Summon Devil   作:ばーれい

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第38話 因縁の交錯

 聖王都ゼラムの蒼の派閥本部。その小さな会議室にバージルはいた。同じ空間にいるのは蒼の派閥の総帥であり、バージルに仕事を依頼した張本人であるエクス・プリマス・ドラウニーただ一人だった。

 

「要は悪魔が召喚師の失踪の原因だ。……もっとも、それがサプレスに現れたという魔界の悪魔と関係があるかは知らんがな」

 

 そこでバージルは今回の調査で分かったことを伝えていた。行方不明の召喚師の屋敷には人の手には負えないほどの悪魔がいたこと、そして召喚師の部屋には血痕があったことから悪魔に殺されたのだろうということも含めて話した。

 

「悪魔、それも人の手には負えない悪魔、ね」

 

 報告を聞いたエクスはその中で気になった部分を反芻した。それは召喚師の失踪の原因が悪魔であることではなく、バージルが調査した屋敷で戦った悪魔ゴートリングについてだった。

 

「あるいは召喚術ならどうにかなるかもしれないがな」

 

 戦って感じたゴートリングはフロストより上である、というのがバージルの考えだった。もっともフロストは数を揃えることを前提とした兵士として創り出されたため、比べるのは筋違いかもしれないが。

 

 島での一件でも分かる通り、この世界や四界の力を行使することでフロストを倒すことはできた。それを考えればゴートリングを倒すことも不可能ではないかもしれない。

 

「どんな召喚獣なら対抗できるんだい?」

 

「少なくともそこらの召喚師が使役する召喚獣では無駄だろうな。最低でも……そうだな、ロレイラルなら戦闘用の高性能機、シルターンなら鬼神や高位の妖怪、サプレスなら大天使や大悪魔、メイトルパなら幻獣や飛竜クラスでなければ無駄だろう」

 

 外見からは想像できないほど落ち着いた声で尋ねたエクスに、バージルはできるものならやってみろと言いたげに、鼻で笑いながら答えた。

 

 確かに彼の挙げた高位の召喚獣の一撃なら悪魔に対しても有効な打撃となるだろうが、そういった高等な召喚術を使える召喚師はそう多くはないということを知っていたのだ。

 

 これでもバージルはいろいろな召喚獣を見てきている。アティや護人は召喚術を使うし、かつて世界各地を放浪していた頃は様々なはぐれ召喚獣と戦ったこともあるのだ。

 

「…………」

 

 彼の言葉にエクスは顔を曇らせた。バージルが挙げた召喚獣を呼び出せる召喚師はほんの一握りだけなのだ。

 

 才能が見出されれば召喚師の家系でなくとも養子として迎えられることも珍しくはない蒼の派閥でさえこの状況である。正直に言って現状でゴートリングのような悪魔が現れるようなことになれば対応は後手に回ってしまうことは明らかだった。

 

 もちろん、これからそれほどに強力な悪魔が現れる証拠はないものの、だからといって何も対策を取らぬわけにはいかない。特にエクスのような地位にいるのであれば尚更だ。

 

(いつまでも建前にこだわっているわけにはいかないかな……)

 

 自嘲気味に胸中で呟く。蒼の派閥は召喚術の研究を第一にしてきた研究機関の意味合いが強く、政治への関わりは――少なくとも表面上は――必要最低限度に留めてきた。その不文律をエクスは破ることも視野に入れていた。

 

「報酬は後で届けろ」

 

 バージルは考え込んだエクスに伝えると席を立った。既に依頼の報告は済ませた。もうこれ以上彼の話に付き合う意味はないのである。

 

「ああ、すぐに届けさせるよ」

 

 そのエクスの返事を背中に受けながら部屋を出て、門へ向かった。

 

 いつもはとても静かな蒼の派閥の本部はこの日に限ってはやけに兵士たちが走り回っていた。兵士たちの口からは「見つかったか?」「いや、こっちにはいなかった」などという言葉が聞こえてくるため、誰かを探しているのかもしれない。

 

(召喚師の失踪、か……)

 

 ふと、その言葉が浮かんだ。そもそもエクスがバージルに依頼したのも、元を辿れば召喚師の連続失踪事件に行き着くのだ。結局、バージルが受けた依頼は失踪事件とは関係がなかったが、それでもどこか数奇なものを感じた。

