Summon Devil   作:ばーれい

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第59話 喧騒の裏で

 バージルとアティの二人と別れたアズリアは城の前まで来ていた。そこはさすがに大劇場周辺に比べれば劣るものの、多くの人々が楽しそうに話しながら歩いている。

 

 その中で目的の人物を見つけたアズリアは、彼に近づいて声をかけた。

 

「遅くなってすまないな、イスラ」

 

「全くだね、夜まで待たされるのかと思ったよ」

 

 彼女の弟、イスラは前に会った時と全く変わらぬ容姿で嫌味ったらしい言葉を口にする。しかしアズリアは、さすが実の姉といったところかそんな言葉など意にも介さず軽く笑いながら口を開いた。

 

「そう言うな、折角知り合いに会えたんだ。少しくらい話してもいいだろう?」

 

「知り合い? 姉さん、聖王国に知り合いなんていたっけ?」

 

 世界各地を放浪していた自分ならまだしも、仕事一筋でまともに休みを取らなかった姉が、聖王国に知り合いがいるとは聞いたことなかったため、イスラは怪訝な顔をして尋ねた。

 

「アティとバージルだよ。二人で新婚旅行だそうだ」

 

「……は? 何かの間違いでしょ、それ?」

 

 アズリアの返答を聞いたイスラは一瞬、呆然となった。彼の知るバージルとアティは、無色の派閥の手先として島に潜り込んだ時の印象から全く更新されていないのである。

 

 それゆえ、アティはともかくとしても、あのバージルが誰かとそういう関係になるなど想像できない。バージルに対してそんな程度の認識しか持っていないイスラからしてみれば、あの二人が結婚、まして新婚旅行をしているなどという事実は、青天の霹靂もいいところだったのだ。

 

「そんなことなかったぞ。随分と仲睦まじい様子だった。……こちらのことを気にして欲しいくらいにはな」

 

「……人は変わるものだね」

 

 なかなか信じがたい事実ではあったが、姉が遅刻の言い訳でこんな下手な作り話をするわけがないと思ったイスラは、とりあえずは信じることにした。

 

「お前も変わったようにな、イスラ」

 

「…………」

 

 正直、昔の話を持ち出すようなことはやめてほしいとイスラは思う。もうあんなことは二度とするつもりはないし、彼としても、ひねくれていたあの時のことは、思い出したくない過去、まさしく黒歴史なのである。

 

「すまんすまん、昔の話など今はどうでもいいことだな。……それで、あのことだが」

 

 複雑な表情をしたイスラに対し、苦笑しながら詫びの言葉を伝えたアズリアは、辺りを探るように一瞥すると真面目な顔になって弟に尋ねた。

 

「話は歩きながらにしようよ。どうせこの後、あそこに行くんでしょ」

 

 口では軽く言うものの、イスラも周囲への警戒を怠ることはない。曲がりなりにも特務軍人として帝国軍の諜報部に所属していただけのことはある。このあたりの防諜については現役の将軍である姉よりも上かもしれない。

 

「ああ」

 

 そのアズリアもイスラの提案には異論はないようで、二人そろって歩き始めた。そのまま少し歩いたところで、ようやくイスラは口を開いた。

 

「……それで例のことだけど、あいつら予想より早く動くかもしれない」

 

「何故だ? 前の話では、準備にも時間がかかり、実行はしばらく先という話だっただろう」

 

 歩きながらであり、声量も抑えていたが、アズリアは険しい顔をしながらイスラを問い詰めた。

 

「そう睨まないでよ、たぶん一番焦ってるのはあいつらなんだしさ」

 

「……どういうことだ?」

 

 その言葉にアズリアは思わず聞き返した。

 

「計画を前倒しにするのは、武闘大会が開かれている現状なら実行も容易だと踏んだから。おまけに逃げる時もこれだけに人間がいれば目くらましにもなるっていう計算があるんだろうね」

 

「それなら、あいつらは……」

 

「そ、たぶん実行するのは今日だよ。……もっとも準備が間に合えば、の話だけどね」

 

 姉の言葉を引き継ぐように、それでいて、いやにあっさりとイスラは答えた。とはいえ、現段階で何の騒ぎも起きていないところを見ると、まだ計画は実行に移されてはいないようだ。

