Summon Devil   作:ばーれい

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第48話 開戦

 霊界サプレス。そこの小高い丘の上では魔界の悪魔の中でも有数の力を持つ大悪魔ベリアルが、下の悪魔から人間界に送り込んだ先遣隊の状況を聞かされていた。

 

「……一筋縄ではいかぬか」

 

 眼下にいる無数の悪魔を見ながら呟いた。これらは全てベリアルが支配する軍勢の悪魔なのだ。

 

 配下の報告では、リィンバウムという人間の世界に送り込んだ者たちは、全て倒されたのだという。この一帯を見渡せば分かる通り、実質的なサプレスの支配者である大悪魔のベリアルからすれば、いくらでも代わりがいる有象無象の存在に過ぎないが、それでも人間にしてみれば相当な脅威であったはずだ。いくら召喚術とかいう力を使ったとしても、こんなに早く全滅するとは思っていなかったのだ。

 

「精々、我が行くまで持ちこたえて見せることだ」

 

 こちらの襲撃を知っていたのか、あるいはあの程度の数などものともしない強者がいるのか、それは分からないが、ベリアルに侵攻の中止という道を選ぶつもりはなかった。むしろ生粋の武人でもあるこの大悪魔にしてみれば、むしろ望むところなのである。

 

 常のベリアルなら彼自身が侵攻の一番槍となっていただろう。実際、これまではそうしてきて魔界の一角を支配するまで上り詰めたのだ。

 

 今回、そうしなかったのはサプレスに来る原因となった人間界での経験を基づいてのことだった。スパーダの血族に敗れたのは単純な力の差だけではなく、慢心していた上に、冷静さも欠いていたためだ。

 

 無論、それが敗北した言い訳にはならないことは自覚しているが、少なくともベリアルはもう二度と同じ失敗を繰り返すつもりはなかったのだ。

 

 だから先遣隊を送り込み、さらに後続の悪魔を送り込み続けている。それらと人間を交戦させ疲弊したところで彼自身が現れるつもりでいるのだ。疲弊し、弱体化した相手と戦うなどベリアルにとっては面白くもなんともないが、サプレスとリィンバウムを隔てる結界を自分のような大悪魔が強引に通り抜ければ多少なりとも消耗するのだ。

 

 いくら消耗していても人間相手に不覚をとるなどありえないと思っているが、念には念を重ねて時機を計っているのである。

 

 その間、ベリアルはサプレスで待つことになる。当然、リィンバウムにいる悪魔に直接命令を下すことはできないため、己の代わりを送り込むことにした。

 

 もちろんスケアクロウやセブン=ヘルズなど依り代が必要な下級悪魔ではない。己の肉体と炎をまとった鎌を持った「アビス」という種の悪魔だ。この種はかつて魔帝ムンドゥスも尖兵として使っていたほどの戦闘力を持っており、魔帝不在の今でも他の大悪魔の配下となって戦いに明け暮れているのだ。

 

 ベリアルもそうした大悪魔の一人であった。魔界とサプレスを隔てる境界を越えて多数のアビスを呼び込むのは、いかにベリアルといえど困難であるため、さすがに炎獄を支配していた頃のような数を揃えることはできなかったが。

 

 それでもフロストに準じる戦闘力を持つアビスを相手に、まともに対抗できる手段など人間は持っていないだろう。

 

「…………」

 

 思考を打ち切り、ベリアルは無言のまま首を動かし合図した。背後に控えていたアビスがそれを見て、地面に潜るように消えていく。これであとは霊界に残っていた最後のアビスが悪魔を率いてリィンバウムに行く手筈になっているのだ。

 

 この命令を下した以上、ベリアルがすることは己が現れる時機を見計らうことだけである。実質的に今の合図が攻撃開始の指令でもあったのだ。

 

 

 

 

 

 リィンバウムで悪魔の動きに最初に気付いたのはやはりバージルだった。日の出前の時間帯でさすがのバージルも自分のベッドで寝ていたのにもかかわらず、悪魔が動いていたに気付いたのはさすがと言ったところか。

 

「……どうしたんですかぁ?」

 

 起きた時の物音によって起こされたアティは眠い目を擦りながら尋ねた。まだ頭が覚醒していないのかぼんやりと気の抜けた顔をしている。そんな彼女を尻目にバージルは窓から外を眺めながら答えた。

 

「奴らが動いたのでな」

 

