もう期末テストまで2週間切っているけど。←前回コミュ英赤点
首根っこを掴まれて強制的に歩かされて約五分、特別棟の空き教室前に連行された。
プレートにもドアにも何も書かれておらず、何の部屋かは見当もつかない。
平塚先生はその部屋のドアを無造作にガラガラッと開く。……ノックをしていないということは中に人はいないのだろう。鍵してなくていいのか?問題起きたら誰が責任が取るのか知らんけど。
平塚先生が部屋に入ったので俺も部屋に入る。まず一番に視界に飛び込んできたのは――
黒髪のロングストレートで端正な顔立ちをした美少女だった。
てか人いるじゃねーか。ノックしなくてよかったのか?
ノックの件はこの際横に置いておくとして、その少女は斜陽の中で本を読んでいた。
世界が終わった後も、ここでこうしているんじゃないか、そう錯覚させるほどに、この光景は絵画じみていた。
きっと、中学時代の俺なら彼女に見惚れてだろう。そう思ってしまうほど綺麗だった。
だが俺は中学二年生のとき、あることがきっかけで激しく熱くなる類の感情は理性で包んで固めて理性の海に沈めた。時たまひょっこりと顔を出すことがあるが基本問題ない。
だから、俺は彼女にまだ見惚れてはいなかった。
「雪ノ下、入るぞ」
いやあんたもうとっくに入っているでしょうが。
そして、あの少女は雪ノ下というらしい。
ああ、そういえば聞いたことがある。数年前までは普通科より偏差値が1から2高かったが近年は偏差値がほぼ同等の国際教養科所属の生徒でこの前二年生全員が受けさせられた佐々木ゼミの模試で校内順位2位の才女。
去年の服装と国際教養科特権に関する校則の改正の是非を問う生徒総会で反対派の一員として参加し、山北率いる賛成派と激しい舌戦を繰り広げたことで一躍有名になった奴だ。たしか雪ノ下雪乃と言ったはずだ。
「平塚先生、いい加減入る前にノックをすることを覚えて下さ――」
雪ノ下は本から顔をあげてこちらを向く。だがしかし俺と目があった瞬間、大きく目を見開いた。そしてすぐに視線を戻す。
……俺の目はそんなにヤバいのだろうか。この目のせいで不審者扱いされることもしばしばあるからな。眼鏡をつけて外出するとそれはそれで大変なことになることもしばしばあるが。
「そ、そこのぬぼーっとした人は?」
……ぬぼーってなんだよ。前に放送していた鬼の手を持った教師ではないぞ俺は。
「彼は比企谷八幡。強制入部者だ」
はぁっ?
キョウセイニュウブ?なにそれおいしいの?聞いたことねぇよ。強制補習ならあるけどさ。
あれは一年の時だった。高校生初の定期テストの数Ⅰでそこそこいい点取ったために一学期期末のテスト勉強をサボり、また授業中寝てたもんだからテスト当日に全く解けず、結果は9点。学年最下位となって担当の竹松先生に「夏休み、来い」と言われて二週間に及ぶ強制補習を受けさせられたのだ。おかけで今となっては数学も学年10位以内に入っている。……うん今は回想に浸っている場合じゃないな。何とかして強制入部を阻止しなくては。
「平塚先生、俺そんなこと聞いていませんし、教師が特定の部活動に本人の意思を無視して入部させることはできないはずですよ」
「君に奉仕活動を命じると言っただろう。それはつまり、ここでの部活動だ。異論反論抗議質問口応えは認めん」
なんだよソレ。横暴だろ。だが口さえあればすべて可能だ。
「だがそれでは君は反発するだろう。だから交換条件だ。君がこの部活に入るのなら、部活に依頼がなければその時間帯、部室内においてなにをしてもいい。例えば寝てもいいし、本来学校に持ち込みが禁止されているものを持ってきて使っても構わない。私は生活指導担当だから、目を瞑ることぐらい造作もない」
つまり、今まで帰ってから家でやっていたことをここでしてもいいということだ。あくまでも、依頼がない限りだそうだが。
悪くはない。なら、いいかな。できれば仮入部期間が欲しいが、それは流石に望めないだろう。
「まあ、取りあえず今はそれでてを打ちましょう」
そのほうが一番楽そうだ。
「というわけで雪ノ下、コイツはなかなか根性が腐っている。そのせいで友達がいても精神的に孤独な奴だ。非常に狭い範囲でしか人との付き合いをしていなくてな、もう少し広い範囲での人との付き合い方を学ばせてやればもう少しまともになるだろう。こいつをおいてやってくれ。コイツの捻くれた孤独体質の更正。これが私の依頼だ」
オイオイ無茶苦茶な依頼だな。一介の高校生如きに俺の性格や体質が変えられるわけないだろ。ほらみろ、雪ノ下も額に手を当てているぞ。しかもため息もついているまである。
「強制入部である以上何を言っても無駄なのでしょうね……わかりました。承ります」
マジかよ、承っちゃったかー
こうして、こうして、おれの入部は確定した。
……あれ、ここって何部だ?