Summon Devil   作:ばーれい

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第49話 大平原の攻防

 ファナンを出たバージルは、聖王国の旧王国方面の防衛の要であるローウェン砦で悪魔を待ち構えていた。ローウェン砦はトライドラがレイム達の手で落とされたせいか、人っ子一人いないもぬけの殻だったため、遠慮なく利用させてもらっていた。

 

(さて、向こうはいつまで持つか……)

 

 既に大平原では悪魔と人間の激戦が繰り広げられていることは、当然バージルも気付いていた。

 

 現状では悪魔の攻勢を防ぎきっているようだが、いつまでもつかは分からない。なにしろ今戦っている悪魔は大平原に向かった中の三割ほどに過ぎない。まだまだ後続には戦いに飢えた悪魔が続いているのである。

 

「……来たか」

 

 暇潰しも兼ねて大平原で起こっている戦いに注意を向けていると、ようやくバージルの戦うべき悪魔が姿を見せた。谷間に造られたローウェン砦からはその軍勢の全容がみえないほどの数だ。

 

(この前と同じようなものか、つまらんものだ……)

 

 いくら数が揃っていると言っても、悪魔の軍勢を構成するのは、そのほとんどがセブン=ヘルズなどの下級悪魔である、中には何体かサプレスの悪魔も混じっているが、下級なのは同様だった。

 

 この組み合わせは前回のファナンの時と同じであり、正直なところバージルにとっては、もはやどれだけの数を揃えようと問題にはならないレベルの相手に過ぎないのだ。

 

(いや、それだけじゃない。これは……アビスか)

 

 少し落胆していたバージルだったが、悪魔の中に他よりも大きな力を持つ「アビス」という悪魔が二体ほどいたことに気付いた。その「アビス」という種の悪魔とバージルは、かつてテメンニグルで戦った経験がある。

 

 さすがに大悪魔のような力ではないものの、リィンバウムで見かけた悪魔の中では、フロストと同程度の力を持っており、人間はおろか並みの召喚獣でも歯が立たない強さを持っている存在である。

 

 しかしテメンニグルでバージルは、十体弱のアビスを瞬殺したことからも明らかなように、彼にとってはアビスといえでも雑魚に過ぎないのだ。

 

 しかしそれでも、この悪魔の存在は作業的なルーチンワークのようにすらなってしまう、悪魔との戦いへのいいスパイスになるだろう。

 

 これはある意味、絶対的な強者につきものの贅沢な悩みでもある。

 

 もしかしたらムンドゥスを封じた後のスパーダもこんな悩みを抱いていたのかもしれない。そして弟に至っては、現在進行形で自分と同じ悩みを持っているに違いない。考え方が違うといえダンテも己と同じ伝説の魔剣士の血を引いているのだから当然の帰結だ。

 

「…………」

 

 ローウェン砦の上に立っていたバージルは、迫りくる悪魔を無言で見据えたままギルガメスを装着する。今回は閻魔刀はなしで戦おうと決めたのだ。

 

 特に理由はないが、強いて挙げるなら、アビスとは閻魔刀で戦ったことがあるだけだったため、今度は徒手空拳で戦おうと思った程度だった。

 

 そしてバージルの意識が眼前の悪魔に向いた瞬間、それに呼応するようにギルガメスのフェイスマスクが口元を覆った。そしてそれが戦闘開始の合図だった。

 

 バージルは砦から悪魔たちの上空まで跳躍した。悪魔が地を這う虫けらのように見える程の高さまで飛び上がると、今度は拳を振りかぶったまま、真下に落下していく。

 

 そして地面に着く瞬間、拳を大地に叩き付けた。

 

 爆発的な衝撃波が周囲に広がり、岩盤で覆われた大地は粉々に砕けて二つ割れた。その割れ目がどれだけの深さまで到達しているかは分からない。何しろ底が深すぎて視認できないのだ。

 

 地上、空中の違いはあるとはいえ、今の技はレイムと初めて会った屋敷の床をぶち抜くときに使ったものと同一の技だ。唯一の違いは力を拡散させるか否か点だけである。かつて使った時には、叩きつけた衝撃を拡散させず一点に集中させることで床を抜いたのだが、今使った時は衝撃を周囲に拡散させたのである。