 とは言うものの、先日の時のようにバージルは窓から飛び降りるような真似はしなかった。悪魔の行動はたいして素早くない上に、トライドラからどこを目指すにしてもそれなりの距離がある。

 

 それに本命の悪魔はいまだに姿を見せてはいない。どんな理由があるのかは知らないが、バージルは時間の余裕がある内は待つつもりでいた。

 

 バージルの言葉をアティは数秒経ってから理解した。そして少し青い顔をしながらバージルの隣まで歩いてきた。そこにはまだ夜明け前の静寂に包まれたファナンの街並みがあった。

 

「それじゃあ、とうとう始まるんですね……」

 

「元より分かりきっていたことだ」

 

 悪魔が現れた時点で、戦いは決定づけられていたようなものだ。奴らに話し合いなど通用しない。生き残りたければ戦って勝つしかない。最後の一体に至るまで滅ぼすしかないのだ。

 

「バージルさんは戦うんですよね?」

 

「最終的にはそうなる。だが、まずは相手の出方次第だ」

 

 昨日、パッフェルにはデグレア方面で迎え撃つとは言ったが、そちらに悪魔が行かない可能性も、現時点では捨てきれない。もう少し動きを見る必要があった。

 

「やっぱり私は迷惑、ですよね……?」

 

 アティは自分がバージルにとって戦いの邪魔になっていることは知っていた。先日のファナンでの戦いでは体よく街中の悪魔へと誘導されたことにも気付いていた。そして、その原因が自分の甘さに起因することも。

 

 そしてこれからは始まる戦いにはバージルの力は絶対に必要だ。しかし、自分の存在が邪魔となるのなら――。

 

「戦いの邪魔になるか、という意味なら、その通りだ」

 

「…………」

 

 予想していたとはいえ、はっきりとバージルの口から言われるとやはり悔しく、自分の無力さに嫌気が差す。

 

「だが――」

 

「……?」

 

 そこに続く言葉をアティは予想できなかった。

 

「それ以外でそう思ったことは、一度もない」

 

「っ、はい……」

 

 まさかバージルからそんな言葉を聞けるとは思わなかった。嬉しくて思わず涙が出そうになる。

 

「……それじゃ、私、二人を起こしてきますね」

 

 これからどうするにしてもハヤトとクラレットも一緒にいた方がいい。そう考えたアティは二人を起こしに行くため部屋を出ていった。ただそれ以外にも、泣き顔をバージルに見せたくないという思いもあったようである。

 

 窓から眺める街並みに影ができる。どうやら日の出を迎えたようだ。バージルは悪魔の一挙手一投足すら見逃さないように集中してその動きを注視するのだった。

 

 

 

 

 

 それから少しして、部屋にアティに連れられたハヤトとクラレットがやってきた。そしてテーブルを囲うように座り、アティから簡潔に現状の説明を受けたハヤトは自分達の決めたことについて口にした。

 

「俺たちはやっぱりファナンに残ることにします」

 

 この答えは昨日のうちにクラレットと話して決めたことだった。

 

「ちゃんと考えて出した答えなら、私は何も言わないよ。……でも絶対無茶はしないでね」

 

「大丈夫です。ハヤトは私がしっかり見ていますから」

 

「え? それじゃ、俺がいつも無茶してるみたいじゃん」

 

「……違うんですか?」

 

 これまでの行動を思い出してくださいと言わんばかりに半目で睨んでくるクラレットの言葉に、これまでしてきた数々の行動を思い出す。

 

「……き、気を付けます」

 

 心当たりが多すぎたハヤトは、冷や汗を流しながら苦笑いするしかなかった。

 

「でも、本当に気を付けてくださいね。あなたがいなくなったら、私……」

 

「分かってる。一人になんてしないよ。約束するから」

 

 不安そうな顔をするクラレットを見たハヤトはいつになく真面目な顔で言った。

 

 それを聞いて安心したように柔らかな笑顔を浮かべるクラレットをアティは羨ましそうに見ていた。

 

(いいなあ……)

 

 隣に座るバージルを見る。少なくともバージルがあんなことを言ってくれたことはない。確かに先ほどのように稀に、どきっとすることを言ってくれたが、それだけで満足できるほど乙女心は安くはないのだ。

 

「……なんだ?」

 

 視線に気づいたのか、バージルから声がかかった。

 

「あっ、いえ……、私はどうしようかって思いまして……」

 

