Summon Devil   作:ばーれい

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第68話 名付けるということ

 剣の軍団を名乗る者達を撃退した翌日、その場に居合わせた者たちは忘れじの面影亭の食堂に集まっていた。一応竜の子もいるが、まだ疲労が残っているのか隣のテーブルで小さな寝息を立てていた。

 

 その場でグラッドとミントに最初に求められたのは、フェアやリシェルたちが知っていることを全て明かすということだった。これには昨日リシェルがグラッドから問い詰められそうになったことも当然含まれていた。

 

「なるほど、それならあの子は最初から狙われていたってことか……」

 

 ネロを除いた三人から最初に見つけた時に、不審な男たちに竜の子を引き渡すように高圧的に言われ、それを断ったら実力行使に出たという話を聞いたグラッドが考えをまとめるように言った。

 

 それを聞いたネロの脳裏にふと疑問が思い浮かんだ。

 

「なあ……、そもそも何であいつがあそこに落ちるなんて知ってたんだ? ……というかそれ以前に、タマゴが落ちてくるってよくあんのか?」

 

 ネロやフェアたちが竜の子を見つけたのは完全な偶然だ。もしどこかで違った行動を取っていたらあの場に居合わせることはなかっただろう。しかし、最初に竜の子を奪おうとしてきた者たちは違った。

 

 奴らは最初から竜の子だけを狙っていたのだ。まさか偶然にも、竜の子を狙った者がそこに居合わせたと考えるのはさすがに都合が良すぎるだろう。おそらく彼らは、あらかじめタマゴが落ちる場所に目星を付けていたに違いない。だからその近くで待ち伏せすることができたし、実際にしていたのだ。

 

 しかし、どうやって落ちる場所を予見できたが謎だ。

 

 もっとも、タマゴが流星のように落ちてくること自体、ネロの想像の域を超えているのだが。

 

「たぶんあの子は至竜だから、タマゴはその力が関係していると思うけど……、その人達がどうして落ちる場所を知ったかはわからないなあ」

 

 ミントは自分が答えられそうな部分だけ話した。昨日の竜の子を見たときもそうだったが、どうやら彼女は竜について一定の知識を有しているようだ。

 

「至竜?」

 

 それはフェアにとっても初めて聞いた言葉だった。

 

「あっ、至竜っていうのはね、簡単にいえば高い知能と魔力を備えた竜なの。特に年齢を重ねた至竜は、人間よりもずっと豊富な知識を持つとも言われているの。たぶんあの子もその至竜の力でここまで来たんだと思うの」

 

 ミントの簡潔な説明を聞いたネロは心中で呟いた。

 

(つまり至竜だかが、そうしなきゃならない状況になったってことか)

 

 逆説的な考え方だが、竜の子の親にあたる存在がここまでタマゴを飛ばしたということは、そうしなければならない理由あったということだ。至竜は人間とは違う存在だろうが高い知識を持つのであれば、無闇に実の子を飛ばすようなことはしないだろう。

 

「…………」

 

 その理由を推し量ることはできるが、何の確証もなしに言っていい内容でもないため、ネロはそれを口にすることはなかった。すると今度はリシェルが話を切り出した。

 

「そもそもあいつらって何者なの? 随分数は多かったみたいだけど……」

 

「昨日のあいつらはあのレンドラーとかいう男の指揮のもとで動いていた。盗賊とかよりは俺たち帝国軍に近い存在だろうな」

 

 リシェルが口にした疑問をグラッドが答えた。動きを見ただけで判断できるとは、さすが軍人といったところか。

 

「たしか『剣の軍団』だっけ?」

 

 昨日のことを思い出しながらフェアが言う。見るからに策謀とは無縁そうなレンドラーが、そう名乗りを上げていたのだから虚偽ではないだろう。

 

「……たぶん他にも、昨日の人たちみたいなグループがあると思う。そうじゃなきゃ、わざわざ名前をつける必要なんてないもの」

 

「確かに昨日と一昨日の人たちは全然違う雰囲気だった気がする」

 

 ミントの言葉を受けたルシアンが率直な感想を言った。それはネロも感じていたことだった。昨日の相手が指揮官のもとで戦うに戦闘部隊のような戦い方をしていたのに対し、一昨日の相手は集団で得物を追い詰める獣の戦い方に近かったのだ。

 