 

 たいして力を込めていなかったが、それでも悪魔を殺すだけの威力を秘めた衝撃だ。直接拳を受けたわけではない周囲の地形も、ただで済むはずはなかった。

 

 左右を挟むように反り立つ崖は、ギルガメスの一撃による余波を受け、次々とひびが入ったかと思うと、がらがらと大きな音を立てて崩れていった。

 

 しかしバージルも悪魔たちもそんなことは歯牙にもかけない。いくら地形が変わろうとも為すべきことは何も変わらないからだ。

 

 ギルガメスによりバージルが着地した周囲から、悪魔が一掃されたが、バージルは己に迫る悪魔の気配を鋭敏に察知していた。

 

(下か……)

 

 地面がまるで水面のように波打った。そこ現れたのは一体のアビスだった。しかし、地面には穴を掘った後はない。そのことからもこれが、悪魔独特の移動方法だと理解できるだろう。

 

 アビスは今のように敵の足元から現れ、斬りつけるような使い方を多用している。悪魔らしい攻撃的な使い方である。

 

 しかしバージルには通用しない。彼はアビスが地面から飛び上がってくるのに合わせて、二連蹴り上げ「日輪脚」を放った。

 

 巨大な悪魔さえ容易く打ち上げる蹴りを、二発とも胴体に食らったアビスは絶命しながら空中に打ち上げられた。同時にバージル自身も蹴り上げの勢いのまま宙に舞い上がった。

 

 そこへもう一体のアビスが炎を纏った鎌を振り下ろしてきた。バージルの動きに反応して咄嗟に攻撃を仕掛けるとは、さすがは魔帝にも使われた悪魔と褒めるべきかもしれない。やはり有象無象の下級悪魔とは違うようだ。

 

 それでもバージルに刃を届かせることはできなかった。彼は鎌が当たる直前で体を捻り、すんでの所で回避したのだ。

 

 もちろんバージルのことである。ただ回避したのではなかった。そのまま空中で体を一回転させ、鎌を振り下ろしたアビスの後頭部に踵落としを食らわせたのだ。

 

 人間とは違って、悪魔は頭に衝撃を受けたからといって脳震盪など特別な反応を起こすことはない。だからといっていくら頭に攻撃を受けても平気なはずでもない。つまるところ悪魔は、許容量の攻撃ならどこに受けても問題はないというだけなのだ。

 

 そのためこのバージルの一撃のように、許容量を超える攻撃を食らってしまったアビスが、あっけなく死ぬのは当然の結末なのである。

 

(もうこいつらは終わりか……)

 

 この一連の流れで二体のアビスを始末したバージルは周囲を探り、もうアビスがいないことを悟った。

 

 やはりアビスはこれまでの下級悪魔に比べ相当マシな相手だったが、いかんせん数が少なすぎた。できるなら目の前に残された悪魔が全てアビスでもいいと思ったくらいだ。

 

(さっさと始末するか……)

 

 当たり前だがそんなことあるはずもなく、残りの戦いがルーチンワークになるのを予感しながら、バージルは悪魔に向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 バージルがたった一人で悪魔を圧倒しているのとは対照的に、聖王国の軍勢は悪魔に苦戦を強いられていた。いくら倒しても悪魔は減る気配は見せず、おまけに戦意も衰える様子もない。むしろ戦うことに喜びさえ感じているように見えるのだ。

 

 実際、大平原に向かった悪魔の数は、ローウェン砦でバージルが相手をしている悪魔と同程度だ。

 

 にもかかわらずここまで苦戦しているのは、一撃で多数の悪魔を屠ることができる手段が限られているためだった。召喚術はよほど高等な召喚獣を呼び出さなければ、複数の悪魔には致命的な一撃を与えられず、その上、それだけの術を行使できる召喚師は決して多くはないのである。

 

 そうした積み重ねもあり、防衛線を突破する悪魔が既に出始めていた。いくら相手は下級悪魔であるとはいっても、その数は尋常ではない。騎士たちも一対一なら後れを取ることはなくとも、相手が複数で、さらに戦いが長引いたことによる疲労の影響で、不覚を取ることが増えているようだった。