 

 イスラの言葉を受けたアズリアは少し考えるように無言で黙り込み、しばらくして口を開いた。

 

「……それ以前に成功の可能性はあるのか? 警備は厳重だと思うが」

 

「それが笑っちゃうくらいだよ。会場の中にはそれなりの数の騎士はいるけど、外には数えるほどだし、やろうと思えば僕でもできるんじゃない?」

 

 アズリアと会う前に彼は武闘大会の会場となる大劇場を一通り見てきていたのだ。これはその上での感想だった。ただ、これには目的を達成した後のことは考慮していない。

 

 もちろんそれはイスラも理解しているが、()()を実行しようとしている者達はそんなことを考える輩ではないので、イスラも考慮しなかったのである。

 

「……ともかく、こちらは情報を提供するだけに留めよう。……言っておくが余計なことは口にするなよ」

 

 歩いているうちに二人は目的地である蒼の派閥の本部が少し先に見えている。そしてアズリアは視線を前に向けながらも釘を刺した。

 

 それに対してイスラは肩を竦めて答える。

 

「わかってるよ。さすがに聖王暗殺なんて好き好んで関わるような話じゃないしね」

 

 聖王暗殺。

 

 それこそアズリアがわざわざゼラムまでやってきた理由である。

 

 事の発端は帝国軍が無色の派閥の拠点を摘発した際に押収された文書だった。そこに聖王の暗殺に関すること書かれていたのである。

 

 帝国からすれば他国の、それも旧王国ほどではないとはいえ、良好な関係を保っていない聖王国に関することであるため、本来であれば忠告してやる義務などなかった。

 

 それでもあえて帝国がアズリアを派遣し情報を提供するのは、聖王国とは当面の間は関係を荒立てたくないという思惑からだった。旧王国を第一の仮想敵国としている帝国にとって最悪のシナリオは、旧王国と聖王国を同時に相手取る状況、つまりは二正面作戦である。それを避けるためにも聖王国に恩を売っておこうというのだ。

 

 とはいえそれは国家の事情であり、聖王国への特使の任を与えられたアズリアにも思惑があった。

 

 それは無色の派閥に対するものだった。彼女の父は召喚術の不正利用を取り締まる立場にあり、無色の派閥の活動を幾度も防いだことがある。しかし、その報復でイスラに病魔の呪いをかけられたのだ。

 

 当然、弟の人生を狂わせた無色の派閥にはアズリアも思うところがあった。要はこれを無色の派閥掃討のきっかけにしようと思ったのだ。聖王暗殺などという計画を実行しようとすれば、たとえ失敗に終わったとしても聖王国も黙ってはいないはずだ。そのあたりを考慮して交渉すれば、対無色の派閥で相互の情報交換を行えるくらいの関係を構築できるようになるかもしれない。

 

 それだけでも国家の枠組みを超えて活動する無色の派閥に対する有効な手立てとなるに違いない。そう考えたからこそアズリアは成功を確実なものとするため、一時は無色の派閥に所属していたイスラに協力を求めたのだ

 

 その決断は彼女にしてみればある種、禁じ手のようなものだったのだが、協力を求められたイスラは非常に乗り気だった。呪いをかけられた張本人であるイスラは、散々苦しめられただけに無色に対する鬱憤は半端ではなかったのだ。

 

「……すまんな」

 

「何言ってるのさ。これでチャンスがなくなったわけじゃないでしょ。……それに悪いと思ってるなら、これからも僕に一枚嚙ませてよね」

 

 イスラにしてみれば、暗殺者を自分の手で捕らえ、無色の情報を手に入れたかったが、さすがに暗殺実行間近の現状で勝手な行動すれば、アズリアに迷惑がかかるだろう。それは自分を頼りにしてくれた姉への裏切りあたるため、ここは自重することにしていた。

 

 なんだかんだ言ってもイスラは姉のことが大事なのである。

 

 

 

 

 

 同じ頃、導きの庭園の一角には四人の影があった。それぞれハヤト、クラレット、マグナ、アメルのものである。彼らは二年前の戦いでメルギトスと戦った面々であり、その縁もあって、こうしてたまに集まることがあるのだ。

 

