ゼラムに現れた悪魔への対抗戦力として派遣されたのは、王城を警備する騎士の一部と今日の武闘大会の警備には参加せず、もしもの時のために待機を命じられた騎士達だった。ただ、二年前の戦いで失われた戦力をいまだ完全に補充できていないゼラムの騎士団は、これで予備戦力のほぼ半数を派遣した形になる。
できるなら悪魔へ対抗するために送り出す騎士の数も可能な限り少なくしたかったのだが、現れた悪魔は両の手足の指では数えられない程であるため、確実な殲滅のためにも戦力を出し惜しみは出来なかったのだ。
その上さらに、ハルシェ湖畔にも悪魔が現れたという情報が入ったのだから、これで騎士団の予備戦力はほぼ失われたと見ていいだろう。そして以後、騎士を増派するには武闘大会の警備要員を割かなければならなくなったのである。
「今のところ新たな悪魔はなし、か」
悪魔の魔力を探っていたバージルが、その結果を口にした。ハヤト達がハルシェ湖畔の悪魔に向かってから僅かばかりの時間が経過していた時だ。
バージルとアティは手近なベンチに腰を落ち着け、状況の変化を待っていた。王城前の広場とハルシェ湖畔に現れた悪魔によって齎された恐怖と混乱が二人のいる導きの庭園にまで広がってきたのだろう。周囲の雰囲気もこれまでの落ち着いたものから、どこか焦燥を感じさせるものへと変わってきている。
庭園にいる者達は不安げな表情を浮かべながら足早に住宅街の方へ向かっていた。家に帰ろうというのだろう。
「一体、誰が……」
すぐにでも動きたい気持ちを抑えながらアティはずっと気になっていた疑問を口にした。
「普通に考えて無色だろうな。悪魔を召喚する技術は三年前の時点で奴らしか持っていなかったはずだ」
バージルは口にしなかったが、蒼の派閥の依頼で向かった館でその召喚の術式が書かれた紙を見つけたことがある。そこに住んでいた召喚師はその時既に悪魔に殺されていたため、その入手経路については不明だが、今回も無色の派閥からその技術が漏れた可能性は否定できない。
ただ、そうした技術は召喚術と同じように秘伝となっている可能性が高く、そう簡単に漏洩するとは思えなかったのだ。
「無色の派閥……でも、なんで……?」
「何を言っている、奴らの目的は世界を作り替えることだったはずだ。ならば敵対勢力を滅ぼすのは当然だろう」
忘れたのかと言わんばかりに言い放った。
ただ、実のところ今の無色の派閥に本当にその目的を果たせる力があるのか、と問われれば疑問符をつけざるをえないだろう。二十年近く前からバージルの手で各地の拠点を潰され、それでもようやく少しずつ勢威を取り戻してきたと思ったら、今度はその立役者のオルドレイク・セルボルトも殺害されたのだ。
正直なところ、今の無色の派閥は落ち目なのである。
「それはそうなんですけど、どうして今になって……」
気になるのは、なぜ今日という日に実行したか、ということだった。ゼラムの防備が薄い時を狙うのならば二年前の戦いの直後のほうがいいだろうし、人が多い時を狙うのならわざわざ騎士の大半が大劇場周辺で警備あたっている今日よりも、各国から大勢の人が集まる建国の祭りの日を狙った方がいいのではないかと考えたのだ。
「さあな。何か理由があるのかもしれんし、たまたま準備が整ったのが今日だった、というだけかもしれん」
「…………」
もし自分が悪魔に襲われた人々の立場なら、どんな理由を並べ立てようと受忍することなどできないだろう。それゆえ、今まさに被害にあっているだろう人々のことを考えると辛いものがあった。
「なんであれ、深く考えても無意味だ。どうせすることは変わらん。……俺も、お前も、な」
お前は自分の為すべきことをすればいい、その気持ちを込めてバージルは言った。辛そうな顔をしていたアティはそれを聞いて、大きく息を吐いた。
「……はい、大丈夫です」
(そう言っても、実際のところ怪しいものだな)
他人の苦しみを自分のことのように感じ、悲しむことができるアティは人間として好ましい感性を持っていると思う。しかし、それがあるために彼女は少しでもその苦しみを減らしたくて、自分で背負い込もうとしているのではないかとバージルは考えていた。