 

「レオルド、足を止めて! ネス、とどめお願い!」

 

「了解」

 

 トリスの言葉を受けて、彼女の護衛獣の一人レオルドが腕に装備された銃を連射する。機械兵士ゆえ狙いは正確で悪魔を動きをほぼ完全に抑え込んでいた。

 

 そうやって稼いだ時間でネスティは召喚術を完成させた。

 

「コマンド・オン。ギヤ・メタル!」

 

 召喚したロレイラルの召喚獣「裁断刃機(ベズソウ)」がビームソーで悪魔を切断する。血は噴出さず砂となって消えていくところ見ると、セブン=ヘルズの一種のようだ。

 

「周囲ニ敵ノ反応ナシ」

 

「な、なんとかなってよかったですぅ」

 

 レオルドとレシィが戦闘が終わったことを確認していると、別な悪魔と戦っていたマグナが声をかけてきた。

 

「そっちも片付いたか」

 

 ネスティの召喚術で、これまで戦っていた悪魔を全滅させたことを確認したマグナは、剣を下ろして大きく一息ついた。

 

 こうやって防衛線を突破した悪魔と戦うのはこれで三度目だ。一度目と二度目に相手はほんの数体だったため、たいして手間もかからなったが、今回の相手は十五体ほどであり、その分撃破まで時間を要したのだ。

 

「休んでいる暇はないぞ、マグナ!」

 

 ルヴァイドが声を上げた。彼の視線の先にはファナンに向かおうとしている悪魔の姿があった。今まで戦っていたのはゼラムに向かう悪魔だったから距離はかなりある。すぐに向かわなければ手遅れになるだろう。

 

 マグナがファナンの方に気を取られていると、フォルテとケイナが声を上げた。

 

「おっと、どうやらまた来たみたいだぜ」

 

「こっちは私たちが何とかするから、あっちは任せるわよ」

 

 彼らは自分達二人だけで相手するつもりだったようだが、さすがにそれだけではと考えた他の者も自発的に残り、最終的にフォルテたちは十人ほどで悪魔を迎え撃つことにし、マグナやトリスはルヴァイド達とファナンへ向かうことにした。

 

「急げ! 間に合わなくなるぞ!」

 

 イオスに急かされ、マグナたちは先に行っていたルヴァイドの後を追う。走るのを妨げる障害物はない草原といえども、若干の勾配はあり。それ走りにくさを助長させていた。

 

 さすがに軍人であるルヴァイドやイオスは、こういったことにも慣れているようで平然と走るが、マグナやトリス、アメルなど一般人に近い者達は彼らについて行くのがやっとだった。

 

「ギリギリ間に合うか……!?」

 

 ファナンの正門がだいぶ近くに見えてきたあたりでネスティが呟いた。悪魔と正門の距離、そして自分たちが着くまでに要する時間を考えると、悪魔のファナンへの侵入を止められるかは微妙なところだった。最悪、街中での戦闘も覚悟しなければならないだろう。

 

「誰か出てきた……?」

 

 マグナの隣を走るトリスが目を凝らしながらファナンの門を見る。

 

「誰だろう? こんな時に……」

 

 マグナもその二人の人物を視認することはできた。とはいえそれは、せいぜい人がいることが分かるくらいで、実際のところ顔はおろか男女の区別さえつかなかった。

 

 普通に考えれば住人だと判断するが、マグナはそうは思ってはいなかった。

 

 そもそも逃げようと思った人は昨日までの段階でファナンを出ている。つまり現在まで残っているファナンの人々は、戦いが近いことは知っていてあえて残った人々なのである。残る理由は人それぞれだろうが、そんな住人たちがいまさら逃げるとは思えなかったのだ。

 

 答えの出ない問いをずっと考えていた時、唐突にその人物の一人が召喚術を使った。

 

「嘘……」

 