 

 もしかしたら、これから関わることになるかもしれない。そんな予言めいたことを思いながらバージルは歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 蒼の派閥から出たバージルはすぐ近くで待っていたパッフェルに声をかけた。

 

「待たせたな」

 

「いえいえ。それじゃ、早速行きましょう」

 

 彼女は手に持ったバスケットに気を配りながら歩き出した。

 

「ああ」

 

 そしてバージルも続き、二人は連れ立って歩いていく。

 

 これは、屋敷を調査しているときパッフェルが伝えたいことがあるという話をしたが、その時は調査を優先させたため先延ばししていたのだが、今になってようやく時間に余裕ができたのでバージルは付き合ってやることにしたのだ。

 

 しばらくは二人とも無言で歩いたが、目的地の導きの庭園に着くとパッフェルは辺りを見回して誰もいないことを確認するとバージルを見て頭を下げた。

 

「……頭を下げられるようなことをした覚えはないが?」

 

 突然のことに訝しみながらバージルは尋ねた。そもそもバージルがパッフェルと会ったのもつい最近であり、彼女とのやり取りも事務的なものだったのだ。

 

「珊瑚の……いえ、スカーレルから聞きました。あなたが、あの子を助けてくれたって……」

 

 その言葉を受けてバージルは僅かの間沈黙し、過去の記憶を掘り起こしていった。

 

 そしてようやくそれらしき出来事を思い出した。

 

「……なるほど、貴様があのガキの親だったのか」

 

 それはまだポムニットとも出会う前のことだ。この世界におけるスパーダの痕跡を探してゼラムを訪れた際にスカーレルと再会し、頼まれたのが犯罪組織「紅き手袋」のもとにいる子供の救出だった。そしてバージルは暗殺者の屍の山を築きながら依頼を達成したのだ。

 

「ええ、あなたが助けてくれなかったら今頃どうなっていたか……」

 

 悔し気に顔を伏せたパッフェルを見ながらバージルはふと疑問が思い浮かんだ。

 

「……その割に随分と若く見えるが?」

 

 約十五年前、依頼を受けたときにバージルが聞いた説明で救出するのは、かつて無色の派閥と共に島に乗り込んできた暗殺者であるヘイゼルの子供だと説明された記憶がある。それを考えると、当然パッフェルとヘイゼルは同一人物ということになる。

 

 そうであればパッフェルの暗殺者然とした動きにも説明がつくのだが、今度は実年齢と外見年齢がかけ離れているのである。

 

 ヘイゼルとしてバージルと戦った時は、十代後半から二十代だっただろう。それからもう二十年近い年月が経過している。アティや護人のように共界線(クリプス)から魔力を得ているとか、自分のように悪魔の血を引いているなら話は別だが、少なくともパッフェルは普通の人間のようだ。特別な魔力は感じない。

 

「あはは……ちょっといろいろありまして……」

 

 乾いた笑みを浮かべながらパッフェルは言った。どうやら言いたくはないことなのだろう。あるいは今彼女が蒼の派閥直属のエージェントをしていることにも関係するのかもしれない。

 

「まあ、いいだろう。……話が終わりなら俺は帰らせてもらおう」

 

 バージルも興味本位で聞いたことであったため、それ以上追求するつもりはなかった。

 

「それならせめてこれを受け取ってください。私がバイトしているお店で出しているケーキで、どれもおいしいんですよ」

 

 そう言ってバージルに差し出したのはケーキが目一杯入ったバスケットだった。中に入っているいろいろな種類のケーキは彼女の言葉通り、どれもおいしそうに見えた。

 

「……そうだな、受け取るとしよう」

 

 こう見えてバージルは甘い物は嫌いではない。これについては子供の頃、父の稽古の合間に母が作ってくれたおやつに由来するのかもしれない。疲れているときに食べる甘い物は普段よりも格別においしいものなのだ。

 

 バージルはどれもおいしく感じていたが、ダンテはその中でもたくさんの苺をトッピングしたアイスクリームを好んでおり、何度も母にねだっていた記憶があった。

 

 バスケットを受け取ったバージルはパッフェルに背を向けて導きの庭園を去っていった。

 