心中で彼女への疑惑の言葉を呟いたのもそのためだった。バージルにしてみればアティには自分のことを考えて欲しいと思う一方、そういう考え方をずっと通してきたのがアティという人間であり、そんな彼女だからこそ自分が守るべき存在であるとも思っていたのである。
「…………」
そんなことを考える自分自身をバージルはふっと鼻で笑った。
思えば随分と変わったものだ。これまで誰かを守ろうなどと思ったことは一度としてなかった。いや、ともすると母や弟を守れなかったあの日から、守る資格などないものと思い込んできたのかもしれない。
そんな自分がここまで変わることができた大きな一因はやはりアティだろう。最初はこの世界で初めて会った人間という程度の認識だったが、いつの間にかなくてはならない存在へと変わっていた。
それをはっきりと自覚したのは二年前だが、もしかしたら三年前に
そんなふうに考えているとバージルは唐突に悪魔の魔力を感じた。
「繁華街の近く……来たな」
場所は現在のゼラムで最も込み合っているだろう繁華街付近の、正門から導きの庭園まで通じる大通りだった。おまけに現れた悪魔の数も前の二箇所より多い。これだけで判断しても商店街に現れた悪魔が本命である可能性は高いだろう。
「っ! 早く行きましょう!」
ベンチから立ち上がって今にも走りだしそうなアティがバージルを急かした。
「向こうは混雑しているはずだ。上から行くぞ」
バージルも繁華街に向かうこと自体は反対ではない。しかし、そこにいるだろう人の数と悪魔が現れたことによる恐怖で、現地は混乱の極みにあることは間違いない。おまけにその周辺も離れようとする人々で通ることもままならないだろう。そのため、スムーズに繁華街に辿り着くには建物の上を通るのがベストだと考えたのだ。
「わかりました!」
返事と共にアティは
彼女が抜き放った
「…………」
「? どうかしました?」
姿が変わった自分を無言で見ているバージルのことが不思議に思ったアティはその疑問を口にした。
「その姿は変わらないんだな」
言葉通りアティの姿はこれまで抜剣した時の姿と変わっていなかった。強いて言えば宿る魔力が強くなったためか、これまで白くなるだけだった髪や肌がほんの僅かに青みがかかったくらいだ。正直、魔剣が別物と言っていいほど変化したという話なのだから、抜剣した時の姿ももっと大幅に変わると思っていたバージルにしてみれば肩透かしをくらった気分だった。
「まあ、元々バージルさんの魔力は宿っていましたし……」
「……そういえばそんなこともあったか」
アティが口にした言葉を聞いてバージルはその時のことを思い出す。彼女がこれまで持っていた
「あの時は驚きました。粉々になったはずの剣をバージルさんが持っていたんですから」
微笑みながら言うアティにバージルが冷静に言葉を返した。その間にも二人は導きの庭園から出て、繁華街に向かっていた。
「……確かその時は泣いていたはずだが」
「あはは……、ごめんなさい。情けないところを見せちゃって……」
「かまわん。お前のおかげで俺も得るものがあった」
「え?」
思わず聞き返した。その時はアティ自身も精神的に追い詰められていたため、バージルからは貰ってばかりで彼に何かをしてあげたことはなかったはずである。
「わからんのならそれでいい。……それに、いちいち言うべきことではない」
その時のアティから聞いた言葉で、バージルは母が身を挺してまで自分達を守った理由を悟ったのだ。それは彼の言葉通りわざわざ口に出すような言葉ではなく、バージル自身もつい最近まで自覚できなかったもの。
「はぁ、そうですか……」
腑に落ちない様子だが、もう目的地も近いためそれ以上追求するつもりもないようだ。建物の上を屋根伝いに来たため、スムーズに移動できたが、その眼下では一目散に逃げる者、人波をかきわけながらはぐれた家族や友人を探す者などでひどく混雑していた。
「あれまで行くぞ。ついてこい」
