Summon Devil   作:ばーれい

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第37話 悪魔の住む館

 これから調べる屋敷はかつて貴族が作らせたものであることは、昨日、管理人から聞いた通りだ。地上三階建てで部屋数は二十を超える豪邸だが、この持ち主だった貴族は自分や親族のコレクションを屋敷に飾っていたようで、今でも十以上の部屋ではそうした収集物で埋められているらしい。

 

 それから察すると、蒼の派閥が借り受ける時にすべての収集物は片づけなかったようだ。ただ、空き部屋が十以上もあるのならそれでも十分と言えるだろうが。

 

「何を止まっている。行くぞ」

 

 屋敷を前に立ち止まったポムニットとミントにバージルは話しかけた。もっとも、この屋敷で化け物に襲われたと証言する召喚師がいる以上、怖気づいてしまうのも仕方ないのかもしれない。

 

「は、はい……」

 

 意を決して二人は歩き出した。ちなみに今日の空は雨こそ降っていないものの、厚い雲に覆われている。それがまた一段と不安感を煽り立てているのだ。

 

 そんな姿を呆れた目で見ながらバージルはさっさと屋敷の扉を開けて中に入っていった。

 

「あっ、ま、待ってください!」

 

 化け物が出る屋敷に入るのは不安だが、バージルと離れるのはもっと不安なポムニットが急いで彼の後を追う。そして玄関を通ったところにあったのは三階まで吹き抜けの大きなホールだった。奥には二階にあがる階段も見える。

 

「バージルさん?」

 

 ポムニットがホールの真ん中で立っているだけのバージルに声をかけたとき、ミントとパッフェルも到着した。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「すぐにわかる」

 

 バージルはどこか面白そうに言った。そして、その直後ホールには彼ら四人を囲むように人型の何かが降ってきた。

 

「ドレス……の人形?」

 

 パッフェルが確認するように言う。確かに彼女の言葉通り、降ってきたのは様々な種類のドレスを着た人形だった。ただ、あくまでドレスを飾るための人形なのか頭部がついていないのもあるし、あっても顔はのっぺらぼうという人形もあった。

 

 これらのドレスはきっとコレクションの一部だろう。そして、それが着せられていたマネキン人形に悪魔が憑依したのだ。

 

 操り人形を依り代に活動する悪魔を「マリオネット」と呼ぶが、このドレスの人形に憑りついた悪魔も同類と見ていい。この種の悪魔に見られる特徴は順応性の高さだ。武器ごと現れるセブン=ヘルズとは違い、マリオネットは武器も依り代や周囲の環境に左右されるため、たとえ魔界では使われない類の武器も即興で使いこなす柔軟性があるのだ。

 

 現に目の前のマリオネットが持っているのは、屋敷の中から適当に持ち出した年代物の剣や包丁であった。

 

「っ、また……!」

 

 ポムニットが言った。現れたマリオネットは先ほどの八体だけではなかったのだ。さらに正面に一体降りてきたのである。

 

「ひっ……!」

 

 正面のマリオネットを見たミントは口元を押さえながら小さな悲鳴を漏らした。白系のドレスを着せられた人形に憑依したその悪魔は、返り血を浴びたようにドレスを真っ赤な血で染めていたのだ。もしかしたらその血は行方不明になったという召喚師の血かもしれない。

 

「っ!」

 

 パッフェルが反射的にナイフを抜いた。総帥直属のエージェントという肩書に恥じない、暗殺者のような滑らかな動きだ。

 

「邪魔だ。手を出すな」

 

 しかしバージルは誰にも手を出させるつもりはなかった。このマリオネットという悪魔は、バージルも交戦した経験が少なかった。特に正面の血に濡れたドレスを着たマリオネットとは一度もない。見たところ、どうやら血から発せられる呪いのような魔力を利用して脆い人形の体を守っているようだ。

 

 血を流した人間の生への執念と渇望から生まれた魔力が、よりにもよって自分を殺した悪魔を強化することになるとは、殺された者も悔しいだろう。

 

 それはそれとして、戦ったことのない悪魔と戦える貴重な機会だ。そんなチャンスをわざわざ他の者に譲るつもりは毛頭なかった。

 

