Summon Devil   作:ばーれい

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第06話 遺跡

 帝国軍とのいざこざから数日たった。彼らはあれ以来目立った動きは見せていない。バージルの行った脅しは効果があったようだ。

 

 彼が見せた力は剣の奪回を困難と思わせるには十分な抑止力を発揮したようだ。

 

 今後の帝国軍はおそらく、十分に作戦を練り勝算があると判断するまで仕掛けてはこないだろう。つまり、帝国軍に剣を奪回される恐れがない今こそ遺跡を調査する絶好のチャンスなのだ。

 

 もちろんバージルはこの機会を逃すことなく、遺跡を調べる腹積もりだった。つけ加えるなら、いまだ何の動きも見せないアルディラを待つのも限界だったのだ。

 

「バージルさん……? こんなところで何してるんですか?」

 

 そうして、喚起の門の方へ歩いて向かっていると、偶然アティと会った。

 

「遺跡の調査だ。このままでは船が直っても、島を出て行くことができないからな」

 

 特に隠すことでもなかったため、バージルは正直に話した。それを聞いたアティは逡巡するように、視線を動かした。そして決心したように頷くと口を開いた。

 

「調査、ですか、……あの、一緒に行ってもいいですか?」

 

「構わん」

 

 もともと今回は、以前調べることのできなかった喚起の門以外の遺跡を調査することを目的としていた。そのため遺跡に影響を与える剣を持った彼女がいれば、その場で剣の力で遺跡に働きかけることもできるため、より詳細に調査できると考え、彼女と共に調査することにしたのだ。

 

 そうして、鬱蒼と生い茂った木々の間を歩いているのだが、注意を払わなければすぐ転倒しそうなほど、足元が悪いこの場所でもアティは慣れたようにバージルについてくる。元軍人と言うのは伊達ではないようだ。

 

 そうやってしばらく歩いた時、断続的に金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。おそらく誰かが戦っているのだろう。

 

「急ぎましょう!」

 

 アティが走りながらバージルに声をかける。

 

(よほど奴はあの遺跡が好きらしいな……)

 

 むろんバージルは持ち前の魔力探知で戦っている人物が誰なのかも、どこで戦っているのかも把握していた。

 

 その人物は以前にも、遺跡に来たことのある者だった。

 

「ファリエル!?」

 

 戦いの場所は喚起の門だった。そしてそこで戦っていたのはファルゼンだ。

 

 アティがファルゼンをファリエルと呼んでいるのは、彼女が霊界の護人の秘密を知っていたからなのだろう。

 

 喚起の門で彼女が相手にしているのは、兵士の姿をした亡霊だった。それらは戦い方こそ兵士としてのそれと同様だが、人としての意識を持っていないのか、意味の分からない声を上げている。

 

「近づかないでっ!」

 

 アティの姿を認めたファリエルは叫んだ。驚くアティにさらに彼女は言葉続ける。

 

「あなたが剣の力を使ったら彼らはさらに荒れ狂ってしまうわ!」

 

 その言葉にアティは瞠目した。それでも、彼女の尋常ではない声からして嘘ではないと思った。

 

「どうやらその剣にはまだ秘密がありそうだな」

 

 そこへバージルが歩いてきた。

 

「そんなことよりファリエルを助けてあげてください!」

 

 彼に向き直りそう頼み込む。自分が助けに入ることは彼女が望んでいない。しかし、バージルなら話は別だ。

 

「……その必要はなさそうだが?」

 

 アティが慌てて振り返ると、さきほどまで狂ったようにファリエルを攻撃をしていた亡霊はおとなしくなっており、次第にその姿は薄くなっていき溶けるように消えていった。

 

 ようやく戦いが終わり、鎧が傷だらけになったファリエルにアティは駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ナゼ……ココニ、キタ」

 

 ファルゼンの声で言う。しかし、それでは言いたいことが言えないと思ったのか、ファリエルの姿になってさらに続けた。

 

「ここには近づいたらダメだとあれほど言ったじゃないですか!」

 

 確かにアティは喚起の門での一件の後、ファリエルから遺跡には近づかないように懇願されていたのだ。それでも彼女が再び遺跡を訪れることにしたのもバージルがいたからだ。彼なら自分が以前のようになっても何とかしてくれると思ったのだ。

 

「でも……」

 

 それにアティにはアティの事情がある。

 

 誰もが笑顔でいられる道を探す。あの時、アズリアに宣言した言葉を現実のものとするために、争いの原因である剣をなんとしても破壊しなければならないのだ。

 