 トリスが立ち止まり唖然とした様子で呟いた。他の者も口には出していないが同じようなことを考えていた。それほど召喚された存在の威容は凄まじいまのだった。炎のように赤い鱗を纏った山のような巨体。どこかの冒険活劇に出てきそうな竜が現れたのである。

 

 かなり高位の召喚術であることは、現れた竜を見れば明らかだ。彼らの仲間のミニスもシルヴァーナと名付けた竜を召喚するが、それよりも上位の存在であることが、姿からひしひしと伝わってきていた。

 

 召喚された竜は耳をつんざく様な声で咆哮すると、悪魔へ向かって噴火のような莫大な熱量を持つ炎を吐いた。まだ相当の距離があるはずなのに、その炎による熱気がマグナ達のところまできていた。

 

 中級や上級悪魔ならまだしも、ただの下級悪魔にそれだけのエネルギーを持った一撃を受けて、生きていられる道理はなかった。

 

 炎を吐き終わった後に残ったのは、何もない大地だけであり悪魔がいたという痕跡一つ残ってはいなかった。そして役割を果たしたのだろう、竜はゆっくりとその姿を消していった。

 

 一体この竜を召喚したのは誰なのか、マグナたちの最大の疑問はそこであった。悪魔だけを狙ったことから少なくとも敵ではないと思うが、これほどの召喚術を使えながら大平原の戦いに呼ばれていないところ鑑みると、少なくとも派閥に属する召喚師ではないことは確かだ。正体を確かめるべくマグナはさらに速度上げた。

 

 そうして確認できた、竜を召喚した者の正体はマグナにとっては意外すぎる人物であった。

 

「ハヤト先輩!?」

 

「……マグナ?」

 

 そしてそれはハヤトにとっても同じだったようだ。

 

 

 

 

 

 思いがけず再会を果たした二人は、とりあえず互いの状況を簡単にではあったが、説明し合った。ファナンに迫っていた悪魔は倒されたとはいっても、さすがに余裕のある状況ではないため、説明が大雑把にならざるを得なかったのは仕方のないことだろう。

 

「それにしてもハヤト先輩、さっきはありがとうございました。間に合わないかもしれないと思って、焦っていたんですよ」

 

「気にするなって、俺もまさか、国が動くくらい大規模なことになっているなんて思わなかったし」

 

 あらためて礼を言うマグナに、ハヤトは率直な感想を告げた。実際ハヤトは騎士と悪魔が戦っているところを遠目には見ていたが、勝手に一年前の時と同じくらいの規模だと思っていたのである。それがまさか、先ほどの説明で聞いたような大規模なものだったとは思わなかったのだ。

 

 言葉の上では、今回の聖王国側の戦力はゼラムの騎士団と蒼と金の派閥の召喚師であるため、一年前に無色の派閥と戦ったサイジェント騎士団に召喚師を足しただけのように感じるが、実際は騎士団だけで見てもサイジェントとゼラムの騎士団の数には二倍ではきかないような開きがあるのだ。

 

 これは街の大きさや騎士団の果たす役目も関係してくるため、サイジェントが少なすぎるとか、ゼラムが多すぎるなどと一概に言うことはできないのである。

 

「まあ、さすがにファナンから見て、規模を理解しろと言うほうが無理だろうな」

 

 ハヤトが規模を見誤った理由はネスティの言うように見ていた場所からの距離が原因だった。ファナンからでは大平原の戦いも豆粒のようにしか見えないのだ。

 

「……ところで、もう旧王国の方は大丈夫なのか? 昨日の話じゃどうなったかまでは言ってなかったけど……」

 

 旧王国が聖王国に並々ならぬ敵意を持ち、何度も侵攻してきたことがある国家ということはクラレットから聞いていた。もしマグナたちと戦ったという黒の旅団が健在だったらファナンやゼラムが襲われるのではないかと危惧したのだ。

 

「ああ、それならもう話もつきましたし大丈夫ですよ、ただ――」

 

 唯一どうなったか分からない、黒幕的存在のことを話そうとしたマグナだったが、不意に言葉が止まった。

 

「マグナ? どうしたの?」

 

「大丈夫ですか?」

 

 怪訝な様子でトリスが声をかけ、アメルは心配してマグナに寄り添った。

 

