オリジナル回って難しい。
夏休み編とか生徒会選挙とか三年生編とかオリジナル回やるつもりなのに不安だ……
完全下校時刻までいたせいか、校門周辺は俺がいつも帰っている時間帯より人が多い。大方、運動部所属の生徒の下校時間帯と被ったからだろう。そのせいかどこかウェイウェイ聞こえてきて五月蠅い。
そういえば、文化部より運動部の方がリア充多いイメージあるよね。
「せ~んぱい!」
甘ったるく、またあざとい声が聞こえる。まあどうせ「ちょっと甘えた感じを出せている私、かわいいですよね」アピールなんだろうけど。
こういうので一体どれだけの男子が勘違いして被害に遭うのだろうか。今度調査でもしてみたら面白い結果になりそうだ。誰かやってくれないかな。
「せ~んぱい、無視しないで下さいよぉ~」
再び甘ったるい声が聞こえる。てかさっきより近くになっていないか?
ここは自転車置き場。幸い、人は俺しかいないのだが……ま、どうせ俺ではないから気にする必要はないか。さ、帰ろ帰ろ。
「う~、ていっ 」
グホッ。
背中に突然の衝撃が襲いかかり、若干暖かくてふにふにしたものを感じた。
こんなことを俺にしてくる相手は高校では一人しか知らない。
「何の用だ、一色」
「エへへ 」
一色いろはである。
俺と一色の出会いは二年前の夏である。
当時受験生だった俺は塾に通っていた。その為夜遅くまで塾にいることもあった。
そんな中、とある日の帰り道のことである。チンピラに襲われかけている中学生をたまたま見つけたのだ。
当時受験勉強でストレスが溜まっていた俺は、これを合法的にストレスを発散できるとして助けに入り、チンピラをボコボコにしたのだ。
その結果、何故か一色に懐かれたのだ。
「こんなにかわいい後輩が話しかけているのに無視だなんてひどいですよ先輩」
「分かった、悪かったよ。で、何の用だ」
「いえ、この時間にいるのは珍しいな~と思いまして……」
まあ、そうだな。今まで帰宅部だったから完全下校時刻まで学校に残っていたことなど数える程しかないからな。
「あ、そうだ」
ふと、何かを思いついたように小悪魔的な笑顔を浮かべると、両手を握り締めて顔の下に持っていき、頬を赤く染め、目を潤ませて上目づかいになる。
くっ、あざとい。
「先輩、一緒に帰りませんか?」
うん、ヤバい。
何がヤバいかって破壊力が高すぎる。
いくら小町や里奈で慣れているとはいえどもこれを断るのは困難だ。
これが俺じゃ無かったら絶対に堕ちていたぞ。危ない危ない。
「……ダメですか?」
頼むから追い打ちかけないでェェェ。
結局、駅まで一緒に帰りました。しかも自転車の荷台に乗せる形で。
「たでーまー」
いつもより遅い帰宅ではあるが、寄り道して帰るとたまにこのくらいの時間になることがあるので心配はしていないだろう。
いつも通りにリビングのドアを開ける。
「あ、お兄ちゃんお帰りー。遅かったね」
「あ、八幡さん、お帰りなさい。お邪魔してます」
そこにいたのは二人の美少女。
片方は言わずもがな、妹の小町。
もう片方は幼なじみの湯河原里奈だ。
俺からしてみればどちらも天使である。
「お~いお兄ちゃん、心の声ただ漏れだよ~」
ゑ?マジで?
ふと里奈の方を向くと、茹蛸のように顔が真っ赤になって俯いている。
洗面所いって手洗ってくるか……ついでに顔も。
「あの、八幡さん。いくつかわからない問題があるので、教えてくれませんか?」
俺が洗面所に行っている間に里奈は回復したらしく、俺が帰ってくるまで解いていたらしい問題集持ってくる。
問題を読んでみると、如何やら数学の空間図形と理科の地層の問題のようだ。
「ああ、これはだな――」
この後質問はさらに増え、一時間ほど費やされることとなったのだ。
三人で夕食を済まし、里奈を送り届けてから(といっても三軒隣りなだけだが)、今日雪ノ下に言われたことを思い出した。
『あなたに会ったのは今日が初めてではないわ』
俺の記憶では雪ノ下とあったのは今日が初めてのはずだ。
だが俺の記憶は確実ではない。
何故なら、俺は記憶の一部が欠落しているからだ。
原因は交通事故。高校の入学式の日、俺は犬を助けて黒塗りの高級車に撥ねられた。
その際、記憶の一部が欠落したのだ。
欠落したのは小中学校時代のトラウマでも黒歴史でもない。むしろ大切なナニカだった気がするのだ。
医者曰く、きっかけさえあれば思い出すそうだが、今も忘れたままだ。
もしかしたら、その失った記憶の中には雪ノ下が何らかの形で存在したのかもしれない。
小町に聞けば何かわかるだろうか。
だがもし小さい頃のだったなら、小町よりも母ちゃんに聞いた方が確実かな。
まだ残業中だろうが、スマホを手に取り、電話帳から選択してコールボタンを押す。
『……はい』
ツーコールほどで繋がった。
「母ちゃん、今ちょっといいか?聞きたいことがあるんだが」
『めずらしいわね。まあ、今休憩中だから問題ないけど』
「雪ノ下って家、知っているか?」
『知っているわよ。県議の雪ノ下秀村でしょ?お義父さんの方となんか関係あるらしいけど』
何、祖父ちゃん達と関わりあるのか?確か南房総の方だぞ家。
「でさ、今日その家の同級生に会ったことがあるって言われてさ。でも俺記憶ないんだが、何か知らないか?」
『あーそうね、確か雪ノ下県議に連れられて、下の子がお義父さんの家に何回か来てたわね。夏になればよくアンタたちを連れて行ったから、その時一緒に遊んでいたとしてもおかしくないわね……うん、会っているわね。確かお義母さんが三人を鴨シーに連れて行ったこととかあったわね。アルバム探してみれば、写っているはずよ』
南房総の祖父ちゃんの家で会っている、だと?
確かによく行ったと聞いているが記憶に乏しい。とういか抜け落ちている。
そう言われれば確かに合点がいくのだが――
『ああそうそう、一つ忘れていたわ。アンタが去年事故った車の持ち主、確か雪ノ下じゃなかったかしら』
――この言葉には大きな衝撃を受けた。
ふと窓から外を見るが、さっきまで見えていた月は雲にかかり隠れていた。