 それをファリエルに説明しようしたとき、彼女が呻いて倒れ込んでしまったのだ。突然のことに驚いたアティは駆け寄って彼女の名前を呼んだ。

 

「し、しっかりして、ファリエル!」

 

 

 

 

 

 アティはファリエルを連れて狭間の領域まで戻った。バージルも遺跡の調査を行うより、剣と遺跡について詳しく聞くのが優先と考えたため、共に戻っていた。

 

 この狭間の領域は、魔晶と呼ばれるマナを蓄え放出する性質を持った水晶が多くあるため、マナで体を構成している霊界の者にとっては、傷を癒すのに最も適したところなのだ。それは元人間とはいっても、今は肉体がないファリエルにも言えることだった。

 

「鎮めの儀式を行うときは、必ず私に声をかけると約束をしたはずではありませんか?」

 

「ごめんね、フレイズ。彼らの目覚めがこんなに早くなってしまうとは思わなくて……」

 

 アティにとっては二人の会話は全く内容がわからないものだった。

 

「あの、もう少し私にもわかるように説明してくれませんか?」

 

「それは……」

 

 ファリエルが口ごもる。先程まで話していたことは、アティには知られたくないことのようだ。

 

(あの剣は、遺跡との繋がりだけが全てではないのか?)

 

 バージルは先程のファリエルの言葉を思い出しながら思考を走らせた。彼女の言葉は、これまで剣を遺跡の制御装置程度にしか考えていなかった己の考えを再考させるきっかけとなったのだ。

 

 碧の賢帝(シャルトス)が遺跡に影響を与えることができるのは間違いないだろう。そして、それだけではなくあの亡霊達を凶暴化させる力もあるようだ。ただし、それ以上のことは現時点ではわからない。

 

 そんなことを考えていると、フレイズを下がらせたファリエルが意を決して口を開いた。

 

「貴方達が見たものはこの島の亡霊達。私と同じく、この島で戦い死んでいった兵士たちのなれの果てです……」

 

 この島で死んだ者は魂になっても転生できず、島の中に囚われたまま彷徨い続けているとファリエルは言う。

 

「この島に囚われる。……それは結界のことですか?」

 

「彼らが囚われているのはこの島に封印されたもっと大きな力。あなたが剣から引き出している力も元々はその一部でしかないんです!」

 

 そしてアティが抜剣するたびに封印された力は解放されていく。そして完全に解放された力は島の生物に異変をもたらし、亡霊達と同じように島に囚われてしまう。

 

「結界を解くには、その力を解放しなければならないのか?」

 

 バージルとしては囚われてやるつもりなど微塵もなかったが、船を操ることができるカイル達が囚われてしまえば、結界がなくなっても島を出ることができなくなってしまうため、非常に都合が悪い。

 

「断言はできませんが、たぶんそうだと思います」

 

 彼女の言葉はバージルを納得させるには少し弱かった。

 

 だからといって無視しても構わないような話ではない。そのため、彼女の推測が正しいか確認しなければならない。やはり、もう一度遺跡を調査する必要があった。

 

 

 

 

 

 遺跡へと向かい獣道を歩いていく。先程とは違い、今回はアリーゼやカイル一家も含めた七人でそこに向かっていた。その目的は遺跡とそこに封印されているという力の調査だ。

 

 ただ、この調査を提案したのはバージルではなくアティだった。もちろんバージルもこの遺跡を調べるつもりだったので、彼女の提案に異論はなかったが。

 

 カイル達には調査のことだけではなく、結界を解けば剣を破壊することも伝えていた。もっとも彼らの目的は剣を処分することであるため、諸手を挙げて賛成したのだが。

 

「そういえば、もう片割れの剣はどうなったのかしら?」

 

 スカーレルが疑問を呈した。ヤードが無色の派閥から持ち出した剣は碧の賢帝(シャルトス)紅の暴君(キルスレス)の二つ。しかし、紅の暴君(キルスレス)だけは、いまだにどこにあるかもわからないのだ。

 

 ソノラは海に沈んだのではないと言っているが、バージルには心当たりがあった。以前、イスラと会った時に彼から一瞬、碧の賢帝(シャルトス)と同質の力を感じたのだ。

 

 もしかしたら彼が紅の暴君(キルスレス)を持っているのかもしれない。

 

  しかし、それを伝えて余計なことをされるわけにはいかない。だからこそバージル紅の暴君(キルスレス)については何も話すつもりはなかった。

 