 咄嗟のこととはいえ、それはさきほどから考えていたことだった。バージルについて行くという選択肢がないとは言っても、さすがにここで引き籠っているわけにはいかない。

 

 そう考えていたアティを見ながらバージルは口を開いた。

 

「何もすることがないのなら、ゼラムに戻ればいい」

 

 もしかしたらバージルは、ゼラムに残った彼女のことを考えて提案したのかもしれない。もちろんポムニットのことは、アティも心配していたため、戻ることに抵抗はなかった。

 

「ゼラム、ですか。……確かにポムニットちゃんも心配ですし、一度戻りますね」

 

 理由はどうであれ、これまで提案なんてしたことがなかったバージルが、自分のことを考えてくれたという事実が嬉しかったのだ。

 

 それが分かっただけで、先ほどまでのクラレットのことを羨ましく思う気持ちは消えていた。なんだかんだ言ってもアティは、悪魔のことばかり気にかけるのではなく、自分にも構って欲しかったのかもしれない。

 

「俺たちは残って、先生はゼラムに行く。……バージルはどうするんだ?」

 

「……北に行く」

 

 現在の状況を確認して答える。悪魔の動きから判断すると当初の予定通り、デグレア方面で戦うことになりそうなのである。

 

「あの、今はどうなっているんですか?」

 

 クラレットがおずおずと聞いてきた。さきほどもアティに言った通り、ハヤトに無茶をさせないためにも、引き際だけはわきまえなければならない。それには少しでも多くの情報が必要なのだ。

 

「トライドラの悪魔どもは東西と北の三方向に分かれて進んでいる。数はどこも同じくらいだな」

 

 これは三つの国家を同時に相手取るための編成と考えることができる。東に向かっている悪魔は聖王国、北は旧王国、そして西は帝国といった割り当てだ。

 

「西……」

 

 アティとハヤトの声が重なった。二人にはそれぞれ西の方に仲間がいるのだ。聖王国の最西端に位置するサイジェントにはハヤトの仲間がおり、帝国との国境付近にはそこを守備する部隊の指揮官として、アティの古くからの友人であるアズリアがいるのだ。

 

「あの――」

 

「頼みが――」

 

「もとより悪魔とは戦うつもりだ……もっとも、それなりに数がいれば、の話だがな」

 

 何を言わんとしているか分かったバージルは、彼らの言葉を遮って言った。二人に頼まれなくとも北の悪魔を殲滅すれば、次の狙いは西に向かっている悪魔である。

 

 三方面の中で最も早く戦闘が始まるのは、東に向かう悪魔と大平原の西部、ファナンから見て北の方角に布陣したエクスやファミィが率いるだろう軍勢だ。もし戦場がゼラムやファナンになるのなら、戦闘開始時刻は繰り下がることになっていただろうが、大平原に布陣したためもっとも早く悪魔と交戦することになるのだ。

 

 逆に最も遅くなるのは西に向かった悪魔だ。彼らがサイジェントに向かうにしても帝国国境を目指すとしても、あるいは戦力を分けて同時に攻勢をかけるとしても、トライドラからの距離の関係上、三方面で最も遅い戦闘開始となるのである。

 

 そこがバージルにとっては付け入る隙となる。北の悪魔と戦った後でも、さらに誰の邪魔も入らずに悪魔と戦える可能性があるのだ。もちろんバージルがそれを狙わない理由はなかった。

 

「ありがとうございます! アズリアのこと、よろしくお願いしますね」

 

「このお礼は絶対するから!」

 

「……そうか」

 

 バージルにとってこの程度たいしたことはないと考えていたため、礼を言われて少々面食らった。無論、表情には出していないが。

 

 アティとハヤトはバージルに任せれば一安心だと息を吐いた。

 

「さて……」

 

 ようやく話がまとまったところで、バージルは椅子から立ち上がり、壁に立てかけていた閻魔刀を手に取った。それだけでここにいる三人とも、彼がこれからどこに行くか悟った。悪魔との戦いの場に行くのだ。

 

「私も途中まで一緒に行っていいですか?」

 

「ああ」

 

 彼に続きアティも荷物を肩にかけた。目的地は全く別方向ではあったが、正門までは一緒だ。

 

 そしてその二人を見送るため、ハヤトとクラレットは宿の前まで同行することにした。それ以上は二人の邪魔になってはいけないと、遠慮することにしたのである。

 