「なあ、ネス……。あの悪魔たちってどうなった?」

 

 何かに気付いたマグナが血相を変えてネスティに尋ねた。黒の旅団の目的、そしてそれを操っていたレイム、それらが一つに繋がったような気がした。

 

 きっとマグナは、出てしまった答えがただの杞憂であったことを、確認したかったのかもしれない。

 

「あ……」

 

 それを聞いたトリスもマグナと全く同じ考えに辿り着いた。

 

「悪魔……ああ、あのレイムたちのことか。あいつらなら――」

 

 あれから姿を見せていない、そう答えようとしたネスティだったが、寸前でマグナの考えが理解できた。

 

 それは考えうる限り、最悪な推測だった。特に召喚兵器(ゲイル)の誕生と深い関わりがあるマグナやトリス、ネスティにとっては悪夢以外のなにものでもない。

 

「アメル、レイムがどこにいるか分かるか?」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしたネスティの頼みを受けて、天使の生まれ変わりであるアメルは悪魔を探るべく目を閉じた。何も言わず黙って頼みを聞くところを見ると、もしかしたら彼らが思い至ったことが分かったのかもしれない。

 

「……ごめんなさい。魔力と感情が入り乱れすぎていて、よくわからないんです」

 

「そうか……」

 

 正直なところ、レイムの居場所は一応の心当たりがあった。できるならすぐにでもその場所に行きたかった。もう二度とあれを使われるようなことなどあって欲しくはないのだから。

 

 しかし、そう簡単な話ではなかった。なにしろ本当にそこにいるか確証などありはしないのだ。それにこの場を離れるわけにもいかない。今彼らが離れればこの場を守る者はいなくなってしまう。だからといって一人でも行くのも無茶だ。もしもレイムたちと会ってしまったら、一人では逃げることも難しい。

 

「ネス、どうする? あたしが行こうか?」

 

「みんなで行くのは無理だろうけど二、三人くらいなら抜けても大丈夫だよな?」

 

 トリスとマグナが重ねて言う。やはり二人もこのままではいられないようだ。

 

「君たちはバカか!? もしもあいつらがいたら一人や二人でどうにかなるわけがないだろう!?」

 

 無茶なことを口にするマグナとトリスをネスティは、少しは考えろと言いたげな顔つきで叱りつけた。もちろん言いたいことはわかる。二人くらいなら、抜けてもこの場を守るきることくらいなら何とかできると考えたのだろう。

 

「……なあ、それなら俺たちが行こうか?」

 

 その様子を見ていたハヤトが真面目な顔で言う。この提案は彼なりに考えた末の答えなのだ。

 

「そうですね、私達はどこにも所属していませんし、お力になれると思います」

 

 幸いクラレットも賛成していた。

 

 できるならハヤトも彼らと共に悪魔と戦いたいが、即興の連携で対抗できるほど戦闘は甘くはない。特にぶっつけ本番で挑むことほど危険なものはないのである。だからこそ騎士や軍人は、日頃からあらゆる状況を想定し訓練を行っているのだ。

 

 それを知っているからこそハヤトはこの場は任せ、自分たちは彼らの心配ごとを取り除こうと思ったのだ。

 

「…………」

 

 ネスティは迷った。確かにハヤトたちなら先ほどの召喚術を見る限り、あの悪魔とも互角以上に渡り合える力を持っているのかもしれない。しかし、あの場所にあるのは自分の一族が犯した過ちそのものだ。その尻拭いを、今日初めて会った相手に任せてしまっていいのだろうか。

 

「俺がそこまで案内するよ。だからネスはこっちを頼む」

 

 その言葉に続きマグナと視線を交わしたアメルが口を開いた。

 

「あたしも一緒に行きます。マグナのことは任せてください」

 

 天使の生まれ変わりであるアメルもまた、レイムたちが向かったと思われる場所には因縁があった。特にそこの結界を通るためには彼女の力が必要なのだ。

 

「マグナ……アメル……」

 

 背中を軽く叩きながらそう言った弟弟子を見たネスティは、二人の決意を悟り決断した。

 