「いずれにせよ、探し出して確実に処分するに越したことはありません」

 

 ヤードにとってそれは、何としてもやり遂げねばならない務めだと思っているようだった。

 

「なあ、バージル……」

 

「ああ、考えておこう」

 

 カイルの言いたいことはすべて聞かずとも理解できる。もう一つの剣も破壊してほしいということだろう。

 

 バージルも魔剣には興味があるため、破壊する、しないに関わらず一度それを手に入れることには異論がない。破壊の是非についてはそのあと考えればよい。

 

 そうこう話しているうちに喚起の門に着いた。カイル達は初めて来たこともあり、興味深そうにそれを眺めていた。しかし、今回目指すのはこの場所ではない。用があるのはもっと奥にある遺跡なのだ。

 

 そのまま先に進むと目的の遺跡、その入り口へ辿りついた。そこはかつての戦いでも相当の激戦地だったらしく、遺跡には無数の傷跡が残っており、草むらには兵士の骨が残されていた。

 

「入口は扉が閉まったまんまだよ、どうする?」

 

「たぶん、こうすれば……」

 

 ソノラの疑問にアティが剣の力を使うことで答えた。碧の賢帝(シャルトス)の光に反応したのか、扉はあっさりと開いた。

 

「反応したのはそっちだけじゃあなかったみたいよ?」

 

 スカーレルの視線の先には先程まで草むらの中にあった骨などが動き出していた。それは魔力で体を形作り、ファリエルが戦っていたのと同種の亡霊となって襲いかかってきた。

 

 といっても強敵というわけではなく、剣の力がなくとも負けるような相手ではなかった。

 

「やったのか!?」

 

「彼らを形作っていた魔力は霧散しました。しかし、魔力が再び満ちればまたあの姿で彷徨うでしょうね……」

 

 魔力を扱うことに長けたヤードが的確に現状を分析した。

 

 もっとも、バージルが殺した相手だけは復活することはないだろう。

 

 あの亡霊達はこの島に囚われた魂が、魔力によって体を作られることで復活する。だが、バージルの攻撃は閻魔刀であれ、ギルガメスであれ魂を削る一撃なのである。そのため彼に殺された亡霊達は魂を破壊されたため、二度と蘇ることはない永遠の眠りについたのだ。

 

 このようなことができるのは何もバージルだけではない。これは悪魔の特性なのだ。

 

 セブン=ヘルズやヘル=ヴァンガードなど依り代を必要とする悪魔や、肉体をもっていても格の低い悪魔などの例外を除けば、手足が欠損するなど肉体に深刻なダメージを与えても殺すことはできない。

 

 それは人間と違い、魂が存在するのであれば肉体のどの部分を失っても時間をかければ再生することができるからだ。殊に肉体を持った上級の悪魔になると、もはや人間の武器では傷つけることすら不可能と言っていい。

 

 逆に、肉体が無傷でも魂が失われてしまえば、上級悪魔でも死んでしまう。

 

 例えばテメンニグルにあった「狂った永劫機関」はその典型だろう。これには持ち主の魂を吸い取ってしまう力があり、長時間持っていれば肉体へのダメージがなくとも死に至るのだ。

 

 つまり、強大な悪魔を殺すには魂を破壊するしかない。そして、そのためには二つの手段がある。一つは悪魔による攻撃。もう一つは魔力による攻撃である。

 

 悪魔同士では互いを殺すのに特に何かを意識しなければならないということはない。悪魔の攻撃は基本的に、肉体への攻撃であると同時に魂への攻撃でもあるからだ。バージルが亡霊達を殺すことができたのもこのためである。

 

 そしてもう一つの手段である魔力による攻撃は、魔術やそれらによって強化された武器ならば魂を削ることが可能なのだ。レディの使う特製の弾薬などがその典型だろう。

 

「こいつらのことはどうでもいい。さっさと行くぞ」

 

 バージルは死ねない亡霊達に思いを馳せている彼らに声をかけ、遺跡に入っていった。

 

 遺跡を進んでいくと、見るからに頑丈な扉で仕切られた部屋に辿りついた。そのことからもここが重要な場所であることが推測できる。その部屋の奥には装置のようなものが設置されていた。

 

 ヤードによると、この部屋の設備は驚くべきことに、サプレスの魔法陣、メイトルパの呪法紋、シルターンの呪符を組み合わせロレイラルの技術で統合、制御しており、目的に応じた属性の魔力を大量に引き出すことが可能だと言うのだ。