「……いずれにしろはっきりしているのは、奴らが犯罪行為も厭わない危険な組織だってことだ」

 

 最初の男たちはまわりに人の目がなかったから強硬な手段に出たとも解釈できるが、昨日の者たちは帝国軍の軍服を着た軍人であるグラッドを前にしても、あの通りだったのだ。グラッドの言うことは間違いないだろう。

 

「犯罪組織……ぱっと思いつくのは無色の派閥や紅き手袋ですね」

 

 ミントが連想した組織の名前を挙げる。どちらもリィンバウムではあらゆる所まで根を張り巡らせた悪名高き犯罪組織だ。

 

「ええ、そうです。ただ――」

 

 グラッドがミントの言葉に同意しつつも何か言おうとした時、フェアの言葉に遮られた。

 

「無色の派閥? 紅き手袋?」

 

 のどかな宿場町のトレイユからほとんど出たことがない彼女には、どちらの名も聞き覚えがなく先ほどの「至竜」という言葉同様につい声に出してしまったようだ。

 

「無色の派閥は、召喚師の支配する世界を作るために破壊活動をする集団のことよ」

 

 同じ召喚師であるミントだが、無色の派閥の思想は全く意味不明なものだった。金の派閥であれば、利益を第一という考えに同調はできなくとも、そうした考えを持つことは不自然ではないし理解もできる。

 

 だが、どこをどう考えれば世界を支配するために今の世界を破壊しようという発想がでてくるのだろうか、ミントには全く理解できなかった。

 

 そしてグラッドが彼女の言葉を引き継ぎ、紅き手袋のことを説明した。

 

「そして紅き手袋は殺人、強盗、誘拐と金を積めば何でもやるろくでもない奴らのことだ」

 

(要はマフィアみたいなやつらが相手ってことか)

 

 組織の名前を言われても全くピンとこないネロは、とりあえず人間界の組織化された犯罪集団を思い浮かべることにした。

 

「……ただ、無色にしても紅き手袋にしても、今はこんなことしてる余裕なんてないはずだけどな」

 

 少し解せないな、というような顔をしながらグラッドは言った。

 

「どうして?」

 

「……一時期かなり弱体化した両方の組織を、派閥の最大勢力の長が立て直したらしいんだけど、それも聖王国のサイジェントで起きた事件で壊滅した、確かそうでしたよね?」

 

 実のところミントはそのサイジェントの一件に関しては、直接関わった友人から話を聞いたことがあった。もっとももう五年は前のことであったため、さすがに細部までは記憶していないが。

 

 ミントの確認にグラッドはやけに丁寧に言葉を返した。

 

「まさしくその通りです。……むしろ、そちらに関しては駐在軍人の自分よりも詳しいと思います」

 

 帝国軍の一員とはいってもグラッドは一介の駐在軍人に過ぎない。そんな彼が手に入れられる情報といえば、定期的に送られてくる記録集のようなものだけだ。おまけにそれに記載されている内容は、機密と呼ぶことすらないだろう当たり障りのないことだけなのだ。

 

 当然、自国ならともかく他国で起こった事件に関して詳細に記録されているはずもなく、ミントが言った「弱体化した両方の組織を、派閥の最大勢力の長が立て直した」という話は初めて聞いたものだったのだ。

 

「結局、その無色だか紅だかとは関係ないってことだな?」

 

 確かめるようにネロは言う。関係ない奴らの話をするのは後でもいい。今はこれからのことを話し合わなければならないのだ。

 

「ああ、そう考えて間違いないだろう。ただ、だからって安心はできないからな」

 

 結局、敵が何者なのか特定するには手がかりが不足しているのだ。そのあたりはグラッドも理解していたようで、生易しい相手じゃないと理解してもらえば十分と考えているようだった。

 

「それで、その竜の子なんだが……正直、俺の手には余る。軍に保護してもらった方がいいと思うんだ」

 

 グラッドにとってはそれが本題だった。昨日は何とかなったものの、その立役者のネロはいつまでこの町にいるか分からない。もし、彼が去ってしまった後に奴らが来たら彼一人で対処できる自信はなかったのだ。

 

「それはつまり……あの子と別れなきゃいけないってことよね……?」

 

「でも、ここいるより軍に保護された方が安全だ」

 

「……本当にそうか? その割に随分扱いの悪い奴らがいるみたいだが」

 