「気を付けてください」

 

「全部終わったらみんなで宴会でもしようぜ」

 

「いいですね、それ! 盛大にやりましょう!」

 

 ハヤトの提案にアティは随分と乗り気だった。島での宴会を思い出したのかもしれない。

 

「行くぞ」

 

 言葉と共にバージルが踵を返し、アティもそれに続く。正門までの間、どちらからも話し出すことはなかった。正門を抜け、ここで別れるとなってようやくアティから口を開いた。

 

「気を付けてくださいね」

 

 バージルに心配など無用だと思うが、それでも口に出すのと出さないのでは大違いだ。

 

「お前もな」

 

 珍しくそんなことを言うバージルがどこかおかしくアティはくすくすと笑った。

 

「ふふっ、初めて心配してくれましたね」

 

 バージルはアティという人間が自分にとって特別な存在だということくらい理解していた。しかし、何故特別なのか、その理由がわからないでいた。いずれ、それが何なのか明らかにしたいと考えているため、彼女には無事でいてもらわなければならない。

 

「持っていろ」

 

 そんな彼女を真剣な顔で見ていたバージルは、いつも首から下げていたアミュレットを外し、アティに差し出した。

 

「これって、バージルさんがいつも身に着けているものですよね? 私なんかが持っていていいんですか?」

 

「アティ、お前に預ける。戦いが終わった時に返せ」

 

「……はい。必ず返しに行きますから」

 

 真面目な顔でアティはアミュレットを受け取ると、それをバージルがしていたように首から下げた。

 

 母の形見であるアミュレットはその名の通り、悪しきものから身を護るお守りである。果たしてこれを渡したバージルの心中にあったのが、どんな想いであろうと、ただ一つ明らかなのは、アティを案じる彼のさきほどの言葉は、嘘偽りのない真実だということであった。

 

 

 

 

 

 バージルとアティが分かれ、それぞれの目的地に向け動き出した頃、大平原に布陣する聖王国の軍勢は、悪魔との戦闘を開始していた。

 

 今回の聖王国の戦力の中核を担うのは、この国の王たる聖王スフォルト・エル・アフィニティスの住むゼラムを守る騎士団だ。各都市から選抜された優秀な騎士によって構成されている騎士団は、この国における最精鋭の戦闘集団と言えるだろう。さらに今回は、各都市から追加で兵力を増派させ、戦力を増強していた。

 

 おまけに蒼と金の両派閥の腕利きの召喚師も同行している。選ばれた召喚師は、能力はもちろん実戦経験も考慮しているため、騎士との連携にも支障をきたすことはないよう配慮されている。

 

 こうした構成からも解るように、今回準備した戦力は、今の聖王国の準備できる最高戦力と言っていいだろう。

 

 しかし、普段から犬猿の仲と言っても過言ではない蒼の派閥と金の派閥が共に戦うのだ。おまけに悪魔との戦いに間に合わせるには、短期間で臨戦態勢まで整えなければならないのだから、実現などできるはずがないと考えた者が大多数だろう。

 

 それをまとめたのは聖王スフォルトであった。いつもの彼は国政に関する一切を臣下に任せているのだが、遅々として進まぬ迎撃の準備に業を煮やしたのか、ついにその大権を行使したのである。

 

 そうしてようやく編成されたこの大軍勢は、一部の者からは守りはどうするのかと苦言を呈されたこともあった。事実、ゼラムの騎士団はほぼ全てが悪魔との戦いのために動員され、残されたのは治安の維持に必要な僅かな数だけである。派閥の召喚師はさすがにもっと残ってはいるが、彼らは悪魔との戦いに適さないと判断された者であり、防衛のための戦力と見るのは難しいだろう。おまけにファナンも似たような状況である。

 

 つまりはゼラム、ファナンの両都市は極端に防衛能力が落ちているのだ。ここに悪魔が現れた日には大惨事になることは想像に難くない。そのため、当初は悪魔の戦力がおおよそでも判明したら、余剰な戦力は各都市の防衛に充てることにしていたのだ。

 

 しかしどうやらそれは叶いそうになかった。悪魔の数は想定を遥かに超えていたのである。

 

「すごい数……」

 

 悪魔と聖王国の勢力の戦いを遠くから見ていたトリスが、大平原を覆い尽くさんばかりの悪魔の数に驚きと心配が入り混じった声で言った。悪魔と戦う召喚師の中には、彼女の先輩もいるのだから心配したくなるだろう。

