戻っていたらしい。

 

「……やっぱり遅かったみたいです」

 

 悪魔がこの街に現れるのは無色の派閥の者が召喚しているためだ。したがって召喚者を殺すか、捕らえるかで無力化しない限りこの事態が沈静化することはないのだ。

 

 アティとしては派閥の者を捕らえ、騎士団に引き渡すことで召喚を止めようと考えていたのだが、バージルのように一瞬で移動する術を持たないアティでは、どうしても現場に着くまで時間がかかるため、召喚者を見つけることができなかった。

 

「ならお前はこなくていい。俺がやる」

 

 今なら魔力だけで召喚者を特定するのは難しくない。悪魔の近くにいて、なおかつ大きく移動している者を探せばいいのだ。これまで魔力だけで召喚者を特定できなかったのは、住民の近くで悪魔を呼び出すことで逃げ惑う人々に紛れることができたからだ。外出が禁止されている現状では同じことができるはずもない。逆に目立つだけなのだ。

 

 それでも悪魔から逃げなければならないのは、そうしなければ召喚した悪魔に狙われてしまうからだろう。悪魔は召喚することはできても操ることはかなり難しい。むしろ操るくらいなら、悪魔を人工的に造り出した方がはるかに楽なくらいなのだ。

 

「……はい」

 

 反論することはできないかったアティは頷くしかできなかった。頭ではバージルの言葉が正しいのは理解している。しかし、同時に足手まといだと判断されたことは悔しかった。全てをバージルに押し付けてしまう自分の弱さが恨めしかったのだ。

 

「先生、それならハヤト達を助けてくれませんか!?」

 

「ど、どうしたの、急に?」

 

 突然、リプレから頭を下げて頼まれたアティは混乱した。

 

「私、帰りを待っているのが怖いんです……! もう会えないような、みんなが手の届かないところへ行ってしまいそうで……。それに本当なら戦いになんて行ってほしくない! 私はただ、みんながいてくれるだけでいいのに……」

 

 流れ出る涙を必死に抑えながら言った。いくら普段はしっかりしていると言っても、このあたりの弱さはやはり年相応の少女だ。

 

 リプレの悲痛な叫びを聞いたアティは優しく彼女を抱きしめた。

 

「大丈夫、私に任せて。必ずみんなと一緒に帰ってくるから」

 

 アティは自分の中にあった悔しさがいつのまにか消えていたのを感じた。自分の力が必要とされている、自分にもできることがあると理解できたからかもしれない。

 

 自分の為すべきことを知ったアティは自信を持って宣言する。

 

「みんなのところへ行ってきます!」

 

 そして装備を確認して店を出て行った。

 

「ほらリプレ、顔を洗ってきなさい。せっかくの可愛い顔が台無しよ」

 

「……はい」

 

 泣いたせいか目が赤くなっているリプレにスカーレルが優しく言った。

 

「…………」

 

 その様子をポムニットは少し苦しそうな顔をしながら見ていた。そして少しの間、逡巡していたが、ようやく彼女は意を決して口を開いた。

 

「あの……」

 

「なんだ?」

 

 声をかけられたバージルはポムニットを見て短く返す。

 

「っ……、私も先生と一緒に行ってもいいですか?」

 

 バージルの鋭い視線にびくりとしながらも彼女は自分の意思を伝えた。

 

「行きたければ行けばいい」

 

 バージルにはなぜアティと一緒に行きたいと言ったかはわからない。それでも、戦いが好きではないポムニットが戦場に行きたいと言ったのであれば相応の理由があるのだろうと推測した。

 

 その上で行きたいと言うのであれば、バージルにそれを否定する理由はなかった。

 

「あ、ありがとうございます! 私、行ってきます!」

 

 ポムニットはぺこりと頭を下げて出て行った。店に武器を持ってきてはいないはずだから、まずは武器を取りに行くのだろう。

 

 二人が続いて出て行った「告発の剣」亭は一気に静かになった。リプレは顔を洗いに行っているし、子供達は別室で眠っている。今、この場にいるのはバージルとスカーレルの二人だけになったのだ。

 

「それにしても行かせてよかったの? 無色は一筋縄じゃいかないわよ」

 

 スカーレルは椅子に座りながら閻魔刀の手入れを始めたバージルに問い掛けた。

 

 一時期より弱体化したとはいえ、無色の派閥はいまだ騎士団とも渡り合える戦力を保有している。いくらアティやポムニットが常人より遥かに強いからといって決して油断ならない相手だろう。

 

 それに派閥が悪魔を召喚していたことも考えると、なにか奥の手の一つや二つ隠しているかもしれないのだ。

 

「どうせ大した距離はない。行こうと思えばいつでも行ける」

 

 サイジェントの外の布陣している無色の派閥との距離もバージルにとっては、ほとんど意味をなさない。たとえエアトリックを使わなくともバージルの常軌を逸した身体能力なら一分とかからず派閥の前に行くことが可能なのだ。

 

「あら? 一応、二人のことは気にしているのね」

 

 スカーレルはバージルの言葉を別の観点で解釈したようだ。

 

 確かに以前までのバージルなら他人のことなど気に掛けなかっただろう。それを考えればスカーレルそう言うのも無理らしからぬことかもしれない。

 

「……さあな」

 

 しかし、バージルはそれを他人に指摘されることは好きではなかった。そのためはぐらかすことにしたのだ。

 