 一度バージルに視線を移したパッフェルが大人しく一歩下がった時、周囲のマリオネットが一斉に飛びかかってきた。だが、バージルは一瞥もせず周囲に幻影剣を八本出現させ、それをマリオネットに向けて次々と射出し迎撃した。

 

 いくら悪魔とはいっても所詮は人形の体だ。幻影剣の直撃に耐えられるわけはない。おまけに今回の幻影剣は自動で炸裂するように調整されていたのだ。幻影剣が突き刺さるのとほぼ同時に炸裂し、マリオネットの人形の体は容易くばらばらになってしまった。

 

 幻影剣の射出と同時にバージルは、唯一仕掛けてこなかった血濡れのマリオネットに接近し、それを閻魔刀の鞘で殴り飛ばした。

 

 大きな音を立ながら壁に激突した。その衝撃で埃が舞い上がった。

 

「……なるほど、それなりには硬いが、それだけか」

 

 マリオネットがふらふらと起き上がるのを確認したバージルはそう呟いた。今の鞘による一撃は、力を計るための手加減したものだったとはいえ、スケアクロウや普通のマリオネットならば十分殺せる威力は持っていたのだ。

 

 それを受けてなお、無事であるとすればこのマリオネットは通常の個体より二、三倍の力は持っているだろう。しかし、同時にドレスに付着した血液の魔力はあくまで人形の体を強化するものであり、攻撃を強力なものにするわけでないようだ。

 

「もういい」

 

 とりあえず血濡れのマリオネットの大体の能力を把握したバージルはそう宣告し、ギルガメスを装着した右足で再び壁に叩き付けた。激突した音は先ほど同じくらいだったが、悪魔が受けた威力は先ほどとは比べものにならなかったようで、あっけなく粉々になってしまった。

 

 これは、さすがに調査する屋敷を壊すわけにいかないと思ったバージルが、余計な破壊を引き起こさないように物理的な衝撃を鞘当てと同等まで抑えた結果だった。

 

 右足だけに装着したギルガメスを解除し、バージルはホールの中央へ戻った。

 

「いやー、さすがですね!」

 

 先ほどの真面目な態度はどこへやら、パッフェルはニコニコと笑いながら言った。少し離れた屋敷の入り口近くにいたポムニットとミントもこちらへ歩いてきた。

 

「…………」

 

 不意にバージルが天井を見たことを不思議に思ったポムニットは声をかけた。

 

「? どうし……きゃっ」

 

 しかし、言い切る前にバージルに引き寄せられ、体が密着する。それはどうやらミントも同じらしい。バージルを挟んだ反対側には彼女も抱き寄せられていた。

 

(え? え?)

 

 急に抱き寄せられたことにポムニットは驚き、状況をうまく理解できなかった。しかしつぎの瞬間、彼女のすぐ後ろから轟音が鳴り響き、壊された床板が宙を舞った。

 

「人間を庇うか……。やはり、裏切り者の血は争えぬようだな」

 

 そこから現れたのは山羊の頭を持った悪魔、ゴートリングだった。人語を解するこの悪魔はマリオネットのように依り代を介して現れたのではない。自らの肉体を持ってここにいるようだ。

 

 それゆえ並みの悪魔ではないことは明らかだ。さすがに大悪魔クラスではないが、それでも悪魔の中では上位の存在だ。このクラスになると、もはや人間の手に負える相手ではない。

 

 それはこの悪魔を見るだけでも分かる。光の少ない屋敷の中でゴートリングの目は不気味に赤く輝いており、体全体からは強大でどす黒い魔力が感じられる。たとえ屈強な戦士でも恐怖を感じずにはいられない姿だ。現実にパッフェルも無意識のうちにバージルの背に縋るように隠れていた。

 

「ほう……腕もないのに、よく喋るな」

 

 小馬鹿にするような言葉をバージルが発するのと同時にゴートリングの両腕は生々しい音を立てて落ちた。

 

 刹那、驚いたように落ちた両腕に視線を向けたゴートリングだったが、それ以上にバージルに対する怒りが湧いたのか、憎悪に満ちた視線を向けた。

 

「おのれぇ……!」

 

「わざわざ生かしてやったんだ。質問に答えてもらおう。……貴様は何のためにここに来た?」

 

 バージルがゴートリングの腕を閻魔刀で斬ったのはポムニットとミントを抱き寄せる直前である。もちろん殺すこともできたのだが、そうしなかったのは、この悪魔から話を聞くためだった。