 

 要はこの装置を使えば、リィンバウムを救った伝説の英雄、誓約者(リンカー)、あるいはエルゴの王と呼ばれる者と同じことができるというのだ。

 

「そんな力がこの剣に……」

 

 アティが信じられないとばかり呟いた。果たしてそんな装置にも影響を与えるだろう碧の賢帝(シャルトス)を使っていいんだろうか。そんな疑問が彼女の胸の内に湧いていた。

 

 だが、それをしなければここに来た意味がないのも事実だ。

 

「先生……」

 

 アリーゼも彼女の身を案じてか、不安げな顔で呟いた。

 

「心配すんな。いざって時のために、俺達が付いているんだからよ」

 

 二人の不安げな表情を見たカイルがそう励ます。

 

「そうですよね……」

 

 意を決してアティは抜剣した。そして剣の力を装置に向けた。

 

 最初は何も動きがなかったが、その直後アティが苦しそうな声をあげ、苦痛に歪んだ表情を見せた。

 

「先生っ!?」

 

「ちょっ、大丈夫、しっかりしてよ!」

 

 アティの様子に驚いたアリーゼとソノラが声を上げる。しかし、彼女達の声は届いている様子はなく何かに抗うように「や、メ……ロ……」と呻き、その直後さらに大きな悲鳴をあげた。

 

 予想外のことに驚きを隠せないカイル一家であったが、それでも何とか剣を引き離そうとしようとした時、邪魔が入った。

 

「書き換えの完了まで何人にも邪魔をさせてはならない。それが私の……最優先任務……」

 

 そこにいたのはアルディラだった。だが常の彼女とはどこか様子が違う。口調も淡々としており、まるで何かから操られているようだった。

 

 そんな彼女はさらに言葉を続けた。

 

「適格者の精神を核に新たなネットワークを構築することで、遺跡の機能は回復する。不要な人格を削除し、システムに最適化する、それが『継承』……」

 

 彼女の言葉からすると今アティに行われているのがその「継承」だろう。アティは人格を消されようとしているのだ。

 

(やはり制御するのは失敗か……)

 

 バージルは胸中で呟いた。ファリエルの話を聞いてから、薄々そうなることは分かってはいたが。

 

 こうなってしまった以上、遺跡を制御することによって結界を解除するとことは望めないだろう。だが、遺跡を制御することが難しくなったとはいっても、結界の解除を諦めたわけではなかった。

 

「そっちは任せる」

 

 アルディラをカイル達に任せ、アティの方へ歩いていく。急ぐわけでもなく一歩一歩彼女へ近づいていった。

 

 結界を解除するには遺跡の制御が必ず必要というわけではない。制御できないなら結界を発生させている大元を破壊してしまえばいいのだ。

 

 なにしろ遺跡の中枢部は目の前にあるのだから。

 

 バージルを妨害するため、アルディラは融機人(ベイガー)の特性を活かし、遺跡と接続して防衛兵器を起動させた。光学兵器による弾幕が彼に襲いかかるが、幻影剣で迎撃と防衛兵器への攻撃をしつつも歩みを緩める様子は見せない。

 

 カイル達にもそれは襲いかかるが、咄嗟に回避することはできた。しかし、それほど戦い慣れていないアリーゼだけは避けることができなかった。

 

 突然のことに目を瞑るしかできない彼女を救ったのはファルゼンだった。ファルゼンは身を呈して彼女を守ったのだ。その代償に鎧にいくつも傷を作りながら。

 

 バージルは最初、邪魔をしにきたのかと思ったのだが、彼女の動きをみるとアルディラを止めに来たようだった。

 

 そして、ファルゼンがアルディラの相手をし、共に来たフレイズとカイル達が防衛兵器の相手をしているため、バージルの邪魔をするのはいなくなった。

 

 しかし、装置に近づこうとすると光の壁のようなもので遮られた。

 

「無駄なことを……」

 

 こんなもので俺を止められると思っているのかと言わんばかりに、ギルガメスで光の壁を打ち砕いた。

 

 そしてアティの持つ碧の賢帝(シャルトス)に手を伸ばす。

 

 遺跡を破壊するのであれば、直接装置を破壊してもよかった。しかしそれをしなかったのは、剣から引き出せるという力に興味が湧いたのだ。

 

 彼女が剣を離そうとしないため、必然的に密着することになるがそんなことはどうでもよかった。

 

「ほう……」

 