バージルも話はここまでにして、悪魔の現れた場所の近くで比較的高い建物を示した。まずは全体の様子を確認する腹積もりだった。
それより少し前、アズリアとイスラも大劇場へと向かっていた。蒼の派閥で用を果たして出てきてすぐに、悪魔が現れたという話が入ってきた。悪魔が現れること自体は帝国でも決して珍しくないことではあるが、アズリアはそこに作為的なものを感じた。
それは以前にイスラから無色の派閥で悪魔に関する研究を行っていた者がいるという話を聞いていたからかもしれない。そのためか彼女は、半ば直感的に現れた悪魔は陽動だと思ったのだ。
そしてそれと同時にアズリアは現在、聖王がいるという大劇場の方へ足を向けた。彼女は聖王国の兵士ではないが、だからと言って暗殺されそうな者を見殺しにすることなどできなかったのだ。
しかし、大劇場に行く途中で繁華街にも近い大通りでも悪魔が現れたようで、逃げ惑う人の波に押され思うように進めないでいたのだ。
「イスラ! お前は先に行ってくれ!」
周りの悲鳴にかき消されないように腹の底から声を上げた。アズリアは人の流れに逆らいながら少しずつ進めてはいるものの、このペースでは大劇場に着くまでにどれだけかかるかわからない。そのため、弟を先に行かせることにしたのだ。
イスラは何でもそつなくこなす要領の良さがある。無色の派閥の命令とはいえ、若しくて帝国の特務軍人になれるだけの才能は持っているのだ。そんな弟ならこの人波の中でもうまく大劇場までたどり着けるのではないかと考えたのだ。
「はいはい、分かったよ。まったく、人使いが荒いんだから……」
姉には聞こえないように愚痴をこぼしながら、言葉を受け取ったことを知らせるため軽く手を振った。
そしてイスラは人並みの中に消えていった。この状況で流れに逆らっても無駄に疲労がたまるだけだ。それよりも多少遠回りになろうが、人の数が少ないところを進んだいいと判断したのである。
「頼んだぞ……」
もうどこにいるのかも分からなくなったイスラへの言葉を口にする。とはいえアズリアは大劇場に向かうのを諦めたわけではない。すれ違う人々に訝しむような視線を向けられながらも、彼女は一歩一歩前へ進んでいた。
そんな状況が少しの間続いたのだが、唐突に遠くの方からざわめきが聞こえてきた。
「む……!」
それから少しの時間を置いて、繁華街の方から逃げてくる人の勢いが強まったように感じた。同時に恐怖と混乱が伝染するように広まっているように見えた。
(まさか、また悪魔が現れたのか……?)
それならばこの状況も説明がつく。さらに悪魔が増えるなど戦う力を持たない者にとっては、まさに悪夢以外の何物でもないのだ。
「くっ……!」
さすがにこの状況では前に進むことも難しく、とりあえず壁際に身を寄せた。
「あれは……」
その時、アズリアの視界に抜剣し姿を変じたアティとバージルが映った。さすがにゼラム全体にまで波及したこの騒ぎに気付かないはずもなく、アティの性格から考えても放っておけずここまで来たということだろう。
「アティ!」
二人の協力を得られれば心強いと考え、声をかけることした。せっかくの二人きりの旅行に水を差して悪いとは思うが、この事態を鎮静化しなければ二人の旅行もままならないのだとアズリアは自分に言い聞かせた。
彼女の声はアティには聞こえなかったが、バージルには届いていたようで、彼がこちらに視線を向けた。アティもそれに釣られるように大劇場の方向からアズリアの方へと視線を移した。
こちら存在を気付いてもらえるように大きく手を振りながら叫んだ。
「大劇場が狙われている! 頼む!」
いくら周囲の人々は自分のことで精一杯に見えようと、さすがに聖王が暗殺されようとしているなどと叫ぶことはできなかった。
それでもアズリアの言わんとしていることはバージルには伝わったのか、アティに向かって何やら喋っている。二人とは高低差を含めかなりの距離があるのと、周囲の話し声や物音が大きすぎて何を話しているかは聞き取れなかった。
「頼んだぞ」
それでも真剣な顔つきで話す二人の様子にアズリアは自分の言葉が伝わったことを確信していた。