 

 二人を抱き寄せたのは、もし怪我でもされたらこれからの仕事に支障でるのは明白であるため、それを防ぐためだった。

 

「忌まわしきスパーダの血族よ! 我らが主に滅ぼされるがいい!」

 

 ゴートリングの言葉はバージルの質問の答えではなかったが、彼にとっては大きな意味を持つ言葉だった。ゴートリングほどの悪魔が「主」という表現を使うほどの存在は唯一つ。魔帝ムンドゥス。

 

 ここ十年近く動きを見せなかったが、通常の方法ではリィンバウムに現れることのできないゴートリングを送り込んだのが魔帝だとしたら、まだこの世界への侵攻を諦めたわけではないのだろう。

 

「ならその主に伝えろ、滅ぶのは貴様だ、とな」

 

 バージルは閻魔刀を抜くことすらない。両腕を失っただけでなく、力の大半を先ほどの一撃で奪われたゴートリングには幻影剣だけで十分なのだ。悪魔の頭上から二十本ほどの幻影剣が降り注ぎ、ゴートリングの体へと深々と突き刺さっていく。

 

 そして最後の一本が刺さり一拍置いた後、突き刺さった幻影剣は一斉に炸裂し、悪魔の体を粉々に破裂させた。

 

「…………」

 

 これでこの屋敷にいる悪魔は全て殺したようだ。もうどこからも悪魔の力は感じない。

 

「いつまでそうしているもりだ。さっさと離れろ」

 

「あ……、ごめんなさい」

 

 ゴートリングへの攻撃が見るに堪えなかったのか、バージルの腕を抱きしめながら顔を押し付けていたミントがはっとして、少し顔を赤くしながら離れた。

 

「お前もだ」

 

 それでもいまだ離れようとしないポムニットに向けて言った。

 

「……はぁい」

 

 至極残念そうにしながらも、渋々ポムニットも離れた。それを確認したバージルは本来の仕事にとりかかるよう言った。

 

「俺は勝手に調べる。お前らもさっさととりかかれ」

 

 そう言い残しとりあえず全体の間取りから確認しようと手近な部屋へ向かっていった。

 

「……それじゃ私たちも調べちゃいましょうか」

 

「なら約束通り私もお手伝いしますね。……あ、パッフェルさん。もし良かったらバージルさんを手伝ってもらえませんか?」

 

 ミントの言葉にポムニットが返答した。どうやら二人は協力して調べる約束をしていたようだ。ポムニットはこの中で年齢も近いため彼女も頼みやすかったのだろう。

 

 そしてミントを手伝うことで生じるバージルの負担は、パッフェルに手伝ってもらい何とか解消しようと考えていた。もっともバージルなら例え一人でもやり遂げてしまうだろうが。

 

「全然かまいませんよ。お二人も頑張ってくださいね」

 

 パッフェルはにこりと笑ってバージルが入っていった部屋へと小走りで向かっていった。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、ポムニットとミントは屋敷の書庫で行方不明になった召喚師の研究内容について調べていた。今回の失踪原因についてはまず悪魔に殺されたとみて正しいだろうが、悪魔に襲われた原因は研究内容にある可能性もなきにしもあらずであるため、一応確認しておくことにしたのだ。

 

「ここにいた召喚師の方ってどんなことを研究してたの?」

 

 ポムニットは読み終わった本を元の場所に戻してきた時、ミントは息抜きのつもりか体を屈伸させていたのでそう尋ねた。

 

「うん、それがサプレスの憑依召喚についての研究をしていたみたいで……」

 

「それって……、いけないこと、なの?」

 

 ミントは少し困ったような顔をしながら答えたため、さらに聞いた。ポムニットも基本的な召喚術の知識はアティから教わっていたため、憑依召喚術についても理解している。ただ、アティの知識は帝国で学んだものであるため、蒼の派閥のとらえ方とは若干の違いがあるようだ。

 

「いけないってわけじゃないけど……、実は派閥では憑依召喚はあまり好まれてなくて……」

 

「……それじゃ、勝手に研究を?」

 

「ううん、元々、ここにいた召喚師は無色の派閥が使う召喚術の研究を頼まれていたらしくて……たぶん、その関係だと思うの」

 