 今回ハヤトとクラレットがここに来たのもそれが目的だったのだが、その場所がゼラムとなったのはまったくの偶然だった。

 

「ここまではみんな順当に勝ち進んでるな」

 

「応援した甲斐もありますね」

 

 先ほどまで武闘大会を見ていたハヤトとクラレットは、知り合いが無難に勝ち進んでいるのを見て機嫌が良さそうにしていた。気持ち的には贔屓にしているスポーツチームが連戦連勝しているようなものだろう。

 

 ハヤトとクラレットは当初の予定であれば、ゼラムではなくマグナとアメルが暮らしているレルム村へと行くはずだった。しかし事前のやりとりで、二人は久しぶりにゼラムの仲間たちのもとへ行くという話があり、マグナから「それならゼラムで集まったらどうか」という提案を受けてゼラムへと来たのである。

 

 そして偶然再会したラムダが腕試しに武闘大会に参加するという話を聞いて、応援することにしたのがこれまでの経緯だったのだ。

 

 なお、大会にはラムダだけでなくシャムロックやフォルテも出場しているようだが、腕試しで参加するラムダとは違い、シャムロックは優勝賞品を使って、どこにも属さず民を守るための騎士団の設立を認めてもらおうと考えているらしい。

 

 だが、フォルテの参加理由については相棒のケイナすら分からないようだった。おまけにそれが原因で喧嘩をしたらしく、ケイナはどこかへ行ってしまったらしい。

 

 それについてはマグナやアメルも心配しないわけではなかったが、フォルテもケイナも自分より年上の存在であり、喧嘩も愛情表現の一つであるという傾向があるため、それほど大事だとは思っていないのが正直なところのようだった。

 

「それにしても混んでたなあ……ここに来るだけでも疲れたよ」

 

 マグナはベンチに背を預け、手足を放り投げながら息を吐いた。この導きの庭園もいつも以上に多くの人で賑わっているものの、武闘大会の会場ほどではない。そこと比べれば、まさしく天国と地獄ほどの違いがあるのである。

 

 彼ら四人は先ほどまで、武闘大会の見物や知り合いの応援していたのだが、ちょうどお腹もすいてきたので少し抜け出して何か食べに行こうという話になったのだ。本来ならトリスとネスティも誘うつもりだったのだが、トリスは大会に出場しているフォルテに会うために出て行き、ネスティは彼女への連絡役として残っていたため、仕方なく四人だけで出てきたというわけだ。

 

「まったくマグナったら、だらしないんだから」

 

「まあまあ、どうせみんなこのまま順当に勝ち進むだろうし、少しくらい休んで行ったって大丈夫だよ」

 

 武闘大会に出ている知り合いはラムダ、シャムロック、フォルテの三人であるため、いずれは仲間内でつぶし合うこともあり得るだろうが、それはもう少し参加者がふるいに掛けられてからのことだ。

 

「そうそう、ハヤト先輩の言う通りだって」

 

 アメルの忠告からハヤトが庇ってくれたことに気を良くしたマグナは、彼の言葉に乗っかるように言った。そうでなくとも、この導きの庭園は蒼の派閥の本部からも近く、彼やトリスもよく来ていた場所である。ある意味彼の庭といっていい場所なのである。

 

「一応、私たちは応援で来ているんですから、あまり長居はダメですよ」

 

 そんなハヤトとマグナの様子を見ていたクラレットは若干呆れたような様子で言った。アメルもしょうがないといった様子であり、どうやら納得したようだ。

 

「よし、それなら出店の方見てみるかな。ほら、クラレットも行こうぜ」

 

「もう仕方がありませんね、ハヤトは……」

 

 そうは言いつつもクラレットは嬉しそうに答え、ハヤトが伸ばした手を取った。

 

「あ、俺、うまい出店なら知ってますよ!」

 

「だったらみんなで行こうぜ。せっかく集まったんだからさ」

 

 ハヤトの言葉に反対する者はなく、マグナの案内で出店に行くことにした。

 

 

 

 マグナのおすすめした店は彼の言葉通り、うまい料理を出しており、昼食を食べた後であるにも関わらず四人ともぺろりと平らげた。

 

 その帰り道でハヤトが先ほど食べた料理のことを思い出しながら口を開いた。

 