 パッフェルはそんな彼をもう一度頭を下げて見送った。

 

 彼女がバージルに再び会った時は緊張しっぱなしで、まさかこうして普通に話せるようになるなんて考えてもいなかった。

 

 パッフェルにとってバージルは圧倒的な力と恐怖の象徴だった。それは彼が自分の子供を助けてくれたと聞かされてからも変わることはなかった。かつてあの島で相対したときに思い知らされたことは、長い年月を経ても消えることはなかったのである。

 

 そんなバージルに対する印象が変わっていったのは、彼の仕事に同行したときからだった。表面上はいつも通りの自分を演じていたものの、内心気が気ではなかった。派閥から調査に派遣されたミントは見るからに天然の娘で、彼との相性は決して良くはないと思ったのだ。

 

 だが、実際に共に仕事をしていく中で、自らのバージルという人物に対する評は、間違っていたのではないか、と思うようになっていった。

 

 特に調査を行った館で悪魔に襲われたときには、ポムニットだけでなくミントも守った。もちろん言葉は冷淡で表情一つ変えることすらないが、決してそれだけの、冷酷無慈悲な機械のような存在ではないのだと思ったのだ。

 

 しかし同時に、敵となる者には情け容赦など一切かけない。かつてパッフェルに恐怖というものを思い知らせた存在がそこにいたのだ。

 

 それでパッフェルはバージルという人物を少しだけ理解することができた。自分はバージルに敵対したからこそあれほどの恐怖を思い知らされたのだ。逆に味方であれば性格に難はあれど、あれほど頼もしい人物はいないだろう。ポムニットのように彼を慕う者がいてもおかしくはないかもしれない。

 

 それがわかって彼女はようやくバージルと向き合える気がした。だから彼にもわざわざ時間を取ってもらい、この場を設けたのだ。

 

(それでも、結局は自己満足ですけどね……)

 

 声に出さずに自嘲気味に呟く。

 

 本来であればあの時、子を救い出すのは他ならぬ自分自身でなければならなかったはずだ。にもかかわらず救出の段取りをつけたのはスカーレルであり、実行したのはバージルだった。

 

 結局、彼女の預かり知れぬところで全てが解決していたのだ。おまけに最愛の実子を助けたのは、かつて自分に恐怖を植え付けた男だ。

 

 しかし、パッフェルの心も晴れたかといえば、決してそうではなかった。自分はあの子に対してなにもできなかったという自責の念に苛まれていたのだ。これが子を育てていたのであれば、少しは和らいだのだろうが、彼女は組織が再び襲撃してくることを恐れて、離れて暮らし成長を見守る役目すらスカーレルに頼んだのである。

 

 ちなみに有力幹部ごと聖王国の拠点を失った紅の手袋は、その下手人を突き止めようと躍起になっていたが、それから僅かの間に各地の拠点が相次いで襲われたため、組織の存続に関わるような事態に陥っており、再びパッフェルを襲撃する余裕などは微塵もなかっただろう。

 

(でも、これでようやく先に進めそうです)

 

 そうした事情もありパッフェルはこれまで無力感に苛まれ続けてきたのだ。しかしそれは、これからも変わることはないだろう。彼女が何もできなかったことは変えようのない事実だからだ。

 

 だが、バージルに礼を言えたことで、自分は救出に全くの無関係ではない、少なくとも母としてこの恩人に礼を言うことができた。そう考えられるようになったからこそ、かつての自分と向き合い、一つの区切りつけることができたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 パッフェルからもらったケーキの入ったバスケットを片手に下げ、家路へと着いたバージルは繁華街を通りかかったあたりで、近くからサプレスの悪魔の魔力を感じた。

 

(ポムニット……いや、違うか……)

 

 ポムニットは悪魔の血を引いていることもあり、サプレスの悪魔に似た魔力を持っているが、今感じる魔力は純粋な悪魔のものだった。それがポムニットのすぐ近くから四つほど感じたのである。

 

 この悪魔が何のためにここに来たのかは定かではない。もしかしたら同族の血を半分しか引かないポムニットを殺しに来たのかもしれない。異質な存在の血が入っている者が迫害の対象になるのはどの世界でも似たようなものだろう。