「……なら、これくらいを持っていってくれ。剣ばかりで戦うんじゃないぞ」

 

 ついて行けない自分の代わりにとネスティが渡し物はサモナイト石だった。外見から判断するに機界の召喚獣と誓約済みのものだろう。

 

 マグナは召喚術より剣術の方が得意という召喚師にあるまじき存在だ。それでも膨大な魔力を持つため、召喚術も人並み以上に行使できるが、マグナとしては剣を主、召喚術を従と考えているようで、新たな召喚獣と誓約を結ぶことをあまりしてこなかったのだ。

 

 そのためネスティはサモナイト石を渡すことにしたのだ。彼は使ったことはないが、それで呼び出せる召喚獣の攻撃なら、悪魔相手にも十分効果があることを、受け継いできた記憶から確信していた。

 

「ありがとう、借りておくよ。……トリスもネスのこと頼むな」

 

 自分が行けないことになって、ぶーたれていたトリスの機嫌を取るように言う。そのダシにされたネスティは呆れたように、マグナのことを冷たい目で見ていたが、なんとか目を合わさないようにしていた。

 

「ま、こっちはあたしたちに任せてさっさと行ってきなさいよね。アメルも気を付けてね、なにかあったらマグナに守ってもらいなさいよ」

 

 トリスが答えながら、アメルに声をかけた。それ苦笑しながら見たマグナは、二人の護衛獣に言葉をかけた。

 

「……バルレル、ハサハ。悪いけど二人はみんなを守ってくれ」

 

「ハァ? 何言ってるんだテメエ」

 

「ハサハ……おにいちゃんといっしょがいい……」

 

 バルレルもハサハもマグナの言葉には納得できなかった様子だ。しかしマグナも譲る妥協するつもりはなかった。

 

「さすがに四人も抜けちゃこっちもキツイって、それに今はフォルテ達とも別れているし……。だから、二人にはみんなを守って欲しいんだ」

 

 こちらに来たのはマグナとトリスに二人の護衛獣、そしてネスティ、アメルの八人にルヴァイド達三人を足した十一人だ。そこからマグナ、アメルに加え、バルレルとハサハも離脱するとなると、単純に考えても戦力は四割以上減ることになる。

 

 それでは悪魔を阻止するという役割を果たすことは困難だろう。だからマグナはどうしても自分の護衛獣に残って欲しかったのだ。

 

「……仕方ねぇな、さっさと行きやがれ」

 

 最初に折れたのはバルレルだった。お人好しのマグナだが、変に頑固なところもあるのだ。そうなったら梃子でも動かない。

 

「……きをつけてね」

 

 それはハサハも分かっているようで、納得はしていなくても主の意志を尊重するつもりだった。

 

 そんな彼らの様子をハヤトは、仲間のことを思い出しながら見ていた。果たしてサイジェントは大丈夫だろうかと心配になるが、すぐにその考えは振り払った。今はそんなことを考えている場合ではないのだ。

 

「さあ、乗ってくれ」

 

 エイに似た飛行可能な魔獣、飛鷂魔(グレイヌフ)を召喚したハヤトはクラレットを乗せるとマグナとアメルにも促した。

 

「アメル、手を」

 

 ハヤトの召喚した召喚獣に乗ったマグナはハヤトがクラレットにしたように、アメルの手をとって彼女を引っ張り上げた。

 

「よし、行こうか」

 

 四人全員が乗ったことを確認したハヤトは飛鷂魔(グレイヌフ)に合図する。ゆっくり空に向かって動き始めるのを確認すると、後ろに乗ったマグナに目的地について尋ねた。

 

「どっちに行けばいい?」

 

「ここから北の方です! そこにあるアルミネスの森に向かってください!」

 

 アルミネスの森。またの名を禁忌の森。召喚兵器(ゲイル)というリィンバウムの歴史には語られることない存在が封じられたその場所で、何が待ち受けるかはまだ誰にも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず2編終了までの目途が立ったので、投稿間隔を短くしていこうかと思います。

次回は来週7月2日(日)午前0時に投稿予定です。

ご意見ご感想等お待ちしてます。

ありがとうございました。
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