 ネロが言う「扱いの悪い奴ら」というのは召喚獣のことだ。彼自身この世界に召喚された初日にいざこざを起こしたのだが、その原因は彼の右腕を見て。はぐれ召喚獣と誤認した兵士が高圧的な態度をとったことだった。そうした経験もあり、ネロはどうにも帝国軍という存在を信用できないでいるのだ。

 

「そうだよ! それに帝国には珍しい召喚獣を研究する施設があるんだ! あの子もきっとそんなところに連れて行かれちゃうんでしょ!?」

 

 珍しく声を荒げたルシアンがグラッドに噛みつく。

 

 それを聞いたフェアは驚き目を見開いた。

 

「それ、ほんとなの……?」

 

「至竜が貴重な存在で研究の対象になるのは事実よ。ただ、それは帝国に限らず、蒼の派閥でも金の派閥でも同じなの……」

 

 ミントの所属する蒼の派閥は召喚術を通しての研究であるため、召喚獣が研究対象になるのは自明の理であった。彼女自身も各世界の植物を召喚して研究を重ねているのだから例外ではない。

 

 もっともミントは、召喚獣を酷使するような研究はあまり好きではなかった。それは彼女の研究自体普通の作物の栽培とたいして変わりないところからもわかるだろう。

 

 しかし、その胸中までは分かるはずもなく、その言葉を聞いたリシェルは叫んだ。

 

「何よ、それ……! それじゃあ、どこに連れて行かれたって同じじゃない!?」

 

 あの剣の軍団が手に入れた竜の子を使ってなにをしようとしているのかは分からない。ただ、犯罪行為すら辞さない強硬な態度を見る限り、帝国軍や蒼の派閥に預けた場合よりマシな扱いを受けられるとは到底思えない。

 

 研究の対象になることすら許せない彼女たちが、どこに保護されても一緒と考えるのは無理もないことだった。

 

「だからって、このまま俺たちだけで守り続けるのは難しいだろ?」

 

「そうよ。敵は昨日の人たちだけじゃない、他にもいるかもしれないのよ」

 

 グラッドもミントも竜の子に対してなんの感情も抱いていないわけではない。狙ってくるような者たちさえいなければ、この町で保護することになんら異議を挟まなかっただろう。それでも二人がこうして三人を説得しようとしているのは、弟や妹のように思う三人に危険な目に遭って欲しくないだけなのだ。

 

「……でも、私はこのまま投げ出すなんてできないよ……! そんなの勝手すぎるじゃない!」

 

 自分たちで連れてきたのにも関わらず、また自分たちの都合だけで竜の子を手放そうとするのはあまりにも無責任だ。たとえ相手が犯罪組織であろうとも最後まで責任を果たすのが当然だと思ったのだ。

 

「……………」

 

 ネロは必死に訴えるフェアを見ていた。

 

 三人の身の安全を考えるグラッドたちの考えは正しいと思う。しかし、人は感情を持つ生き物だ。いつでも理性的に判断できるとは限らない。そして、時には心の思うままに行動した方がよい結果を得られることもあるのだ。

 

「いいじゃねぇか、面倒見てやってもよ」

 

 ネロもまた己の心に従いフェアたちに賛同の意を示した。彼にとっては正論よりも自分が納得できる方を選択したのだ。

 

「ネロ……」

 

 ずっと沈黙を守っていたネロが賛成してくれたことに驚き半分、嬉しさ半分といった様子でフェアは彼の名前を口にした。

 

 彼女は正直なところは先ほどまでほとんど喋っていなかったネロは、この件にはほとんど興味がないものとばかり思っていたのだ。何しろ竜の子を連れてきたことにネロは関係していない。連れてきたのは自分達三人であり、彼はあくまで一緒に見つけただけだ。

 

 ネロにしてみれば今回の一件はほとんど巻き込まれたようなものといってもいいかもしれない。

 

「しかし……」

 

「そりゃ俺だっていつまでもここにいるわけにはいかないけどよ、それでも、途中で放り出したりはしねぇよ」

 

 グラッドの言葉を遮ってネロは言った。彼としても一刻も早く帰還の方法を探したいところだが、ここでフェアたちを見捨てたらキリエに合わせる顔がない。彼女なら間違いなくフェアたちや竜の子を見放す選択はしないだろうし、むしろ自分から解決に向けて動くだろう。