「アズリアはなんて?」
建物の上から人波の中にアズリアがいることをバージルの視線から教えられ、彼女が必死な顔で何か叫んでいたのはわかったが、一部しか聞き取ることはできなかった。周囲の雑音が大きすぎたのだ。
「『大劇場が狙われている』だそうだ」
それでもバージルが聞き取れていたおかげで、アズリアの放ったメッセージは無事にアティに伝えられた。
「大劇場……?」
「聖王が狙いだろう」
ここまで大規模に動いたのだから狙いもそれ相応の人物に違いないとバージルは前から考えており、今大劇場にいる者の中で、最もそれに相応しいのが聖王なのである。
「それじゃあ、聖王暗殺、ってことですか……!?」
「ああ。もっとも暗殺と呼ぶにはいささか派手すぎるな……、それに悪魔も現れたようだ」
暗殺というのは対象の不意を突いて殺害するものだ。それゆえ殺害する際はともかく、それに至るまでは警戒させないように平静を保つのが基本である。しかし、今回の聖王暗殺を狙う者達はその基本すら守っていない。
たとえ悪魔の召喚が戦力を分散させるための陽動であろうと、これだけの混乱を引き起こせば、聖王周辺の守りを固められることは目に見えている。そうなってしまえば、陽動によって薄くなった周囲の警戒網を突破することはできても、肝心の暗殺の難易度は上がってしまうのだ。
おまけに悪魔も現れたのだから守りはより強化されただろう。もしかしたら大劇場から避難も検討されているかもしれない。
「っ……」
アティは逡巡するように眼下で混乱しながらも逃げ惑う人々と、大劇場に交互に視線を向けた。自分がどちらに行くべきか迷っているのだろう。大劇場に行ってしまえば悪魔に襲われている人々を見捨てることになるし、残るのなら聖王、ひいては大劇場にいる大勢の人々が危険に晒されることになる。
「向こうには戦える人間がいるだろう。まずはここからだ」
いつの間にか背に無骨な大剣を背負っていたバージルが言った。彼にしてみればアズリアの言葉に従、いつ敵が現れるか分からない大劇場に行くより、現に悪魔が現れているここに残ったほうがいいと判断しただけだ。
「……はい」
「悪魔は俺がやる。お前は人間を追うやつだけをやれ。」
それに少しでも被害を減らしたいアティの立場を汲んでバージルはそう提案した。彼我の能力からアティが残るよりバージルが残って悪魔と戦う方が被害は少なくなると考えたためだ。
「……分かりました。お願いします」
アティはバージルの方を見て、口を開く。バージルの考えがどこまで彼女に通じたかは分からないが、それでもバージルの提案を受け入れる決断を下したようだ。
そして、その言葉を実行に移すべく建物から飛び降りた。
(さて、こちらも始めるか)
それを見送ったバージルはまだ視界に入らない悪魔達の方へ視線を向ける。周りより高いところにいるとはいえ、他の建物が視界を遮っていて悪魔の姿はいまだ見えないのだ。
背中から無骨な大剣「炎獄剣ベリアル」を抜く。二年前に大悪魔ベリアルを屈服させ手に入れたこの魔具だったが、それ以来戦いらしい戦いはなかったこともあり、ほとんど使ったことはなかったのである。
それが今回悪魔の相手をするということで久しぶりに使ってみようと思ったのだ。
ベリアルを手に下げたまま、今の場所から悪魔を視界に入れられる場所へ飛ぶ。アティのように悲鳴と怒号が飛び交い混乱する大通りに降りる気になどバージルにはなれなかったのだ。
そして目標の建物に着地したバージルは暴れまわる悪魔に視線を向ける。現れた悪魔はやはりスケアクロウとセブン=ヘルズだった。ただ何体かのスケアクロウは体代わりの袋に悪魔の本体である魔界の甲虫が大量に入ったのか、袋がはち切れんばかりに大きくなっていた。おまけに身に着けている刃物も手当たり次第に数を増やしている。そうした特徴からこの悪魔はメガ・スケアクロウと呼ぶのが適切だろう。
セブンヘルズはヘル=ヴァンガードなど強力な存在はいないが、赤い服を着て素早い動きが特徴のヘル=ラストが多いようだ。