 

 もっとも、四つのサプレスの悪魔たちの魔力から考えれば、束になってかかっても返り討ちにあうのがオチだろう。

 

(せっかくだ。霊界の状況でも聞いてみるか)

 

 別に無視してもよかったのだが、サプレスの悪魔と会う機会などそうそうない。それ故、この機会に霊界の現状を聞き出そうと考え、その場所に向かうことにした。

 

 バスケットの中身のことを考えて少し気を付けながら移動すること数分、大通りから外れた道の先でポムニットとミントが銀髪の人間から声をかけられているのが見えた。

 

 ポムニットはどうやらミントと一緒だったようだ。確かにこの二人は年齢が近いこともあってか、この前の依頼でも仲良く話していたことをバージルも覚えていた。

 

 そしてその二人に話している銀髪の人間が悪魔だろう。変身か憑依かは不明だが人に化けているのだろう。

 

(右に二人、左に一人か)

 

 残りの三体の悪魔は周りの建物の陰に隠れ、こちらの様子を伺っていた。しかし魔力を隠していないため、バージルにしてみれば本当に隠れる気があるのかと言いたいところではある。

 

 とりあえず隠れている悪魔には邪魔をするなという意思表示も込めて、足止め代わりに幻影剣を放った。さすがに敵意を示してはいなかったため、バージルとしてもすぐに殺すつもりはなかったのだ。

 

 そのまま真っすぐにポムニットとミントのもとへ歩く。二人は銀髪の人間に話しかけられ、特にポムニットは少し青い顔をしていた。大方、自身の正体にでも言及されたのだろう。

 

 しかし、バージルの姿を見つけたポムニットは、ほっとしたように表情を和らげた。

 

「おや? どうしました?」

 

 声からすると悪魔が化けた人間は男のようだ。彼は二人の様子を不思議に思い振り返った。

 

「……どこかで見た顔だと思えば、そうか、貴様か」

 

「――!?」

 

 その男はバージルの顔を見るやいなや、みるみるうちに顔を青くしていった。

 

「ほう、サプレスの悪魔は顔を青くすることができるのか」

 

 バージルは小馬鹿にしたように口元を僅かに歪めた。彼はこの悪魔が化けた人間に会ったことがあったのだ。

 

 島を出てから二年ほど経った頃、サプレスの悪魔の軍勢が暴れまわっている情報を得たバージルは、その軍勢と戦うために聖王国北部に出向いたことがある。

 

 その時、明らかに人ではない魔力を持ったこの男を偶然見かけたのだ。バージルは暇つぶしも兼ねて、明らかに不審な行動をしていたこの者の企みを調べることにしたのだ。

 

 その結果、男は人里離れた屋敷で二人の赤子を造っていたことが分かった。しかし、狙っていた悪魔の軍勢の接近していることを知ったため、バージルは詳しいことは聞かずに去ったのだ。

 

 一応、悪魔たちを滅ぼした後に再び屋敷に戻ってみたが、やはりそこには男も二人の赤子もいなかったため、結局、ことの真相は闇の中に消えてしまったのである。

 

「キ、キサマァッ……!」

 

「なるほど、口は利けるのか」

 

 怒りと恐怖、二つの感情が入り交じり感情的になっている男とは対照的に、バージルは見下すような視線で挑発の言葉を続けた。

 

「まあいい、今は貴様を相手にしている暇はない。さっさと失せろ」

 

 別に今ここで殺すことは容易いことなのだが、以前に会ったときは、将来、少しは戦えるようになることを期待して見逃していた。そのため、今回も見逃すことに抵抗はなかったのだ。さらに手に持ったバスケットの中のケーキのことを考えれば、わざわざ戦う必要性も見出せなかった。

 

「……行くぞ」

 

 二十年近く前からリィンバウムにいるだろうあの男から霊界の現状を聞き出せるわけない。したがって当初の目的は諦めるしかなかった。バージルはポムニットとミントに声をかけさっさとこの場を立ち去ることにした。

 

「あの……、ありがとうございます。助かりました」

 

「礼を言われる覚えはない」

 

礼を言われるのは本日、二度目である。バージルは一度目と似たような言葉をミントに返した。

 