 

 それにネロは、この件に関わることで人間界、ひいてはフォルトゥナへの帰還できるきっかけになると感じていた。何の根拠もないことではあったが、こうした勘にも似た感覚が外れたことは、今まで一度もなかったのだ。

 

「はあ……、仕方ない、わかったよ」

 

 強い口調で断じたネロに、グラッドは説得を諦めるしかなかった。昨日、ほぼ一人で剣の軍団を撃退した彼が、ここに残り協力するという決断をしたのであれば、竜の子を守り続けることは難しいというグラッドの言葉は信憑性に欠けるものになってしまうのだ。

 

 対してミントは、みんなが決めたことなら文句を言うつもりはなかった。むしろこれからのことを気に掛ける余裕もあるようだ。

 

「でも、これからどうするの? 竜は今より何倍も大きくなるし、寿命だって人よりずっと長いのよ」

 

「あたしとしては大きくなる分には全然構わないんだけどね」

 

 リシェルは派手好きなのか、むしろ今すぐ大きくなって欲しいと言わんばかりの顔だ。

 

「リシェル……、そうなったら私たちだけじゃお世話できないでしょ」

 

 後先考えないリシェルにフェアは呆れたように突っ込む。そしてさらにルシアンも言葉を続けた。

 

「そうだよ、姉さん。それに一番いいのは、親や仲間のもとにいることじゃないかな」

 

「そうだよ! それなら私たちで会わせてあげればいいんだよ!」

 

 竜の子のことを考えて言ったルシアンに、その手があったかとフェアが声を上げた。タマゴから生まれたのだからきっと親もいるはず。だからその親に会わせてあげるのが、この子にとっても一番いいと考えたのだ。

 

「…………」

 

 ネロとしてもそれが出来るなら文句はない。しかし、心のどこかで親はもう死んでいるかもしれないと考えているのも事実だった。親の竜は自分の身に危険が迫ったから、せめて我が子だけは危険から遠ざけようとタマゴのまま空に放ったのではないか、そんな推測がずっと頭に浮かんでいるのだ。

 

 そんなネロの懸念をよそにどこか吹っ切れた様子のグラッドが口を開いた。

 

「わかった。……ならそれまではしっかり面倒見るんだぞ」

 

「もちろんよ! ……あ、それなら名前をつけた方がいいわね。フェア、あんたがつけてあげなさいよ。最初に見つけたんだから」

 

 リシェルが提案する。確かに名前がなければこれからいろいろと不便に違いない。

 

「え? でも、それならネロが……」

 

 フェアから視線を向けられたネロは手をひらひらと振って断った。

 

「俺はいいよ、任せる」

 

 名前と言われてもぱっと思いつくものはない。かといって無理に考えるよりはフェアに名付けてもらった方がいい。それに常識的な彼女なら変な名前をつけることもないだろう。

 

「それなら……」

 

 そう言ってフェアは竜の子の方を向く。自分に向けられた視線に気づいたのか、眠っていた竜の子は目を覚まして首を傾げながらフェアを見た。

 

「うん。今日からあなたの名前はミルリーフよ!」

 

(ミルリーフか……)

 

 綺麗な名前だ。やはりフェアのセンスは悪くない。彼女に一任したのは正しかったようだ。

 

 こうして竜の子の名前も決まり、今後の方針が決まったところで今日は解散となった。

 

 

 

 

 

 今後の方針を話し合う場が閉じた後、フェアは昼の営業開始に向けた準備を始めようとしていた。

 

 この忘れじの面影亭は宿屋兼食堂だが、泊りの客はほとんどいない。今はネロが一人だけだ。しかし、それでも赤字を出さずに何とかやっていけるのは、食事をする客が多いためだ。やはりフェアの作る料理をうまいと感じる者が多いのだろう。

 

「ごめんね 手伝ってもらっちゃって……」

 

「いいって、さすがにタダで居座ろうなんて思っちゃいないさ」

 

 その準備にはネロも協力していた。彼がここにいる間の寝食は昨日今日と同じようにフェアが面倒見ることになった。彼女としては相当に腕の立つネロの協力を得られるのだから、食事と部屋の提供くらい安いものだと考えていたが、ネロ自身はそうではなかった。

 