膨れ上がったスケアクロウは刃物ついた体を回転させ突進することで人々を次々と惨殺し、ヘル=ラストもその身軽さで次々と人々を手にした鎌で殺害している。
人々は少しでも悪魔から離れようと導きの庭園の方向に逃げる者と正門へと逃げる者に分かれており、悪魔も二手に分かれてそれらを追おうとしているようだった。
「…………」
その様子を見たバージルは正門側に着地した。庭園側にいるアティと合わせて悪魔を封じ込める配置となった。
降り立った場所からは殺された人々や抵抗するも返り討ちにあった騎士の死体や、そこから流れる血で赤く染まっていた。ただ、悪魔はそれらの死体には目もくれない。どうやら死体には興味がないらしく、逃げ惑う人々に殺到しているようだった。
バージルは炎獄剣ベリアルに魔力を込める。ただの岩石を削り出したような大剣が炎を纏う。
バージルの発した魔力に反応したのか、人々を襲っていた悪魔は一斉にバージルに向き直った。いくらまともな知性すら持たないスケアクロウやセブン=ヘルズでも、己を脅かす存在を無視して獲物を追い回すほど愚かではなかった。
「Come on」
言葉と共にベリアルを地面に突き刺す。すると逃げる人々と悪魔を分断するかのように炎の壁が上り、周囲の空間からバージルと悪魔を隔離した。アティには人間を追う悪魔を任せると言ったが、そもそもバージルは悪魔を逃がすつもりなどなどなかったのだ。実際、何体かの悪魔はゼラムの民を追おうとしていたようで、炎に巻き込まれ焼き尽くされた。
そのまま近くにいたメガ・スケアクロウに向けてスティンガーを繰り出した。
深々と突き刺された悪魔はベリアルの纏う炎が燃え移り、火達磨となったままビリヤードボールのように他の悪魔へと衝突し、炎はどんどん他の悪魔へと燃え移り広がっていった。
その様子を尻目にバージルはベリアルに魔力を込めて、回転させながら空中に放り投げた。バージルの意志を受けて悪魔群れの中心で止まったかと思うと、ベリアルは炎の竜巻を巻き起こした。ラウンドトリップである。
自然に発生する竜巻に比べれば随分小さいが、その破壊力はバージルが作り出した炎の竜巻の方がずっと大きい。とはいえ、スティンガーや次元斬のように大悪魔でも致命傷を与えられる技と比べれば威力は相当に劣っているようだった。
しかし、ラウンドトリップの長所は威力にあるのではない。バージルの意志で自由に操れる点と効果範囲にある。下級悪魔や中級悪魔が相手であればこれだけで殲滅できるほどの汎用性を持つのである。もっとも、そうした使い方をバージルは好んでいないが。
当然、今回のようなスケアクロウやセブン=ヘルズが耐えられるようなものでもなく、次々と竜巻の中へ引きこまれ、剣自体に切り刻まれたり、炎に焼かれたりして殺されていった。
頃合いを見てバージルはベリアルを呼び戻した。スティンガーで吹き飛ばしたメガ・スケアクロウとラウンドトリップによってあらかたの悪魔は片付いたようだ。
「あれが最後か……」
視線の先にいたのは一体のメガ・スケアクロウだ。地面に突き刺した鎌のような刃物のおかげで、竜巻に引き寄せられないように踏ん張ることができたのだろう。
そのまま悪魔は体を回転させ、バージルに向かって転がってきた。刃物が地面と擦れ火花が散る。これで何人もの人間を切り裂いてきた体格を生かした単純ながらも強力な一撃だ。
「Go to hell」
バージルはベリアルを逆手に持ち替えて振り抜いた。それにより発生した斬撃はメガ・スケアクロウと激突し、容易く悪魔を両断した。本体が殺され勢いだけが残された刃物はバージルの両脇を抜け、いまだ残っている炎の壁に突っ込んで融解していった。
全ての悪魔を殺したバージルは炎獄剣ベリアルを背中に戻した。同時に周囲を囲んでいた炎の壁もゆっくりと消失していく。
それが完全になくなった時にはもうバージルの姿はどこに見当たらなかった。
次回更新は10月22日(日)頃を予定しています。
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