「でも本当に助かりました。あのレイムって人、あなたも悪魔でしょうとか、わかんないことを言っていて……」

 

 どうやらレイムというのはあの悪魔の名前らしい。もっとも、それが本当の名前という保証はないが。そしてそのレイムとかいう悪魔が言っていたのはやはりポムニットに関することのようだ。

 

「っ……」

 

 ミントの言葉とポムニットの反応から察するに、どうやらポムニットは己の出自についてはまだ話していないようだ。本人が話さないことをわざわざバージルが説明する必要はない。

 

「くだらん。所詮、悪魔はそんなものだ」

 

 言葉を巧みに操り、人を惑わそうとする悪魔がいるのは、魔界であろうとサプレスであろうと変わらない。力を信じるバージルからしてみれば、言葉で惑わすなど弱者の証明でしかないのである。

 

「え? 悪魔? あの人、悪魔だったんですか?」

 

 あまりにもあっさりとした言葉にミントは思わず聞き返した。

 

「あれからはサプレスの悪魔と同種の魔力を感じる。間違いないだろう」

 

 バージルが彼らを悪魔と断じているのは、自身の感覚に自信を持っているからだ。そしてミントも彼女自身の性分からかバージルの言葉を疑ってはいないようだった。

 

「でも一体何をしているんでしょうか? まさか観光に来たというわけでもないでしょうし……」

 

「さあな。……だがまあ、ロクでもないことを企んでいるだろうな」

 

 悪魔が人に恐れられるのは人に対する害意を持つ者が多く、かつてはリィンバウムに侵攻した過去もあるためだ。おまけに負の感情を糧とするのだから戦う術を持たない人々からすれば恐れられるのも仕方ないだろう。

 

「ロクでもないこと、ですか……」

 

「そうだな……例えば召喚師への復讐あたりか」

 

 ミントの言葉にバージルはそう答えた。

 

 召喚術を行使する際、召喚対象の意志とは関係なし連れて来られるのである。おまけに召喚した者にしか送り還すことはできないため、召喚獣は己を呼んだ者に従うしかないのだ。

 

 しかし、召喚獣にも意思がある。従属を強要されて何も感じないわけでないのだ。特に召喚獣を使い捨ての道具としか思っていない者に召喚されれば、あまりの扱いに召喚者を殺害してしまう事例も珍しくない。

 

 そうした事例が起こるような現状で召喚師を憎むなというほうが無理なのである。

 

「復讐……」

 

「あの、もしかして召喚師の人たちがいなくなっているのに関わっているんじゃあ……」

 

「……確かに、それはありえるな」

 

 ポムニットが口にした思い付きのような言葉にバージルは面白そうに答えた。

 

 その召喚師の連続失踪事件を少数で行うのはあまりにリスクが高すぎる。かといって無色の派閥や紅き手袋といった犯罪組織もサイジェントの一件で、再び多くの戦力を失ったため、そんなことをしている余裕はないはずだ。

 

 そう考えればポムニットの言ったこともありえないことではない。基本的に人間を超えた力を持っている悪魔であれば、きちんとした計画を立てれば召喚師を誘拐、または殺害することは難しくないだろう。

 

「私、先輩に伝えてきます……!」

 

 先輩というのはこの事件を担当することになった召喚師のことだろう。どうやらミントはその先輩が狙われるのではないかと危惧したようだ。

 

「あっ、ちょっと待って! まだ近くにいるかもしれないよ!」

 

 走りだそうとしたミントの腕をポムニットが掴んだ。まだあの悪魔が近くにいるかもしれない以上、召喚師であるミントを一人で行かせるわけにはいかなかった。

 

 そしてポムニットはお願いするような目でバージルを見た。

 

「……今は外に向かっている。じきにゼラムを出るだろう」

 

 視線から頼まれたことを悟ったバージルは溜息をつきながら言った。

 

「なら、それまで一緒にいましょう?」

 

「……うん、ありがとう……」

 

 その言葉を聞いたポムニットはミントの腕を掴んだまま、自宅のほうへ歩き出した。それを見ながらバージルはバスケットを片手に二人の後ろを歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は2月半ばまでには投稿する予定です。

ご意見ご感想お待ちしています。

ありがとうございました。

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