「しかし、うまかったなー。おまけに安いし」

 

「でしょ? 俺もよく食ってたんですよ」

 

 満足したように言うハヤトにマグナが同意した。

 

「それにしても、こうしてると昔のことを思い出すな」

 

 部活の帰りに買い食いした時のことを思い出しながら呟いた。あれからまだ五年と経っていないはずだが、随分昔のことに感じられる。それだけリィンバウムに来てから濃密な時間を過ごしてきた証なのだろう。

 

「……そういえばハヤト先輩って名もなき世界の生まれなんですよね? どんなことしてたんですか?」

 

 少し前の集まりで聞いたハヤトの生まれがリィンバウムではなく、名もなき世界であることを思い出しながらマグナは尋ねた。四界についてはある程度の知識を持ってはいるが、名もなき世界についてはマグナも詳しくはなかった。

 

 一応、マグナの仲間にもハヤトと同じように名もなき世界出身のレナードという人物がいるが、彼からは断片的にしか聞いていなかったのだ。

 

「うーん……向こうじゃただの高校生だったからなぁ……。今みたいに友達と買い食いしたり、くだらない雑談とかしてさ」

 

 それが今では五つの界の意志(エルゴ)から力を授かり、リィンバウムを守るという大役を任されているのだ。正直、その役目を全うできているかはハヤト自身にはわからなかったが、自分で選択した道であるため、最後までやり抜くつもりでいた。

 

「意外とこっちと変わらないんですね」

 

 マグナには「高校生」という言葉の意味はわからなかったが、前後の言葉から考えて名もなき世界においてハヤトは一般的な立場だったとは理解することができた。

 

「そんなもんだよ、確かに向こうの方が娯楽は多いかもしれないけど。同じ人間なんだから考えることはたいして変わらないもんさ」

 

「確かにそうですね……。ただ同じ世界に住んではいないだけなんですよね」

 

 クラレットが名もなき世界に行った時のことを思い出しながら言った。さほど長くはない滞在期間だったが、その間のハヤトの家族との交流によって、風習や文化的な違いはあるが、同じ人間であることに変わりはないと感じたのである。

 

「あ、クラレットさんも行ったことがあるんでしたね。クラレットさんから見てどんなところですか?」

 

「えっと、そうですね……、ロレイラルの機械、シルターンの鬼や龍、サプレスの天使や悪魔、メイトルパの幻獣や亜人、実在しているかは別ですけど、いろいろな世界の要素が混ざっていると感じました」

 

「確かに機械はいろんなところで使われているし、シルターンと似ているところはあるけどさ、あっちの世界の人にとっては、龍とか天使とかって本とかで出てくる空想上の存在なんだよ」

 

 アメルから尋ねられて答えたクラレットの言葉にハヤトが補足するように言った。召喚術の存在するリィンバウムではクラレットが口にしたものは全て実在のものとして認識されているため、このままではマグナやアメルに名もなき世界とはとんでもない魔境であると思われてしまう恐れがあったため、あえて口を挟んだのだった。

 

「……そういえば、バージルさんも名もなき世界の出身って話でしたよね? ああいう人ってあっちでは普通なんですか?」

 

「確かに出身は俺と同じだって話だけどさ……。俺の知る限りああいう人はいないと思う。……というより本当に同じ世界の人かも疑うよ」

 

 マグナもハヤトもバージルが名もなき世界の出身であることは知っていた。とはいえマグナはハヤトから聞いただけであり、そのハヤトもアティから聞いただけであるため直接本人から聞いたわけではないのだ。

 

 そんな事情もあり、ハヤトにしてみれば人間とは思えない動きをするバージルが同じ世界出身だとはなかなか思えなかったのだ。

 

「まあ、あの強さですからね……」

 

 マグナは目の前の先輩を慮って同意する。ただ、その言葉はマグナにとっても本音であった。彼がバージルの戦う姿を見たのはほんの数回だけではあるが、その時目にした強さはとても同じ人間とは思えなかったほどだ。

 

「というか俺、あんまりあの人のこと知らないんだよなぁ……」

 

「ええ、サイジェントにいた時も数えるくらいしか会ってませんし」

 

「俺だってそうですよ。話したのが二、三回あるだけで……」

 