「ふふ、ならこれ以上何も言わないわ」

 

 含んだ笑いを見せたスカーレルにバージルは鼻を鳴らし、だんまりを決め込むと黙々と閻魔刀の手入れを続けた。

 

 

 

「……来たか」

 

 そして一通り手入れが終わった時、バージルは悪魔が現れたのを察知した。そして同時に悪魔を召喚したであろう者の魔力を頭の中に刻み込んだ。

 

「こっちのことはアタシに任せて」

 

「心配せずともここに悪魔は来ない」

 

 まるで未来を見たかのようにバージルは断言した。もはや無色の派閥が悪魔を呼び出す理由は見当がついていたのだ。

 

 外出禁止令の出た現状では悪魔を呼びだしたところで襲う相手がいない。建物を壊して中の人間を狙うのだとしてもあまりにも効率が悪すぎる。いずれ禁止令が解除されるのを待ってから再び召喚した方が遥かに効率はいいだろう。

 

 にもかかわらず悪魔を召喚しているのは、自分をここに釘付けにすることだろう。以前は別な理由があったかもしれないが、少なくとも現時点ではそうとしか考えられないのだ。

 

 なにしろこれまで何度も悪魔やその召喚者を殺してきたのだ。派閥にしてみれば悪魔を召喚すれば自分が来ると考えてもおかしくはない。

 

 そこまで分かっているにもかかわらず、バージルはあえて派閥の策に乗ってやることにした。自分を遠ざけてまでやろうとしていることは何なのか興味が湧いたのだ。

 

 とは言え、いつまでも能天気に待ってやるほどバージルは甘くない。今回現れた悪魔を始末したら派閥のもとへ行く。それで何もできなければ、所詮その程度ということだ。

 

 閻魔刀を鞘に戻しながら店を出る。その瞬間、バージルはエアトリックを使い、悪魔のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 もはや外から人の気配が一切しなくなったサイジェントの街の中でバージルは、鏡のように磨き抜かれた刀身を持つ閻魔刀を持ちながら、ついさきほどまで戦場になっていた広場を眺めていた。

 

(結局、今日は一度もこないか……)

 

 バージルが周辺の魔力を探りながら胸中で呟いた。目の前には悪魔の血液が結晶化したレッドオーブがいくつか転がっているだけでその他には何も気になるものはなかった。

 

 だがそれが逆に、バージルに疑念を抱かせた。これまでであればオーブが現れた時は、小さな悪魔が回収しに姿を見せていたのだ。この悪魔は矮小な力しか持たない存在であるため感知しづらく、集中していなければ見逃す可能性があるのだ。

 

 しかし、今はいくら集中しても周囲にその存在は感じることはできなかった。先日まではオーブが現れた時は毎度姿を見せていたにもかかわらず、今日は一度も存在を確認することができなかったのだ。

 

 果たしてそれが何を意味するか、バージルは閻魔刀を鞘に戻しながら思考を進めた。

 

 第一に考えられるのは、もうオーブが必要ではなくなったという可能性だ。あの小さな悪魔が何のためにオーブを集めていたのかは不明だが、オーブを無尽蔵に欲しているとは限らない。必要な量を回収したのであれば姿を見せなくともなんら不思議ではない。

 

(いや、そもそも無色が悪魔を呼んでいた理由は……)

 

 不意にバージルの中にある可能性が浮かんだ。

 

 もしかしたら無色の派閥は、オーブを回収させるために悪魔を召喚していたのかもしれない、という可能性だ。いくら悪魔といっても派閥が呼び出していたのは最下級の有象無象に過ぎない。その程度の存在では兵隊の代わりになっても、高位の召喚獣のような切り札にはなり得ないのだ。

 

 それでも数を呼び出せば、最終的に全て召喚した悪魔を全て倒されるとしても、相手には少なくない被害を与えることができるのは間違いない。

 

 つまりバージルの考えが正しければ無色の派閥は漸減作戦とオーブの収集を同時に行っていたことになる。

 

「……やはり使い道が分からなければ何を考えても無駄か」

 

 そこまで考えたものの、バージルは息を吐きながら言った。

 

 仮に自分の予想通りだとしても、結局、回収したオーブの使い道が分からなければ、画竜点睛を欠くのである。

 

「行ってみるか」

 

 バージルは無色の派閥が布陣する方角を向いて言葉を投げかけた。派閥もわざわざ軍勢を率いて現れた以上、何らかの準備はしているのだろう。ここでただじっと考えるよりは派閥のもとへ直接赴いた方が手っ取り早い。

 

 そう決め、体を門の方へ向けた瞬間、バージルは大きな力を感じた。

 

「ほう……」

 

 思わず感嘆の声が漏れた。

 

 感じた力はこれまでリィンバウムで会った誰よりも大きなものであるにもかかわらず、まるで突如出現したように唐突に力を感じたのだ。

 

「あっちは後回しだな」

 

 既にバージルの興味は無色の派閥から、この大きな力に向いていた。そしてエアトリックを使い一瞬でこの場から姿を消した。

 

 後に残ったのはいまだ無造作に転がっているオーブと静寂だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




いつの間にか30話も投稿してました。完結までまだ先は長いですが、これからもよろしくお願いします。

ご意見ご感想お待ちしています。

ありがとうございました。

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