 これについては、無色が使う召喚術についてまとめた研究のレポートを受け取った蒼の派閥から、更なる調査を命じる手紙があったのだ。ほぼ間違いないだろう。

 

 ミントが困った顔をしたのも、やはり蒼の派閥の召喚師である以上、憑依召喚に対してあまりいい感情を持っていなかったせいだろう。

 

「ならきっと大丈夫ですよ。別に悪いことに使ったわけじゃないんですから」

 

「……うん、そうだよね」

 

 少し考えるように間を開けて頷いた。このあたりの己の考えを改められる柔軟さは若さ故か、あるいは師に恵まれたおかげか。いずれにせよ彼女は、ここで研究していた召喚師を色眼鏡で見ないようになるだろう。

 

 それは調査を客観的な視点で行うためには必要なことなのである。

 

 

 

 

 

 一方その頃、バージルとパッフェルは順番に部屋を回り、今は召喚師が使っていただろう寝室に来ていた。

 

「なるほどここで喰われたか」

 

 部屋を一瞥したバージルは一言呟いた。

 

 寝室には大きなベッドと一対の机と椅子、そしてその反対側に大きなクローゼットが置かれていた。机と椅子はベッドに比べ質素な造りをしており召喚師が持ち込んだものであることは容易に想像できた。

 

 しかしそれ以上に目を引いたのは、クローゼットが置いてある側の壁にある赤黒い大きな染みだ。

 

 それが血痕であることは、わざわざ近づいて調べる必要もないほど明らかだ。おそらくこの屋敷に住んでいた召喚師はこの壁の近くで悪魔に喰われたのだろう。壁についているのは、その時に噴き出た血なのだろう。

 

「やっぱりここにいた人が死んだのは、さっきの怪物たちの仕業なんですね」

 

「だろうな」

 

 もっともバージルはこの屋敷から悪魔の存在を感じた時から、こうなっていることは予想できた。むしろ問題はなぜ悪魔に襲われたのかである。

 

 先刻始末したゴートリングは自らの肉体を持っている高位の存在である。それほどの悪魔が現れるほど、この世界と魔界の境界は薄くはない。

 

 それは半年前に戦ったアバドンにも同じことが言える。

 

(地獄門か、あるいは送り込まれたか)

 

 この世界にも地獄門があることは既に二回確認している。一度目は無限界廊で、二度目は島の遺跡で発見した。どちらも稼働できる状態ではなかったが、世界のどこかに稼働可能な地獄門が存在することは否定できない。

 

 しかし、それ以外にもこの世界にくる手段がある。それが強大な力を持つ悪魔に直接送り込まれる方法なのである。例えば魔帝ほどの力を持ってすれば力ずくで恒常的に境界を薄くすることすら可能であるため、たかがゴートリングやアバドン程度を送り込むことは児戯にも等しき仕事だろう。

 

 一応、かつて島で戦ったインフェスタントのようにリィンバウムの魔力の濃度を引き上げれば一時的にでも境界を薄くすることは可能だが、それにはこちら側にいる必要があるし、そもそもそんなことをすればバージルが気付かぬはずがない。

 

「あの、これ何かわかります? 机の上にありましたけど」

 

 そこへパッフェルが一枚の紙を差し出してきた。二十センチ四方の正方形の紙には独特の魔法陣が描かれており、さらには何度も折りたたまれたような跡も見られた。

 

「…………」

 

 バージルが差し出された紙を見ていると再びパッフェルに話しかけられた。

 

「あの……」

 

「今度は何だ?」

 

「実は、お話ししたいことがあって……」

 

 少し言いにくそうにしながら伝える。

 

「この仕事が終わってからだ」

 

「……ええ、そうですね。もちろんです」

 

 視線も向けずに返された言葉にパッフェルは納得したように頷いた。それを気にも留めず、バージルは紙に書いてある魔法陣を食い入るように見つめていた。

 

 幻影剣を使っていることからも理解できるだろうが、バージル自身それなりの魔術の知識を持ってはいる。しかしそれでも、手にした紙に書かれた魔法陣には見覚えはなかった。陣を構成する紋様を見る限り、何かを召喚する魔術だということくらいはわかるが、それ以上は不明だ。

 

 そのため手っ取り早く効果を知るには実際に使ってみるのが一番だ。

 

 当然だが、この考え方はバージルだから通じるものであり、普通の人間がやれば手痛いしっぺ返しを食らうのが関の山だろう。

 