 碧の賢帝(シャルトス)から感じる力は以前にアティが使った時より明らかに大きかった。そして思った。やはりこの剣をただ破壊するだけではあまりに惜しい、と――。

 

 とはいえ、まず為すべきは遺跡の破壊である。そのためにとった方法は、碧の賢帝(シャルトス)を通してバージルの魔力を遺跡に流し込み内部から破壊する方法だった。

 

 バージルの込めた魔力が碧の賢帝(シャルトス)に伝わり、剣の色が彼の魔力と同じ蒼に染まった。

 

 ――ヤ……メロ……――。剣からそんな意思が伝わってきたが、彼は意に介さず魔力を流し続けた。

 

 剣から莫大な魔力を送り込まれるという異常な事態に、遺跡が接続を無理矢理に断ち切った。それによって、剣との繋がりもなくなったアティは意識を取り戻した。

 

「あ……」

 

 その拍子に彼女は碧の賢帝(シャルトス)から手を放した。しかし、バージルによって握られていたため床に落ちることはなかった。

 

 しかし、これだけで納得するほどバージルは甘くない。完璧に、徹底的にやるのが彼のやり方だ。

 

 アティの手から離れた碧の賢帝(シャルトス)を装置に突き立て、再び容赦なく魔力を注ぎ込む。

 

常軌を逸したその力に耐えきれず装置には次々と亀裂が入っていき、そこからバージルの蒼い魔力が溢れ出した。

 

そしてとうとう耐えきれなくなったのか、装置はついに崩壊した。

 

 途方もない力を流された碧の賢帝(シャルトス)も無事であるはずもなく、装置の崩壊とほぼ同時にばらばらに砕けた。

 

 そこまでしてようやくバージルは止まった。結界が解除されたのを感じたのだ。

 

 装置の崩壊と共に防衛兵器も停止したようだ。ようやく自由に動けるようになったアリーゼがアティに抱きついた。よほど心配でたまらなかったようだ。

 

「せんせえっ!」

 

「ごめんね、心配かけちゃって……」

 

「ほんとだよ~、一時はどうなると思ったけどね」

 

「とにかく一旦戻ろうぜ」

 

 カイルが提案する。もちろん誰も異論を唱える者はいない。誰もが亡霊との戦い、遺跡の防衛兵器との戦いで疲労していた。

 

「私……は……?」

 

 アルディラがそう声を漏らす。その様子からしてもう元に戻ったようだ。しかも、これまでしてきたことの記憶はなくなっていないようだった。

 

 やってしまったことを理解したアルディラは、こうなった経緯を話し始めた

 

 彼女がこんなことをしたのはマスター、彼女を召喚した主の声が聞こえていたからだと言う。

 

 しかしそれは本物ではなくアルディラを操るためのダミープログラムだとフレイズは言った。そしてさらに彼は続けた。

 

「楽にして差し上げます。私の手で……」

 

「ま、待ってください! アルディラはもう正気に戻ってるじゃないですか!?」

 

 アティがふらついた足取りで立ち上がり、フレイズを止めた。

 

「あなたには彼女が二度と操られないという保証ができるんですか!? もう一度同じことが起きれば今度こそこの島は破滅するんですよ! ……私はそんな危険を冒すことはできません!」

 

 フレイズはこの島を守ること、そして何より主であるファリエルを守ることを最優先にしているのだ。その想いがアティの言葉を振り切って、剣を構えさせた。

 

 しかし、それでアルディラを斬ることはできなかった。幻影剣によって剣を弾かれたのだ。

 

 先程まで装置の前にいたバージルが、いつの間にかすぐ近くまで来ていた。

 

「俺がそいつから話を聞くまでは生かしておいてもらおう」

 

 この遺跡について知っていること全てを話してもらうまで、彼女を死なせるわけにはいかない。

 

「そうね、あの装置はあんなだし、急いで結論を出す必要はないんじゃないかしら?」

 

 スカーレルが同意する。

 

「……わかりました。この場は剣を収めましょう」

 

 フレイズの言葉でこの問題は先送りになり、とりあえず船に戻ることにした。

 

 だが、アルディラのことに意識を割かれていたためか、ついに誰も気付かなかった。砕けた碧の賢帝(シャルトス)の欠片がバージルの手元にあることに。

 

 

 

 

 

 

 

 




いろいろと独自設定、独自解釈が多くなった第6話ですが、いかがだったでしょうか。

感想お待ちしております。

ありがとうございました。



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