 

「……だが、今のところ僕たちの出番はなさそうだな」

 

 最初こそ機先を制された感の聖王国の騎士団であったが、直後に召喚術の援護を得た騎士たちはすぐに態勢を立て直し敢然と悪魔に向かって行った。

 

「さすがは王都を守る騎士団だな……」

 

 感嘆するように呟いたのは先日まで敵だったルヴァイドだ。黒の旅団は彼と腹心のイオス、ゼルフィルドの三人を残し文字通りの全滅となったのである。

 

 これまで敵対してきた相手なのだから捕虜として扱うのが常識的な対応だろうが、ルヴァイドは悪魔と戦いに協力したいと申し出たため、共に戦うことにしたのだ。それには、黒の旅団の一連の行動がレイムによって仕組まれていたことも大きいだろう。

 

「しかしルヴァイド様、果たして今の勢いがいつまで持つか……」

 

 騎士も召喚師も人間である以上、体力や魔力は尽きる時がくる。もちろんそれを考慮に入れて兵を控えさせているのだろうが、心配なのはいまだ大平原に入り込んでくる悪魔が一向に減らないことだ。

 

「ソノ時コソ我ラガ動ク時ダ」

 

 イオスの言葉にゼルフィルドが答えた。彼らがこの場にいるのはただの観戦目的ではないのだ。

 

 聖王国の戦力は役割で分けると大きく二つに分類される。一つは防衛線に配置された者たちだ。もう一つは危機に瀕した箇所に駆け付け、悪魔の突破を防ぐ者たちだ。

 

 前者はこの戦いの中心となる存在で数も非常に多い。今回は防衛線の維持が勝敗を分ける最大の要素であるため、彼らの戦果が勝敗を左右すると言っても過言ではない。

 

 そして後者は速やかな悪魔の撃退が重要となる性質上、精鋭ぞろいのこの集団の中でも特に優秀な者が選抜されているのだ。

 

 マグナ達の役目は、その二重の防衛戦力を突破してきた悪魔の撃退である。マグナ達は戦闘力こそ高くとも、職業、種族、所属がばらばらで、とても騎士団と行動をともにするのは難しいと判断されたため、この役目に落ち着いたのだ。

 

 それでも背負う責任は重い。彼らの背後にあるのは防備もままならない都市である。もし彼らが悪魔に突破されればその瞬間、大惨事が確定するのだ。

 

「あの人が協力してくれればなあ」

 

 マグナの脳裏に浮かんだ人物はバージルだった。大量の悪魔を僅かな時間で一掃するだけの強さを持つ彼が共に戦ってくれるのなら、百万の味方を得たようなものだったのに、と残念に思っていたようだ。

 

「仕方ねえさ。デグレアの方に行っちまったんだろう?」

 

 フォルテはバージルの動向をもたらしたパッフェルに確認するように尋ねた。

 

「ええ、確かにそう言っていました。……それに、もしこちらに来てくれるとしても、まずあちらを片づけてからでしょうね」

 

「いずれにせよ、私たちは為すべきことに力を尽くすしかありません」

 

「相変わらずおカタイねえ、シャムロックは。そんなんじゃ――」

 

 いつも通り真面目な顔で真面目なことしか言わない親友をからかおうとフォルテが声を上げた時、大きな揺れが彼らを襲った。

 

「召喚術……!? ファミィ議長か!」

 

 その正体を一瞬で破ったあたり、ネスティはさすが蒼の派閥の召喚師だろう。ちなみにより具体的に言えばファミィが召喚したのはサプレスの悪魔である「魔臣ガルマザリア」だった。

 

「さっすがお母様ね!」

 

 ファミィの娘であるミニスが母の活躍を我が事のように喜んだ。仲間内でも最年少であるミニスだが、召喚師としての才能は既に大人顔負けだ。しかしその反面、年齢相応に親離れできないところもあるのだ。

 

「あれなら悪魔もただでは済まないでしょうね」

 

 ここにもあれだけの揺れがあったのだから、もっと近くにいた悪魔には大きな打撃となったのは間違いない。

 

 しかし悪魔との戦いに気を取られ過ぎているためか、先日以来、一切姿を見せないレイムのことを気にする者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は6月25日(日)に投稿予定です。

ご意見ご感想等お待ちしてます。

ありがとうございました。



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