「…………」

 

 バージルが紙に魔力を注ぎ込むと、彼の周囲に魔法陣が浮かび上がった。

 

「なるほどな」

 

 納得したように薄く笑みを浮かべる。バージルは周囲の魔法陣には見覚えがあったのだ。

 

「っ!」

 

 パッフェルが息を呑んだ。魔法陣から姿を見せたのは先程のマリオネットと似たような気配を感じる化け物、ヘル=プライドだった。

 

「え……?」

 

 しかし傲慢の名を持つ悪魔は既に死んでいた。胴体を真っ二つに両断され、出現とほぼ同時に砂と化して消え去ったのだ。その直後ガラスが割れるような音が聞こえたかと思うと、透き通った青い欠片がぱらぱらと雪のように宙を舞い、地面に落ちる前に消えていった。

 

 悪魔が現れる瞬間に合わせるように、幻影剣で攻撃していたのだ。それも、いつものように射出するのではなく、自分の周りに出した時と同じ要領で幻影剣自体を動かして斬り裂いたのだ。

 

「む……?」

 

 とりあえず魔術の効果を確かめたバージルだったが、手元の紙に目を落とすと灰のように粉になってしまい、足元にさらさらと落ちてしまった。紙や魔法陣にもこのような仕掛けはなかった以上、彼が注ぎ込んだ魔力が大きすぎたのが原因だろう。

 

 かつてバージルは島の遺跡で碧の賢帝(シャルトス)に過剰な魔力を注ぎ込み、粉々に破壊したことがある。今回もその時のような意図したものではないが、起こったことは同じことである。要は彼の魔力に耐えられなかったのだ。

 

(しくじったな……)

 

 さすがに魔術の発動に必要な魔力は律儀に紙に書いてあるわけはないため、感覚で魔力の注入量を調整しなければならない。バージルとしてはそれほど魔力を込めたつもりはなかったが、どうやらこの悪魔を召喚する魔術は思った以上に少量の魔力で使えるもののようで、彼が込めた魔力にも耐えられなかったようだ。

 

「今の、あなたが……」

 

「ああ。おかげで今回の顛末を大体は把握できた」

 

 さきほど発動した悪魔を召喚する魔術は、先の事件で無色の派閥が使用していたものと同じもので間違いないだろう。

 

 恐らくここの召喚師はどこからかそれを手に入れたのだろう。その後、この魔術で呼び出した悪魔に殺されたのか、あるいはゴートリングに殺されたのかは定かではないが、悪魔に殺されたのは間違いない。

 

 バージルの個人的な考えでは、この屋敷以外では悪魔が確認されていないため、知能持った悪魔であるゴートリングに殺されたのだと考えている。もし、先ほど現れたような下級悪魔が殺したのであれば、殺した後、なにもいない屋敷で大人しくしているとは考えにくい。サイジェントのときのように手当たり次第に暴れ、この町にも被害が出たはずだ。

 

 ただ、問題はゴートリングが現れた方法である。先ほどは魔帝によって送り込まれたと考えていたが、あるいは魔術によって召喚された可能性も捨てきれない。これまでこの魔術で召喚されたのは全て下級悪魔であるため、証明することはできないが、否定することもできない。

 

(今の段階では情報が足りん。……だがまあ、奴への報告には問題ないだろう)

 

 結局のところ、現状で考えられるのはそこまでであり、それ以上どうこう判断することはできなかった。とはいえ、今回のエクスから依頼ではそこまで詳細な報告は求められておらず、召喚師が行方不明になった理由さえ分かればそれで十分なはずだ。

 

 そう判断し、バージルは調査を切り上げることにした。

 

「俺は先に戻る。……あいつらにもさっさと切り上げろと伝えてこい」

 

 部屋を出る間際、思い出したようにパッフェルに言った。バージルの方は終わってもミントの調査が終わらない限り、ゼラムに戻ることはできない。彼女に自分の仕事は終わったことを伝えることで、少しでもミントの調査が早く終わればいいと考えたのだ。

 

「あ、ちょっと……」

 

 パッフェルは何か反論しようとしていたようだが、そんなことは聞くつもりはなかったため、バージルは足を止めることなく屋敷の出口へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は今月中に投稿できるよう頑張ります。

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ありがとうございました。

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