「私もです」

 

 そもそも、記憶を遡ってみても四人ともバージルとは話したこと自体少なかったのだ。これでは彼がどういう者か理解することは難しいだろう。

 

「先生はフラットにも何度か来て頂けましたから話す機会は結構ありましたけど……」

 

「そうだよなあ……実際俺やクラレットが知ってることって全部先生から聞いたことだし」

 

 あまり他人と関わろうとしないバージルとハヤトたちの橋渡し役をしていたのがアティだった。彼女がいなければにハヤトやクラレットとバージルが知り合いにもならなかっただろう。

 

「……あの、先生ってどなたですか?」

 

 アティのことを知らなかったアメルは思わず首を傾げた。

 

「あれ? マグナたちってアティ先生と会ったことなかったっけ? 赤い長髪で白い帽子を被ってる女の人なんだけど」

 

「ああ、あの人か! ……でも、見たことはあるけど話したことはないなぁ」

 

 ハヤトの言葉でマグナは以前ファナンでバージルと一緒にいたアティのことを思い出した。しかし、あの頃はレイムやルヴァイドの一件もあったため、彼女のことを気にする余裕はなかったのだ。

 

「そのアティ先生という方とバージルさんはご家族とか恋人とかなんですか?」

 

 そこまでバージルについて詳しいのだからそういった関係なのだろうか、と思ったアメルがその疑問を口にした。

 

「うーん、どうなんだろう?」

 

「……たぶんそれに近いと思います。付き合ってはいないみたいですけど、一緒に暮らしているって話でしたから」

 

 アティはバージルと良好な関係を築いているが、家族とか恋人ではなく昔からの友人とかでもおかしくはないため、ハヤトは答えることはできなかったが、以前にそんな話をアティから聞いていたクラレットは答えることができたのだ。

 

「あ、そうなんですか」

 

 アメルが感心したような声を上げた。そもそも、あの見るからに気難しそうなバージルと一緒にいる時点で、知人程度の関係だとは思っていなかったので、クラレットの言葉には妙に説得力があった。

 

「しかし、ああいう人と一緒ってすごいなあ」

 

 ネスティ以上に気難しそうなバージルとの共同生活を想像したマグナは、素直にアティを称賛した。少なくとも自分だったら、一日二日ならまだしもひと月と共に暮らすことはできないだろう。

 

「……って言うか、本当に付き合ってないの? 二人ともいい年なんだからもっと進んでてもいいと思うんだけど」

 

 本人がここにいないにも関わらず下世話な話をすることに悪いなと思いつつも、それ以上に好奇心が勝っておりハヤトはさらに尋ねた。

 

「どうでしょう? 私が聞いたのは二年前ですから、今は進んでいるかもしれませんし」

 

「まあ、二年あればいろいろと変わりますからね」

 

「まったくだ。本当にそう思うよ」

 

 マグナが苦笑しながら妙に実感のこもった言葉にハヤトが強く同意する。それはマグナもハヤトもこの二年で大きな変化があったがゆえの反応だった。その変化については互いに承知しているし、アメルとクラレットについてはそれぞれの相手方であるため、今更詳しく話すことはなかった。

 

「……でも、もしかしたら本当に進んでいるのかも知れませんね」

 

 クラレットが横を見ながら言っていることに気付いたアメルは、その視線を追っていくと彼女がそう言った理由がわかった。

 

 その先にあったのは腕を組んで歩くバージルとアティの姿だった。

 

「え? ……あ、そうかもしれませんね」

 

 アメルはバージルのことはともかくアティについては知らなかったのだが、クラレットの言葉から彼女が先ほどから話に出てきたアティだと思ったのだ。

 

「……やっぱり進んでたんだな」

 

「ええ、お似合いですね。邪魔しないようにしましょう」

 

「だな。馬に蹴られたくはないし」

 

 そしてハヤトとマグナの二人も同じようにバージルたちの姿を見つけた。あの様子だとデートでもしているんだろうと、あたりをつけた男二人は邪魔しないようにしようと確認し合った。

 

 もっともそれは、このあとすぐに破られることになるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し長くなり過ぎたので分割します。続きは明日投稿予定です。

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ありがとうございました。

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