 協力の対価という建前はあるが、傍から見れば年下の少女に養ってもらっているように映る。さすがにそれではあまりにも情けないため、こうして多少の手伝いを申し出たのだ。

 

 さすがに接客の経験など全くないため、ウエイターとして働くのではなく準備や後片付けを手伝うことにしたのだ。

 

 そうして食堂の掃除をしていると不意にフェアに声をかけられた。

 

「あのさ……、さっきはどうして私たちに味方してくれたの?」

 

「何だよ、急に?」

 

 怪訝な顔をして聞き返したネロにフェアはその時に思ったことを口にした。

 

「だって、ネロにしてみたら完全に巻き込まれたようなものでしょ。それに他の目的もあるみたいだしさ」

 

 どうやら彼女はネロの邪魔をしてしまったのではないかと思っているようだ。しかし当のネロはそんな心配は無用とばかりに軽く笑い、少しおどけた様子で言った。

 

「だったら何も言わない方がよかったか?」

 

「そうじゃないけど……」

 

 ネロが力を貸してくれることは素直に嬉しいと思う。しかし、同時に彼の邪魔をしているのではないかと罪悪感も感じていたのだ。

 

(随分と真面目な奴だ)

 

 まだ会って数日のフェアだが、どうも彼女は随分としっかりとした責任感が強い性格だとネロは感じていた。自分が彼女と同じくらいの時は、あんなに真面目でも責任感が強くもなかった。この忘れじの面影亭を一人で切り盛りできていることからも納得だ。

 

 しかしそれせいか、あるいは両親がいないことも関係しているのか、フェアは他人の好意に甘えるのは下手に見えた。

 

「だったら素直に礼を言えって。俺もその方がやる気出るんだよ」

 

 ぽんとフェアの頭に左手を乗せながら言った。

 

「う、うん。……ありがと」

 

 子供扱いされたことは若干腹立たしくもあったが、それでもネロが自分を気遣ってくれているということは伝わっていたため、フェアは恥ずかしそうにしながらも大人しくお礼を言った。

 

「最初からそう言えばいいんだよ」

 

 ネロはニヤニヤと笑いながらフェアの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「ちょっ!? やめてよ、子供じゃあるまいし!」

 

 実際フェアはもう十五歳、帝国ではなんとか一人前として認められる年齢だ。

 

 だが、そんなこちらの常識など知らないネロは、そう強がるのはまだ子供の証拠だと、続けてからかおうとしたところにミルリーフがやってきた。

 

「なんだ? お前も撫でてほしいのか?」

 

 ネロはそう言いながらミルリーフの頭をわしゃわしゃと撫でる。どうやら彼の予想は当たっていたらしくミルリーフは嬉しそうに「ピィ!」と声を上げた。

 

「もう……」

 

 文句の一つでも言ってやろうかと思っていたフェアだったが、その様子を見てすっかり気を削がれてしまった。自分たちを気に掛けてくれたことといい、ミルリーフへの態度といい案外ネロは面倒見がいいのかもしれない。

 

「ほら、手が止まってるよ」

 

 それでも言うべきことは言わなければ、とネロの掃除をする手が止まっていることを指摘した。

 

「悪い悪い。今やるよ」

 

 口ではそう言うものの、たいして悪びれた様子もなく掃除を再開した。ミルリーフも邪魔になっていることが分かったのか、机の上で大人しく掃除の様子を眺めていた。

 

(むぅ……)

 

 どうもネロと話すと彼のペースに翻弄されっ放しで、フェアとしては面白くなかった。

 

 ネロは今のように飄々とした掴みどころのない性格ではあるが、同時にさきほどのように面倒見のよい一面や、昨日レンドラーと相対したときのような一面などがあり、まだフェアは彼の人物像を把握できないでいたのが翻弄された原因だった。

 

(……はあ、しょうがないなあ)

 

 とはいえ、ネロが信用できる人間だということはずっと変わっていない認識だった。なんだかんだ言ってもフェアは、ちゃんと彼の本質を見抜いていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 




スパーダの血族の勘とかまず外れなさそう。

ちなみに最近の帝国は無色の派閥や紅き手袋の取り締まりを強化してます。主にアズリアのせいで。

さて、次回も明後日12月30日(土)に投稿予定です。時間はいつも通り早朝になります。

それではご意見ご感想お待ちしております。

ありがとうございました。

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